27 / 37
26 君に、飛び込んでみる
しおりを挟む
「えっ、わっ、どうしたの!?」
グイグイと引っ張り、店の入口へと向かう。ベルベットのカーテンを越え、無言の泉水は蓮の問いかけを無視して店の外に連れ出した。
重い扉を押し開けると、夜の冷たい空気が頬を撫でる。
頭を冷やした方がいいのは分かっている。でも抑えきれない何かが泉水を突き動かしていた。
その一方で蓮の方は、険しい顔をした泉水の様子に、嫌な予感しかしない。
これは振られるってことかと勝手に思い、どうしたらいいのかと慌てていた。
「泉水さん、その――来なければ良かったって思ってる?俺の仕事は、やっぱり受け入れられない、とか?でも少し待って欲しくて――」
「…………」
慌てて弁明をする蓮を、泉水は壁際に立たせて真正面から見据える。
そのまま、無言でネクタイを掴んだ。
力強く引き寄せられて、蓮は思わずバランスを崩す。
「えっ、わっ……!」
泉水の方に倒れ込みそうになり、何とか踏みとどまった所で――蓮は唇を奪われていた。
「!?」
泉水が蓮に口付けたのだ。
(えっ……!!?何?どういうこと!?)
思考が追いつかず慌てる蓮を黙らせるように、泉水は舌でその唇を割った。蓮の熱を探って、互いの舌先を絡める。
「……蓮、っ」
「……!!」
溢れる吐息の合間に囁かれた、切なく自分を呼ぶ泉水の声に――蓮の理性は吹き飛んだ。
泉水の手首を掴まえ、店の脇の路地に連れ込んで、その身体を壁に強く押し付ける。
どういうつもりかと問いかけるよりも先に、視線が絡み合い、泉水の欲情に濡れた瞳に誘われて、自分からさらに深く唇を重ねていった。
もう一度、舌が触れあうと、その感触に頭の奥がじんと痺れた。
熱くて、まるで別の生き物のようなそれは、泉水の欲望をはっきりと伝えている。
自分を、「欲しい」と思ってくれている……その事に、蓮は堪らなくなった。
熱。感触。匂い。息遣い。
そんな感覚の全てが思考能力を奪う。
お互いしか見えない――
周りを気にすることもせず、初めて感情のままに求めあう。柔らかな唇の感触を飽きることなく貪り、味わい尽くすかのように口腔内を舌で激しく犯し、上顎と歯列をなぞった。
「あ……っ」
喘ぐ唇から、吐息と、唾液を溢す泉水の反応に、蓮の身体はさらに熱くなる。
「泉水、さん……」
2人だけのこの時間が、永遠に続けばいいと思った。
***
――冷静な思考を取り戻したのは、かなり経ってからだ。
戻らないと、マズい。
勿論そう分かってはいたが、この状況を壊したくない気持ちが強すぎて、蓮は動けずにいた。
身体の熱が治まらなかったせいもあるが。
抱き合ったまま、目線の下にある泉水の頭にそっと口付ける。
「これが、付き合うかどうかの返事?」
「………」
「ちゃんと言ってくれないと、このまま離せない」
蓮としては、今度こそ、直にきちんとした言葉が欲しかった。
「……君から、逃げる理由を。僕は、探してたんだと……思う」
「!」
抱き合ったままの状態で、泉水は蓮の胸に埋めていた顔を上げた。
一言一句、搾り出すような泉水の声が、蓮の胸をしめつける。
「さっきの彼に、君と僕じゃ住んでる世界が違うって言われたよ」
「皇さんに……?」
「彼の言葉で逆に目が覚めた……他人に言われるまでもない。そんなの元々感じてた。だからこそ、自分の目で確かめるために、わざわざここまで来たんだ」
濡れたような瞳が蓮を見詰めている。真っすぐに。
いつも自分を癒してくれた、強くて優しい瞳だ。
「どうしようもなく好きだって、分かってたくせに。いつまでも悩んでる自分に……急にもの凄く腹が立って――つい」
「――それで、キス?」
「ごめん、酔った勢いです……」
恥ずかしそうに俯く泉水がやけに可愛らしくて、蓮は笑った。
愛しくて、幸せすぎて、おかしくなりそうだった。
「めちゃくちゃ燃えた」
「燃え……!?」
(そ、それなら良かった……のかな?)
ストレートな蓮の感想に、顔が熱くなってしまう。
泉水には、今でも恋愛の仕方が分からない。それでも――
「……『泳ぎ方を知らなければ、水の中に飛び込んでみる事だ』って名言、知ってる?」
唐突な質問を、蓮に投げかけてみた。
「え、突然のクイズ?知らないなぁ……誰の言葉?」
「調べてみて」
「宿題?」
「そう。僕は、名言事典が愛読書なんだ。読んでると、ためになって面白いよ」
へえ、と半信半疑の表情を浮かべながらも、蓮は笑った。
「知らないこと、お互い沢山あるよね」
お互いの顔を見詰め合いながら、泉水の口許にも自然と笑みが浮かぶ。
「あらためて、僕と――付き合ってくれる?」
「すっごく今更だけど……勿論」
蓮は、もう一度きつく泉水を抱き締めた。
「やっと、言ってくれたー……もう、今すぐ押し倒したい気持ちで一杯なんだけどなー」
「ええっ?」
「何で今、仕事中なんだろ……はぁ……辛すぎる。けど、そろそろ戻らなきゃ」
「うん……だよね」
「次にゆっくり会えるとしたら、また来週の月曜日?」
そうだね、と言いながら泉水は何かを思い出したようで、やや困った顔になる。
「蓮くん、その前にひとつ言っておきたいことが」
「んん?」
グイグイと引っ張り、店の入口へと向かう。ベルベットのカーテンを越え、無言の泉水は蓮の問いかけを無視して店の外に連れ出した。
重い扉を押し開けると、夜の冷たい空気が頬を撫でる。
頭を冷やした方がいいのは分かっている。でも抑えきれない何かが泉水を突き動かしていた。
その一方で蓮の方は、険しい顔をした泉水の様子に、嫌な予感しかしない。
これは振られるってことかと勝手に思い、どうしたらいいのかと慌てていた。
「泉水さん、その――来なければ良かったって思ってる?俺の仕事は、やっぱり受け入れられない、とか?でも少し待って欲しくて――」
「…………」
慌てて弁明をする蓮を、泉水は壁際に立たせて真正面から見据える。
そのまま、無言でネクタイを掴んだ。
力強く引き寄せられて、蓮は思わずバランスを崩す。
「えっ、わっ……!」
泉水の方に倒れ込みそうになり、何とか踏みとどまった所で――蓮は唇を奪われていた。
「!?」
泉水が蓮に口付けたのだ。
(えっ……!!?何?どういうこと!?)
思考が追いつかず慌てる蓮を黙らせるように、泉水は舌でその唇を割った。蓮の熱を探って、互いの舌先を絡める。
「……蓮、っ」
「……!!」
溢れる吐息の合間に囁かれた、切なく自分を呼ぶ泉水の声に――蓮の理性は吹き飛んだ。
泉水の手首を掴まえ、店の脇の路地に連れ込んで、その身体を壁に強く押し付ける。
どういうつもりかと問いかけるよりも先に、視線が絡み合い、泉水の欲情に濡れた瞳に誘われて、自分からさらに深く唇を重ねていった。
もう一度、舌が触れあうと、その感触に頭の奥がじんと痺れた。
熱くて、まるで別の生き物のようなそれは、泉水の欲望をはっきりと伝えている。
自分を、「欲しい」と思ってくれている……その事に、蓮は堪らなくなった。
熱。感触。匂い。息遣い。
そんな感覚の全てが思考能力を奪う。
お互いしか見えない――
周りを気にすることもせず、初めて感情のままに求めあう。柔らかな唇の感触を飽きることなく貪り、味わい尽くすかのように口腔内を舌で激しく犯し、上顎と歯列をなぞった。
「あ……っ」
喘ぐ唇から、吐息と、唾液を溢す泉水の反応に、蓮の身体はさらに熱くなる。
「泉水、さん……」
2人だけのこの時間が、永遠に続けばいいと思った。
***
――冷静な思考を取り戻したのは、かなり経ってからだ。
戻らないと、マズい。
勿論そう分かってはいたが、この状況を壊したくない気持ちが強すぎて、蓮は動けずにいた。
身体の熱が治まらなかったせいもあるが。
抱き合ったまま、目線の下にある泉水の頭にそっと口付ける。
「これが、付き合うかどうかの返事?」
「………」
「ちゃんと言ってくれないと、このまま離せない」
蓮としては、今度こそ、直にきちんとした言葉が欲しかった。
「……君から、逃げる理由を。僕は、探してたんだと……思う」
「!」
抱き合ったままの状態で、泉水は蓮の胸に埋めていた顔を上げた。
一言一句、搾り出すような泉水の声が、蓮の胸をしめつける。
「さっきの彼に、君と僕じゃ住んでる世界が違うって言われたよ」
「皇さんに……?」
「彼の言葉で逆に目が覚めた……他人に言われるまでもない。そんなの元々感じてた。だからこそ、自分の目で確かめるために、わざわざここまで来たんだ」
濡れたような瞳が蓮を見詰めている。真っすぐに。
いつも自分を癒してくれた、強くて優しい瞳だ。
「どうしようもなく好きだって、分かってたくせに。いつまでも悩んでる自分に……急にもの凄く腹が立って――つい」
「――それで、キス?」
「ごめん、酔った勢いです……」
恥ずかしそうに俯く泉水がやけに可愛らしくて、蓮は笑った。
愛しくて、幸せすぎて、おかしくなりそうだった。
「めちゃくちゃ燃えた」
「燃え……!?」
(そ、それなら良かった……のかな?)
ストレートな蓮の感想に、顔が熱くなってしまう。
泉水には、今でも恋愛の仕方が分からない。それでも――
「……『泳ぎ方を知らなければ、水の中に飛び込んでみる事だ』って名言、知ってる?」
唐突な質問を、蓮に投げかけてみた。
「え、突然のクイズ?知らないなぁ……誰の言葉?」
「調べてみて」
「宿題?」
「そう。僕は、名言事典が愛読書なんだ。読んでると、ためになって面白いよ」
へえ、と半信半疑の表情を浮かべながらも、蓮は笑った。
「知らないこと、お互い沢山あるよね」
お互いの顔を見詰め合いながら、泉水の口許にも自然と笑みが浮かぶ。
「あらためて、僕と――付き合ってくれる?」
「すっごく今更だけど……勿論」
蓮は、もう一度きつく泉水を抱き締めた。
「やっと、言ってくれたー……もう、今すぐ押し倒したい気持ちで一杯なんだけどなー」
「ええっ?」
「何で今、仕事中なんだろ……はぁ……辛すぎる。けど、そろそろ戻らなきゃ」
「うん……だよね」
「次にゆっくり会えるとしたら、また来週の月曜日?」
そうだね、と言いながら泉水は何かを思い出したようで、やや困った顔になる。
「蓮くん、その前にひとつ言っておきたいことが」
「んん?」
25
あなたにおすすめの小説
【完結】取り柄は顔が良い事だけです
pino
BL
昔から顔だけは良い夏川伊吹は、高級デートクラブでバイトをするフリーター。25歳で美しい顔だけを頼りに様々な女性と仕事でデートを繰り返して何とか生計を立てている伊吹はたまに同性からもデートを申し込まれていた。お小遣い欲しさにいつも年上だけを相手にしていたけど、たまには若い子と触れ合って、ターゲット層を広げようと20歳の大学生とデートをする事に。
そこで出会った男に気に入られ、高額なプレゼントをされていい気になる伊吹だったが、相手は年下だしまだ学生だしと罪悪感を抱く。
そんな中もう一人の20歳の大学生の男からもデートを申し込まれ、更に同業でただの同僚だと思っていた23歳の男からも言い寄られて?
ノンケの伊吹と伊吹を落とそうと奮闘する三人の若者が巻き起こすラブコメディ!
BLです。
性的表現有り。
伊吹視点のお話になります。
題名に※が付いてるお話は他の登場人物の視点になります。
表紙は伊吹です。
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
無自覚両片想いの鈍感アイドルが、ラブラブになるまでの話
タタミ
BL
アイドルグループ・ORCAに属する一原優成はある日、リーダーの藤守高嶺から衝撃的な指摘を受ける。
「優成、お前明樹のこと好きだろ」
高嶺曰く、優成は同じグループの中城明樹に恋をしているらしい。
メンバー全員に指摘されても到底受け入れられない優成だったが、ひょんなことから明樹とキスしたことでドキドキが止まらなくなり──!?
イケメン俳優は万年モブ役者の鬼門です
はねビト
BL
演技力には自信があるけれど、地味な役者の羽月眞也は、2年前に共演して以来、大人気イケメン俳優になった東城湊斗に懐かれていた。
自分にはない『華』のある東城に対するコンプレックスを抱えるものの、どうにも東城からのお願いには弱くて……。
ワンコ系年下イケメン俳優×地味顔モブ俳優の芸能人BL。
外伝完結、続編連載中です。
義兄が溺愛してきます
ゆう
BL
桜木恋(16)は交通事故に遭う。
その翌日からだ。
義兄である桜木翔(17)が過保護になったのは。
翔は恋に好意を寄せているのだった。
本人はその事を知るよしもない。
その様子を見ていた友人の凛から告白され、戸惑う恋。
成り行きで惚れさせる宣言をした凛と一週間付き合う(仮)になった。
翔は色々と思う所があり、距離を置こうと彼女(偽)をつくる。
すれ違う思いは交わるのか─────。
僕たち、結婚することになりました
リリーブルー
BL
俺は、なぜか知らないが、会社の後輩(♂)と結婚することになった!
後輩はモテモテな25歳。
俺は37歳。
笑えるBL。ラブコメディ💛
fujossyの結婚テーマコンテスト応募作です。
死に戻り騎士は、今こそ駆け落ち王子を護ります!
時雨
BL
「駆け落ちの供をしてほしい」
すべては真面目な王子エリアスの、この一言から始まった。
王子に”国を捨てても一緒になりたい人がいる”と打ち明けられた、護衛騎士ランベルト。
発表されたばかりの公爵家令嬢との婚約はなんだったのか!?混乱する騎士の気持ちなど関係ない。
国境へ向かう二人を追う影……騎士ランベルトは追手の剣に倒れた。
後悔と共に途切れた騎士の意識は、死亡した時から三年も前の騎士団の寮で目覚める。
――二人に追手を放った犯人は、一体誰だったのか?
容疑者が浮かんでは消える。そもそも犯人が三年先まで何もしてこない保証はない。
怪しいのは、王位を争う第一王子?裏切られた公爵令嬢?…正体不明の駆け落ち相手?
今度こそ王子エリアスを護るため、過去の記憶よりも積極的に王子に関わるランベルト。
急に距離を縮める騎士を、はじめは警戒するエリアス。ランベルトの昔と変わらぬ態度に、徐々にその警戒も解けていって…?
過去にない行動で変わっていく事象。動き出す影。
ランベルトは今度こそエリアスを護りきれるのか!?
負けず嫌いで頑固で堅実、第二王子(年下) × 面倒見の良い、気の長い一途騎士(年上)のお話です。
-------------------------------------------------------------------
主人公は頑な、王子も頑固なので、ゆるい気持ちで見守っていただけると幸いです。
地味メガネだと思ってた同僚が、眼鏡を外したら国宝級でした~無愛想な美人と、チャラ営業のすれ違い恋愛
中岡 始
BL
誰にも気づかれたくない。
誰の心にも触れたくない。
無表情と無関心を盾に、オフィスの隅で静かに生きる天王寺悠(てんのうじ・ゆう)。
その存在に、誰も興味を持たなかった――彼を除いて。
明るく人懐こい営業マン・梅田隼人(うめだ・はやと)は、
偶然見た「眼鏡を外した天王寺」の姿に、衝撃を受ける。
無機質な顔の奥に隠れていたのは、
誰よりも美しく、誰よりも脆い、ひとりの青年だった。
気づいてしまったから、もう目を逸らせない。
知りたくなったから、もう引き返せない。
すれ違いと無関心、
優しさと孤独、
微かな笑顔と、隠された心。
これは、
触れれば壊れそうな彼に、
それでも手を伸ばしてしまった、
不器用な男たちの恋のはなし。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる