【第二部開始】オレは視えてるだけですが⁉~訳ありバーテンダーは霊感パティシエを飼い慣らしたい

凍星

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第1章 視えるパティシエと謎の店

◆ 6 運命の出逢い

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「……お客様、大丈夫ですか?」

え?と聞き返そうとして、体がぐらりと揺れた。力の入らない足腰のせいで踏ん張りが効かなくなり、倒れそうになるのを、素早く駆け寄った店員が支えてくれる。

その瞬間。
電気のような痺れが、掴まれた腕に走った――…

「……っつ!」

びくりとして、お互いに顔を見合わせる。相手も同じように驚いた表情をしていた。

「す、すみません、ごめんなさい」

静電気にしては強すぎた。
痺れの原因が一体なんだったのかよく分からないが、相手に倒れかかってしまったことを謝罪して、尊は慌てて相手から離れようとした……のだが――何故か、逆にぐいっと思い切り腕を引っ張られた。

「えっ」
「なんだか顔色が良くない」
「……!」

男の顔が至近距離に迫った。

(えっ、ちょっ……!近過ぎません??)

尊は、自分の腕を掴んでいる目の前の男を改めて見詰め直す。
ソフトモヒカンというのか、短髪の毛先を無造作に遊ばせたヘアスタイルがよく似合っていて、野性味のあるワイルドなイケメンだ。
そしてやたらと鋭い視線が、自分を見据えている。
一瞬、声を発する事も忘れてしまう。

……さっきからずっと上から下まで舐めるように観察されているのは、体調を心配されているから、なのか?
にしても、少々不躾に感じるくらいだ。

でも、何だろう。

何だか――

(妙に……胸が、どきどきする)

いきなり見詰められてびっくりしながら……漆黒の瞳が黒曜石みたいで綺麗だなと、不意に場違いなことを考えた。初対面の男性相手に抱く感想とも思えず、そんな自分に慌ててしまう。
一般的な日本人の瞳とも少し違って見えたし、自分の淡い色の瞳とは、全く違う。

夜の闇を映しているような、黒――……


「――とりあえず、カウンター席へ」
「は、はい」

突然あっさりと解放され、席へと促される。今の間は何だったのかと、尊の方は心臓が静まらないままなのだが。
謎めいた視線を向けてくるバーテンダーと、差し向かいでカウンター席に座る。
尊の身体は相変わらずだるくて重い感じで、調子は良くないままなのに……この店に入ってから、何故か吐き気や悪寒はあまり気にならなくなっていた。

(色々気になって、それどころじゃないからかな)

そんなことを思いつつ、メニューを渡されるのを待っていたら――

「良かったら、私からのおすすめで一杯飲みませんか」
「おすすめ?」
「はい。うちではお客様に合わせたオーダーメイドのカクテルを作っているんです。貴方のために特別な一杯をご用意しますよ」
「!」

と、いきなりそう切り出される。
この申し出には少しばかり驚いた。尊は酒があまり強くなく、バーで飲んだ経験がないのだが、バーテンダーの方からこんな風に言ってくる店は珍しいのではないだろうか。

(顔色が悪かったし、ふらふらしてるし……その辺から判断して心配されてる?)

風邪だと思われて、気を遣っているのかもしれない。ありがたい申し出だったが、今、酒が飲めるとは思えず、尊は返事に困った。

「日本酒をベースにお作りしますが、それほど体に負担はないと思います。全部飲み切らなくても大丈夫です。お口に合わなければ代わりの物をお出ししますし、軽い食前酒と思って試してみてください」


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