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第5章 ◇怒涛の 1st WEEK
◆20 見透かすような瞳
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――莉奈さんとのいざこざは、ユキたちのいる席までは聞こえていなかったようだ。俺が席に戻ってみると、女の子たちはユキと那月を中心にしてかなり会話が盛り上がっていて、ホッとする。
「ねぇ、ユキくん。私のメイクどう思う?恋愛運を上げたいんだけど、もっとこうした方がいいとか、あったりしない?」
女の子が親し気に話しかけていた。随分、距離も近くなっていて親密な感じになっている印象を受ける。
「……今のメイクは、わりとナチュラルですよね。それも合ってると思いますけど、もう少しだけチークをピンクにして強めに入れて、ルージュもピンクのグロスで合わせたら、健康的な透明感が――」
ユキが真剣にアドバイスをしている様子を、隣りの那月もまた真剣な表情で見詰めていて。
「……うーん、ユキのヤツ。ヘアメイクと占いっぽいことまで出来るとか……何だろ、『オブリビオンのアーティスト』とか呼んじゃう?それとも『謎のイケメン占い師』とか……いやいやネーミングセンスないな、俺。とにかく、何だかスゴいよなー!」
「何々、どうした?独り言がデカすぎるぞ、那月」
誰かに向けて、という感じでもない那月の呟きが意味不明すぎて、思わず笑いながら突っ込んでしまった。
「あ、蓮夜さんお帰りなさい!ユキの特技に、色々ビックリですよ~。さすが蓮夜さんの相方ーって感じですかね?」
那月が無邪気にはしゃぎ、花占いとか人相学を元にしたアドバイスが出来るなんてねぇと、興奮気味に話してくる。
「いや、それは俺も知らなかったな」
これまで、俺の前でも披露したことはない特技だった。
そうか。ユキはこのイベントの為に――いや準備期間は短かったからもっと前からか。少しずつ話せるネタを勉強したりして、話術のスキルアップを考えてたってことなんだろうな。
……変わったなぁ、本当に。
すっかり積極的になったユキの変化を眩しく思う。
その反面、莉奈さんとのことで苛立った感情に溺れそうな自分が悔しくて、ことさら明るい声を出す。
「アレか、能ある鷹は爪を隠すってヤツ?いーじゃん、楽しそうで何より!お酒も頼んだ?エンジェルシャンパンのブラックね。じゃあ皆で、もう一度乾杯しよ?」
テーブルのワインクーラーで冷やされていたシャンパンを持ち上げ、皆のグラスに注ぎ直した。自分のグラスには、かなり多めに注いでいく。ユキが慌てて「自分がやります」と言ってくれるのを「いいから」と制して、声を張り上げる。
「じゃあ皆、グラス持ってー……はい、乾杯ー!!」
はいはーい、とその場にいる全員とグラスを合わせ、俺は一息に、弾ける泡の冷たい液体を喉に流し込む。わあっと、女子4人と那月の笑いが、発泡酒と同じ軽やかさで宙に弾けた。
「うん、美味しい!皆で飲むお酒はやっぱり美味しいよな」
アルコールのもたらす酩酊感が、俺の淀んだ気持ちを少しだけ鈍らせてくれる。
そうしてユキの肩に腕を回せば――此方を見詰める硝子のような瞳と視線がぶつかった。
「さっき――来たばかりなのに莉奈さんが帰って行きましたけど、何かありました?」
「いや、何も?今日は顔を見に来ただけで、時間が無かったんだってさ」
俺は落ち着いた風を装って、さらりとそう答えた。
「……髪、濡れてます」
「あれ、おかしいな。夏だからって汗かき過ぎか」
誤魔化そうとして笑う俺の言葉には反応せず、ユキはそっと手を伸ばしてくる。
濡れた髪に触れた。
「………先輩、大丈夫ですか?」
「んー?大丈夫って何が」
ユキに心配そうな表情をされている――
その顔を見た途端に、酔いから醒めてしまいそうな気分になる。
ずきりと胸が痛んだ。
お前にそんな顔をさせている自分が嫌だ。
後輩に心配をかける俺なんて――この店の、『オブリビオンの蓮夜』を名乗る資格なんてないんじゃないかと――激しい自己嫌悪に陥る。今はまだ、その立場を捨てる訳にはいかないっていうのに。
一体、何やってるんだか。
「……ばーか、そんな瞳で見んなって」
その淡いグレーの瞳は、何もかも見透かしてしまいそうで、俺の気持ちを焦らせた。
落ちたテンションとか、見せたくない感情や、何もかもを悟られそうで――
上手く笑えなくなりそうだったので、ユキの前髪をクシャクシャにして視線を遮ってやった。
「ねぇ、ユキくん。私のメイクどう思う?恋愛運を上げたいんだけど、もっとこうした方がいいとか、あったりしない?」
女の子が親し気に話しかけていた。随分、距離も近くなっていて親密な感じになっている印象を受ける。
「……今のメイクは、わりとナチュラルですよね。それも合ってると思いますけど、もう少しだけチークをピンクにして強めに入れて、ルージュもピンクのグロスで合わせたら、健康的な透明感が――」
ユキが真剣にアドバイスをしている様子を、隣りの那月もまた真剣な表情で見詰めていて。
「……うーん、ユキのヤツ。ヘアメイクと占いっぽいことまで出来るとか……何だろ、『オブリビオンのアーティスト』とか呼んじゃう?それとも『謎のイケメン占い師』とか……いやいやネーミングセンスないな、俺。とにかく、何だかスゴいよなー!」
「何々、どうした?独り言がデカすぎるぞ、那月」
誰かに向けて、という感じでもない那月の呟きが意味不明すぎて、思わず笑いながら突っ込んでしまった。
「あ、蓮夜さんお帰りなさい!ユキの特技に、色々ビックリですよ~。さすが蓮夜さんの相方ーって感じですかね?」
那月が無邪気にはしゃぎ、花占いとか人相学を元にしたアドバイスが出来るなんてねぇと、興奮気味に話してくる。
「いや、それは俺も知らなかったな」
これまで、俺の前でも披露したことはない特技だった。
そうか。ユキはこのイベントの為に――いや準備期間は短かったからもっと前からか。少しずつ話せるネタを勉強したりして、話術のスキルアップを考えてたってことなんだろうな。
……変わったなぁ、本当に。
すっかり積極的になったユキの変化を眩しく思う。
その反面、莉奈さんとのことで苛立った感情に溺れそうな自分が悔しくて、ことさら明るい声を出す。
「アレか、能ある鷹は爪を隠すってヤツ?いーじゃん、楽しそうで何より!お酒も頼んだ?エンジェルシャンパンのブラックね。じゃあ皆で、もう一度乾杯しよ?」
テーブルのワインクーラーで冷やされていたシャンパンを持ち上げ、皆のグラスに注ぎ直した。自分のグラスには、かなり多めに注いでいく。ユキが慌てて「自分がやります」と言ってくれるのを「いいから」と制して、声を張り上げる。
「じゃあ皆、グラス持ってー……はい、乾杯ー!!」
はいはーい、とその場にいる全員とグラスを合わせ、俺は一息に、弾ける泡の冷たい液体を喉に流し込む。わあっと、女子4人と那月の笑いが、発泡酒と同じ軽やかさで宙に弾けた。
「うん、美味しい!皆で飲むお酒はやっぱり美味しいよな」
アルコールのもたらす酩酊感が、俺の淀んだ気持ちを少しだけ鈍らせてくれる。
そうしてユキの肩に腕を回せば――此方を見詰める硝子のような瞳と視線がぶつかった。
「さっき――来たばかりなのに莉奈さんが帰って行きましたけど、何かありました?」
「いや、何も?今日は顔を見に来ただけで、時間が無かったんだってさ」
俺は落ち着いた風を装って、さらりとそう答えた。
「……髪、濡れてます」
「あれ、おかしいな。夏だからって汗かき過ぎか」
誤魔化そうとして笑う俺の言葉には反応せず、ユキはそっと手を伸ばしてくる。
濡れた髪に触れた。
「………先輩、大丈夫ですか?」
「んー?大丈夫って何が」
ユキに心配そうな表情をされている――
その顔を見た途端に、酔いから醒めてしまいそうな気分になる。
ずきりと胸が痛んだ。
お前にそんな顔をさせている自分が嫌だ。
後輩に心配をかける俺なんて――この店の、『オブリビオンの蓮夜』を名乗る資格なんてないんじゃないかと――激しい自己嫌悪に陥る。今はまだ、その立場を捨てる訳にはいかないっていうのに。
一体、何やってるんだか。
「……ばーか、そんな瞳で見んなって」
その淡いグレーの瞳は、何もかも見透かしてしまいそうで、俺の気持ちを焦らせた。
落ちたテンションとか、見せたくない感情や、何もかもを悟られそうで――
上手く笑えなくなりそうだったので、ユキの前髪をクシャクシャにして視線を遮ってやった。
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