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第1章 恋するホストは苦悩する
◆1 幸せな時間とタイムリミット
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………朝。
甘い夢の余韻と共に、ダブルベッドで微睡む最高の時間。
そんな時に、俺の大切な人は腕の中からすり抜けていこうとする。
その温もりが消えてしまうことを哀しんで、手を伸ばす。
細い手首を捕まえて――ぐいと引き寄せた。
「っ、蓮――く」
「……まだ、行かないで」
恋しい人が寝間着替わりにしてるのは俺のTシャツだ。サイズの大きいそれを着たしなやかな身体を両腕に閉じ込めて、有無を言わさずキスを落として。
反論を封じた。
「んっ……」
甘い喘ぎが耳を擽って、愛しさを増幅させる。
柔らかい唇の感触がいつもながら心地良くて、ずっと啄んでいたくなってしまう。
細い腰を引き寄せて強く抱き締めると、シャツからすらりと伸びた長くて滑らかな脚が不満を訴えるようにゆっくりと動いて、ベッド上で掛布団を軽く掻き乱した。
ちゅ、と軽く音のする口づけだけに留めるのに苦労しながら、俺は掠れた声で懇願する。
「あと、5分だけ――」
「……ごめん……もう行かなくちゃ」
誘惑の甲斐もなく、そっと掌で胸を押し返される。
眉を下げた困り顔で、ごめんねと優しく微笑まれ……俺はがくりと項垂れた。
「………ケチ」
――俺の恋人は、まるでつれないシンデレラのようだ。
憎たらしいくらい時間に忠実。
魔法の時間は終わったから、とでも言うように。
昨夜の二人の秘め事なんて忘れたみたいに、澄ました笑顔で俺の元から去ろうとする。
いくら願っても、時間という世界の支配者には絶対に勝てないと、思い知らされる瞬間だった……
のそりとベッドの中で身じろぎし、はあと大きく息を吐いた。
分かりきっている朝のルーティーン。そう、それだけの話。
……にしても、つれない。
つれなすぎる。
「ゔゔ……」
もう少し、淋しがって欲しいんだよなぁ。
そんな感情に苛まれ、俺は呻いた。
「毎朝のことなのに、いつになったら慣れてくれるの?蓮くんは」
よしよしと頭を撫でてくる。
俺の切ない気持ちを分かっていない――訳ではないと思うが、泉水さんは今日もサラリと爽やかで、まるで駄々っ子を宥める母親みたいな目線だ。
その落ち着いた様子に、また不満を煽られてしまう。
そうして俺は――いきなりガバッと跳ね起きると、初出馬の若手議員のようにいきり立ち、湧き上がる想いを言葉にした。
「……いやいや!泉水さんが、いま言うべきなのは『恋人同士なのにいつまですれ違いの生活をしなきゃいけないの?』って事であって。仕方ないよねーって、そんな落ち着いた台詞を言ってる場合じゃない――と、俺は思うんだよね!?」
鼻息の荒い俺の発言を聞いて、泉水さんはぱちぱちと瞬きを繰り返す。
そして困ったようにまた笑みを浮かべた。
「あー……うん、もちろんそう思ってるけど。いまキミにそれを言っても、プレッシャーになるだけ……でしょ?」
「いや!いい。むしろ言って欲しい。それでめちゃくちゃエッチに甘えて俺に気合を入れて欲しい!」
「……あのね、蓮くん。願望がだだ漏れて、話の論点がズレてる気が……?」
拳を握りしめて力説したが、涼しい目をした泉水さんに軽く流された。
俺、川嶋蓮と、この人、高槻泉水は正式にお付き合いしている恋人同士だ。
紆余曲折、色々あったが――俺は片想いを実らせて、泉水さんの恋人という地位を見事勝ち取った。
男同士、ということはあっても、まあ問題なく順調にいっているラブラブな二人だと思う。
だけど、お互いの生活スタイルに決定的な問題があって……
甘い夢の余韻と共に、ダブルベッドで微睡む最高の時間。
そんな時に、俺の大切な人は腕の中からすり抜けていこうとする。
その温もりが消えてしまうことを哀しんで、手を伸ばす。
細い手首を捕まえて――ぐいと引き寄せた。
「っ、蓮――く」
「……まだ、行かないで」
恋しい人が寝間着替わりにしてるのは俺のTシャツだ。サイズの大きいそれを着たしなやかな身体を両腕に閉じ込めて、有無を言わさずキスを落として。
反論を封じた。
「んっ……」
甘い喘ぎが耳を擽って、愛しさを増幅させる。
柔らかい唇の感触がいつもながら心地良くて、ずっと啄んでいたくなってしまう。
細い腰を引き寄せて強く抱き締めると、シャツからすらりと伸びた長くて滑らかな脚が不満を訴えるようにゆっくりと動いて、ベッド上で掛布団を軽く掻き乱した。
ちゅ、と軽く音のする口づけだけに留めるのに苦労しながら、俺は掠れた声で懇願する。
「あと、5分だけ――」
「……ごめん……もう行かなくちゃ」
誘惑の甲斐もなく、そっと掌で胸を押し返される。
眉を下げた困り顔で、ごめんねと優しく微笑まれ……俺はがくりと項垂れた。
「………ケチ」
――俺の恋人は、まるでつれないシンデレラのようだ。
憎たらしいくらい時間に忠実。
魔法の時間は終わったから、とでも言うように。
昨夜の二人の秘め事なんて忘れたみたいに、澄ました笑顔で俺の元から去ろうとする。
いくら願っても、時間という世界の支配者には絶対に勝てないと、思い知らされる瞬間だった……
のそりとベッドの中で身じろぎし、はあと大きく息を吐いた。
分かりきっている朝のルーティーン。そう、それだけの話。
……にしても、つれない。
つれなすぎる。
「ゔゔ……」
もう少し、淋しがって欲しいんだよなぁ。
そんな感情に苛まれ、俺は呻いた。
「毎朝のことなのに、いつになったら慣れてくれるの?蓮くんは」
よしよしと頭を撫でてくる。
俺の切ない気持ちを分かっていない――訳ではないと思うが、泉水さんは今日もサラリと爽やかで、まるで駄々っ子を宥める母親みたいな目線だ。
その落ち着いた様子に、また不満を煽られてしまう。
そうして俺は――いきなりガバッと跳ね起きると、初出馬の若手議員のようにいきり立ち、湧き上がる想いを言葉にした。
「……いやいや!泉水さんが、いま言うべきなのは『恋人同士なのにいつまですれ違いの生活をしなきゃいけないの?』って事であって。仕方ないよねーって、そんな落ち着いた台詞を言ってる場合じゃない――と、俺は思うんだよね!?」
鼻息の荒い俺の発言を聞いて、泉水さんはぱちぱちと瞬きを繰り返す。
そして困ったようにまた笑みを浮かべた。
「あー……うん、もちろんそう思ってるけど。いまキミにそれを言っても、プレッシャーになるだけ……でしょ?」
「いや!いい。むしろ言って欲しい。それでめちゃくちゃエッチに甘えて俺に気合を入れて欲しい!」
「……あのね、蓮くん。願望がだだ漏れて、話の論点がズレてる気が……?」
拳を握りしめて力説したが、涼しい目をした泉水さんに軽く流された。
俺、川嶋蓮と、この人、高槻泉水は正式にお付き合いしている恋人同士だ。
紆余曲折、色々あったが――俺は片想いを実らせて、泉水さんの恋人という地位を見事勝ち取った。
男同士、ということはあっても、まあ問題なく順調にいっているラブラブな二人だと思う。
だけど、お互いの生活スタイルに決定的な問題があって……
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