小説「変わらへん」

有原野分

文字の大きさ
1 / 1

変わらへん

しおりを挟む
「おーい、おっさん」
 一人のおっさんが声をかける。
「なんや」
 もう一人のおっさんが答える。
「おっさん、なにしとん?」
「見て分かるやろ。ゴミ拾っとんねん」
「おう、そうか。俺もや」
「見たら分かるわ。お前はほんまにアホやな。俺もお前もゴミ拾いやないか。あとな、お前もおっさんや」
「そうやな、あはは。なんせ、久しぶりに会うもんやから。おい、おっさん、最近はなにしてたんや?」
「お前はどうしようもないアホやな。なにもクソもあるかい。俺らは万年ゴミ拾いやないか」
「せやな。俺らはゴミを拾ってなんぼやもんな。あーあ、なんか景気のいい話でもないんか」
「んなもんあるかい。景気も毛もあらへんわ。ところでお前、今日はどないや?」
「今日か? ぼちぼちやで。怪我もしてへんし、……これがほんまの毛がない」
「くだらんこというなや。見たとこ、あんまり拾てへんみたいやけど」
「せやねん。今日は調子が悪いねん」
「ゴミ拾うのに、調子もクソもあるかい。お前そんなんで飯食えるんか?」
「ああ、それは大丈夫や。こんなときのために、ちゃんとゴミを貯めてんねん」
「アホかお前は。ゴミなんか貯めんと、お金貯めんかい。換金に行ってへんのか」
「いや、行ってる。行ってるけど、換金してへん」
「なんでや」
「ほら、昔は現金より、現物や言うて、黄金を買う人がおったやろ?」
「それで?」
「だから俺も金よりゴミを貯めとんねん。財テク言うやっちゃ」
「アホ! ゴミと黄金を一緒にすな! お前知ってるか? 今はこのゴミがキロ五百円で売れるけど、来年からはキロ八十円になるらしいで」
「ええっ! ほんまかいな。そんなんなったら、飯が食えんやないか。しゃあない、奥の手や」
「なんや?」
「ゴミもっと貯めたる」
「アホ、俺らゴミ拾いには死活問題やぞ? まあ、しゃあないけどな。俺らの先祖は飲み物の入ってた空き缶っちゅうのを拾ってたらしいからな」
「ああ、知ってる。空き缶やろ? 昔、博物館で見たわ。どや? 博識やろ?」
「お前、そんなガキみたいなことでよう自慢ができるな。まあ、アホでも博識いう言葉を知っとるのはえらいもんや。しかし、えらい惨めなもんやな。俺らのご先祖さまがホームレスやからって」
「おい! ホームレスちゃうぞ? サバイバル派や」
「一緒やないかい。まあ、似たようなもんやな。いまの人間は、みんなある意味ホームレスや。ほんまにアホばっかりや。お前みたいなアホやったらまだ救いはあったかも知れんが、昔から人間はろくでもない。このゴミかてそうや。もう、宇宙はゴミだらけ。科学だけ先に進んで、俺ら人間は置き去りや」
 おっさん二人は宇宙を漂いながら、ゴミを拾っている。
 そのとき、太陽が遠くから顔を出した。
 二人は無言で、光を眺めている。
 一人が言った。
「ああ、やっぱり何回見ても、地球はキレイやな」
 地球。
 どこまでも青く、深く、輝いている。
 その横で、ボロボロの月が小さくゴミの中に埋もれている。
 二人は黙ってそれを見ている。
 地球はもう、人間が暮らせないほど汚れていた。
 集めたゴミが、太陽の光を反射してきらきらとまぶしいほど光る。
「さあ、もう一仕事や」
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

とある男の包〇治療体験記

moz34
エッセイ・ノンフィクション
手術の体験記

意味が分かると怖い話【短編集】

本田 壱好
ホラー
意味が分かると怖い話。 つまり、意味がわからなければ怖くない。 解釈は読者に委ねられる。 あなたはこの短編集をどのように読みますか?

【短編集】こども病院の日常

moa
キャラ文芸
ここの病院は、こども病院です。 18歳以下の子供が通う病院、 診療科はたくさんあります。 内科、外科、耳鼻科、歯科、皮膚科etc… ただただ医者目線で色々な病気を治療していくだけの小説です。 恋愛要素などは一切ありません。 密着病院24時!的な感じです。 人物像などは表記していない為、読者様のご想像にお任せします。 ※泣く表現、痛い表現など嫌いな方は読むのをお控えください。 歯科以外の医療知識はそこまで詳しくないのですみませんがご了承ください。

熱のせい

yoyo
BL
体調不良で漏らしてしまう、サラリーマンカップルの話です。

ナースコール

wawabubu
大衆娯楽
腹膜炎で緊急手術になったおれ。若い看護師さんに剃毛されるが…

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...