ショートショート「旅人とロバ」

有原野分

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旅人とロバ

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 あるところにロバを引き連れた旅人がいました。彼は村から村へ流れる風のようにのんびりと旅をしていました。旅人は自分の居場所を探していたのでした。
 ある日、旅人が丘を歩いていると、遠くに小さな村が見えました。旅人はロバを引きながら村に入っていきました。すると、その村人たちはロバを見たことがないのか、旅人を遠くから眺めてなにかボソボソと話しているようでした。
「あの動物はなんだ」
「見たことがない」
「魔物かもしれん」
 そんな声が旅人の耳に聞こえたので、彼はこの村に滞在することなく、またどこかよその村へと向かって歩き出しました。
 野原を越えると、今度は中ぐらいの村が見えました。旅人とロバはゆっくりと村に入っていきました。すると、今度は村人たちが集まってきました。しかし、みんなの顔はどこか浮かない表情でした。
「こんな馬は見たことがない」
「小さすぎるよ」
「病気なんじゃないのか」
 そこで旅人はロバという動物について説明しましたが、村人は誰も聞いてはくれませんでした。旅人は仕方なく、また他の村を探すことにしました。
 森を抜けると、そこには大きな村がありました。旅人とロバはもう歩きっぱなしだったので、少しでも休みたいと思い村へ入っていきました。すると、一人の老人が近づいてきました。その老人は顔が黒く、髪の毛は真っ白でした。
「おい、このロバはいくらで売っているんだ」
 旅人は、このロバは売り物ではありません、と言いました。
「高く買ってやる。いくらなんだ」
 旅人はそれでも首を横に振りました。
「老人だと思って馬鹿にしているか」
 老人が怒りだしたので、旅人は逃げるように村から出て行きました。
 春が過ぎて、夏が去り、秋が終わると、冬がやってきました。旅人はそれ以来村を見つけることができず、ロバと一緒に毎日トボトボと歩いていました。その頃になると、ロバは元気がなくなってきたのか、次第に弱っていきました。旅人はどんな村でもいいから見つかってほしい、と願いながらゆっくりと歩きました。
 川を渡ると、旅人の目の前に立派な城が現れました。旅人とロバは祈るような気持ちで城の中に入っていきました。すると、中から王様の家来たちがやってきました。
「おい、なんだこの汚いロバは」
「そんな恰好で城に入ってはダメだ」
「よそへ行ってくれ」
 旅人は少しでもいいから休ませてほしいとお願いしましたが、家来たちは聞く耳を持ちません。仕方なく旅人とロバは城から出てまた歩きはじめました。
 その間にロバはどんどん弱っていき、山の中腹に来た頃にとうとう死んでしまいました。旅人は悲しみ、大声を上げて泣きました。そしてロバの背中から荷物を取り上げると、中からナイフを取り出し、ロバの皮を剥いで、その場に埋めて供養しました。
 その日から旅人はロバの毛皮を被って歩き出しました。丘を越え、野原を歩き、森を抜け、川を渡りました。どのぐらいの月日が経ったのかは、もはや旅人にも分かりませんでした。
 ある日、遠くに小さな村が見えました。旅人はゆっくりと村に入っていきました。すると、村人たちが大歓声を上げて旅人に押し掛けてきました。
「祈りが通じたんだ!」
「神の使いだ!」
「これで戦争に勝てるぞ!」
 旅人はその村にどこか見覚えがあった気がしましたが、その村人たちの歓声を聞いた途端にまた歩きはじめました。そこへ村の長がやってきました。
「あなたは神の使いに違いありません。どこに行くのですか?」
 旅人はロバの毛皮を脱いで答えました。
「私は神でも悪魔でもない。また人間でもロバでもない」
 そして旅人はまたどこかへと旅立っていきました。
 それ以来、その旅人を見かけた人は誰一人いなかったといいます。
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