詩「空気の底」

有原野分

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空気の底

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もう何十年も
様々な場所で
様々な人達と
お別れをしているのに
ぼくはいまだに
最後の言葉が
見つけられないでいる
夕暮れの空の色
思い出が愛おしくて
ときに切なくなるほど
愛おしくて
涙が溢れてくるほどの
思い出の夕暮れは
この星を真っ赤に染め
生きることは
本当に美しくて
透き通る
雲がふわふわと青より青く
電車の音が遠くから聞こえ
思えば先に裏切ったのはぼくかもしれないと
今更ながら
お前を思い出した
               空に舞う
         シュレッダーにかけた
         引き出物のマグカップ
                  は
お前と共に
空気の底で
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