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悪意は日常の裏に
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お父さんが殺された。私はそのとき学校にいて、いつもと変わらない日常をのほほんと送っていた。
混乱しながら急いで家に帰ると、もうそこにはお父さんの姿はなく、警察やうろたえる母の姿が異常な光景を映し出していた。
警察の話によると、お父さんは自宅にいた際に何者かに襲われて殺されたらしい。死因は失血死。全身をナイフで刺されており、見るも無残な姿になっていたそうだ。
お父さんはそこそこ売れているデザイナーだった。いつも穏やかで優しかった。誰かに恨まれたりするようなことは絶対にしていないと思う。
第一発見者はお母さんだった。買い物から帰ると、父の返事がなく、不審に思って書斎を開けたらすでに血まみれのお父さんが倒れていたという。
犯人はいまだに判明していない。しかし、容疑者は捕まっている。
加藤啓二(かとうけいじ)、四十三歳。お父さんの昔からの知り合いで、よく家にも遊びに来ていた。私は正直、加藤さんのことをよく思っていなかった。なんとなく目つきがいやらしい気がしていたからだ。
そんな加藤さんが疑われているのには訳がある。どうやらお父さんとお金で揉めていたらしい。さらにお父さんが襲われた時間帯のアリバイもなく、おまけにお母さんが買い物に行く前にお父さんから「後で啓二さんが来られる」と聞いていたそうだ。
客観的に見ても、犯人は加藤さんだろう。しかし、加藤さんは事件を否定している。私は早く犯人が捕まってほしいと思っているが、正直どうでもいい気持ちもある。
最近、私はお父さんとあまり口を利いていなかった。特に仲が悪いわけではないけど、なんとなく話をするのが嫌だった。最後に交わした言葉は、私が寝る前にお父さんが後ろから「おやすみ」と言っただけだった。
もう二度と会えない。それを受け止めきれない私がいた。なんだかすべてが嘘のように、本当は明日になったらひょっこりとお父さんが現れる気がする。だから、私は葬式の日も涙が出なかった。
「一刻も早く犯人を捕まえます。辛いと思いますがどうか自暴自棄にならないでください」
警察の人は優しく接してくれるけど、その気遣いが私には重たく感じる。そんな中、私はふと犯人は誰なんだろうと考えはじめた。
お父さんを殺した犯人。私から日常を永遠に奪った人物だ。許せない気持ちはもちろんある。だが私は、不思議とどうしてお父さんを殺したのかが気になっていた。
考えてみると、やはり犯人は加藤さんだと思う。しかし、ドラマや小説なんかだと意外な人物が犯人だったなんてことも考えられる。
例えば、第一発見者のお母さん。お父さんとは仲がよかったと思うけど、実は娘には分からない事情でもあったのかもしれない。いや、でもやっぱりそんなことはないと思う。お母さんは本当に悲しんでいた。あれは決して演技なんかじゃない。それより、お母さんを少しでも疑ってしまった自分自身がたまらなく嫌になる。こんなとき、お父さんならなんて言うのだろう。
もしかしたら、自殺かもしれない。でも、全身を刃物で刺すなんて一人でできるわけがない。それにお父さんの死ぬ理由なんて見当もつかない。
私が考えられるのは、はやり加藤さんか、よくニュースで見かける通り魔による犯行ぐらいだ。たまたま頭のおかしい人が家に侵入してきて、たまたまそこにいたお父さんを殺した。そういえば、テレビで見たことがある。快楽殺人者と言って、人を殺すことに快楽を覚える人がいるって。中には遺族の悲しむ顔を見て喜ぶ最低な人間もいるらしい。
私にはとても理解できない。しかし、実際にお父さんは死んでいる。たまたま殺されたお父さん。どんなに辛かったんだろう。どんなに怖かったんだろう。私はこれから、どうすればいいんだろう。
昨日のことなのに、もう何十年も時間が過ぎてしまったような感覚がする。眠たくもないし、食欲もない。今日はまた警察の人が家に来ると言っていた。私は正直、もう誰とも話をしたくなかった。
「どうやら犯人は加藤さんではないようです」
私たちを気遣ってくれているのか、とにかく優しい表情でそう言った。
「じゃあ、誰が犯人なんですか」
お母さんの目はウサギのように真っ赤に腫れていた。私の顔は今どんな表情なんだろう。鏡を見るのも億劫で仕方がない。ふと、私はお父さんの言葉を思い出した。
「刑事さん……?」
「えっ?」
その瞬間、私は確かに見たのだった。目の前の顔がわずかに歪んだのを――。
混乱しながら急いで家に帰ると、もうそこにはお父さんの姿はなく、警察やうろたえる母の姿が異常な光景を映し出していた。
警察の話によると、お父さんは自宅にいた際に何者かに襲われて殺されたらしい。死因は失血死。全身をナイフで刺されており、見るも無残な姿になっていたそうだ。
お父さんはそこそこ売れているデザイナーだった。いつも穏やかで優しかった。誰かに恨まれたりするようなことは絶対にしていないと思う。
第一発見者はお母さんだった。買い物から帰ると、父の返事がなく、不審に思って書斎を開けたらすでに血まみれのお父さんが倒れていたという。
犯人はいまだに判明していない。しかし、容疑者は捕まっている。
加藤啓二(かとうけいじ)、四十三歳。お父さんの昔からの知り合いで、よく家にも遊びに来ていた。私は正直、加藤さんのことをよく思っていなかった。なんとなく目つきがいやらしい気がしていたからだ。
そんな加藤さんが疑われているのには訳がある。どうやらお父さんとお金で揉めていたらしい。さらにお父さんが襲われた時間帯のアリバイもなく、おまけにお母さんが買い物に行く前にお父さんから「後で啓二さんが来られる」と聞いていたそうだ。
客観的に見ても、犯人は加藤さんだろう。しかし、加藤さんは事件を否定している。私は早く犯人が捕まってほしいと思っているが、正直どうでもいい気持ちもある。
最近、私はお父さんとあまり口を利いていなかった。特に仲が悪いわけではないけど、なんとなく話をするのが嫌だった。最後に交わした言葉は、私が寝る前にお父さんが後ろから「おやすみ」と言っただけだった。
もう二度と会えない。それを受け止めきれない私がいた。なんだかすべてが嘘のように、本当は明日になったらひょっこりとお父さんが現れる気がする。だから、私は葬式の日も涙が出なかった。
「一刻も早く犯人を捕まえます。辛いと思いますがどうか自暴自棄にならないでください」
警察の人は優しく接してくれるけど、その気遣いが私には重たく感じる。そんな中、私はふと犯人は誰なんだろうと考えはじめた。
お父さんを殺した犯人。私から日常を永遠に奪った人物だ。許せない気持ちはもちろんある。だが私は、不思議とどうしてお父さんを殺したのかが気になっていた。
考えてみると、やはり犯人は加藤さんだと思う。しかし、ドラマや小説なんかだと意外な人物が犯人だったなんてことも考えられる。
例えば、第一発見者のお母さん。お父さんとは仲がよかったと思うけど、実は娘には分からない事情でもあったのかもしれない。いや、でもやっぱりそんなことはないと思う。お母さんは本当に悲しんでいた。あれは決して演技なんかじゃない。それより、お母さんを少しでも疑ってしまった自分自身がたまらなく嫌になる。こんなとき、お父さんならなんて言うのだろう。
もしかしたら、自殺かもしれない。でも、全身を刃物で刺すなんて一人でできるわけがない。それにお父さんの死ぬ理由なんて見当もつかない。
私が考えられるのは、はやり加藤さんか、よくニュースで見かける通り魔による犯行ぐらいだ。たまたま頭のおかしい人が家に侵入してきて、たまたまそこにいたお父さんを殺した。そういえば、テレビで見たことがある。快楽殺人者と言って、人を殺すことに快楽を覚える人がいるって。中には遺族の悲しむ顔を見て喜ぶ最低な人間もいるらしい。
私にはとても理解できない。しかし、実際にお父さんは死んでいる。たまたま殺されたお父さん。どんなに辛かったんだろう。どんなに怖かったんだろう。私はこれから、どうすればいいんだろう。
昨日のことなのに、もう何十年も時間が過ぎてしまったような感覚がする。眠たくもないし、食欲もない。今日はまた警察の人が家に来ると言っていた。私は正直、もう誰とも話をしたくなかった。
「どうやら犯人は加藤さんではないようです」
私たちを気遣ってくれているのか、とにかく優しい表情でそう言った。
「じゃあ、誰が犯人なんですか」
お母さんの目はウサギのように真っ赤に腫れていた。私の顔は今どんな表情なんだろう。鏡を見るのも億劫で仕方がない。ふと、私はお父さんの言葉を思い出した。
「刑事さん……?」
「えっ?」
その瞬間、私は確かに見たのだった。目の前の顔がわずかに歪んだのを――。
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