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宇宙ベッド
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昔の夢を見る。
それは海。懐かしい情景だ。思い出をぐちゃぐちゃに混ぜたような、そんな夢。ぼくは思う。夢とは過去であり、その世界はこの宇宙には存在しない空想上の世界で、パラレルワールドのような幻想だと。
だから肩が凝る。こんなことばかりを考えながら生きるようには人間は作られていないから。
頭が痛い。吐き気もする。ひどい倦怠感だ。このままでは夕方のバイトにまた行けそうもない。ここ最近ずっと休んでいる。クビかもしれない。でも、仕方ない。仕方がないんだ。いくらバイト先にかわいくて憧れの先輩が働いているからって、いや、まさか、それはさすがにあまりにも夢さ。(悲しい現実!)
ぼくは部屋の中にいる。この狭い国の狭い町の狭い部屋の中に一人で暮らしている。孤独が悪だというのなら、ぼくは懲役刑を喰らっていることになる。無期懲役。孤独は死ぬまで終わらない。
しかし、ある日ぼくは見つけてしまった。「宇宙ベッド」という神ベッドを。それは今話題のアングラ系インフルエンサーがショート動画で紹介していて、そのベッドで寝るとたちまち肩こり頭痛もろもろの諸症状がすっかりと改善するそうだ。ぼくはもう買うっきゃないと思いすぐにお値段以上のお店に買いに行ったという訳なのさ。(リボ最高!)
さっそく家に持って帰り宇宙の写真が前面にプリントされている箱から取り出してみると、それは思っていたよりも宇宙ベッドで、確かに宇宙のベッドだった。真っ黒で中には銀河が輝いている。星々の瞬きも見える。やわらかいようで、ほどよい弾力があって、まるで不思議なベッドだった。
ああ、宇宙! ぼくは今夜から宇宙の上で眠るんだ!
興奮した。だからさっさと夕食とお風呂を済ませて眠ることにした。(おやすみなさい!)
電気を消して、ベッドの上に横になる。感触はゼリーのようで体がそっと沈んでいく。空気とも水とも言い難いやわらかさだ。きっと夜空を固めたらこんな感触なんだと思う。顔を押し付けてじっと覗いてみると確かにそこには宇宙が広がっていた。名前も知らない星々の瞬き、銀河系、遠くの星雲。きっとぼくの住んでいるこの星もこの中に浮かんでいる。そう思うと余計に興奮して眠れなかった。
宇宙はあまりにも美しかった。顔を押し付けているのにまったく苦しくもない。まるで夢のよう。気がついたらぼくは泣いていた。その涙は粉々に砕けたガラス細工のような星々の灯りできらりと光って、ぼくは不思議と指の隙間から海があふれ出る場面を想像した。それは夢かもしれないし、ぼくがいつも願っている混沌と破滅が叶ったのかもしれない。いや、きっとただの空想だ。まどろみ。気がついたらぼくは宇宙のはざまでふわふわと浮かんでいた。
思わず仰向けになる。そこにはいつもの見慣れたひび割れたむき出しのコンクリートの天井が広がっていた。これが現実。この宇宙の現実なんだと肩の力が抜けるような気がした。手を伸ばして、机の上に置いてあるパイプを取ろうとしたはずみで空き缶を落としてしまった。カーンと部屋中に無機質な音が反響する。部屋の片隅からネズミの逃げる足音が聞こえた。
ぼくは思った。この世界が現実だとしたら、この宇宙の中はいったいなんなのだろうか、と。
パイプに火をつける。灰色の煙がどうしようもなく懐かしく感じ、ぼくは手で顔を押さえながら嗚咽するように涙を流した。
きっとぼくという存在は宇宙の外にあるんだ。だからこんなにも悲しいんだ!
天井が崩れる気がした。自分の体が粉々に砕けるイメージを抱きながら、ぼくはこの世界をどのように呪えばいいのかを考える。それはいつもの日課だった。眠る前の、哀れな人生の一瞬だ。
もう一度宇宙を覗こうと体を動かしたときだった。ぼくは気がついた。体の半分が宇宙の中に溶け込んでいるということに。
横を向く。ぼくは今、半分は宇宙の中で、半分は宇宙の外だった。とすると、ぼくが今まで生きてきたこの世界はやはり宇宙の外だったいうことになる。宇宙の外? または宇宙の中に宇宙があるというべきなのか。
――もしかしたら過去という現象はすべて宇宙の外の出来事だったのかもしれない。
そう思うとぼくはなんだか強い孤独に襲われて、このまま一人ぼっちのまま死んでしまうのではないかと思った。宇宙の外は確かに孤独だ。しかし、例え宇宙の中に入り込んだとしても、それが孤独ではないという保証などどこにもない。
罪と罰。孤独は人間を蝕んでいく病だ。だから必要なのは適度な距離感を保てるコミュニケーションなんだけど、今ぼくは宇宙の上で眠っていて、体の半分はその外側にあって、さらに指の隙間から海があふれ出て来る場面を頭の中でめぐらせているので、確かに孤独なのだが、半分は全宇宙のエネルギーと繋がっている感覚とコミットしているのだ。(トリップ最高!)
思い出した。ぼくは起き上がろうか悩んだ。それは洗濯物を外に干したままだったのだ。どうしようか、このまま眠ってしまうか、それとも起き上がって取り込むか。ああ、どうしよう!
その瞬間、ぼくは夢を見た。この地球のどこかに大きな隕石が衝突し、空は真っ黒な雲に覆われ、大規模な津波の影響で海面が上昇し、目の前の町が飲まれていくというそんな夢を。
気がつくと、朝。不思議なことに宇宙ベッドはどこにもなく、ぼくはいつもの安くて少しだけおっさん臭いマットレスの上だった。果たしてあれは何だったのだろうか。それともぼくは完全に宇宙の中に入り込んで同化してしまったのだろうか。だとしたらぼくはもう孤独ではないはずだ。起き上がって部屋を見渡して、ふと思う。今夜、きっと誰かがぼくの宇宙を下にして眠るのだ。そうして、きっと過去の思い出を宇宙の外に置き去りにして、こちら側の世界にやってくるんだ。(ようこそ宇宙へ!)
その興奮は生まれてはじめての感覚だった。同時に、外からの雨音に気がついて、ぼくは慌てた。洗濯物……。ぼくは窓を開けた。そこには視界一面に広がる海が広がっていた。混沌と破滅。ぼくはパイプを口にして火をつける。もちろん、笑いながら。そして涙を流しながら。その調和の果てにこの宇宙は存在していて、きっとぼくもそのためにこの宇宙に存在しているのだと強く思いながら。
それは海。懐かしい情景だ。思い出をぐちゃぐちゃに混ぜたような、そんな夢。ぼくは思う。夢とは過去であり、その世界はこの宇宙には存在しない空想上の世界で、パラレルワールドのような幻想だと。
だから肩が凝る。こんなことばかりを考えながら生きるようには人間は作られていないから。
頭が痛い。吐き気もする。ひどい倦怠感だ。このままでは夕方のバイトにまた行けそうもない。ここ最近ずっと休んでいる。クビかもしれない。でも、仕方ない。仕方がないんだ。いくらバイト先にかわいくて憧れの先輩が働いているからって、いや、まさか、それはさすがにあまりにも夢さ。(悲しい現実!)
ぼくは部屋の中にいる。この狭い国の狭い町の狭い部屋の中に一人で暮らしている。孤独が悪だというのなら、ぼくは懲役刑を喰らっていることになる。無期懲役。孤独は死ぬまで終わらない。
しかし、ある日ぼくは見つけてしまった。「宇宙ベッド」という神ベッドを。それは今話題のアングラ系インフルエンサーがショート動画で紹介していて、そのベッドで寝るとたちまち肩こり頭痛もろもろの諸症状がすっかりと改善するそうだ。ぼくはもう買うっきゃないと思いすぐにお値段以上のお店に買いに行ったという訳なのさ。(リボ最高!)
さっそく家に持って帰り宇宙の写真が前面にプリントされている箱から取り出してみると、それは思っていたよりも宇宙ベッドで、確かに宇宙のベッドだった。真っ黒で中には銀河が輝いている。星々の瞬きも見える。やわらかいようで、ほどよい弾力があって、まるで不思議なベッドだった。
ああ、宇宙! ぼくは今夜から宇宙の上で眠るんだ!
興奮した。だからさっさと夕食とお風呂を済ませて眠ることにした。(おやすみなさい!)
電気を消して、ベッドの上に横になる。感触はゼリーのようで体がそっと沈んでいく。空気とも水とも言い難いやわらかさだ。きっと夜空を固めたらこんな感触なんだと思う。顔を押し付けてじっと覗いてみると確かにそこには宇宙が広がっていた。名前も知らない星々の瞬き、銀河系、遠くの星雲。きっとぼくの住んでいるこの星もこの中に浮かんでいる。そう思うと余計に興奮して眠れなかった。
宇宙はあまりにも美しかった。顔を押し付けているのにまったく苦しくもない。まるで夢のよう。気がついたらぼくは泣いていた。その涙は粉々に砕けたガラス細工のような星々の灯りできらりと光って、ぼくは不思議と指の隙間から海があふれ出る場面を想像した。それは夢かもしれないし、ぼくがいつも願っている混沌と破滅が叶ったのかもしれない。いや、きっとただの空想だ。まどろみ。気がついたらぼくは宇宙のはざまでふわふわと浮かんでいた。
思わず仰向けになる。そこにはいつもの見慣れたひび割れたむき出しのコンクリートの天井が広がっていた。これが現実。この宇宙の現実なんだと肩の力が抜けるような気がした。手を伸ばして、机の上に置いてあるパイプを取ろうとしたはずみで空き缶を落としてしまった。カーンと部屋中に無機質な音が反響する。部屋の片隅からネズミの逃げる足音が聞こえた。
ぼくは思った。この世界が現実だとしたら、この宇宙の中はいったいなんなのだろうか、と。
パイプに火をつける。灰色の煙がどうしようもなく懐かしく感じ、ぼくは手で顔を押さえながら嗚咽するように涙を流した。
きっとぼくという存在は宇宙の外にあるんだ。だからこんなにも悲しいんだ!
天井が崩れる気がした。自分の体が粉々に砕けるイメージを抱きながら、ぼくはこの世界をどのように呪えばいいのかを考える。それはいつもの日課だった。眠る前の、哀れな人生の一瞬だ。
もう一度宇宙を覗こうと体を動かしたときだった。ぼくは気がついた。体の半分が宇宙の中に溶け込んでいるということに。
横を向く。ぼくは今、半分は宇宙の中で、半分は宇宙の外だった。とすると、ぼくが今まで生きてきたこの世界はやはり宇宙の外だったいうことになる。宇宙の外? または宇宙の中に宇宙があるというべきなのか。
――もしかしたら過去という現象はすべて宇宙の外の出来事だったのかもしれない。
そう思うとぼくはなんだか強い孤独に襲われて、このまま一人ぼっちのまま死んでしまうのではないかと思った。宇宙の外は確かに孤独だ。しかし、例え宇宙の中に入り込んだとしても、それが孤独ではないという保証などどこにもない。
罪と罰。孤独は人間を蝕んでいく病だ。だから必要なのは適度な距離感を保てるコミュニケーションなんだけど、今ぼくは宇宙の上で眠っていて、体の半分はその外側にあって、さらに指の隙間から海があふれ出て来る場面を頭の中でめぐらせているので、確かに孤独なのだが、半分は全宇宙のエネルギーと繋がっている感覚とコミットしているのだ。(トリップ最高!)
思い出した。ぼくは起き上がろうか悩んだ。それは洗濯物を外に干したままだったのだ。どうしようか、このまま眠ってしまうか、それとも起き上がって取り込むか。ああ、どうしよう!
その瞬間、ぼくは夢を見た。この地球のどこかに大きな隕石が衝突し、空は真っ黒な雲に覆われ、大規模な津波の影響で海面が上昇し、目の前の町が飲まれていくというそんな夢を。
気がつくと、朝。不思議なことに宇宙ベッドはどこにもなく、ぼくはいつもの安くて少しだけおっさん臭いマットレスの上だった。果たしてあれは何だったのだろうか。それともぼくは完全に宇宙の中に入り込んで同化してしまったのだろうか。だとしたらぼくはもう孤独ではないはずだ。起き上がって部屋を見渡して、ふと思う。今夜、きっと誰かがぼくの宇宙を下にして眠るのだ。そうして、きっと過去の思い出を宇宙の外に置き去りにして、こちら側の世界にやってくるんだ。(ようこそ宇宙へ!)
その興奮は生まれてはじめての感覚だった。同時に、外からの雨音に気がついて、ぼくは慌てた。洗濯物……。ぼくは窓を開けた。そこには視界一面に広がる海が広がっていた。混沌と破滅。ぼくはパイプを口にして火をつける。もちろん、笑いながら。そして涙を流しながら。その調和の果てにこの宇宙は存在していて、きっとぼくもそのためにこの宇宙に存在しているのだと強く思いながら。
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