ホラー小話

桃月熊

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ドッペルゲンガーのつづき

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リョウの通っている塾は隣市で、自宅最寄駅から二つ先の駅前にある。


真っ青な顔のままで電車に乗り込んだリョウは、見知らぬ大人たちから
心配されたが、何も答える事ができなかった。

(死ぬんだ、死ぬんだ、死ぬんだ)


リョウが最寄り駅で降りると、偶然近所のおじさんと出会い、
家まで送って貰った。
リョウは何も話す事が出来なかった。

(おじさんに話したってどうしよもないじゃないか。
 誰に相談すればいいんだよ?)



真っ青な顔のリョウは帰宅し、母親に何度も問い詰められて、
やっとの思いで心情を吐いた。
泣きながら
「だってドッペルゲンガーを見たら死ぬんだよ」


リョウの母親は黙って聞いていたが、リョウが泣き止んでから、こう切り出した。
「あんたが二人居るんだったら、そのもう一人も、この家に帰って来る筈でしょ。
 でも実際にはあんたしか、この家には帰って来てないわよ」

「あ、そっか。
 でもこれから帰って来るのかも知れないし」


その時、玄関の扉が開く音がし、二人は瞬間的に飛び上がった。

「やっぱり、帰ってきたんじゃ……」
「そんな訳ないわよ」

足音が二人に近づいてくる。




「ただいま」

足音の主は、リョウの父親である。



リョウと母親は顔を見合わせてから、笑いあった。

「だから何でもないって行ったでしょ。
 どうしても安心したいのなら念の為に、明日はお母さんが塾まで一緒に行くわよ」






つづく。
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