52 / 72
第六章 イマドキ?なJK転生者
52話 予想外の強敵
しおりを挟む
アヤト、ナナミ、リザ、レジーナの四人が、謎のダンジョンの中にいる頃。
「冒険者ギルド・フローリアン支部です、ご用件をどうぞ♪」
いつもなら常勤の受付嬢が応対に出ているのだが、今日はいつもは見られない美しい黒髪の美少女――クロナが微笑みを添えてクエストカウンターに立っていた。
その常勤の受付嬢はと言うと、体調不良につき欠勤していたため、クロナがその代わりを務めているのだ。
アトランティカのギルドでも、デスクワークや冒険者としての活動の他、受付嬢としても、レジーナ共々勤務経験がある。
受付嬢として勤務するクロナ、と言うのは確かに珍しい光景であり、彼女の美貌は多くの男性どころか女性すらも振り向かせるほどだが、冒険者の多くは他の受付嬢と同じように接している。
何故なら彼女は、フローリアンの英雄・アヤトの婚約者なのだ。
見目麗しい黒髪の美少女姉妹が、フローリアンのギルドに出入りするようになったと聞けば、男性の冒険者の多くは鼻息を荒くして"お近づき"になろうとしたが、既に他の男のモノ――それも、英雄……と言うよりは、(冒険者の者達からは)鬼神・暴君・悪魔のようだと畏れられるアヤトの婚約者だと聞けば、そのほとんどは恐れ慄いて"お手付き"を避けた。
遠目から目の保養で眺める分ならはともかく、間違っても手を出そうものなら、その者は知らぬ内にフローリアンの町から姿を消し、二度と現れることは無くなる……と言う、『限りなく真実に近い噂』があるのだ。まぁ大体アヤトのせいだが。
そんなわけで、クロナの麗姿を合法的に眺められると言う理由で、集会所の冒険者の男達は、酒を片手に静かに賑わっていた。
「あの黒髪の受付嬢、すっげぇ可愛いよな……」
「ってかなんだよあのデカさ、エロ過ぎんだろ……」
「死んでもいいから、一回抱いてみてぇ……」
「よせよせっ、あんま見てると、フローリアンの英雄が来るぞ……」
「かーっ、フローリアンの英雄様めっ、うらやまけしからん過ぎるっ……」
今日も冒険者ギルド・フローリアン支部の集会所は平和……だったと思われたのだが。
「全く!なんだこの豚箱のような場所は!これだから冒険者ギルドと言うバカの集まりは度し難い!」
慇懃無礼極まりない暴言を吐き散らしながら、ズカズカと集会所に踏み入って来たのは、裕福の良い体格を礼装に押し込み、金品で全身を飾った――控えめに言って趣味の悪い男だった。
せっかくクロナを眺めながら気持ち良く酒を嗜んでいたところになんだと冒険者達は不快気な視線を向けるが、男はそれらに意にも介さず真っ直ぐにクロナの方へ向かった。
「冒険者ギルド・フローリアン支部です、ご用件をどうぞ♪」
この男がどのような人間なのかは脇に置いておき、クロナは受付嬢としての営業スマイルで応じる。
「おぉ、クロナ嬢!アトランティカからフローリアンの町に派遣されたと聞いて、こうして迎えに参ったぞ!」
何 言 っ て ん の こ い つ 。
この集会所内にいる、男以外の人間の心がひとつになって瞬間であった。
「はい、私はクロナですが……どちら様でしょう?」
対するクロナは、目を丸くして小首をかしげる。
「私はコーザ。このフローリアンの町の領主であり、子爵貴族である!」
デデーンと踏ん反り返りながら、尊大に名乗る、コーザと言うらしい子爵貴族。頭の悪そうな男だ。
「はぁ。それで、迎えに参ったと申されましたが、どのようなご用件でしょう?」
「無論、貴女を我が子爵家に迎え入れるためだ!海巫女の一族と言う血筋を守るため、そして何よりも貴女のため!その貴女に相応しい私が、こうして迎えに参ったのだ!」
厚顔無恥もここまで来ればいっそ見事と言っても良いだろう。
「縁談のお話でしたら、残念ですが、お断り致しますね」
クロナは再び営業スマイルを立て直して、丁重にお断りする。
「へ?」
まさか断られるとは思って無かったのか、間抜けな声と顔をするコーザ。
「お気持ちは嬉しいですが、このクロナには、生涯身も心も捧げると誓った殿方がおります。なので、「ごめんなさい」とご返答させていただきます」
ぺこりと頭を下げるクロナ。
こうまで礼儀正しく頭を下げてお断りの返事をするのだ、脈など万が一にも無いことは、誰の目にも分かることだ。
よほどの阿呆でも無ければ、だが。
「な、何故だ!?冒険者ギルドなどという野蛮な場所など、貴女には相応しくない!」
カウンターに手を打ちながら、鼻息荒くクロナに詰め寄るコーザ。
「貴女は海巫女の一族!貴女には私のような貴族が隣にいる方が相応しいのだ!こんな仕事など辞めて、私に嫁げば、豪華な食事や綺麗な服、望めばなんでも差し上げよう!」
「……あら、望めばなんでも差し上げてくれるのですか?」
瞬間、クロナの背後で"黒い波動"が蠢いたことに気付かなかったのは、目の前のコーザくらいだろう。
「無論だ!私とて男、二言は無い!」
「――では、あなた様の命をくださいな?」
「………………え?」
「言い方を変えましょうか。あなた様の首、おひとつ私にくださいな♪」
なにニコニコしながらとんでもなく恐ろしいこと言っちゃってんのこの人ォ!? とこの場にいる全員が戦慄した。
「い、いや、待て、さすがにそれは」
「男に二言は無いのですよね?さぁさぁ、早くその首を、このクロナに差し出してくださいませ、もちろん今この場で♪」
「そ、それ以外、他には何か無いのか?」
冷や汗をダラダラ流しながら、他の要求は無いかと話を逸らそうとするコーザ。
「仕方ありませんねぇ、では、あなた様の持つ利権を全て私に無条件で委譲してくださるのなら……」
「り、利権?まま、待て待て、それは私の全財産やその所有権と言うことか?」
「はい。所有権はまぁ、適当に放棄して財産は売り払って、現金は全額、教会や孤児院などの福祉施設に寄付させていただきますね♪」
つまり、クロナの隣に相応しい(失笑)ための立場を全て寄越せと言うわけだ。
嫌がらせだ、間違いなく嫌がらせでこんなこと言ってるんだこの人。
「ほ、他に、他には……」
「はぁ……そろそろ本音を申し上げましょうか?」
瞬間、身を引き裂くような霊圧が集会所を支配した。
「ひぇっ!?」
尻もちをついて失禁してしまうコーザに、クロナは『目が一切笑っていない笑顔』で、
「豪華な食事も綺麗な服も利権も財産も、私に相応しい殿方も、全て十分間に合っていますので……こほん、『次いらんことしやがったらてめーの一族郎党もろとも消し炭ひとつ残さんぞ、このド三下オーク以下野郎』、です♪」
アヤトがゲス野郎に中指おっ立てて喧嘩を買う時の常套句を参考にして、ニコニコと言い放った。
「アバババババ……ブッピガンッ」
とうとう精神が壊れてしまったのか、コーザは白目をむいて気絶してしまった。
「あらあら、ちょっと脅かし過ぎたでしょうか」
霊圧も消えたところで、コーザの護衛兵達が「すいませんうちのコーザ様がほんとすいません」とペコペコ頭を下げながらコーザを引っ張っていく。
それと入れ替わるように、依頼を終えたエリンが帰還してきた。
「クロナさん、ただいまです。なんか変な人が兵隊さんに引き摺られてましたけど、何かあったんですか?」
依頼状の半券と、討伐した魔物の素材の一部を差し出すエリンに、クロナは微笑みながら。
「うふふ、ちょっとした「ざまぁ」です♪」
「ザマー?」
達成を確認したクロナから報酬金を受け取るエリンは、小首を傾げるだけだった。
冒険者ギルド・フローリアン支部は、今日も平和だった。
い い ね ?
――フローリアンの集会所でそんな面白……ゲフンゲフン、楽し……ゲフンゲフン、愉快……ゲフンゲフン、大変なことが起きていたことなど俺はつゆ知らず。
レジーナはマーマンキングと鎖鎌に繋がれたまま立ち回っているが、マーマンキングの動きは格段に遅くなっており、悠々とトライデントを躱し、反撃に左の鎖鎌で鱗を斬り飛ばしている。
「よし、レジーナは下がってくれ!」
「はい、アヤト様」
俺の指示をすぐさま了解したレジーナは鎖鎌をマーマンキングから回収すると、距離を取る。
マーマンキングはレジーナを追い詰めようとするが、鈍った動きでは追いつけようが無く、死角から無影脚で迫る俺にも気付いていない。
「余所見してると危ないぞぅ?」
そう呟いてやることで、マーマンキングはようやく死角の俺に気付いて振り向こうとしているが、もう遅い。
ソハヤノツルギに赫い雷を纏わせて、
「疾れ稲妻、鳴れ雷――『閃赫卍雷』!」
ちょうど『卍』の字を描くように斬撃を放ち――真っ赤な雷がマーマンキングの魚鱗を貫き、肉体の内側で暴れ迸り――体液が急速沸騰し――パァンッ!!と全身が破裂した。
仕組みとしては、卵を殻のまま電子レンジでチン☆したら破裂するのと同じだ。
「うわぁ……ナナミさんがいなくて良かったですね」
割れた水風船のように成り果てた臓物をぶちまけ、『真っ赤に染まった骨』をバラバラと撒き散らすマーマンキングの末路を見て、リザが苦虫を生きたまま飲み込んだような顔をした。ひでぇ絵面だな、まともに描写したらR-18G不可避ですよクォレワァ……
「……中の魔石が消滅しているようですね、完全にオーバーキルです」
マーマンキング"だったモノ"を見て、レジーナは魔石が消失してしまったことを教えてくれた。
「ありゃま、軽い電気ショックのつもりだったんだが、ちょっとやり過ぎたかな」
軽い電気ショックのつもりだった、はさすがに嘘だが、体内の魔石まで蒸発したとは思わなかった。
教訓:普通の戦闘で電子レンジでチン☆ではまともな素材が残らない。
次は気を付けよう。
戦闘は終了したが、一息つくのはまだ早い。
「ナナミさんも無事だといいんですけど……」
リザの表情は固い。
俺とレジーナが助けに来たとは言え、ナナミはまだ姿が見えておらず、一人で危険かもしれない状態が長くなっているのだ。
「探知反応を見る限り、魔物との戦闘にはなっていないし、気配が動いていないと言うことは、どこか危険が少ない場所に隠れているのかもしれないな」
ナナミがこのダンジョンの穴に落ちてしまった時点で、俺達がすぐに助けに来ることは分かっているはずだ。
一人で下手に行動するよりも、余計なことはせずに息を潜めている方がまだ助かる……と、判断してくれているといいのだが。
「ともかく、急ぎましょう。消耗しているリザさんには申し訳ありませんが、ナナミさんの安否確認が最優先です」
「そうですね、早く行きましょうアヤトさん」
あちこち駆け回っている俺が一番消耗してると思うんだけどなぁ、と言う気持ちはそっと胸にしまっておこう。
迷路のような通路をえっちらおっちら駆け巡り、状態異常攻撃の面倒くさい小型の魔物を蹴散らして、ようやくナナミの反応がある小部屋まで来た。
軽く小部屋を見回しても、魔物の姿や気配は無く、ナナミの姿も見られないが。
「ナナミー!俺だ、アヤトだ!リザとレジーナも一緒だぞー!」
敢えて大きな声で存在を誇示する。
もしこの声に魔物が寄って来たとしても、全員揃っているので慌てずに対処すればいい。
すると、入り組んだ壁と壁の隙間から、魔筆を抱えたナナミがそ~~~~~っと顔を出して、ホッと胸を撫で下ろす。
「……あっ、はぁ~~~~~、良かったぁ……」
安心したように、壁の隙間から出てきた。
「ナナミさん、お怪我はございませんか?」
「大丈夫、みんなが助けに来てくれるって信じてたから、そこに隠れてた」
身を案じるレジーナに、ナナミは大きく頷いて見せる。
うむ、大人しく助けを待っていてくれたようで何よりだ。
「ともかく、無事で何よりだ。下手に動き回るより、俺達を待ってくれていたのも良いポイントだ」
「うん。こう言うのって、一人で動くのは危険だから助けが来そうなら待った方がいい、って前世のラノベとかネット小説で習ったから」
前世の知識によるものだったか。
結果としてそれが生存に繋がったのなら、何でもいいがな。
「皆さん無事でしたし、一旦落ち着きましょうか」
リザの意見により、一旦休憩だ。
この小部屋に結界を張って、地べたに腰を下ろす。
「さてと……ここからの問題は、どうやってこのダンジョンから脱出するか、だな」
落ち着いて、携行していたボトルの水を呷り、一息ついたところで。
「……、……多分ですけど、わたし達が入って来た入口は無くなってますよね?」
リザはきっと、「アヤトさんがみんなを担いで跳んで脱出すれば良いのでは?」と思ったのだろうが、そこまで楽観的にはなっていないようだ。
「恐らくな。とりあえず、入口は既に消えている前提としよう」
であればどうやって脱出するかは、いくつか選択肢がある。
「どこかに、外へ出るための出口があればいいのですが……」
レジーナがそう言ってくれたように、ひとつは、外への出口を探すことだ。
しかしその出口はどこにありそうなのかと言えば。
「うーんと……普通に考えたら、このダンジョンの最奥部のボスを倒したら、旅の扉とかワープ装置で外に飛ばしてくれるとか?」
ナナミが言っている"普通"と言うのは、ゲームの中の話なのであって、その辺はゲームシステムの都合だ。
それはともかくとして、二つ目は、ダンジョンを突破する、もしくはこのダンジョンのボスを倒すこと。
三つ目は……まぁ、うん、俺がこのダンジョンの天井をぶち抜いて力尽くで脱出することだが、それをやったら一体どんな弊害が起こるか分からんので、二進も三進も行かなくなった時の、本当に最後の手段だ。
結論としては。
「ダンジョンを探索しながら進んで、最奥部に着くよりも前に脱出可能なら、その場ですぐに脱出だな」
って言うかこんな得体の知れない場所にいつまでも居たくない、と言うのが本音だが。
そもそもこのダンジョンの発生原因が謎だ。
世界線によっては、ダンジョンがその辺のゴキブリみたいにポンポン出てくるのが当たり前な世界もあるが、この世界はどちらかと言えばダンジョンと言うより、"狩場"に近く、ダンジョンの自然発生はこれまでに確認されていなかったはずだ。
では何故こんなところで、それもタイミングがタイミングだ、転生者であるナナミを引きずり込むようにダンジョンが発生したのか、偶然の一致にしては事が噛み合い過ぎていると思うのは俺の穿ち過ぎとは思いにくい。
………………ダメだ、思い当たる節があり過ぎてどれに何が当てはまるか分からん。
えぇぃ、考えても分からんものは分からんのだ、一旦棚上げしよう。
ともかくは、ダンジョンの奥に進んで出口を探すと言う結論に至った、その時。
――突然、何か地面に激突したかのような轟音と震動がダンジョン内に響いた。
「なっ、なにっ!?」
ナナミは慌てて魔筆を手にしてキョロキョロと辺りを見回す。
リザとレジーナも何事かとセプターと鎖鎌を手にする。
俺もすぐに気配探知を――んん?大型の魔物かと思ったが、新たな反応は見られない。
何か、巨大な重質量物体がダンジョン――それも、俺達の近くに落ちたというのも分かるが……
すると、
――グオォアァァァァーーーーーッ!!
と言う魔物の咆哮のような吼え声が『背後から』轟いた。
「なっ!?」
さすがの俺もびっくりして振り向いた。
いや、だって、この近くに魔物の気配は無かったじゃん!?
ちなみに、姿を消せる魔物の気配も逃さず探知出来るので、今の今まで姿を消して俺達に忍び寄っていた、なんてことはないはずだ。
――俺達の背後にいたのは、半透明の飴色をした海坊主のような巨人が、石柱を担いだ外観の魔物。
「これは……ゴーレムの類でしょうか?」
リザはセプターを構えながら、その姿からおよその分類を読み取ろうとしている。
ゴーレム……しかし水飴状のゴーレムとはまた珍しいな。
するとゴーレムモドキは石柱を振り上げて、猛然と襲い掛かってきた。
振り下ろされる石柱に、俺は咄嗟にナナミをお姫様抱っこにして飛び退き、リザとレジーナも一歩遅れて石柱を躱す。
「アッ、アヤトく……!?」
「急にこんなことして悪いな」
同時に、石柱が地面に叩き込まれ、小さなクレーターを穿った。
うむ、なかなか強そうだ。
一旦ナナミを下ろして、
「ナナミ、無理に攻撃しないでいい、とにかくこの部屋の中で逃げ回るんだ」
「わ、私も戦……」
「ダメだ」
意気込みは良しだが、敢えて強い口調で脅かしつける。
「死にたく無いなら、自分のことだけ心配しろ。いいな」
「ッ……」
言っちゃ悪いが、今のナナミはまだ足手まといだ。
とにかくまずはこいつを始末して安全を確保しなくては――
――んん?気配を読み取れない?
実体はそこにあるのに、生体反応が無いのだ。
生体反応だけでない、気配そのものや熱紋、魔力すら感じられない。
肉眼では見えるのに、魔法的なサーチには一切引っ掛からないと言っても良い。
幽体のレイスですら、"そこにいる"と分かるのに、このゴーレムモドキにはそれが全く感じられないのだ。
……全くの初見だな、こう言う前情報の無い戦闘は久しぶりだよ。
石柱を地面から引き抜きながら、ゴーレムモドキはゆらりと睥睨する。
「水属性のゴーレムなら、――ライトニングスピア!」
リザは即座にセプターの魔石を紫色に輝かせて詠唱、ライトニングスピアをゴーレムモドキへ向けて放つ。
普通の水系の魔物ならこれだけで勝負がつくほどの威力の雷槍だ。
が、
ゴーレムモドキの水飴状のボディにライトニングスピアが直撃、炸裂し――何も起きなかった。
「そんなっ、効かない!?」
動揺するリザ。
どうやらかなり強い魔法耐性があるらしい
ゴーレムモドキは煩わしげに頭を振り、ライトニングスピアを撃ち込んできたリザに標的を定め、石柱を薙ぎ払おうと振りかぶり、
「さすれば!」
しかしそこへレジーナがゴーレムモドキの背後へ回り込み、鎖鎌を両方とも放ち、その両腕に絡み付かせようとするが、何故かずるりと鎖が滑り、鎌が地面に落ちてしまった。
「な、何故っ!?」
薙ぎ払おうとしていたゴーレムモドキはレジーナに振り返り、フルスイングで石柱を振るう。
「くっ……!」
レジーナはすぐに鎖鎌のチェーンを巻取って飛び下がり、振り抜かれた石柱を躱す。
空振りした石柱はダンジョンの壁に激突し、そのぶつかった壁を崩壊させた。
だが、それは大きな隙になる。
「初心者研修の途中なんでな、悪いが死んでもらう」
レジーナの鎖鎌が滑ったところ、もしかすると奴の体表面はこんにゃくみたいになっている (つまり、ちぎることは出来ても物理的な切断は出来ない)のかもしれない。どこぞの怪盗の三世一味のポン刀使いも、こんにゃくは斬れないって言ってたし。
無影脚でゴーレムモドキの正面に躍りかかり、奴の胴体に右掌を押し付け――こんにゃくとは違うし、寒天質とも違う、不思議な感触だ――
「張ッ!!」
その掌底に練気を流し込む!
いくら衝撃吸収能力に優れようと、いくら刃が滑りやすい体質だろうと、いくら魔法耐性が高かろうと、本体の"核"を破壊してしまえば一撃で死ぬ。
人間で言うなら心臓や脳を破壊するようなもの――ほぼ即死だが、アリスの場合は殺しても復活する恐れがあるので、肉体と各臓器をズタズタに破壊してから心臓を引き摺り出して物理的に潰すまでを目視で確認したかったから。
まぁともかく、核を破壊されたこいつがどうなるかは分から……、……ん!?
練気を流し込み、核を破壊されたはずのゴーレムモドキは、僅かに震えただけで、何も起きなかった……
マ
ジ
で
?
「冒険者ギルド・フローリアン支部です、ご用件をどうぞ♪」
いつもなら常勤の受付嬢が応対に出ているのだが、今日はいつもは見られない美しい黒髪の美少女――クロナが微笑みを添えてクエストカウンターに立っていた。
その常勤の受付嬢はと言うと、体調不良につき欠勤していたため、クロナがその代わりを務めているのだ。
アトランティカのギルドでも、デスクワークや冒険者としての活動の他、受付嬢としても、レジーナ共々勤務経験がある。
受付嬢として勤務するクロナ、と言うのは確かに珍しい光景であり、彼女の美貌は多くの男性どころか女性すらも振り向かせるほどだが、冒険者の多くは他の受付嬢と同じように接している。
何故なら彼女は、フローリアンの英雄・アヤトの婚約者なのだ。
見目麗しい黒髪の美少女姉妹が、フローリアンのギルドに出入りするようになったと聞けば、男性の冒険者の多くは鼻息を荒くして"お近づき"になろうとしたが、既に他の男のモノ――それも、英雄……と言うよりは、(冒険者の者達からは)鬼神・暴君・悪魔のようだと畏れられるアヤトの婚約者だと聞けば、そのほとんどは恐れ慄いて"お手付き"を避けた。
遠目から目の保養で眺める分ならはともかく、間違っても手を出そうものなら、その者は知らぬ内にフローリアンの町から姿を消し、二度と現れることは無くなる……と言う、『限りなく真実に近い噂』があるのだ。まぁ大体アヤトのせいだが。
そんなわけで、クロナの麗姿を合法的に眺められると言う理由で、集会所の冒険者の男達は、酒を片手に静かに賑わっていた。
「あの黒髪の受付嬢、すっげぇ可愛いよな……」
「ってかなんだよあのデカさ、エロ過ぎんだろ……」
「死んでもいいから、一回抱いてみてぇ……」
「よせよせっ、あんま見てると、フローリアンの英雄が来るぞ……」
「かーっ、フローリアンの英雄様めっ、うらやまけしからん過ぎるっ……」
今日も冒険者ギルド・フローリアン支部の集会所は平和……だったと思われたのだが。
「全く!なんだこの豚箱のような場所は!これだから冒険者ギルドと言うバカの集まりは度し難い!」
慇懃無礼極まりない暴言を吐き散らしながら、ズカズカと集会所に踏み入って来たのは、裕福の良い体格を礼装に押し込み、金品で全身を飾った――控えめに言って趣味の悪い男だった。
せっかくクロナを眺めながら気持ち良く酒を嗜んでいたところになんだと冒険者達は不快気な視線を向けるが、男はそれらに意にも介さず真っ直ぐにクロナの方へ向かった。
「冒険者ギルド・フローリアン支部です、ご用件をどうぞ♪」
この男がどのような人間なのかは脇に置いておき、クロナは受付嬢としての営業スマイルで応じる。
「おぉ、クロナ嬢!アトランティカからフローリアンの町に派遣されたと聞いて、こうして迎えに参ったぞ!」
何 言 っ て ん の こ い つ 。
この集会所内にいる、男以外の人間の心がひとつになって瞬間であった。
「はい、私はクロナですが……どちら様でしょう?」
対するクロナは、目を丸くして小首をかしげる。
「私はコーザ。このフローリアンの町の領主であり、子爵貴族である!」
デデーンと踏ん反り返りながら、尊大に名乗る、コーザと言うらしい子爵貴族。頭の悪そうな男だ。
「はぁ。それで、迎えに参ったと申されましたが、どのようなご用件でしょう?」
「無論、貴女を我が子爵家に迎え入れるためだ!海巫女の一族と言う血筋を守るため、そして何よりも貴女のため!その貴女に相応しい私が、こうして迎えに参ったのだ!」
厚顔無恥もここまで来ればいっそ見事と言っても良いだろう。
「縁談のお話でしたら、残念ですが、お断り致しますね」
クロナは再び営業スマイルを立て直して、丁重にお断りする。
「へ?」
まさか断られるとは思って無かったのか、間抜けな声と顔をするコーザ。
「お気持ちは嬉しいですが、このクロナには、生涯身も心も捧げると誓った殿方がおります。なので、「ごめんなさい」とご返答させていただきます」
ぺこりと頭を下げるクロナ。
こうまで礼儀正しく頭を下げてお断りの返事をするのだ、脈など万が一にも無いことは、誰の目にも分かることだ。
よほどの阿呆でも無ければ、だが。
「な、何故だ!?冒険者ギルドなどという野蛮な場所など、貴女には相応しくない!」
カウンターに手を打ちながら、鼻息荒くクロナに詰め寄るコーザ。
「貴女は海巫女の一族!貴女には私のような貴族が隣にいる方が相応しいのだ!こんな仕事など辞めて、私に嫁げば、豪華な食事や綺麗な服、望めばなんでも差し上げよう!」
「……あら、望めばなんでも差し上げてくれるのですか?」
瞬間、クロナの背後で"黒い波動"が蠢いたことに気付かなかったのは、目の前のコーザくらいだろう。
「無論だ!私とて男、二言は無い!」
「――では、あなた様の命をくださいな?」
「………………え?」
「言い方を変えましょうか。あなた様の首、おひとつ私にくださいな♪」
なにニコニコしながらとんでもなく恐ろしいこと言っちゃってんのこの人ォ!? とこの場にいる全員が戦慄した。
「い、いや、待て、さすがにそれは」
「男に二言は無いのですよね?さぁさぁ、早くその首を、このクロナに差し出してくださいませ、もちろん今この場で♪」
「そ、それ以外、他には何か無いのか?」
冷や汗をダラダラ流しながら、他の要求は無いかと話を逸らそうとするコーザ。
「仕方ありませんねぇ、では、あなた様の持つ利権を全て私に無条件で委譲してくださるのなら……」
「り、利権?まま、待て待て、それは私の全財産やその所有権と言うことか?」
「はい。所有権はまぁ、適当に放棄して財産は売り払って、現金は全額、教会や孤児院などの福祉施設に寄付させていただきますね♪」
つまり、クロナの隣に相応しい(失笑)ための立場を全て寄越せと言うわけだ。
嫌がらせだ、間違いなく嫌がらせでこんなこと言ってるんだこの人。
「ほ、他に、他には……」
「はぁ……そろそろ本音を申し上げましょうか?」
瞬間、身を引き裂くような霊圧が集会所を支配した。
「ひぇっ!?」
尻もちをついて失禁してしまうコーザに、クロナは『目が一切笑っていない笑顔』で、
「豪華な食事も綺麗な服も利権も財産も、私に相応しい殿方も、全て十分間に合っていますので……こほん、『次いらんことしやがったらてめーの一族郎党もろとも消し炭ひとつ残さんぞ、このド三下オーク以下野郎』、です♪」
アヤトがゲス野郎に中指おっ立てて喧嘩を買う時の常套句を参考にして、ニコニコと言い放った。
「アバババババ……ブッピガンッ」
とうとう精神が壊れてしまったのか、コーザは白目をむいて気絶してしまった。
「あらあら、ちょっと脅かし過ぎたでしょうか」
霊圧も消えたところで、コーザの護衛兵達が「すいませんうちのコーザ様がほんとすいません」とペコペコ頭を下げながらコーザを引っ張っていく。
それと入れ替わるように、依頼を終えたエリンが帰還してきた。
「クロナさん、ただいまです。なんか変な人が兵隊さんに引き摺られてましたけど、何かあったんですか?」
依頼状の半券と、討伐した魔物の素材の一部を差し出すエリンに、クロナは微笑みながら。
「うふふ、ちょっとした「ざまぁ」です♪」
「ザマー?」
達成を確認したクロナから報酬金を受け取るエリンは、小首を傾げるだけだった。
冒険者ギルド・フローリアン支部は、今日も平和だった。
い い ね ?
――フローリアンの集会所でそんな面白……ゲフンゲフン、楽し……ゲフンゲフン、愉快……ゲフンゲフン、大変なことが起きていたことなど俺はつゆ知らず。
レジーナはマーマンキングと鎖鎌に繋がれたまま立ち回っているが、マーマンキングの動きは格段に遅くなっており、悠々とトライデントを躱し、反撃に左の鎖鎌で鱗を斬り飛ばしている。
「よし、レジーナは下がってくれ!」
「はい、アヤト様」
俺の指示をすぐさま了解したレジーナは鎖鎌をマーマンキングから回収すると、距離を取る。
マーマンキングはレジーナを追い詰めようとするが、鈍った動きでは追いつけようが無く、死角から無影脚で迫る俺にも気付いていない。
「余所見してると危ないぞぅ?」
そう呟いてやることで、マーマンキングはようやく死角の俺に気付いて振り向こうとしているが、もう遅い。
ソハヤノツルギに赫い雷を纏わせて、
「疾れ稲妻、鳴れ雷――『閃赫卍雷』!」
ちょうど『卍』の字を描くように斬撃を放ち――真っ赤な雷がマーマンキングの魚鱗を貫き、肉体の内側で暴れ迸り――体液が急速沸騰し――パァンッ!!と全身が破裂した。
仕組みとしては、卵を殻のまま電子レンジでチン☆したら破裂するのと同じだ。
「うわぁ……ナナミさんがいなくて良かったですね」
割れた水風船のように成り果てた臓物をぶちまけ、『真っ赤に染まった骨』をバラバラと撒き散らすマーマンキングの末路を見て、リザが苦虫を生きたまま飲み込んだような顔をした。ひでぇ絵面だな、まともに描写したらR-18G不可避ですよクォレワァ……
「……中の魔石が消滅しているようですね、完全にオーバーキルです」
マーマンキング"だったモノ"を見て、レジーナは魔石が消失してしまったことを教えてくれた。
「ありゃま、軽い電気ショックのつもりだったんだが、ちょっとやり過ぎたかな」
軽い電気ショックのつもりだった、はさすがに嘘だが、体内の魔石まで蒸発したとは思わなかった。
教訓:普通の戦闘で電子レンジでチン☆ではまともな素材が残らない。
次は気を付けよう。
戦闘は終了したが、一息つくのはまだ早い。
「ナナミさんも無事だといいんですけど……」
リザの表情は固い。
俺とレジーナが助けに来たとは言え、ナナミはまだ姿が見えておらず、一人で危険かもしれない状態が長くなっているのだ。
「探知反応を見る限り、魔物との戦闘にはなっていないし、気配が動いていないと言うことは、どこか危険が少ない場所に隠れているのかもしれないな」
ナナミがこのダンジョンの穴に落ちてしまった時点で、俺達がすぐに助けに来ることは分かっているはずだ。
一人で下手に行動するよりも、余計なことはせずに息を潜めている方がまだ助かる……と、判断してくれているといいのだが。
「ともかく、急ぎましょう。消耗しているリザさんには申し訳ありませんが、ナナミさんの安否確認が最優先です」
「そうですね、早く行きましょうアヤトさん」
あちこち駆け回っている俺が一番消耗してると思うんだけどなぁ、と言う気持ちはそっと胸にしまっておこう。
迷路のような通路をえっちらおっちら駆け巡り、状態異常攻撃の面倒くさい小型の魔物を蹴散らして、ようやくナナミの反応がある小部屋まで来た。
軽く小部屋を見回しても、魔物の姿や気配は無く、ナナミの姿も見られないが。
「ナナミー!俺だ、アヤトだ!リザとレジーナも一緒だぞー!」
敢えて大きな声で存在を誇示する。
もしこの声に魔物が寄って来たとしても、全員揃っているので慌てずに対処すればいい。
すると、入り組んだ壁と壁の隙間から、魔筆を抱えたナナミがそ~~~~~っと顔を出して、ホッと胸を撫で下ろす。
「……あっ、はぁ~~~~~、良かったぁ……」
安心したように、壁の隙間から出てきた。
「ナナミさん、お怪我はございませんか?」
「大丈夫、みんなが助けに来てくれるって信じてたから、そこに隠れてた」
身を案じるレジーナに、ナナミは大きく頷いて見せる。
うむ、大人しく助けを待っていてくれたようで何よりだ。
「ともかく、無事で何よりだ。下手に動き回るより、俺達を待ってくれていたのも良いポイントだ」
「うん。こう言うのって、一人で動くのは危険だから助けが来そうなら待った方がいい、って前世のラノベとかネット小説で習ったから」
前世の知識によるものだったか。
結果としてそれが生存に繋がったのなら、何でもいいがな。
「皆さん無事でしたし、一旦落ち着きましょうか」
リザの意見により、一旦休憩だ。
この小部屋に結界を張って、地べたに腰を下ろす。
「さてと……ここからの問題は、どうやってこのダンジョンから脱出するか、だな」
落ち着いて、携行していたボトルの水を呷り、一息ついたところで。
「……、……多分ですけど、わたし達が入って来た入口は無くなってますよね?」
リザはきっと、「アヤトさんがみんなを担いで跳んで脱出すれば良いのでは?」と思ったのだろうが、そこまで楽観的にはなっていないようだ。
「恐らくな。とりあえず、入口は既に消えている前提としよう」
であればどうやって脱出するかは、いくつか選択肢がある。
「どこかに、外へ出るための出口があればいいのですが……」
レジーナがそう言ってくれたように、ひとつは、外への出口を探すことだ。
しかしその出口はどこにありそうなのかと言えば。
「うーんと……普通に考えたら、このダンジョンの最奥部のボスを倒したら、旅の扉とかワープ装置で外に飛ばしてくれるとか?」
ナナミが言っている"普通"と言うのは、ゲームの中の話なのであって、その辺はゲームシステムの都合だ。
それはともかくとして、二つ目は、ダンジョンを突破する、もしくはこのダンジョンのボスを倒すこと。
三つ目は……まぁ、うん、俺がこのダンジョンの天井をぶち抜いて力尽くで脱出することだが、それをやったら一体どんな弊害が起こるか分からんので、二進も三進も行かなくなった時の、本当に最後の手段だ。
結論としては。
「ダンジョンを探索しながら進んで、最奥部に着くよりも前に脱出可能なら、その場ですぐに脱出だな」
って言うかこんな得体の知れない場所にいつまでも居たくない、と言うのが本音だが。
そもそもこのダンジョンの発生原因が謎だ。
世界線によっては、ダンジョンがその辺のゴキブリみたいにポンポン出てくるのが当たり前な世界もあるが、この世界はどちらかと言えばダンジョンと言うより、"狩場"に近く、ダンジョンの自然発生はこれまでに確認されていなかったはずだ。
では何故こんなところで、それもタイミングがタイミングだ、転生者であるナナミを引きずり込むようにダンジョンが発生したのか、偶然の一致にしては事が噛み合い過ぎていると思うのは俺の穿ち過ぎとは思いにくい。
………………ダメだ、思い当たる節があり過ぎてどれに何が当てはまるか分からん。
えぇぃ、考えても分からんものは分からんのだ、一旦棚上げしよう。
ともかくは、ダンジョンの奥に進んで出口を探すと言う結論に至った、その時。
――突然、何か地面に激突したかのような轟音と震動がダンジョン内に響いた。
「なっ、なにっ!?」
ナナミは慌てて魔筆を手にしてキョロキョロと辺りを見回す。
リザとレジーナも何事かとセプターと鎖鎌を手にする。
俺もすぐに気配探知を――んん?大型の魔物かと思ったが、新たな反応は見られない。
何か、巨大な重質量物体がダンジョン――それも、俺達の近くに落ちたというのも分かるが……
すると、
――グオォアァァァァーーーーーッ!!
と言う魔物の咆哮のような吼え声が『背後から』轟いた。
「なっ!?」
さすがの俺もびっくりして振り向いた。
いや、だって、この近くに魔物の気配は無かったじゃん!?
ちなみに、姿を消せる魔物の気配も逃さず探知出来るので、今の今まで姿を消して俺達に忍び寄っていた、なんてことはないはずだ。
――俺達の背後にいたのは、半透明の飴色をした海坊主のような巨人が、石柱を担いだ外観の魔物。
「これは……ゴーレムの類でしょうか?」
リザはセプターを構えながら、その姿からおよその分類を読み取ろうとしている。
ゴーレム……しかし水飴状のゴーレムとはまた珍しいな。
するとゴーレムモドキは石柱を振り上げて、猛然と襲い掛かってきた。
振り下ろされる石柱に、俺は咄嗟にナナミをお姫様抱っこにして飛び退き、リザとレジーナも一歩遅れて石柱を躱す。
「アッ、アヤトく……!?」
「急にこんなことして悪いな」
同時に、石柱が地面に叩き込まれ、小さなクレーターを穿った。
うむ、なかなか強そうだ。
一旦ナナミを下ろして、
「ナナミ、無理に攻撃しないでいい、とにかくこの部屋の中で逃げ回るんだ」
「わ、私も戦……」
「ダメだ」
意気込みは良しだが、敢えて強い口調で脅かしつける。
「死にたく無いなら、自分のことだけ心配しろ。いいな」
「ッ……」
言っちゃ悪いが、今のナナミはまだ足手まといだ。
とにかくまずはこいつを始末して安全を確保しなくては――
――んん?気配を読み取れない?
実体はそこにあるのに、生体反応が無いのだ。
生体反応だけでない、気配そのものや熱紋、魔力すら感じられない。
肉眼では見えるのに、魔法的なサーチには一切引っ掛からないと言っても良い。
幽体のレイスですら、"そこにいる"と分かるのに、このゴーレムモドキにはそれが全く感じられないのだ。
……全くの初見だな、こう言う前情報の無い戦闘は久しぶりだよ。
石柱を地面から引き抜きながら、ゴーレムモドキはゆらりと睥睨する。
「水属性のゴーレムなら、――ライトニングスピア!」
リザは即座にセプターの魔石を紫色に輝かせて詠唱、ライトニングスピアをゴーレムモドキへ向けて放つ。
普通の水系の魔物ならこれだけで勝負がつくほどの威力の雷槍だ。
が、
ゴーレムモドキの水飴状のボディにライトニングスピアが直撃、炸裂し――何も起きなかった。
「そんなっ、効かない!?」
動揺するリザ。
どうやらかなり強い魔法耐性があるらしい
ゴーレムモドキは煩わしげに頭を振り、ライトニングスピアを撃ち込んできたリザに標的を定め、石柱を薙ぎ払おうと振りかぶり、
「さすれば!」
しかしそこへレジーナがゴーレムモドキの背後へ回り込み、鎖鎌を両方とも放ち、その両腕に絡み付かせようとするが、何故かずるりと鎖が滑り、鎌が地面に落ちてしまった。
「な、何故っ!?」
薙ぎ払おうとしていたゴーレムモドキはレジーナに振り返り、フルスイングで石柱を振るう。
「くっ……!」
レジーナはすぐに鎖鎌のチェーンを巻取って飛び下がり、振り抜かれた石柱を躱す。
空振りした石柱はダンジョンの壁に激突し、そのぶつかった壁を崩壊させた。
だが、それは大きな隙になる。
「初心者研修の途中なんでな、悪いが死んでもらう」
レジーナの鎖鎌が滑ったところ、もしかすると奴の体表面はこんにゃくみたいになっている (つまり、ちぎることは出来ても物理的な切断は出来ない)のかもしれない。どこぞの怪盗の三世一味のポン刀使いも、こんにゃくは斬れないって言ってたし。
無影脚でゴーレムモドキの正面に躍りかかり、奴の胴体に右掌を押し付け――こんにゃくとは違うし、寒天質とも違う、不思議な感触だ――
「張ッ!!」
その掌底に練気を流し込む!
いくら衝撃吸収能力に優れようと、いくら刃が滑りやすい体質だろうと、いくら魔法耐性が高かろうと、本体の"核"を破壊してしまえば一撃で死ぬ。
人間で言うなら心臓や脳を破壊するようなもの――ほぼ即死だが、アリスの場合は殺しても復活する恐れがあるので、肉体と各臓器をズタズタに破壊してから心臓を引き摺り出して物理的に潰すまでを目視で確認したかったから。
まぁともかく、核を破壊されたこいつがどうなるかは分から……、……ん!?
練気を流し込み、核を破壊されたはずのゴーレムモドキは、僅かに震えただけで、何も起きなかった……
マ
ジ
で
?
10
あなたにおすすめの小説
異世界で美少女『攻略』スキルでハーレム目指します。嫁のために命懸けてたらいつの間にか最強に!?雷撃魔法と聖剣で俺TUEEEもできて最高です。
真心糸
ファンタジー
☆カクヨムにて、200万PV、ブクマ6500達成!☆
【あらすじ】
どこにでもいるサラリーマンの主人公は、突如光り出した自宅のPCから異世界に転生することになる。
神様は言った。
「あなたはこれから別の世界に転生します。キャラクター設定を行ってください」
現世になんの未練もない主人公は、その状況をすんなり受け入れ、神様らしき人物の指示に従うことにした。
神様曰く、好きな外見を設定して、有効なポイントの範囲内でチートスキルを授けてくれるとのことだ。
それはいい。じゃあ、理想のイケメンになって、美少女ハーレムが作れるようなスキルを取得しよう。
あと、できれば俺TUEEEもしたいなぁ。
そう考えた主人公は、欲望のままにキャラ設定を行った。
そして彼は、剣と魔法がある異世界に「ライ・ミカヅチ」として転生することになる。
ライが取得したチートスキルのうち、最も興味深いのは『攻略』というスキルだ。
この攻略スキルは、好みの美少女を全世界から検索できるのはもちろんのこと、その子の好感度が上がるようなイベントを予見してアドバイスまでしてくれるという優れモノらしい。
さっそく攻略スキルを使ってみると、前世では見たことないような美少女に出会うことができ、このタイミングでこんなセリフを囁くと好感度が上がるよ、なんてアドバイスまでしてくれた。
そして、その通りに行動すると、めちゃくちゃモテたのだ。
チートスキルの効果を実感したライは、冒険者となって俺TUEEEを楽しみながら、理想のハーレムを作ることを人生の目標に決める。
しかし、出会う美少女たちは皆、なにかしらの逆境に苦しんでいて、ライはそんな彼女たちに全力で救いの手を差し伸べる。
もちろん、攻略スキルを使って。
もちろん、救ったあとはハーレムに入ってもらう。
下心全開なのに、正義感があって、熱い心を持つ男ライ・ミカヅチ。
これは、そんな主人公が、異世界を全力で生き抜き、たくさんの美少女を助ける物語。
【他サイトでの掲載状況】
本作は、カクヨム様、小説家になろう様でも掲載しています。
最弱無双は【スキルを創るスキル】だった⁈~レベルを犠牲に【スキルクリエイター】起動!!レベルが低くて使えないってどういうこと⁈~
華音 楓
ファンタジー
『ハロ~~~~~~~~!!地球の諸君!!僕は~~~~~~~~~~!!神…………デス!!』
たったこの一言から、すべてが始まった。
ある日突然、自称神の手によって世界に配られたスキルという名の才能。
そして自称神は、さらにダンジョンという名の迷宮を世界各地に出現させた。
それを期に、世界各国で作物は不作が発生し、地下資源などが枯渇。
ついにはダンジョンから齎される資源に依存せざるを得ない状況となってしまったのだった。
スキルとは祝福か、呪いか……
ダンジョン探索に命を懸ける人々の物語が今始まる!!
主人公【中村 剣斗】はそんな大災害に巻き込まれた一人であった。
ダンジョンはケントが勤めていた会社を飲み込み、その日のうちに無職となってしまう。
ケントは就職を諦め、【探索者】と呼ばれるダンジョンの資源回収を生業とする職業に就くことを決心する。
しかしケントに授けられたスキルは、【スキルクリエイター】という謎のスキル。
一応戦えはするものの、戦闘では役に立たづ、ついには訓練の際に組んだパーティーからも追い出されてしまう。
途方に暮れるケントは一人でも【探索者】としてやっていくことにした。
その後明かされる【スキルクリエイター】の秘密。
そして、世界存亡の危機。
全てがケントへと帰結するとき、物語が動き出した……
※登場する人物・団体・名称はすべて現実世界とは全く関係がありません。この物語はフィクションでありファンタジーです。
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。
久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。
事故は、予想外に起こる。
そして、異世界転移? 転生も。
気がつけば、見たことのない森。
「おーい」
と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。
その時どう行動するのか。
また、その先は……。
初期は、サバイバル。
その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。
有名になって、王都へ。
日本人の常識で突き進む。
そんな感じで、進みます。
ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。
異世界側では、少し非常識かもしれない。
面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。
神様、ちょっとチートがすぎませんか?
ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】
未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。
本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!
おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!
僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。
しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。
自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。
へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/
---------------
※カクヨムとなろうにも投稿しています
魔道具頼みの異世界でモブ転生したのだがチート魔法がハンパない!~できればスローライフを楽しみたいんだけど周りがほっといてくれません!~
トモモト ヨシユキ
ファンタジー
10才の誕生日に女神に与えられた本。
それは、最強の魔道具だった。
魔道具頼みの異世界で『魔法』を武器に成り上がっていく!
すべては、憧れのスローライフのために!
エブリスタにも掲載しています。
異世界に転生した俺は英雄の身体強化魔法を使って無双する。~無詠唱の身体強化魔法と無詠唱のマジックドレインは異世界最強~
北条氏成
ファンタジー
宮本 英二(みやもと えいじ)高校生3年生。
実家は江戸時代から続く剣道の道場をしている。そこの次男に生まれ、優秀な兄に道場の跡取りを任せて英二は剣術、槍術、柔道、空手など様々な武道をやってきた。
そんなある日、トラックに轢かれて死んだ英二は異世界へと転生させられる。
グランベルン王国のエイデル公爵の長男として生まれた英二はリオン・エイデルとして生きる事に・・・
しかし、リオンは貴族でありながらまさかの魔力が200しかなかった。貴族であれば魔力が1000はあるのが普通の世界でリオンは初期魔法すら使えないレベル。だが、リオンには神話で邪悪なドラゴンを倒した魔剣士リュウジと同じ身体強化魔法を持っていたのだ。
これは魔法が殆ど使えない代わりに、最強の英雄の魔法である身体強化魔法を使いながら無双する物語りである。
クラス転移して授かった外れスキルの『無能』が理由で召喚国から奈落ダンジョンへ追放されたが、実は無能は最強のチートスキルでした
コレゼン
ファンタジー
小日向 悠(コヒナタ ユウ)は、クラスメイトと一緒に異世界召喚に巻き込まれる。
クラスメイトの幾人かは勇者に剣聖、賢者に聖女というレアスキルを授かるが一方、ユウが授かったのはなんと外れスキルの無能だった。
召喚国の責任者の女性は、役立たずで戦力外のユウを奈落というダンジョンへゴミとして廃棄処分すると告げる。
理不尽に奈落へと追放したクラスメイトと召喚者たちに対して、ユウは復讐を誓う。
ユウは奈落で無能というスキルが実は『すべてを無にする』、最強のチートスキルだということを知り、奈落の規格外の魔物たちを無能によって倒し、規格外の強さを身につけていく。
これは、理不尽に追放された青年が最強のチートスキルを手に入れて、復讐を果たし、世界と己を救う物語である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
