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第36話 かつてのようにならないためにも

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 小学生の頃の思い出が鮮明によみがえってくるかのようだった。
 あの司条遥の悪魔の微笑みが俺にすべてを思い出させたのだ。

 だがこのままではいけない。なんとかしなければ。
 じゃないと、俺はまた奴に弄ばれる事になってしまう!

「彼方っち、本当に大丈夫なの?」
「……正直、立ち直れる自信がない」
「魔王彼方がこんなに打ちのめされるなんて……」
「さっきの剣幕、すごかった。彼方、一体何があったの?」

 救いはダンジョン部のみんながいる事か。
 崩れ落ちた俺の肩をみんなして優しく撫でてくれている。
 これが無かったら俺は無条件で奴に降伏していたかもしれない。

 そんなのは嫌だとわかっていても、わからさせられてしまっているんだ。
 奴の執念はそんじょそこらの奴と二つ三つも格違いだから。

「こないだ教えたろ、俺を貶めた女子がいたって。それが司条遥だ」
「「「えっ!?」」」
「俺、昔あいつと同じクラスだった事があるんだ。地元の小学校で一緒だったんだよ」
「ええーーーっ!? 司条遥ってこの近くに住んでたのー!?」
「あぁ~なんか聞いた事あるぅ。噂だと司条家って子どもの頃から知見を伸ばすために、小さい時は敢えてゆかりの無い一般の学校に入学させるんだってさぁ。それが彼方っちの地元の小学校だったって訳かぁ」
「まったくもって迷惑な話だ。おかげで俺はあいつに随分と煮え湯を飲まされてね、中学卒業まで先生達にも無視されるくらい街単位での信用を叩き潰されたんだ」
「うっわァ~~~……」
「司条遥ってそんな事する人だったんだ。前までかっこいーって思ってたけど、幻滅しちゃうなー」
「そうね、イジメはよくないわ」
「もうイジメってレベルじゃないよ。支えが無いと生きるのが辛くなるくらいだし」

 でもこうして話をしてくれたおかげで少しだけ心が軽くなった。
 あらためて、この部に入って良かったと思う。
 まぁそのせいで奴に絡まれてしまったとも言うけれど。

 それでも心配してくれるなら、俺はそんなつくし達と仲間であり続けたい。
 奴の下に行くなんてまっぴらごめんだ。

「ならさぁ彼方っち?」
「ん、なんです?」
「いっそのこと、あーしらも徹底的にやっちゃうってどーよ?」
「徹底的にって……司条遥と戦うって事ですかね?」
「いいねーそれ! 嫌な奴に従うくらいならドッパァーンってやっちゃおうよ!」
「ウフフフフフ、面白くなってきたわね……!」
「みんな……」

 まさかみんながここまでやる気になってくれているなんて。
 それなら、俺が引き下がっちゃ面目ないよな。

 ――よしッ!

「わかった。俺、明日徹底的にあの女と戦いますよ。絶対に負けない。俺は宝春学園ダンジョン部の部員であり続けたいですから!」
「ひゅーひゅー! 言うねーかっこいーっ!」
「それでこそ彼方っちー! 燃える展開きたって感じィ?」
「ククク、魔王彼方の本領発揮よぉ!」

 こうなったらもうトコトンやってやる。
 たとえ全力を出してでも司条遥のチームを越えてやるぞ!

 もう小学生の頃とは違うと証明してみせるッ!!

「なら俺、遠慮なく自分のすべてを出し切るつもりで行きます。もう体裁なんて構ってられませんから」
「おほっ!? もしかして彼方の全力また見れちゃうー!?」
「ああ、軒下魔宮で見せたくらいの実力を出さないと奴には勝てないと思うから」
「だねぇ。相手は日本最強のプレイヤーだから手加減は無しでいこぉ!」
「プクク、まぁ私達はほんとおんぶで成り上がりだから彼方についてくしかないんだけど」
「それは言わなーい! あーしらはあーしらでやれる事やってポイントかせごぉ!」
「「おおー!」」

 そう、もう加減なんていらないんだ。
 たとえそれで俺の実力がメディアにまた露出する事になろうとも。
 日本ナンバーワンに評判でも勝ちたいなら、誰もが見た事のない世界をまた見せるしかない。

 そのための力が今の俺にはあるのだから。

「そうと決まったら軒下を一往復してきましょう! 少しでも強くなるために!」
「え!?」
「あ、えぇーっと、それはちょっときついっかなぁ~?」
「の、軒下……ぴぇ……」
「彼方彼方! きっとカラオケでテンション上げの方がぜぇーったい効率いいよ!」
「え? そ、そうか! じゃあカラオケでいいっす! いきましょう!」
「「「おおーっ!」」」

 理屈はよくわからないけど強くなれるならそれでもかまわない。
 どうせ軒下に通ったって気分程度にしか強くならないし。
 だったら楽しく気分よく強くなりたいよな!

 カラオケ行った事無いけど! そもそも何する所かもわからないけど!

 こうして俺達はカラオケで英気を養い、翌日に備える事にした。
 歌う所だと知った時はショックを受けたけど、ハイテンションな三人が見れて目の保養になったから結果的には良かったな。
 これならまたにでも行ってみたい。レパートリー皆無だけど。



 ――そして翌日。



「それじゃ行ってくるよ」

 いつもより早く起き、早めに軒下を越える。
 それでいつものように付き合ってくれたコンに挨拶をして踵を返す。
 みんなが待っているであろう学校へと向かうために。

 今日はとても気分がいい。
 昨日ずいぶんとカラオケで盛り上がったからだろうか。
 あの時の余韻が今でも心に残って、俺の中で爆音になって響いているんだ。

 この昂揚感なら、あの司条遥にも気押されない気がする。

『まって、彼方』
「えっ?」

 でもそんな昂揚感に浸っていたら、コンが足元に歩み寄ってくる。
 それでもって小さな足でよいしょよいしょとよじ登り、俺の肩に乗っかってきた。

『今回はボクも行く』
「ええっ!? だ、だけどいいのか!?」
『ウン。話を聞いてボクも行きたくなったんだ。あのとき嫌な臭いをしてた奴、懲らしめるんでしょ? だったらきっとボクも役に立つ』
「……わかった。ありがとう、コン」
 
 まさかお前まで協力してくれるなんて。
 お前もあの時、司条遥の事すごく嫌っていたのに。
 ……ありがとう、誰よりも心強いよ。

「よし、じゃあ行こうか!」
『おっけー!』

 頼もしい仲間が増えたおかげで今日はもう負ける気がしない。
 待っていろよ司条遥、あの時からの屈辱は必ずここで返してやる!

「でもお前、本当はつくしに逢いたいだけなんだろ?」
『へへ~バレた? ボクあのおっぱいだいすきー!』

 絶対に勝つんだ。俺の人生を奪わせないためにも。
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