実家が先行実装ダンジョンだった俺、同級生の女子に誘われたので今度は正式実装版で無双をやってみた。え、配信された攻略動画がバズってるって!?

日奈 うさぎ

文字の大きさ
57 / 126

第57話 ついに勘当されましたわ(遥視点)

しおりを挟む
「司条遥さぁん、いるんでしょお!? 家賃滞納しないでくださいよぉ!」

 司条家を追い出されてから一ヵ月半ほど。
 やっとの事で新居を見つけて落ち着いていたというのに。

 くっ、六本木の賃貸マンションでは一ヵ月住みが限度ですって!?
 明らかにおかしいですわ。一千万円あったはずがもう残りたった五万円!?
 たしかにお家賃は月々百万とは言われましたが。

 高級家具の数々を揃え、毎日の食事は出張シェフの最上級料理。
 いつも通りの生活を嗜んでいたらあっという間にお金が無くなってしまいました。

 おかしい。
 明らかに足りませんわ。

「この物件は滞納禁止って契約時に伝えましたよねぇ!? 出てきてくださいよぉ!」

 わたくしはあれからずっと委員会からの参戦オファーを待っていたのですが。
 しかし一向に連絡が来る気配が無い。

 それはきっと最重要攻略案件のために機会をとっておいてくれているのでしょうが、それでは稼ぐ事ができません。
 せっかくダンジョン攻略を専業化する事に決めましたのに。

 経営学などはこれから学ぶ予定でした。
 ですがその機会を得る前に家から追い出された以上、わたくしに残されたのはもはやダンジョン攻略だけ。
 だからこそわたくしの実力をどこでも発揮できるよう待っていたのですけど。

「出てこないといい加減警察呼びますよぉ!?」
「仕方ありませんね、ひとまず事情を説明する事にしましょうか」

 ええい、わたくしが感傷に浸っているというのになんて無粋な。
 仕方ないのでさっさとここから立ち去って頂きましょう。

 そう、わたくしは司条遥!
 大財閥司条グループをまとめる司条家の三女にしてダンジョン界の女王なのですから!




 
「マンションを追い出されてしまいましたわ。解せません」

 なんという事でしょう。
 いくら説明してもあの大家は言う事を聞いてくれませんでした。
 それどころか今月分の不足家賃と違約金として家具をすべて没収されるとは。
 なんという悪徳大家……あとで警察に垂れ込むとしましょう。

 さて、残金はあと五万円。
 これでは今日の食費さえまかなえませんわ。

 ああ、そうも思うとさっそく空腹感が。
 しかしこの雑多な場所では高級レストランもなさそうですわね。
 それどころか庶民だらけでもう息が詰まりそう。

 それにしても、どうしてお父さまはたった一千万だけを渡したのでしょうか?
 あんなはした金、一~二ヵ月で使い切ってしまうでしょうに。

 あっ、そうですわ!
 きっとこれは間違いなのです。そうに違いありませんわ。
 本当は一億円ほど入れておく予定が、桁を一つ間違えたのでしょう。
 ふふっ、お父さまったら意外な所で抜けておりますわね!

 ではさっそく電話をかけてみるとしましょうか。

『――は、遥か?』
「はい、そうですわお父さま」
『そ、そうかぁ~……オホン、元気そうでなによりだよ』

 ああ、お父さまの声は相変わらず落ち着きますね。
 きっと今まで心配してくださったのでしょう、声が僅かに震えておりますわ。
 昔からわたくしの事を色々と愛してくださったから……。

『電話をかけてきたという事は、もう軌道に乗ったとみていいかな? 君の事はあえて調べないようにしておいたのだが、その様子だと心配はなさそうだね』
「その事なのですが、実は手違いがありまして」
『手違い? それは一体何かな? 場合によっては手を貸す事も吝かではないよ』

 ああ、さすがお父さまですわ!
 やはり今でも愛してくれているのですね。手を差し伸べてくれるだなんて。

「ええ、実は最初の支度金が一千万円しか入っておりませんでしたの」
『……え?』
「おそらくは一億を振り込む所を一桁間違えたのかと。ですので残金をすぐに補填して頂きたいのです」

 ふう、これで一安心ですわ。
 ではさっそくさっきのマンションに戻って新居を取り戻す事にしましょう。
 あそここそわたくしが厳選した上でもっとも相応しい場所なのですから。

『遥、もしかして……い、一千万円をもう使い切ったのかい?』
「はい。あっという間の事でしたわね」
『投資とか起業資金にしたのではなく?』
「えぇ、ダンジョン委員会からの連絡を待っていたので、生活費で」
『生活費……!? いっせんまんを、いっかげつの、せいかつひ!?』

 あれ? おかしいですわね。
 お父さまが今までに聞いた事もない素っ頓狂な声を出しておりますわ。
 そんなに驚くべき事なのでしょうか?

『……遥、私はもしかしたら君を甘やかしすぎたのかもしれない』
「え?」
『こんな事になるとわかっていたら、君を最初から人形のごとく家に置き続ける方がずっと幸せだろうと判断していただろうね』
「な、何を言って……」
『でももう、私にできる事は無いよ……君はもっと世間を知らなければならない』
「え、え!?」

 どういう事ですの!?
 この流れは一体!?
 補填は!? 手助けは!?

『さようならだ遥。もう私や司条グループに頼る事は諦めたまえ』
「ちょ、ちょっと待ってお父さま!? お父さまあ!?」

 あ、電話が切れた……。

 かけ直してもダメですわ、電話が通じなくなってしまった。
 そんな、そんな事って……。

 わたくし、お父さまにも見捨てられた……?

 あ、ありえませんわ。
 あれほど愛してくれたお父さまがわたくしを見捨てるなんて。
 それほどまでに幻滅する事をしてしまったというの?

 わたくしが、一体何を!?

 わからない、まったく見当もつかない。
 どうしてなの、誰か、誰か教えてくださいませ……!

「あれ、ひょっとして司条遥じゃね?」
「本当だ、本物じゃねーか!」

 ……なんですの? チャラチャラした男が二人こっちを見ている?
 まったく、人が悲観的になっている時にデリカシーの無い。
 庶民というものは無粋にも程がありますわね!

「なーお前、本当に司条遥?」
「そうですが何か?」
「ははっ、マジだ! あの司条遥がコンビニ前で座ってやがる!」
「ざまぁねぇ~~~! ギャハハハ!」

 なんて下品な笑い方。
 こんなのに絡まれるなんて最低ですわ。
 ああ、こんなのはもう魔物とも大差ありませんね。討伐してやりたいくらいです。

「ガッコやめたのは聞いてっけどよ、まさか本当に家出したのかよ!?」
「噂じゃ勘当されたとかって話だぜ?」

 くっ、その通りだから言い返せない。
 なんて事なの、噂っていうのは数秒単位で広まるのかしら!?
 たった今勘当されたばかりですのに!

「しっかしほんとザマァねぇな。ダンジョンにも呼ばれなくなったらこんなもんか」
「でもいいよなぁ、ダンジョン委員会に嫌われてもよぉ。いざとなったらパパァ~とママァ~が助けてくれるんだろぉ?」
「えっ……? わたくしがダンジョン委員会に嫌われてる……?」
「おっ、コイツ何も知らねーでやんの」

 な、なんですの、この男達!?
 彼等が一体何を知っている!?
 わたくしが知らぬ内に一体どういう事になっているというの!?

「お前はもうダンジョン攻略に呼ばれねーんだよ!」
「つかあんだけ庶民煽っといてよく人の前に顔出せると思ってんな。なぁ家無し上級国民さんよぉ!」
「なっ!!!??」

 え、嘘、それは一体どういう事ですの?
 わたくしはもう、ダンジョンに呼ばれない!?

 わたくしの唯一の長所がもう活かせない、ですって?
 何かの冗談、ですわよね……!?

「まぁでも顔は可愛いし? 体を売れば生きる事は簡単そうだよな」
「なんなら今日俺んち来ない? 五万で一晩中かわいがってやんよ。ははは!」
「馬鹿に……馬鹿にするなあっ! わたくしは司条はる――おぶっ!?」

 うっ!? 顔を掴まれた!?
 この男達、女に対してなんて容赦の無い!?

「あんま人なめんじゃねぇぞテメェ。お前を怨んでる奴なんかごまんといんだ。この場で殴ってやったって誰もかばいやしねぇぞ!?」
「ひ、ひい!?」
「そうだぜぇ? お前の事を知らない奴なんていないんだよ。そしてお前がやらかした事もな」
「あ、ああ……!?」

 ち、違う、この男達はわたくしを女として見ていない。
 まるで汚物をみるような眼で見下してきている!?

 あの黒い魔物と、同じように……!?

「ひ、ひいいい!? や、やめて、やめてえええ!?」
「お? なんだこいつ、勝手にビビリやがった」
「引っぱたいて黙らせればいいんじゃね?」
「いやああああ!!!」

 怖い、怖い、怖い!
 どうして、怖くて顔が上げられない!
 この男達が怖くて、もう、何も、考えられない……!

「アンタ達! 店の前で騒ぎ起こさないでおくれよ! 客が寄り付かなくなるじゃないか!」
「えっ!? あぁ、すんませぇ~ん」
「ちっ、しらけた。もう行こうぜ」

 え……誰、ですの?
 わたくし、助けられた?

 あの老婆の方が助けて、くれた……?
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~

ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。 食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。 最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。 それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。 ※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。 カクヨムで先行投稿中!

俺得リターン!異世界から地球に戻っても魔法使えるし?アイテムボックスあるし?地球が大変な事になっても俺得なんですが!

くまの香
ファンタジー
鹿野香(かのかおる)男49歳未婚の派遣が、ある日突然仕事中に異世界へ飛ばされた。(←前作) 異世界でようやく平和な日常を掴んだが、今度は地球へ戻る事に。隕石落下で大混乱中の地球でも相変わらず呑気に頑張るおじさんの日常。「大丈夫、俺、ラッキーだから」

元皇子の寄り道だらけの逃避行 ~幽閉されたので国を捨てて辺境でゆっくりします~

下昴しん
ファンタジー
武力で領土を拡大するベギラス帝国に二人の皇子がいた。魔法研究に腐心する兄と、武力に優れ軍を指揮する弟。 二人の父である皇帝は、軍略会議を軽んじた兄のフェアを断罪する。 帝国は武力を求めていたのだ。 フェアに一方的に告げられた罪状は、敵前逃亡。皇帝の第一継承権を持つ皇子の座から一転して、罪人になってしまう。 帝都の片隅にある独房に幽閉されるフェア。 「ここから逃げて、田舎に籠るか」 給仕しか来ないような牢獄で、フェアは脱出を考えていた。 帝都においてフェアを超える魔法使いはいない。そのことを知っているのはごく限られた人物だけだった。 鍵をあけて牢を出ると、給仕に化けた義妹のマトビアが現れる。 「私も連れて行ってください、お兄様」 「いやだ」 止めるフェアに、強引なマトビア。 なんだかんだでベギラス帝国の元皇子と皇女の、ゆるすぎる逃亡劇が始まった──。 ※カクヨム様、小説家になろう様でも投稿中。

処理中です...