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第十三節「想い遠く 心の信 彼方へ放て」
~想いに応えよ、その名はクゥファーライデ~
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獅堂の思考はまだ底が見えない。
途端勇は剣を深く構え、仲間達へ向けて大声を張り上げた。
「皆!! 奴は何かしようとしている……気を抜くな!!」
勇の声に反応し、全員が警戒して獅堂の行動の一部始終に目を見張る。
そんな中、「ニタァ」と笑みを浮かべた獅堂が剣聖に向けて呟いた。
「剣聖さん……ちょっと僕の前に立って貰っていいかな?」
「あぁん? ったくしゃあねぇなぁ……」
大した事でなければ操る力に従ってくれるのだろう……剣聖は面倒臭そうな顔を浮かべつつも、言われたとおりに獅堂の前へと立つ。
たちまちその巨体で獅堂の体は完全に隠れ、彼の行動の一部始終が見えなくなった。
勇達に向けて仁王立つ剣聖……だがその瞬間、強張った顔が緩み……その瞳孔を大きく見開かせる。
ズグゥ……
その場に微かな鈍い音が上がるが、誰もそれが何なのか気付きはしない。
だが、目の前に映る剣聖の引きつっていく顔に……何か異様な事態が起こっている事を暗に悟らせた。
「カッ……ハ……!!」
口から漏れるのは声に成らない叫び。
そして突然膝を崩し、床へと突く。
そのまま巨体が前のめりにぐらりと揺れ……力の抜けた膝上が勢いのままに倒れ込んでいった。
その背後には……血の滴る魔剣を握り締めた獅堂の姿。
「け……剣聖さぁんッ!!」
「ガ……ウゥ……!?」
剣聖が「ビクンビクン」と痙攣しながら焦点の合わない目を震わせうつ伏せで倒れ込む。
その倒れた床からは血が流れ始め、「ブワァ……」と広がっていく。
それは獅堂の手による、背中から心臓への一突きであった。
「な、何故そんな事をするんだ獅堂ッ!?」
「何故だって……!? 決まってるじゃあないか……役に立たない駒は捨てるって言っただろうが!!」
「そんな事の為に……お前ーーーーーーッ!!」
「確かに僕の駒は二人になった……けどもう不安材料は無いんだよ……これであとは君達を焼けば……ねぇっ!!」
その時、獅堂が腰にぶら下げたもう一つの棒の様なものを取り出し命力を込める。
それはラパヨチャの笛とは違う、長方形で僅かに歪みを見せる細かい紋様の入った物体だった。
その物体を見た時……勇が目を見開き堪らず声を張り上げる。
「まさかっ……【ベリュム】かぁ!!」
「御名答だよ勇君!! 力は小さいが君達だけを焼く分なら充分だッ!! こっちは手練れの魔剣使い二人で防御出来る!!」
そして、まるでスイッチを押すかの様に……握り締めた魔剣の先端を親指で押し込む様を勇達へと堂々と見せつけた。
「押してやったぞォ!! もうお前達に逃げ場は無いんだよォ!!」
「クッ!?」
その頃、遥か空の彼方……衛星軌道上。
そこに存在する大きな筒状の魔剣ベリュム本体が轟音を上げて起動し、溜まっていた命力を収束させていく。
僅かな光が瞬き、収束された力を破壊の光へと換え……そして解き放った。
彼等の居る宮殿上空に一点の光が白く輝く。
そんな時、心輝は思い出したかの様に茶奈を呼ぶ。
「茶奈ちゃんっ、これを使うんだッ!!」
すると心輝が咄嗟に自分が背負っていた袋を強引に引き裂き、中身を取り出して茶奈へと手渡した。
それはカプロから預かった魔剣……銀色に輝く錫杖大の魔剣であった。
「こ、これは……!?」
その魔剣は全身が光沢の有る銀色に包まれ、煌びやかな細かい紋様を有し、ドゥルムエーヴェに付いた物よりも大きな命力珠を3つ程備え付けていた。
「そいつを使って何とかしてくれぇ!!」
「茶奈、出来るかっ!?」
「分かりました!! やってみます!!」
すると茶奈はその杖を右手に、ドゥルムエーヴェを左手に掴み、お互いの杖先がクロスする様に構える。
銀色の魔剣へ命力を込めた途端、3つの命力珠に光が灯り……「ジャキン」という音と共に柄内部に収納されていた延長柄が伸び、長大なドゥルムエーヴェと寸分違わぬ長い柄を持つ杖へと変形した。
「はああーーーーーー!!」
命力を二本の魔剣へと伝え、高々と頭上へ掲げると……彼女達の頭上に光が集まり始めた。
それは今までとは比に成らない程に濃く、強く、激しい……掴み取れそうな程にハッキリとした命力の塊。
「なっ、何をするつもりだっ!?」
獅堂の言葉にも目も暮れず、茶奈は自分の力を最大限に高め魔剣へと思いを込める。
「私はもう逃げない……そう決めたんです……だからお願い……」
茶奈の迸る命力が風を生み、銀色の魔剣に備えられた札が靡く。
「くぅふぁーらいで」と不慣れな文字で書かれた一枚の札が、彼女の目に留まる。
「お願い……力を貸して【クゥファーライデ】!! 皆を守る……力を!!」
その瞬間、彼女の頭上に超農密度の命力が円形の光の盾を形成した。
だが間髪入れず、光の柱が宮殿の天井を突き破り彼等へと降り注ぐ。
ドオォーーーーーーーン!!
ズオオオーーーーーーーッ!!
着弾と同時に強い衝撃と鳴音を周囲に撒き散らせ、獅堂がアージとレンネィに守られながらも怯む様を見せていた。
激しい突風が髪や衣服を激しく打ち付け巻き上げる……それ程までに強烈なエネルギーの奔流。
フェノーダラを焼いた破壊の光が勇達へと向けて激しく絶え間無く浴びせられる。
しかし、茶奈の形成した光の盾は……その光をしっかりと受け止めきっていた。
絶え間無い破壊光が盾へと当たると同時に八方へ弾け、盾に沿う様に周囲へとエネルギーを巻き散らし続ける。
「くっ……ううっ!!」
だが僅かに劣勢か……ベリュムの光に圧され、茶奈がその体を徐々に地面へと落としていく。
しかし途端、それを支える様に勇が、心輝が、瀬玲が、あずーが、ジョゾウが、それぞれの力を込めてクゥファーライデとドゥルムエーヴェを掴み持ち上げ始めた。
彼等の想いがそうさせ、彼女の体を支えたのだ。
その力は……想いを乗せて、魔剣へと伝っていく。
皆の力を借りて、二本の魔剣が激しく光り輝いた。
ベリュムの光を押し上げながら……茶奈は目一杯の力を込めてその力を解き放つ。
「うわああーーーーーーーーーーーッ!!」
その瞬間、光の盾から赤く優しい光が立ち上り始め……ベリュムの光をどんどんと空へ押し上げていった。
「な、なにぃ!? なんだそりゃああ!! ベリュムが押されていくだとォ!?」
茶奈から放たれた光は加速度的に増し、ベリュムの光を弾き飛ばしながら空へと伸びていく。
赤く輝く光がその速度を増しきった時……衛星軌道上に浮かぶベリュム本体を一本の光の槍が貫いた。
自らの力の逆流と、凄まじい力の奔流に負け……ベリュムは無音の宇宙空間で崩壊し……そして消滅したのだった。
途端勇は剣を深く構え、仲間達へ向けて大声を張り上げた。
「皆!! 奴は何かしようとしている……気を抜くな!!」
勇の声に反応し、全員が警戒して獅堂の行動の一部始終に目を見張る。
そんな中、「ニタァ」と笑みを浮かべた獅堂が剣聖に向けて呟いた。
「剣聖さん……ちょっと僕の前に立って貰っていいかな?」
「あぁん? ったくしゃあねぇなぁ……」
大した事でなければ操る力に従ってくれるのだろう……剣聖は面倒臭そうな顔を浮かべつつも、言われたとおりに獅堂の前へと立つ。
たちまちその巨体で獅堂の体は完全に隠れ、彼の行動の一部始終が見えなくなった。
勇達に向けて仁王立つ剣聖……だがその瞬間、強張った顔が緩み……その瞳孔を大きく見開かせる。
ズグゥ……
その場に微かな鈍い音が上がるが、誰もそれが何なのか気付きはしない。
だが、目の前に映る剣聖の引きつっていく顔に……何か異様な事態が起こっている事を暗に悟らせた。
「カッ……ハ……!!」
口から漏れるのは声に成らない叫び。
そして突然膝を崩し、床へと突く。
そのまま巨体が前のめりにぐらりと揺れ……力の抜けた膝上が勢いのままに倒れ込んでいった。
その背後には……血の滴る魔剣を握り締めた獅堂の姿。
「け……剣聖さぁんッ!!」
「ガ……ウゥ……!?」
剣聖が「ビクンビクン」と痙攣しながら焦点の合わない目を震わせうつ伏せで倒れ込む。
その倒れた床からは血が流れ始め、「ブワァ……」と広がっていく。
それは獅堂の手による、背中から心臓への一突きであった。
「な、何故そんな事をするんだ獅堂ッ!?」
「何故だって……!? 決まってるじゃあないか……役に立たない駒は捨てるって言っただろうが!!」
「そんな事の為に……お前ーーーーーーッ!!」
「確かに僕の駒は二人になった……けどもう不安材料は無いんだよ……これであとは君達を焼けば……ねぇっ!!」
その時、獅堂が腰にぶら下げたもう一つの棒の様なものを取り出し命力を込める。
それはラパヨチャの笛とは違う、長方形で僅かに歪みを見せる細かい紋様の入った物体だった。
その物体を見た時……勇が目を見開き堪らず声を張り上げる。
「まさかっ……【ベリュム】かぁ!!」
「御名答だよ勇君!! 力は小さいが君達だけを焼く分なら充分だッ!! こっちは手練れの魔剣使い二人で防御出来る!!」
そして、まるでスイッチを押すかの様に……握り締めた魔剣の先端を親指で押し込む様を勇達へと堂々と見せつけた。
「押してやったぞォ!! もうお前達に逃げ場は無いんだよォ!!」
「クッ!?」
その頃、遥か空の彼方……衛星軌道上。
そこに存在する大きな筒状の魔剣ベリュム本体が轟音を上げて起動し、溜まっていた命力を収束させていく。
僅かな光が瞬き、収束された力を破壊の光へと換え……そして解き放った。
彼等の居る宮殿上空に一点の光が白く輝く。
そんな時、心輝は思い出したかの様に茶奈を呼ぶ。
「茶奈ちゃんっ、これを使うんだッ!!」
すると心輝が咄嗟に自分が背負っていた袋を強引に引き裂き、中身を取り出して茶奈へと手渡した。
それはカプロから預かった魔剣……銀色に輝く錫杖大の魔剣であった。
「こ、これは……!?」
その魔剣は全身が光沢の有る銀色に包まれ、煌びやかな細かい紋様を有し、ドゥルムエーヴェに付いた物よりも大きな命力珠を3つ程備え付けていた。
「そいつを使って何とかしてくれぇ!!」
「茶奈、出来るかっ!?」
「分かりました!! やってみます!!」
すると茶奈はその杖を右手に、ドゥルムエーヴェを左手に掴み、お互いの杖先がクロスする様に構える。
銀色の魔剣へ命力を込めた途端、3つの命力珠に光が灯り……「ジャキン」という音と共に柄内部に収納されていた延長柄が伸び、長大なドゥルムエーヴェと寸分違わぬ長い柄を持つ杖へと変形した。
「はああーーーーーー!!」
命力を二本の魔剣へと伝え、高々と頭上へ掲げると……彼女達の頭上に光が集まり始めた。
それは今までとは比に成らない程に濃く、強く、激しい……掴み取れそうな程にハッキリとした命力の塊。
「なっ、何をするつもりだっ!?」
獅堂の言葉にも目も暮れず、茶奈は自分の力を最大限に高め魔剣へと思いを込める。
「私はもう逃げない……そう決めたんです……だからお願い……」
茶奈の迸る命力が風を生み、銀色の魔剣に備えられた札が靡く。
「くぅふぁーらいで」と不慣れな文字で書かれた一枚の札が、彼女の目に留まる。
「お願い……力を貸して【クゥファーライデ】!! 皆を守る……力を!!」
その瞬間、彼女の頭上に超農密度の命力が円形の光の盾を形成した。
だが間髪入れず、光の柱が宮殿の天井を突き破り彼等へと降り注ぐ。
ドオォーーーーーーーン!!
ズオオオーーーーーーーッ!!
着弾と同時に強い衝撃と鳴音を周囲に撒き散らせ、獅堂がアージとレンネィに守られながらも怯む様を見せていた。
激しい突風が髪や衣服を激しく打ち付け巻き上げる……それ程までに強烈なエネルギーの奔流。
フェノーダラを焼いた破壊の光が勇達へと向けて激しく絶え間無く浴びせられる。
しかし、茶奈の形成した光の盾は……その光をしっかりと受け止めきっていた。
絶え間無い破壊光が盾へと当たると同時に八方へ弾け、盾に沿う様に周囲へとエネルギーを巻き散らし続ける。
「くっ……ううっ!!」
だが僅かに劣勢か……ベリュムの光に圧され、茶奈がその体を徐々に地面へと落としていく。
しかし途端、それを支える様に勇が、心輝が、瀬玲が、あずーが、ジョゾウが、それぞれの力を込めてクゥファーライデとドゥルムエーヴェを掴み持ち上げ始めた。
彼等の想いがそうさせ、彼女の体を支えたのだ。
その力は……想いを乗せて、魔剣へと伝っていく。
皆の力を借りて、二本の魔剣が激しく光り輝いた。
ベリュムの光を押し上げながら……茶奈は目一杯の力を込めてその力を解き放つ。
「うわああーーーーーーーーーーーッ!!」
その瞬間、光の盾から赤く優しい光が立ち上り始め……ベリュムの光をどんどんと空へ押し上げていった。
「な、なにぃ!? なんだそりゃああ!! ベリュムが押されていくだとォ!?」
茶奈から放たれた光は加速度的に増し、ベリュムの光を弾き飛ばしながら空へと伸びていく。
赤く輝く光がその速度を増しきった時……衛星軌道上に浮かぶベリュム本体を一本の光の槍が貫いた。
自らの力の逆流と、凄まじい力の奔流に負け……ベリュムは無音の宇宙空間で崩壊し……そして消滅したのだった。
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