時き継幻想フララジカ

日奈 うさぎ

文字の大きさ
541 / 1,197
第二十節「心よ強く在れ 事実を乗り越え 麗龍招参」

~清掃清潔、歯ブラシとボモイ煮~

しおりを挟む
 翌日、早朝6時頃。



「うぅ……んん……あれ……ここは……」

 目を覚ました勇は不意に見慣れない景色を感じ周囲を見渡すが……ふと白い天井のヘコミが目に入り、そこが医務室である事を認識した。
 そのヘコミは、数日前に彼が茶奈に打ち上げられた際に出来たものだ。

「あぁ……俺、剣聖さんにやられたのか……ハハ」

 節々の痛みを感じながらも……十分な休みが取れたのか、すっきりとした感覚でベッドから上体を持ち上げると……大きく腕を伸ばして大きな欠伸を立てた。

「一日寝てたんだな……とりあえず歯でも磨いてくるかな……」

 独り言をぼそぼそと呟きながらベッドから降りると、脱がされ置かれていた靴を履き、ヨタヨタと歩きながら医務室の外へと足を踏み出した。

 向かった先は2階のフロア一角にある共同洗面所。
 そこに着くや真っ先に顔を覗かせると……カプロが先客として歯を磨く姿が目に映った。

「あ、カプロおはよう」
「あっ勇はんおはほうっしゅおはようっす

 歯ブラシを口に咥えながら挨拶を返すカプロに「ハハ」と笑って返すと、勇もその隣へ立つ。

「歯ブラシとかどこにあるんだ?」
「ここッス」

 カプロはそう問われると手馴れた様に屈みこんで洗面所の下に手を伸ばす。
 下の戸棚の扉を開けると、新品の歯ブラシが列挙し勇の目を惹いた。

 その内の一本を手に掴むと……そっと差し出す。
 『デンタロン』と描かれたパッケージのまま差し出された歯ブラシを受け取ると、蓋を剥がし中身を手に取り……足元にあったゴミ箱へとパッケージを捨てる。
 そしてカプロに差し出された歯磨き粉を使い、歯を磨き始めた。

「朝ご飯、ここで食べていくッスよね? 7時過ぎくらいから朝ご飯の時間ッスから食堂来るといいッスよ」
「ああ、わはっはわかった

 そう告げると、カプロは歯ブラシを持ったまま鏡の前でナルシスチックに軽く表情を作り……満足そうな表情を浮かべたまま立ち去っていった。

 先日夕食を食べていない勇の腹は既に栄養を求め静かに音を鳴らしていた。
 安居やすい 料理長の作る料理は食べた事は無いが格別だと聞いていたからこそ、その期待感は空腹感と掛け合わさり大きく膨れ上がる。



―――とはいえ……7時まではまだ時間あるしな……―――



 洗面所に置いてあった時計を覗き込むと……まだ時間は6:20分程度を指している。
 時間はまだまだある様だ。

 「どうするか」そう悩んでいると……ふと、洗面所のシンクの有様に気付く。

 掃除を怠っているのだろうか、僅かに霞む汚れ……水垢が溜まり清潔感を濁していた。



―――掃除してないのか……まぁ業者とか呼べないしな……―――



 ふと、脳裏に現総理である小嶋総理の「ガミガミ」と怒鳴る姿がデフォルメでよぎり……歯を磨くスピードが緩まる。



―――予算とか……あーだこーだと煩そうだしなぁ―――



 歯を磨き終えると……蛇口から流れる水を手ですくい口に含み口内をゆすぐ。
 何度か繰り返し、口の中がすっきりするや否や……「よしっ」と声が響いた。

「折角だし、掃除しておくか」

 そう呟くと、ふと目に入ったシンクの上の棚に置いてある大きめのブラシを手に取り、おもむろにシンクを磨き始めた。



ジャッジャッ!!



 見る見るうちに磨かれた洗面所のシンクから汚れが落ち、光を取り戻していく。



 気付けばシンクからは目立つような汚れが一切消え去り、元の清潔さを取り戻していた。

「出来たばっかだもんな、やっぱり清潔にしておかなきゃダメだよな」

 そっとブラシを棚に戻すと満足そうな顔を浮かべ、シンクの隅々までを改めて舐める様に眺める。
 元々マメに掃除を行う様な性格の勇だからこそであろう……その出来栄えにほんの少し達成感を感じていた。

「よし、これでいいな」

 腰に両手を充て、万遍な笑みを浮かべる。
 そんな彼の居る洗面所に、不意に声が飛び込んだ。

「おっ、勇殿起きたんだなァ」

 突然の声に振り向くと……そこに居るのはマヴォの姿があった。

「あぁマヴォさんおはようございます。 ゆっくり寝れたのか、体調はいい感じですよ」
「女神ちゃんが看病してくれてたもんなぁ、ばっちりだろうよぉ」

 そう言って「ニシシ」と笑うマヴォに勇も笑顔を見せた。

「後で茶奈に礼を言っとかないとな……」
「そうだぜぇ……彼女を大切にしてやってくれよなぁ」

 ノシノシと洗面所前に歩きながら呟くと、その毛むくじゃらの顔を映す鏡をじっと覗き込む。
 そしておもむろに……先程勇が掃除で使ったブラシを手に取ると、そこに共同で使う歯磨き粉を「ブジュウ」と大きくひり出して乗せた。

「あ……それ……」
「あ? なんだぁ?」

 だが既にそのブラシは彼の歯へと充てられ、ゴシゴシと歯を磨き始めていた。

 何の疑いも無く磨かれていくマヴォの口を見て、勇の顔が青ざめていく。

「あ、いや……何でもない、何でもないよ、うん……」
「ほうかぁ」

 勇は引きつった笑顔を作りながら振り返り、その場からぎこちない歩き方で立ち去っていった。



 言わない方が幸せである事もあるものだ。
 後であのブラシを洗浄しておこうと心に誓う勇であった。



―――



 7時にもなると、朝早くにも関わらず住み込み組が食堂へと姿を現し始める。
 特に食に対して執着のあるアンディとナターシャは、始まる前のつまみ食いを求めて30分も前から食堂にやってくる始末だ。



 だが、その日だけはいつもと雰囲気が異なっていた。



「はぁい、アルライ特製のゴダイモのボモイ煮よぉ。 メインの前にどうぞぉ」

 仰々しい名前を挙げて椅子に座る彼等の前に料理を陳列するのはニャラ。
 甘く香ばしい香りが彼等の鼻を突く。

「おほっ!! ボモイ煮ッス!! 食べるの久しぶりッスよぉ!!」
「折角だからぁ、アルライで採れた野菜を持ってきて料理してみたのぉ~」

 椅子から飛び上がり喜びを見せるカプロに、ニャラが嬉しそうな笑顔を見せる。

「めっちゃおいしいッスよ!! 皆も食べてみるッス!!」

 見た目は里芋と根野菜の煮つけ。
 見た目からであれば『こちら側』の料理とあまり変わらないような風貌の料理ではあるが、『あちら側』の者達であれば見慣れた事には変わりないのだろう。
 彼等は抵抗なくそれを口に運んでいた。

「甘いな」
「うむ、甘々に御座る」

 以前勇もアルライの里に訪問した際にこの料理は食べた事があった為、抵抗は無かった。

「これ、命力が尽きた体には結構いいんですよね」
「確かにな、グーヌーにも似た様な料理は存在するぞ。 今度振る舞おうか」
「あらぁ、それも楽しみねぇ~」
「おう、とっとと食わねぇなら俺が全部食っちまうぞ」

 その傍らの厨房でご飯をよそる安居料理長は、その様子をまじまじと見つめていた。

「甘い料理の方が好きなのかネェ……好きならそういう趣向に切り替えるけどもネェ」

 呟きが聞こえたのか、おもむろにアージの言葉が飛ぶ。

「安居殿よ、そんな事はないぞ……貴女の料理はいずれも舌を満足させるものだ。 これからも旨い唐揚げを頼む!!」
「そうかい!? それじゃあしっかり腕を振るわないとネェ!!」

 二人のやり取りを前に皆が笑みを浮かべ、そして続々と出される料理に手を伸ばす。
 そんなアットホームな風景がそこに在り、自然と笑みを誘う。



 そんな彼等の新しい一日がこうして始まりを告げた。


しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

【完結】魔法大戦 〜失われた古代魔法で無双する!〜

加瀬 一葉
ファンタジー
 王立魔法学校。高等部に編入してきた冴えない生徒ラフィト。エリートが集うこの学校で、辺境出身のラフィトは落ちこぼれの劣等生なのだが……。  実は彼は、失われたはずの古代魔法を操る一族の末裔。魔族の脅威が増す時代に、ラフィトは人類を救うことができるのか?  過去と現在が交錯する、魔法ファンタジー。

勇者パーティーに追放された支援術士、実はとんでもない回復能力を持っていた~極めて幅広い回復術を生かしてなんでも屋で成り上がる~

名無し
ファンタジー
 突如、幼馴染の【勇者】から追放処分を言い渡される【支援術士】のグレイス。確かになんでもできるが、中途半端で物足りないという理不尽な理由だった。  自分はパーティーの要として頑張ってきたから納得できないと食い下がるグレイスに対し、【勇者】はその代わりに【治癒術士】と【補助術士】を入れたのでもうお前は一切必要ないと宣言する。  もう一人の幼馴染である【魔術士】の少女を頼むと言い残し、グレイスはパーティーから立ち去ることに。  だが、グレイスの【支援術士】としての腕は【勇者】の想像を遥かに超えるものであり、ありとあらゆるものを回復する能力を秘めていた。  グレイスがその卓越した技術を生かし、【なんでも屋】で生計を立てて評判を高めていく一方、勇者パーティーはグレイスが去った影響で歯車が狂い始め、何をやっても上手くいかなくなる。  人脈を広げていったグレイスの周りにはいつしか賞賛する人々で溢れ、落ちぶれていく【勇者】とは対照的に地位や名声をどんどん高めていくのだった。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

S級冒険者の子どもが進む道

干支猫
ファンタジー
【12/26完結】 とある小さな村、元冒険者の両親の下に生まれた子、ヨハン。 父親譲りの剣の才能に母親譲りの魔法の才能は両親の想定の遥か上をいく。 そうして王都の冒険者学校に入学を決め、出会った仲間と様々な学生生活を送っていった。 その中で魔族の存在にエルフの歴史を知る。そして魔王の復活を聞いた。 魔王とはいったい? ※感想に盛大なネタバレがあるので閲覧の際はご注意ください。

異世界亜人熟女ハーレム製作者

†真・筋坊主 しんなるきんちゃん†
ファンタジー
異世界転生して亜人の熟女ハーレムを作る話です 【注意】この作品は全てフィクションであり実在、歴史上の人物、場所、概念とは異なります。

処理中です...