時き継幻想フララジカ

日奈 うさぎ

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第三十八節「反旗に誓いと祈りを 六崩恐襲 救世主達は今を願いて」

~怪異変化 莉那達 対 揚猜③~

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 命導機神グランディオンの放つ極光線砲GDONの威力は凄まじいものだった。
 砂漠地帯を覆う砂さえ消し飛ばし、深く埋もれていた地盤を露わとする程に。

 着弾地点にいたオーギュはもう姿形さえ残されていない。
 空が僅かに白む中で、薄っすらとした陽炎と蒸気が荒野を包んでいるだけで。

 その遥か上空にて、グランディオンが日の光を浴びて鋼の輝きを瞬かせる。
 胸を張って空に浮くその姿は、勝利を飾った者として相応しく勇ましい。

「地表に動体反応無し、どうやら片付いた様ですねぇ。 いやはや、なんという威力でしょうか」

「そうですね……戦いが終わった後の扱いがどうなるか、考えるだけでも恐ろしいです」

 しかし操縦者の二人としては余り喜ばしいとは思えていない様だ。
 本来は争いを無くそうとしている立場だからこそ。

 このグランディオンの威力は空の映像を通して世界に伝わった。
 そうなると例えこの戦いが終わっても、製造技術を巡ってまた争いが起きかねない。
 人間の世界とは得てしてそういうものだ。
 いつの世も利権や権益に囚われ、戦争が繰り返されてきたのだから。

 その羨望物を扱った二人の背負う責任は重い。
 だからこそきっと今頃考えている事だろう。
 戦後この機体を如何にして〝処分〟するか、という事を。
 重力に引かれ、ゆっくりと降りていく中で。

 そうして大地に降り立ち、朝日を仰ぐ。
 晴天が相まって、とても眩しく綺麗な朝焼けだ。
 世界の崩壊が間近であるなどとても思えない程に。

 抱えていた悩みもが晴れてしまいそうな程に。

「まぁ考えていても仕方ありません。 他の皆さんの所に向かいましょうか」

「ええ、そうですね。 アルクトゥーン、高速機動モードへ―――」
 


 だが、奇しくもその朝日が警戒心さえも晴らす事になろうとは。
 地面という、最も警戒すべき場所から目を逸らさせた事によって。



ドッバァァァーーーッッ!!!

 その時、突如としてグランディオンの足元の土が盛り上がる。
 そうして現れたのは、なんと巨大な岩の手。

 しかもあろう事か、その掌がグランディオンの左足首を掴み取ったではないか。

「―――うああーッ!?」

 余りの突然な出来事に、莉那達も驚くばかりだ。
 何せその間も無く、巨体が無理矢理宙へと浮かせられたのだから。

 オーギュはまだ生きていたのだ。
 今まさに大地から盛り上がる様にして現れ、グランディオンを持ち上げたのである。

 それに相当な力で掴んでいるのだろう。
 たちまち掴まれた銀の足首が鎧甲アーマーごとひしゃげ、潰されていく。
 メキメキと亀裂までをももたらしながら。
 
「いけないッ!! 【外膜爆脱バーストアウト】ォ!!」

 そんな中で福留が咄嗟に機体を操作し、とある機能を発動させる。
 するとその瞬間にも足首表皮が破裂を起こし、岩の手が弾かれる事に。
 グランディオンの持つ能力の一つ、外敵接触時の強制離脱機能だ。

 当然、機能的に自身へのダメージは無い。
 ただ代わりに、機体を大きく跳ね飛ばされたが。
 不安定な姿勢では爆破による勢いを殺せなかったらしい。
 
「莉那さん姿勢制御を!」
「やっています!!」

 しかしグランディオンは空も飛べる程の推力を誇っている。
 自慢の推進器バーニアでなら持ち直す事も充分可能だ。

ガガガガーーーッ!!

 故に大地を削りながらも辛うじて着地を果たす。
 それも敵に遅れを取らぬよう、その身を構えさせながら。

 とはいえ、左足首の損傷は甚大だ。
 亀裂は足首のみならず爪先にまで及び、鎧甲も砕け落ちていて。
 特に酷い損傷部からは火花が飛び散り、内部機構が露わに。
 よく見れば左足先は宙に浮き、身体の重心が右足に寄っている。

 既に機能不全へと陥ってるのだろう。

「現在ジェネレータ出力、二九%! ですが出力の一〇%を自己修復機能に回さなければ戦闘継続不可能です! 莉那さん、命力再充填と左足機能回復まで耐えられますか!?」

「わかりました、耐えてみせますッ!! 」

 問題はそれだけではない。
 極光線砲を撃ち放った事で、命力を大幅に消耗している。
 それも動作に支障をきたす程大きく。

 つまり、今のグランディオンに攻撃へ回す程の出力は残されていない。
 命力を一定まで充填するまで、防戦に徹する事しか出来ないのだ。

 もちろん、そんなリスクを知らなかった訳ではない。
 だからこそ、本当ならば今の一撃で決着を付けたかった。
 そう出来る様に追い詰め、確実に当てたつもりだったのだが。

 でも今、あろう事かオーギュがまた目の前に立っている。
 それも傷一つ付かぬ以前のままの姿で。
 この事実を前に、莉那も福留も惑いを隠せない。

 そう、以前のままなのだ。
 それも腕を斬り落とす前の。

「ぬぁ~っはっはあ!! 所詮愚かな肉の浅知恵よぉ!! 主様より頂いたこの身体が何で出来ているかわからんのとわぁ!! そう、岩だぁ!! つまり俺の身体は大地と同化可能!! あの一瞬で地面へと潜り込み、まんまと躱して見せたのだぁ!!(空中で喰らったらやばかったぁ~……)」
 
 遂にはオーギュが復活した腕をも振り上げて威勢を見せつける。
 聞いてもいない事を自慢げに語る中で。
 襲い掛かるどころか、夢中で手足を動かして示す姿がここに。
 まるで溢れんばかりの主への愛を語らんが如く、口も体も止まらない。
 
「しかも見よこの腕を!! 腹の本体でなければあの程度の傷、簡単に復元可能なぁのだぁ!! つまり俺は無敵!! 貴様の様な鉄屑とは訳が違うゥ!!」

 更にはさりげなく弱点まで晒すという。
 もしかしたらオーギュは脳も岩の様に硬いのかもしれない。

 当然、グランディオンの命力充填が時限式である事を知らないのだろう。
 ならむしろ語らせた方が莉那達にとっては好都合か。

「ぬぅあっははは!! 怖かろう、恐ろしかろう!! だが俺は容赦せんぞ? 主様に頂いたこの身体と並ぶなど、狼藉を働いた罪はとてもとてもおもぉい!!」

 ただ、どうやら全てが思い通りに行くとは限らないらしい。

 その語りが最高潮へと達した時、オーギュの身体に異変が起きる。
 突如上半身を前屈させたと思えば、背中が盛り上がり始め。
 とうとう二つの突起として、何かが飛び出したではないか。

 それは―――なんと腕。

 二本の更なる腕が背中から飛び出したのである。

「ッ!? そんなッ!?」

「これはどうやら、簡単に凌げそうにはありませんね……!」

 突如として現れた更なる脅威を前にすれば、抱く動揺も計り知れない。
 相手が如何に人知離れした存在〝準神〟であるかを思い知らされたのだから。

「なれば断罪してやろう!! 我が主であり神でもある御方に代わってェ!! それが貴様達愚かな肉共への、俺からの慈悲だぁ~~~!!!」

 その様な相手が遂に身構え、満を持して一歩を踏み出す。
 山を揺るがす程の地響きを再び巻き起こしながら。

 しかも速い。
 まるでゾウの様だった先程の速度よりもずっと。

 確かにグランディオンの機動力と比べれば、その速度はまだまだ遅い方だ。
 でも出力が格段に落ちた今の状態では、それさえも躱す事は困難を極めよう。
 片足が使えないなら尚更のこと。

「現在出力三七%!! 何とかして時間を稼いでくださいッ!!」

「くううッ!?」

 猪突猛進が如く迫るオーギュを前に、グランディオンがその身を大きく退かさせる。
 片足だけを使って跳ね飛ぶ事で。

 現状、空へ飛ぶという選択肢は無い。
 それこそ大きく出力が食われ、回復がままならないからこそ。
 地上で耐えて力を充填出来なければ、勝ち目は到底生まれない。

 そんなグランディオンへと、オーギュの容赦無き一撃が。
 巨腕が真っ直ぐと振り抜かれたのだ。

「くぅらえぇい!!」

 その一撃をグランディオンが辛うじて躱す。
 オーギュに回り込まんと、横へと跳ねるようにして。

 だが、それがいけなかった。

「甘いわァァァーーーッ!!」

 その途端に、巨大な影が莉那達の視界へと飛び込んできたのだ。
 オーギュの背という死角から現れた、あの新しい腕が。

 それがあろう事か、グランディオンの胸を激しく打つ。
 
ゴッギャァァァーーーーーーンッッ!!!

 たちまち火花と破片が飛び散って。
 巨体もが弾かれ、不自然に宙を舞う事となる。

「そ、そんなッ!?」

 莉那はその腕の長さをも加味していたはずだった。
 それを理解した上で、射程外に跳ね飛んだはずだったのに。
 にも拘らず当たってしまった。
 有り得ないと思った事だろう。

 しかし相手は人間の常識を超えた存在である。
 ならば有り得ない事さえも可能としよう。

 なんとオーギュの背腕が―――伸びていた。

 それも、まるでゴムを伸ばしたかの様に。
 そうして伸びた長さはゆうに身長以上。
 跳ね退けた相手を捉える事など造作も無かったのだ。

 しかもグランディオンの受けた損傷は想像を超えて深刻と言えよう。
 胸突起部がひしゃげて潰れ、もはや跡形も無い。
 それでも機体自体に影響は無い、のだが―――

「クッ、胸部砲塔損壊!! 【G・D・O・N】はもう使えませんッ!!」
「くうッ!! なら主考イニシェイト戦闘コンバットモードに移行!! 充填出力を別武装に回してッ!!」

 虎の子きりふだである極光線砲がまさかの大破という事実。
 この衝撃の事実が二人の残り少ない余裕をごっそりと削ぐ事となる。

 しかもオーギュの猛攻はこれだけに留まらない。

「ぬぁ~っはっはッ!! やはり左足を庇っているなァ!? 余程痛かったと見えるぞォ!!」

 頭の鈍いオーギュでもこればかりは見逃さなかった様だ。
 グランディオンが大きなハンデを抱えていた事を。

 故に巨足で大地を揺るがし、大きく転身させる。
 飛ばされた先で態勢を整える最中の相手へと向け、真っ直ぐと。
 その四本の腕を高々と構え上げながら。

「莉那さんッ!?」
「くぅぅッ!?」

 グランディオンがなけなしの出力を消耗し、再び体勢をを整える。
 だが大地を滑る間さえ与えられる間も無く、目前にオーギュの姿が。
 それも合わせた両拳を力一杯に振り上げて。

「そのまま頭を垂れて這いつくばり、主様に懺悔しろおッ!!」

 その両拳が間も無く振り下ろされる。
 凄まじいまでの重圧を誇るが故に、大気の裂け目が見える程の。

 しかしそこはさすがのグランディオンか。
 素早く身体を捻らせ、紙一重で一撃を躱して見せていて。
 その隙に反撃の拳を二発、打ち下ろされた腕へと見舞う。

「ふはははー!! やはり弱っている様だなァ!! 先程のとは段違いに弱いぞォ!!」

 けれど効かない。
 相手が堅くなった訳でもない。
 反撃に回す出力がまだ殆ど無いからだ。

 ただそれでも諦める事はない。
 牽制と化した拳を素早く引き込み、次々に振り下ろされる背腕をも素早く躱して。
 地駆ける稲妻の如き軌跡を刻み、そのポテンシャルを余す事無く見せつける。

 既に先の機動性を再現出来る程の出力が戻ってきていたのだ。
 その素早い動きを前に、威勢の良かったオーギュの顔が歪む。

 オーギュの弱点は紛れも無いその遅さだ。
 空気抵抗の影響をもろに受けているからこそ、どうしても動作の限界があるのだろう。
 その弱点を突くしか、今の劣勢を覆す手段は無い。

 飛び来る猛攻。
 唸る四つの巨腕。
 その度にグランディオンが躱す。
 髪一重で躱しては針の様に拳で刺し。
 時には腕を器用に扱い受け流して。

 しかし絶え間無い轟音が、朝日差す荒野を揺るがして止まらない。
 オーギュの攻勢がそれ程までに激しかったからこそ。

 グランディオンはもはやジリ貧だ。
 出力が回復しても、受けたダメージの回復が間に合わない。
 それに、幾ら機動力があろうと身の入った反撃さえままならないのだから。

「第一腕部、左右共に損傷率四〇%を突破!! これ以上腕で受け流すのは危険です!!」

「ぐっ!! こうなったら一時離脱します!!」

 故にこのまま応戦しても無意味だと判断したのだろう。
 たちまちその翼を拡げ、光を煌き瞬かせる。



 だが―――その行動は既に、オーギュの思惑の範疇だった。


 
「ぬぅははは~!! いつかそう逃げると思っていたぞ鉄屑ゥ!!」

 その瞬間、グランディオンの右脚に衝撃が走る。
 なんと、その爪先がオーギュの足によって踏み抑えられていたのだ。

 新たに現れたもう一本の左足によって。

「そ、そんなッ!? うああーーーッ!!?」
 
 途端、グランディオンの右脚が軋む。
 自慢の加速と、強引なまでの抑え込みが重なった事によって。

 しかもそれだけには留まらない。
 その左足膝へと、二本の左腕が間髪入れず叩き込まれる。
 膝、肘、拳と連結するかの様にして、力の限りに。

 なればもはや無事で済むはずがない。



バッギャァァァーーーーーーンッ!!!



 右足が砕け散る。
 足首、脛までをも巻き込んで。
 内部骨格までもが折れ飛ぶ程に激しく。

 オーギュは敢えて狙ったのだ。
 その体を支えていた右足を。
 自慢の機動力の根源を。

 しかも狙いはそこだけには留まらない。
 まるで覆い尽くさんばかりに拡げたもう一本の背腕が、左翼をも掴み取っていて。

 その間も無く、グランディオンの背部に衝撃が走る事となる。

 左翼もがへし折られたのである。
 空へと飛ぶ為に必要な、自慢の翼もが。

 たちまち翼を象っていた紫幻水晶華リフジェクトライトが砕け散り、無数の破片となって宙を舞う。
 陽によって輝く無数の銀破片をも交えながら。



 あろう事か、自慢の機動力を奪われてしまったグランディオン。
 そして残された力では相手を倒すには至らない。

 果たして、ここから逆転へと転じる事は出来るのだろうか―――


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