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第三十九節「神冀詩 命が生を識りて そして至る世界に感謝と祝福を」
~去り行く者達への手向けに~
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遂に世界を分断する時がやってきた。
世界各地にて感謝の祝いを終える中で。
きっと復興はもう地球人類側だけで平気だろう。
人手は足りなくなるが、それを補えるだけの知恵があるから。
お金というしがらみはあるが、それも問題は無い。
【オーヴィタル】という資金拠出元があるからこそ。
むしろ資材の方が足りないくらいだ。
ただ、【オーヴィタル】という基金は今回を以って消滅する事になるが。
でもそれでいいのだ。
古い人間が被害妄想で作り上げた災厄保険などもう必要は無い。
新しい世界の礎はこれからの人間が組み立てるべきである。
それが出来なければどちらにしろ、人は天士になどなれない。
新たな災厄が迫ろうとも退けられる知恵と勇気が無ければ。
だからこそ今日は笑顔で見送ろう。
双つ世界の友人達は、明日から自世界を復興する事になるだろうから。
「嫌だぁぁぁ~~~!! エグィオいっぢゃやだぁぁぁ~~~!!」
そんな笑顔で見送らなければならない場に叫びが迸る。
頭上に広がる青空をも貫いて。
皆納得した上でこうして地上、グラウンドにやって来たのだけれど。
たった一人だけどうにも我慢出来なくなったらしい。
ピューリーだ。
辛い余りに泣き喚き、更にはエクィオにしがみついて離れなくて。
年齢十〇歳ちょっとでしかないから、感情の制御はまだ難しいのだろう。
でもそんなピューリーの頭にエクィオがそっと手を添える。
本当の子供をあやす様に撫でながら。
「全く君は……前はあんなに暴れてたのに、今になってやっと子供らしくなるなんて。 これじゃこの世界に未練が出来ちゃうじゃあないか」
元々エクィオは面倒見がいいからまんざらでも無かったのだろう。
ただピューリーが普通の子供と違って扱い辛かっただけで。
きっと普通の子供と同じだったら、誰よりも愛情を注いでいたに違いない。
仲間としてだけではなく、一種の家族として。
「でもね、君にはもうアルバが居る。 本当の家族が居るんだ。 だからこれ以上強請っちゃいけないよ。 じゃないとどちらも離れてしまうから」
でももうそんな彼女を心配する必要は無い。
何故ならもう、ピューリーには親が出来たから。
あのアルバが彼女を養子にする事を決めたのだ。
幼いピューリーが救世同盟の罪を背負う必要は無い。
それに誰よりもアルバに懐いているから、彼女も共に自由となるべきだと。
だからピューリーはもう既にアメリカへと移り住んでいる。
まだ生活には慣れていないけれど、アルバが一緒ならきっと平気だろう。
故にそっとエクィオが押し離す。
笑顔を送るべき者に微笑みを向けながら。
「だからピューリー、約束だ。 もう僕を困らせないでおくれ。 もちろんアルバも。 誰しもが羨むくらいの淑女になってくれる事を祈っているから」
「うん、わがったよ……俺、頑張るがら。 だがら……オフリヴォア、エクィオ」
例え悲しくとも、今は笑わなければいけない。
もう二度と再会を果たせないかもしれない別れだから。
だから今度は二人が抱き合って想いを交わす。
本来あるべき別れの形で。
こうして二人は今、ここでやっと素直になれたのである。
本当は皆、これでお別れだなんて思いたくはない。
けど別れなければ何も始まらない。
互いの世界で生きて、そして発展させる為にも。
じゃないとまた今回の様な戦いが生まれかねないから。
そんな戦いを起こさない為に奔走した者が居る。
自らの役目を感じ、身を粉にして働いた者達が。
戦いではなく、交渉の場を設ける事によって。
しかしその者が今、別れを惜しむ。
自ら築き上げた絆を千切りたくなくて。
「アネット、今までありがとう。 お前のお陰で私はここまで成長し、進むべき道を歩む事が出来た。 その経験と思い出を次の時代の発展に生かしたいと思う」
それでも気持ちを圧し留め、立場なりの言葉で返す。
蒼い眼に涙を浮かばせ、身体を小刻みに奮わせながら。
これが精一杯なのだろう。
国連の代表の一人になったとはいえまだ子供で。
それに大人も子供も関係無いくらいに、別れの悲しみは重いから。
「リッダちゃあん……いいのよ、今くらいは素直になっても~。 私も寂しいわぁ、あれだけ技をキメられるのはリッダちゃんだけしかいないもの~」
「アネット……アネットー!! ―――ォォゴゥアァァッ!?」
ただその重みも間も無く痛みへと変わる事に。
またしてもアネットの締め技がリッダを潰した事によって。
緊張感の欠片も無い、容赦も無き卍固めが炸裂である。
体躯が違い過ぎるのによくもまぁ出来るものだ。
でも、そんな二人はどこか嬉しそう。
主にリッダが、白目を剥いて泡を吹く程に。
幾度と無くこんなやりとりがあったから、変な趣味に目覚めてしまったのだろうか。
周りが大きく離れる中で間も無く、二人が地面に寝そべりまた想いを交わす。
アネットがそっと目元に鯖缶を置く中で。
「たくさん持って来たから~、向こうで一杯食べてね~。 もうお腹を空かせてはダメよ~?」
「ああ、肝に銘じておこう……本当にありがとうな、アネット。 あとこれ食べていい?」
「まだダメよ~ステイよ~」
こんな奇妙な仲だけど、一応これでも信頼し合っている。
きっと誰しもが理解出来ないかもしれないけれど、どう思われても二人は親友だ。
出会った時から、今の今までずっと変わる事無く。
この二人の出会いが世界を変えた。
人間と魔者の絆を真に初めて築いた者同士が。
そんな二人が居たからここまで世界は安定出来たのだ。
それを最も知る二人だからこそ、別れを前に強い握手を交わす。
土に塗れて干からびようとも、今はそうせずにはいられない。
「移送物資はこれくらいでよろしいでしょうか?」
「平気であろう。 我等にまでここまでして頂き、誠にかたじけない」
人が集まるその端で、笹本がジョゾウと最後の確認を執り行っていた。
ジョゾウもまた来賓として招かれ、別れの挨拶を済ませた後だ。
おまけにお土産を貰えると言うのだから、至れり尽くせりでもはや感謝しか出ない。
その傍らには大量の荷物がコンテナや段ボール箱に包まれて積まれている。
いずれも元の世界に戻るついでに持っていく個人向けの現代物資だ。
中身は色々、主にインスタントの食料品が大半を占めていて。
他にも日用品やら家具やら自家発電機など、要望によって様々となっている。
それというのも―――
「所で、本当に持っていけるのでしょうか?」
『量は問題ありません。 〝これを所持しています〟という認識があれば何でも持っていけますから』
どうやら『あちら側』に帰る際、現代の物を持っていけるそうで。
という訳で戻るメンバー達の為にこうして大量の物資をかき集めたらしい。
当然この情報はもう世界に伝わっていて、各国でも同様に似た土産を用意している。
現代世界に馴染んだ者達が原始的な生活に戻るというギャップに苦しまない様に。
おかげで軽い食糧難にはなっているが、生産拠点は残っているので問題は無いだろう。
あと、個人資産を獲得した魔者などは自分達で買い集めたりもしているそうで。
富を得た者の中には高級車と給油車を持ち帰ろうとしている者までもが。
やはり活動的な者はやる事のスケールが違う。
もっとも、車を持ち帰った所で乗り回すのは不可能だろうけども。
これだけではない。
現代の生産技術や基礎科学などを記した書物をも同封しているという。
『あちら側』に戻った時、彼等が自らの手で世界を便利に出来る様にと。
一方で、宗教関連の書物移送は禁止された。
思想の植え付けは現代同様に戦争の火種となりかねないと判断したからだ。
これだけ渡せば当面は現代と似た生活が出来るだろう。
その当面の間に彼等が如何にして元の水準に戻れるか。
あるいは、今の水準に発展出来るか。
全ては戻った者達次第である。
その末に〝平和〟という言葉を創る事も。
ただ、その作り手の第一人者はと言えば―――どうにも膨れっ面だ。
頬にどんぐりを一杯に詰め込んだかの様にぷっくりと。
「全く、結局ピネが運び入れた魔剣は殆ど使われなかったのネ。 納得いかないのネ」
ピネである。
戦いの折に脱出した後、しっかり皆と合流を果たしていて。
その時の決意に従い、今でもその背に【グゥの日誌】を背負ったままだ。
勇もそれを知った上で彼女に託した。
〝きっとピネならこの日誌を受け継いでくれる〟と。
「皆さんの身体の合わなかったのですから仕方ありませんよ。 その代わり、あのコンテナは全て剣聖さんが持ち帰るという事ですので無駄にはならないハズです」
「ま、好きに使ってくれて構わないのネ。 ピネにはこれだけあれば充分なのネー」
とはいえ、もうモノ自体には興味無いらしい。
ただ単に使ってもらえなかった事が残念だっただけで。
その代わり今は跨ったモノに夢中な模様。
そんなピネが乗っているのは小さな小型バイクだった。
復帰後の生活の為にと、この二週間の間に作り上げた代物だ。
ただしどう見ても普通の代物ではないが。
何せ浮いている。
リフジェクター機能を発展させて生み出した反重力システムによって。
しかも燃料を使用することも無く、常時起動も可能だという
おまけに理論上は空をも飛べるともあって、現代人でさえ欲しくなる逸品と言えよう。
「一体いつの間にこんなの造られたんですか……」
「閃くまま夢中に造ってたらいつの間にか出来てたのネ。 全く、あの〝確信〟ってヤツはホント有り得ないくらい常識をブッ飛ばすモンなのネ……」
どうやらピネ自身もこのスクーターが造り上げられた事を未だ信じ切れていない様だ。
むしろその要因に目を向けている最中、と言った所か。
まだまだピネの探求は終わらない。
きっと世界が二つに別れようとも関係無いに違いない。
「所でピネさん……これ、もう一台くらい造れませんかねぇ? あるいは設計図など―――」
「造っても他の奴には渡さないのネ。 フクトーネのお願いでもこれだけは聞けないのネ」
「何だかこのやりとり、とても懐かしい気がしますねぇ。 えぇ」
そしてピネにはカプロにも負けないくらいの技術者としてのプライドがある。
産み出した力の格と相手の格を見比べ、相応か不相応かを見極める目が。
だからきっと魔剣を乱造した先人達と同じ過ちは繰り返さない。
正しい未来の為にその腕を奮ってくれる事だろう。
次代に継ぎ続ける【グゥの日誌】を託された者として。
こうして帰る者達への手向けも済んだ。
後は【創世の鍵】を操作し、世界を分断するだけ。
そんな最後の時を迎える中で、とうとうあの二人が向かい立つ。
勇と剣聖。
この長きに渡る戦いの始まりを紡いだ二人が、満を持して顔を合わせたのである。
世界各地にて感謝の祝いを終える中で。
きっと復興はもう地球人類側だけで平気だろう。
人手は足りなくなるが、それを補えるだけの知恵があるから。
お金というしがらみはあるが、それも問題は無い。
【オーヴィタル】という資金拠出元があるからこそ。
むしろ資材の方が足りないくらいだ。
ただ、【オーヴィタル】という基金は今回を以って消滅する事になるが。
でもそれでいいのだ。
古い人間が被害妄想で作り上げた災厄保険などもう必要は無い。
新しい世界の礎はこれからの人間が組み立てるべきである。
それが出来なければどちらにしろ、人は天士になどなれない。
新たな災厄が迫ろうとも退けられる知恵と勇気が無ければ。
だからこそ今日は笑顔で見送ろう。
双つ世界の友人達は、明日から自世界を復興する事になるだろうから。
「嫌だぁぁぁ~~~!! エグィオいっぢゃやだぁぁぁ~~~!!」
そんな笑顔で見送らなければならない場に叫びが迸る。
頭上に広がる青空をも貫いて。
皆納得した上でこうして地上、グラウンドにやって来たのだけれど。
たった一人だけどうにも我慢出来なくなったらしい。
ピューリーだ。
辛い余りに泣き喚き、更にはエクィオにしがみついて離れなくて。
年齢十〇歳ちょっとでしかないから、感情の制御はまだ難しいのだろう。
でもそんなピューリーの頭にエクィオがそっと手を添える。
本当の子供をあやす様に撫でながら。
「全く君は……前はあんなに暴れてたのに、今になってやっと子供らしくなるなんて。 これじゃこの世界に未練が出来ちゃうじゃあないか」
元々エクィオは面倒見がいいからまんざらでも無かったのだろう。
ただピューリーが普通の子供と違って扱い辛かっただけで。
きっと普通の子供と同じだったら、誰よりも愛情を注いでいたに違いない。
仲間としてだけではなく、一種の家族として。
「でもね、君にはもうアルバが居る。 本当の家族が居るんだ。 だからこれ以上強請っちゃいけないよ。 じゃないとどちらも離れてしまうから」
でももうそんな彼女を心配する必要は無い。
何故ならもう、ピューリーには親が出来たから。
あのアルバが彼女を養子にする事を決めたのだ。
幼いピューリーが救世同盟の罪を背負う必要は無い。
それに誰よりもアルバに懐いているから、彼女も共に自由となるべきだと。
だからピューリーはもう既にアメリカへと移り住んでいる。
まだ生活には慣れていないけれど、アルバが一緒ならきっと平気だろう。
故にそっとエクィオが押し離す。
笑顔を送るべき者に微笑みを向けながら。
「だからピューリー、約束だ。 もう僕を困らせないでおくれ。 もちろんアルバも。 誰しもが羨むくらいの淑女になってくれる事を祈っているから」
「うん、わがったよ……俺、頑張るがら。 だがら……オフリヴォア、エクィオ」
例え悲しくとも、今は笑わなければいけない。
もう二度と再会を果たせないかもしれない別れだから。
だから今度は二人が抱き合って想いを交わす。
本来あるべき別れの形で。
こうして二人は今、ここでやっと素直になれたのである。
本当は皆、これでお別れだなんて思いたくはない。
けど別れなければ何も始まらない。
互いの世界で生きて、そして発展させる為にも。
じゃないとまた今回の様な戦いが生まれかねないから。
そんな戦いを起こさない為に奔走した者が居る。
自らの役目を感じ、身を粉にして働いた者達が。
戦いではなく、交渉の場を設ける事によって。
しかしその者が今、別れを惜しむ。
自ら築き上げた絆を千切りたくなくて。
「アネット、今までありがとう。 お前のお陰で私はここまで成長し、進むべき道を歩む事が出来た。 その経験と思い出を次の時代の発展に生かしたいと思う」
それでも気持ちを圧し留め、立場なりの言葉で返す。
蒼い眼に涙を浮かばせ、身体を小刻みに奮わせながら。
これが精一杯なのだろう。
国連の代表の一人になったとはいえまだ子供で。
それに大人も子供も関係無いくらいに、別れの悲しみは重いから。
「リッダちゃあん……いいのよ、今くらいは素直になっても~。 私も寂しいわぁ、あれだけ技をキメられるのはリッダちゃんだけしかいないもの~」
「アネット……アネットー!! ―――ォォゴゥアァァッ!?」
ただその重みも間も無く痛みへと変わる事に。
またしてもアネットの締め技がリッダを潰した事によって。
緊張感の欠片も無い、容赦も無き卍固めが炸裂である。
体躯が違い過ぎるのによくもまぁ出来るものだ。
でも、そんな二人はどこか嬉しそう。
主にリッダが、白目を剥いて泡を吹く程に。
幾度と無くこんなやりとりがあったから、変な趣味に目覚めてしまったのだろうか。
周りが大きく離れる中で間も無く、二人が地面に寝そべりまた想いを交わす。
アネットがそっと目元に鯖缶を置く中で。
「たくさん持って来たから~、向こうで一杯食べてね~。 もうお腹を空かせてはダメよ~?」
「ああ、肝に銘じておこう……本当にありがとうな、アネット。 あとこれ食べていい?」
「まだダメよ~ステイよ~」
こんな奇妙な仲だけど、一応これでも信頼し合っている。
きっと誰しもが理解出来ないかもしれないけれど、どう思われても二人は親友だ。
出会った時から、今の今までずっと変わる事無く。
この二人の出会いが世界を変えた。
人間と魔者の絆を真に初めて築いた者同士が。
そんな二人が居たからここまで世界は安定出来たのだ。
それを最も知る二人だからこそ、別れを前に強い握手を交わす。
土に塗れて干からびようとも、今はそうせずにはいられない。
「移送物資はこれくらいでよろしいでしょうか?」
「平気であろう。 我等にまでここまでして頂き、誠にかたじけない」
人が集まるその端で、笹本がジョゾウと最後の確認を執り行っていた。
ジョゾウもまた来賓として招かれ、別れの挨拶を済ませた後だ。
おまけにお土産を貰えると言うのだから、至れり尽くせりでもはや感謝しか出ない。
その傍らには大量の荷物がコンテナや段ボール箱に包まれて積まれている。
いずれも元の世界に戻るついでに持っていく個人向けの現代物資だ。
中身は色々、主にインスタントの食料品が大半を占めていて。
他にも日用品やら家具やら自家発電機など、要望によって様々となっている。
それというのも―――
「所で、本当に持っていけるのでしょうか?」
『量は問題ありません。 〝これを所持しています〟という認識があれば何でも持っていけますから』
どうやら『あちら側』に帰る際、現代の物を持っていけるそうで。
という訳で戻るメンバー達の為にこうして大量の物資をかき集めたらしい。
当然この情報はもう世界に伝わっていて、各国でも同様に似た土産を用意している。
現代世界に馴染んだ者達が原始的な生活に戻るというギャップに苦しまない様に。
おかげで軽い食糧難にはなっているが、生産拠点は残っているので問題は無いだろう。
あと、個人資産を獲得した魔者などは自分達で買い集めたりもしているそうで。
富を得た者の中には高級車と給油車を持ち帰ろうとしている者までもが。
やはり活動的な者はやる事のスケールが違う。
もっとも、車を持ち帰った所で乗り回すのは不可能だろうけども。
これだけではない。
現代の生産技術や基礎科学などを記した書物をも同封しているという。
『あちら側』に戻った時、彼等が自らの手で世界を便利に出来る様にと。
一方で、宗教関連の書物移送は禁止された。
思想の植え付けは現代同様に戦争の火種となりかねないと判断したからだ。
これだけ渡せば当面は現代と似た生活が出来るだろう。
その当面の間に彼等が如何にして元の水準に戻れるか。
あるいは、今の水準に発展出来るか。
全ては戻った者達次第である。
その末に〝平和〟という言葉を創る事も。
ただ、その作り手の第一人者はと言えば―――どうにも膨れっ面だ。
頬にどんぐりを一杯に詰め込んだかの様にぷっくりと。
「全く、結局ピネが運び入れた魔剣は殆ど使われなかったのネ。 納得いかないのネ」
ピネである。
戦いの折に脱出した後、しっかり皆と合流を果たしていて。
その時の決意に従い、今でもその背に【グゥの日誌】を背負ったままだ。
勇もそれを知った上で彼女に託した。
〝きっとピネならこの日誌を受け継いでくれる〟と。
「皆さんの身体の合わなかったのですから仕方ありませんよ。 その代わり、あのコンテナは全て剣聖さんが持ち帰るという事ですので無駄にはならないハズです」
「ま、好きに使ってくれて構わないのネ。 ピネにはこれだけあれば充分なのネー」
とはいえ、もうモノ自体には興味無いらしい。
ただ単に使ってもらえなかった事が残念だっただけで。
その代わり今は跨ったモノに夢中な模様。
そんなピネが乗っているのは小さな小型バイクだった。
復帰後の生活の為にと、この二週間の間に作り上げた代物だ。
ただしどう見ても普通の代物ではないが。
何せ浮いている。
リフジェクター機能を発展させて生み出した反重力システムによって。
しかも燃料を使用することも無く、常時起動も可能だという
おまけに理論上は空をも飛べるともあって、現代人でさえ欲しくなる逸品と言えよう。
「一体いつの間にこんなの造られたんですか……」
「閃くまま夢中に造ってたらいつの間にか出来てたのネ。 全く、あの〝確信〟ってヤツはホント有り得ないくらい常識をブッ飛ばすモンなのネ……」
どうやらピネ自身もこのスクーターが造り上げられた事を未だ信じ切れていない様だ。
むしろその要因に目を向けている最中、と言った所か。
まだまだピネの探求は終わらない。
きっと世界が二つに別れようとも関係無いに違いない。
「所でピネさん……これ、もう一台くらい造れませんかねぇ? あるいは設計図など―――」
「造っても他の奴には渡さないのネ。 フクトーネのお願いでもこれだけは聞けないのネ」
「何だかこのやりとり、とても懐かしい気がしますねぇ。 えぇ」
そしてピネにはカプロにも負けないくらいの技術者としてのプライドがある。
産み出した力の格と相手の格を見比べ、相応か不相応かを見極める目が。
だからきっと魔剣を乱造した先人達と同じ過ちは繰り返さない。
正しい未来の為にその腕を奮ってくれる事だろう。
次代に継ぎ続ける【グゥの日誌】を託された者として。
こうして帰る者達への手向けも済んだ。
後は【創世の鍵】を操作し、世界を分断するだけ。
そんな最後の時を迎える中で、とうとうあの二人が向かい立つ。
勇と剣聖。
この長きに渡る戦いの始まりを紡いだ二人が、満を持して顔を合わせたのである。
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