輝操士は儚き虹色世界にX(ジクス)を刻む

日奈 うさぎ

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第一章

第2話 ハプニングは突然に

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 過去を振り切り、揚々と旅立った訳だけど。
 今、俺は野盗に囲まれて立っていた。

 ただ街道に沿って歩いていただけなのだが。
 一体どうしてこうなったのやら。

「へへ、大人しく出す物出した方が身のためだぜ?」
「おぉっとぉ、その身も差し出してもらう事になるがなぁ」

 察するに、こいつらは人さらいの類か。

 きっと幼少期の俺もこんな感じで誘拐されたのだろうな。
 お陰で両親の記憶も無し、良い思い出が一切無いときた。
 なら同様、従った所でロクな目に遭わないに違いない。

 それに父はこう言っていた。
蛮者無般ラオ・ウルーテ、賊には一切情け無用。食うに困ってとは言うが、そも思考が奪う事に傾倒する者ならば生きて徳も産むも無し〟と。

 心より同意する。
 元よりこんな奴等など居なくなっても誰も困るまい。

 であれば、こいつらに大人しく従う道理は無いという訳だ。

「悪いが俺は急いでいる。お前達に構っている暇は無いんだ」

「なぁにぃ!?」

「それでも邪魔をすると言うなら、押し通させてもらう……!」

「こいつ、やる気か!?」

 敵の数は十――いや、十二か。
 林の奥にクロスボウを構えた射手が二人見えるな。
 木上より角度を取っている辺り、抜け目は無いという事か。

 おまけに傍の奴等も装備が充実している。
 剣はまるで新品同様で手入れが行き届いていて。
 リーダーと思われる男に至っては板金鎧まで纏っているという。
 今どきの野盗はそれだけ儲かるのだろうか?

 これだけの人数、装備だ。
 どう見ても旅人を捕まえる為じゃない。

 ならばさしずめ、規模の集落を襲撃する為、か。

 となるとますます野放しにする訳にはいかないな。
 この先に進ませてしまえばあの村がどうなるかわからない。
 父の墓を守ってもらう為にも、ここは一肌脱がなければ。

 故に俺は一呼吸を深く行い、両拳を鳴らして低く構える。
 徹底抗戦だ。

 そんな戦意にようやく気付いたのか、野盗共が並びを整えていく。
 人数を生かして全周囲を囲う様にして。

「なら腕や足の一本は覚悟してもらおうかぁ!!」
「やっちまえッ!!」

 しかしどうやら身なりは伊達じゃないらしい。
 奴等もそれなりに戦い慣れている様だ。
 だからか、今の号令で三人が同時に飛び出していた。

 それも正面左右より二人、背後から一人。
 多対一で戦う際、最も効率良いとされる戦術だ。
 おまけに射手まで狙いを付けている。
 相手が並みの戦士ならこれを凌ぐのは至難の業だろう。

 だがその様な小手先など俺には通用しないがな。

 三人が同時に剣で斬り掛かってきたが問題は無い。
 まず一人目へ近寄り、攻撃を躱すついでに菱拳で側頭骨を粉砕。
 背後から二人が剣を奮うも、隙間を縫う様に飛び抜けては二人目へ足払いを。
 三人目の追撃が来るも跳ねて躱し、そのまま回し蹴りで首をへし折ってやった。

 更には短矢が飛んでくる――が、それを二指で捉えて。
 その射速のまま足元へ振り切り、矢尻で二人目の首を裂いてトドメを差す。

 これで三人同時に始末。なんて事は無い。
 父より一対多の戦術は死ぬほど仕込まれたからな。

「こいつ、強い!?」
「くッ!! 総員、主盾の陣形を取れェ!!」

 ――おいおい、こいつら本当に野盗か?
 陣形まで取るなど、随分と教養があるじゃないか。

 主盾の陣とは防御の型。
 盾を構えて固まり、近接攻撃を凌ぐ戦法だ。
 俺が格闘術の使い手と知っての判断なのだろう。

 ただ、その相手が俺となれば――無意味だな。
 
 そんな陣形を執っている間に、俺はもう空へと跳ねていた。
 青ざめた総顔を一望出来るくらいに高く。

「悪いが一網打尽にさせて貰うッ!! 【烈火波鞭バーヴィーップ】ッ!!」
「なあッ!?」
「ま、魔ほ――」 

 この時、俺の手から炎が迸る。
 大地を、木々を、そして肉をも瞬時に焼き尽くす灼熱の鞭が。
 それがたちまち野盗共に打ち当たり、一瞬にして消し炭と化させた。

 悪いな、俺は魔法も使えるんだ。

 こうして着地を果たして振り向く。
 すると目前には躱した奴が二人。
 意外と反応速度が速いな、正直驚いたよ。

「ば、馬鹿な、格闘術に魔法だと!? これではまるであの【武聖】ウーイールーではないかあッ!?」

「当然だ。あの方は俺の師であり、その戦い方を全て仕込んでくれたのだから」

「「え"ッ!?」」

 しかし逃がすつもりは無い。
 こうして正体をバラしたのも、誰一人として生かす気が無いからだ。
 悪いが俺は聖人でもなければ慈悲深くも無いのでな。

 それに、こいつらの様な悪党は俺が最も嫌う存在なのだから。

 故に閃光が走った。
 一人の野盗の首を刎ねる程の鋭さで。

 俺が腰に備えていた剣を瞬時に奮った事によって。

「【武聖】ウーイールーは武芸百般、あらゆる武術・魔法の戦闘技術を極めたという。それもたった一代で」

「うう……!?」

「更にどこにも付かず、誰とも組まず、孤高の一人を貫いた。その力を悪用されんと想いて――貴様の様な悪党を人知れず始末する為にな……!」

「ひいッ!?」

「そしてその誇り高き志は、俺にも引き継がれた!」

 そんな剣を再び仕舞い、残った一人に歩み寄る。
 後ずさろうとも、それを追い詰めるかの様にして。

 そうだ、後悔するがいい。
 畏れ、慄き、怯えて震えるがいい。
 お前のやった、やろうとした事はそれだけ罪深いのだから。

 故に、その騎士の如き大層な鎧を纏う資格すら無しッ!!

「然らば、その行いに後悔して逝けッ!!」
「う、うわあああッ!?」

 その猛りが脳裏に過った時、俺はもう奴の懐にいた。
 右拳に闘氣功を纏わせ、渾身の力を籠めながら。

 なればこの一撃、もはや鉄をも貫こう。



「【鋼穿烈掌ウルアーティ】ィィィーーーッッ!!!!!」



 膝を、腰を、肩肘を捻り絞り、力を最大限に溜め込む。
 そうして極限に高められし掌底は、全てを越えて肉のみ穿つ。

 その拳技の前には、如何な防具とて意味を成しはしない。
 
 故に、拳を打たれた奴の腹部が爆ぜた。
 鎧背面の隙間からおびただしい血飛沫を吹き出しながら。
 余りの衝撃に、全圧が後方へと押し出された事によって。

「――残り、二人か」

 しかしそんな肉塊となった者に気をやる程、俺はロマンチストじゃない。
 意識はもう林の先に向いている。

 慌てて木を降りていた射手二人へと。

 仲間を置いて逃げるか。
 まぁ逃がすつもりなどさらさら無いがな。
 仮に仲間を呼ばれれば後が面倒なだけだ。

 だから今、俺は二人へと両手二指を伸ばしていた。
 見なくてもわかるくらいに雑気だらけだから狙うのは簡単だ。

「「【光閃射ディアロー】」」

 空かさず交響詠唱ハーモラルキャストで光弾を二つ同時に撃ち出す。

 放たれた光弾はそれぞれ真っ直ぐ二つの目標ターゲット
 その狙い通りに、射線上の幹さえ貫き突き抜けた。

 ――そして気配、消失。

 狙撃も俺の範疇なんでな。
 悪いが容赦無く心臓を射貫かせてもらったよ。

 という訳で返り討ち完了。
 父に鍛えられた力はしっかり通用する様だ。
 なにせ世俗に出た事が無いからちょっと不安だったんだよな。

 ……とはいえ少しやり過ぎたか。
 
 気付けば周りは血と焦げの臭いで立ち込めていて。
 街道もグチャグチャ、道だったとは思えないくらいの有様に。
 改めて見ると、暴れ過ぎた感は否めない。

 もしかしたら村での洗礼で少し昂っていたのかな。

 だとすれば奴等は丁度いいストレス発散先だったのかもしれない。
 今の俺に出会ってしまった不幸をあの世で嘆いてくれ。

 さて――では早速、貰う物を貰うとするか。

 父はこうも言っていたからな。
叛者無平ヤラ・クデーヴォ。奪う者は賊と言ったが、相手がその賊なら話は別だ。仕留めた後に奪っても一向に構わん。叶うならば元の持ち主に返してやれ〟と。

 どうせこの後、街へ行く。
 なら回収物を憲兵辺りに届ければ、持ち主か遺族の下へ送られるだろう。
 その為ならば運ぶのに多少重くとも苦ではないさ。

 もちろん、行き先不透明な貨幣は拝借させてもらうがな。

 最初は幸先悪いとは思ったものだけれど。
 今考えると、こいつらと遭遇したのは幸運な事だったのかもしれない。
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