63 / 148
第二章
第58話 バウカン大統領
しおりを挟む
筋肉部屋を抜けた先には真っ直ぐな細長い道が待っていた。
それも全てが真っ白で、飾り気が一切無いという。
ただ、正面奥には人の気配がある。
恐らく奴がバウカン当人なのだろう。
それにしてもホントどういう趣味をしているんだろうか。
入り組んだ道程もそうだが、先の部屋といい、この通路といい。
ここまで露骨だと何かしらの意図さえ感じてならない。
例えば誰かが侵入してくるのを想定しているかの様な。
もっとも、赤空界のトップなら警戒するのも当然か。
なら何か罠が仕込まれているかもしれないな。
しかしだからと言って怖気づいている訳にはいかない。
なんたって後ろではマオが今も耐え忍んでいるのだから。
「お前がバウカン大統領だな」
故に警戒しつつも走り寄り、直ちに問いただす。
とはいえ【輝操・探追】が捉えた以上、言い逃れは出来ないが。
そんなバウカンはこの時、事務椅子に座して背を向けていた。
それも沢山と並んだモニターを前にして。
だが無反応だ。
俺の声が届いていないのか?
侵入者に気付いていない訳でも無いだろうに。
「……ぶしつけだな。今の若者は礼儀や作法も知らんのか。少しは敬語というものを嗜んでみてはどうかね」
いや、そうじゃない。
歯牙に掛けるまでも無いと判断されただけなんだ。
だとしたらコイツ、相当に肝が据わっているな。
普通なら敵を前にすれば怯えたりしそうなもんなんだが。
「俺が敬うのは尊敬に足る人物のみと決めている。そしてお前はその範疇外だバウカン=デウナジー」
「ふむ、それは指導力不足という私の落ち度かな。ならばいざ仕方あるまい」
加えてこの低くも落ち着いた声色。
まるで俺を一切恐れていないと言わんばかりだ。
その自信の根源は一体どこにある……?
しかしそう探りを入れようとした時の事。
椅子が何の前触れも無くゆっくりと回っていく。
そうして現れたのは、やはり街でよく見かけた姿だった。
ドワーフでありながら背丈が人間に近く大柄。
自慢の髭は剃られ、胴回りにも匹敵する角張り顎が露わとなっている。
髪もオールバックで整えられていて清潔感に溢れているな。
更には真紅のスーツまでしっかりと着込んでいるときた。
ただ正面切って腕組んだ姿から初めてわかる。
人間のそれよりもずっと力強い体格が。
体質などでは決して再現出来ない種族らしさがハッキリと。
これは戦いの為の肉体ではない。
技術を奮う為に代々培われた肉体なのだと。
「ところで君は一体何者かね? 私はアポイントメントを取らない者との面会は一切お断りしているのだが」
「これは面会じゃないさ。俺は不信任を突き付ける為やってきたんだからな」
「ほう、つまりはこの貧弱な老体を鞭打ちに来たと? フン、随分と殊勝な事だ」
そう、コイツの身体は明らかに戦い向きじゃないんだ。
体格が大きいだけで肉体そのものは衰えが見える。
そもそも年齢的にも高齢だしな。若作りなだけで。
なのに何故だ。
何故ここまで落ち着いていられる?
「君は知らないのかね? 私が今なお市民に愛された歴代最高の大統領であると。まぁその身なりからすると来たばかりと言った所だろうし、知らないのも無理は無いがね」
「いや、重々承知しているさ。だがな、お前のやっている事がその市民への徹底搾取だって気付いたから来たんだ。全く、よくバレずにここまでやったもんだよ……!」
「なるほど、裏政策の仕組みに気付いたという訳か。これは驚きだ」
しかも今度は笑顔で拍手まで。
コイツの引き出しの深さがまるで読めないな。
けど怯んではならない。
この手の相手は一歩でも引いてしまえば一気に畳みかけて来るだろう。
こう口達者な奴ほど油断ならない相手なんだ。
父曰く。
〝宣弁起勝。舌戦もまた戦いの一つ。ここで押し負ければ戦の勝機さえ逃しかねぬ。故に頭を動かせ。常に思考を回せ。誰よりも先行く為にも〟
この教えがある以上、俺は舌戦でも負ける訳にはいかない。
例え相手が人生経験豊富で百戦錬磨の口先名人だとしてもな。
「どうしてここまでする!? 市民を職で縛り、適さない者を駆逐して、その上で伝統競技を操作して金を巻き上げるなど! そんな事をしなくともお前の知略ならまともに統治出来るはずだ!」
「フッ、まともに統治か……幻想だな。子供が思い描く様な甘ったるい夢物語の国でも造れと言うのかね」
「何……!?」
「ならば教えて差し上げよう。裏政策に気付けた君ならば理解出来ると信じてね」
口ぶりから察するに、俺がココウの仲間として訪れた事には気付いていない。
恐らく興味無いんだ。
コイツにとってその程度の者など塵芥にしか思っていないのだろう。
ココウ本人ならいざ知らずな。
だからこそ俺が独自に気付いたと思っている。
いや、そう想定した上で思考を回しているんだ。
コイツも常に相手の先へと行く為にと。
なら油断なんて出来る訳が無い。
この手の相手は、少しでも気を緩めれば口論だけで堕とされかねないのだから。
それも全てが真っ白で、飾り気が一切無いという。
ただ、正面奥には人の気配がある。
恐らく奴がバウカン当人なのだろう。
それにしてもホントどういう趣味をしているんだろうか。
入り組んだ道程もそうだが、先の部屋といい、この通路といい。
ここまで露骨だと何かしらの意図さえ感じてならない。
例えば誰かが侵入してくるのを想定しているかの様な。
もっとも、赤空界のトップなら警戒するのも当然か。
なら何か罠が仕込まれているかもしれないな。
しかしだからと言って怖気づいている訳にはいかない。
なんたって後ろではマオが今も耐え忍んでいるのだから。
「お前がバウカン大統領だな」
故に警戒しつつも走り寄り、直ちに問いただす。
とはいえ【輝操・探追】が捉えた以上、言い逃れは出来ないが。
そんなバウカンはこの時、事務椅子に座して背を向けていた。
それも沢山と並んだモニターを前にして。
だが無反応だ。
俺の声が届いていないのか?
侵入者に気付いていない訳でも無いだろうに。
「……ぶしつけだな。今の若者は礼儀や作法も知らんのか。少しは敬語というものを嗜んでみてはどうかね」
いや、そうじゃない。
歯牙に掛けるまでも無いと判断されただけなんだ。
だとしたらコイツ、相当に肝が据わっているな。
普通なら敵を前にすれば怯えたりしそうなもんなんだが。
「俺が敬うのは尊敬に足る人物のみと決めている。そしてお前はその範疇外だバウカン=デウナジー」
「ふむ、それは指導力不足という私の落ち度かな。ならばいざ仕方あるまい」
加えてこの低くも落ち着いた声色。
まるで俺を一切恐れていないと言わんばかりだ。
その自信の根源は一体どこにある……?
しかしそう探りを入れようとした時の事。
椅子が何の前触れも無くゆっくりと回っていく。
そうして現れたのは、やはり街でよく見かけた姿だった。
ドワーフでありながら背丈が人間に近く大柄。
自慢の髭は剃られ、胴回りにも匹敵する角張り顎が露わとなっている。
髪もオールバックで整えられていて清潔感に溢れているな。
更には真紅のスーツまでしっかりと着込んでいるときた。
ただ正面切って腕組んだ姿から初めてわかる。
人間のそれよりもずっと力強い体格が。
体質などでは決して再現出来ない種族らしさがハッキリと。
これは戦いの為の肉体ではない。
技術を奮う為に代々培われた肉体なのだと。
「ところで君は一体何者かね? 私はアポイントメントを取らない者との面会は一切お断りしているのだが」
「これは面会じゃないさ。俺は不信任を突き付ける為やってきたんだからな」
「ほう、つまりはこの貧弱な老体を鞭打ちに来たと? フン、随分と殊勝な事だ」
そう、コイツの身体は明らかに戦い向きじゃないんだ。
体格が大きいだけで肉体そのものは衰えが見える。
そもそも年齢的にも高齢だしな。若作りなだけで。
なのに何故だ。
何故ここまで落ち着いていられる?
「君は知らないのかね? 私が今なお市民に愛された歴代最高の大統領であると。まぁその身なりからすると来たばかりと言った所だろうし、知らないのも無理は無いがね」
「いや、重々承知しているさ。だがな、お前のやっている事がその市民への徹底搾取だって気付いたから来たんだ。全く、よくバレずにここまでやったもんだよ……!」
「なるほど、裏政策の仕組みに気付いたという訳か。これは驚きだ」
しかも今度は笑顔で拍手まで。
コイツの引き出しの深さがまるで読めないな。
けど怯んではならない。
この手の相手は一歩でも引いてしまえば一気に畳みかけて来るだろう。
こう口達者な奴ほど油断ならない相手なんだ。
父曰く。
〝宣弁起勝。舌戦もまた戦いの一つ。ここで押し負ければ戦の勝機さえ逃しかねぬ。故に頭を動かせ。常に思考を回せ。誰よりも先行く為にも〟
この教えがある以上、俺は舌戦でも負ける訳にはいかない。
例え相手が人生経験豊富で百戦錬磨の口先名人だとしてもな。
「どうしてここまでする!? 市民を職で縛り、適さない者を駆逐して、その上で伝統競技を操作して金を巻き上げるなど! そんな事をしなくともお前の知略ならまともに統治出来るはずだ!」
「フッ、まともに統治か……幻想だな。子供が思い描く様な甘ったるい夢物語の国でも造れと言うのかね」
「何……!?」
「ならば教えて差し上げよう。裏政策に気付けた君ならば理解出来ると信じてね」
口ぶりから察するに、俺がココウの仲間として訪れた事には気付いていない。
恐らく興味無いんだ。
コイツにとってその程度の者など塵芥にしか思っていないのだろう。
ココウ本人ならいざ知らずな。
だからこそ俺が独自に気付いたと思っている。
いや、そう想定した上で思考を回しているんだ。
コイツも常に相手の先へと行く為にと。
なら油断なんて出来る訳が無い。
この手の相手は、少しでも気を緩めれば口論だけで堕とされかねないのだから。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました
放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。
だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。
「彼女は可哀想なんだ」
「この子を跡取りにする」
そして人前で、平然と言い放つ。
――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」
その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。
「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」
伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります
竹桜
ファンタジー
武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。
転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
異世界帰りの勇者、今度は現代世界でスキル、魔法を使って、無双するスローライフを送ります!?〜ついでに世界も救います!?〜
沢田美
ファンタジー
かつて“異世界”で魔王を討伐し、八年にわたる冒険を終えた青年・ユキヒロ。
数々の死線を乗り越え、勇者として讃えられた彼が帰ってきたのは、元の日本――高校卒業すらしていない、現実世界だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる