輝操士は儚き虹色世界にX(ジクス)を刻む

日奈 うさぎ

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第三章

第93話 世界初の快挙達成

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 フィーが言うに、この秘湯施設はあのふもと村と繋がっているという。
 父が掘り進んだ後、村人が追加で連絡通路を掘り込んだのだと。
 おまけに魔動昇降機エレベーターまで設置したので頂上まですぐだそうだ。
 
 じゃあ俺の苦労は一体何だったんだろうな。

 ただ実際の所、俺が成し遂げたのは真に世界初の快挙だったらしい。
 生身だけでここまで到達したっていうのは。

 なんでも、某伝説の冒険家も登山用魔動機に乗って登頂したって話でね。
 父のやり方には驚いたものだが、コイツもなかなかだと思う。
 皆揃って正攻法で登ろうとしていない所がまた。

 まぁ俺も人の事言えないけども。

「アークィン、準備は出来たかい?」
「あぁ、防寒服もしっかり乾いてるし登る分には申し分ない」

 とはいえまだ俺は登頂しきった訳じゃない。
 この秘湯はまだ頂上一歩手前の地点だから。
 あと半刻分くらいはまた壁をよじ登らなければならない。
 不本意だが、女湯の窓から這い出してな。

 なのでノオン達は一足先に登って待っててくれるそうだ。
 ここから頂上まで徒歩ルートがあるらしいのでね。
 ……ホント完全に観光地化しているんだな。

 まぁいい、俺は俺のやるべき事を成すだけさ。

 だからと再出発しようかと思ったんだが。
 ふと登山前の事を思い出して足を止める。

「そう言えばテッシャ、ノオン、二人に課したノルマはどうしたんだ?」

 そう、思い出したのは闘氣功の修行の事だ。

 二人には結構エゲつないノルマを課したハズなんだけどな。
 でも当の本人達はまるでそれを忘れたかの様に振舞っていて。

「ハッハー! 実はもうクリアしたのさ!」
「テッシャいっちばーん!!」
「なにぃ!?」

 しかしどうやら何の心配も要らなかったらしい。
 二人揃って右腕を振り上げ、袖を捲って見せつけてくれたよ。
 腕輪の消え去った細い手首を堂々とな。

 となれば、どうやら俺は勝負に負けたらしい。
 はは、二人にしてやられたな。

 ならばと、その祝福として掲げられた手を「パパン」と叩いてみせる。

「じゃあ戻ったら二人にその成果を見せて貰うとするか。楽しみだ」
「まっかせてー! バッバーンってやっちゃうよーっ!」

 二人も嬉しかったんだろう、揃ってニッコニコだ。
 これなら教えた甲斐があったってもんさ。
 俺も何だか鼻が高いよ。

 つまりもう何の憂いも無い訳で。
 お陰で登山に全集中する事が出来そうだ。

「あ、外は気を付けろよ。陽射しが痛いから」
「だいじょーぶ、だーと思ーう」
「……平気? まぁいいか」

 後は老婆心で皆に注意喚起だけ。
 フィーの言った事はよくわからないけどな。
 けどまぁ皆なら多分平気なんだろうさ。

 それで俺は皆と別れ、女湯の窓から再び崖へと繰り出した。

 外は相変わらず視界が悪いな。
 天候は昨日ほど激しくないけれど。
 雲が掛かってるってだけだから登るには何の支障も無い。

 なので輝操術を使い、一歩一歩確実に山肌を進んで行く。
 途中で響いて来たノオン達の楽しそうな声を聴きながら。
 それでも一切手を止める事無く。

 すると途端、視界がふわりと明るくなった。
 雲の領域を遂に越えたんだ。

 そんな時、俺の視界にはノオン達の姿が映っていて。
 なお地道にペタペタと進み、見下ろしていた彼女達の下へ。
 後は手で足で地を付き、輝操術無しでゆっくりと立ち上がる。



 そうして俺はやっと到達する事が出来たんだ。
 世界最難所と言われた【霊峰ングルトンガ】、その頂きへと。 



「やった……遂にやったぞ……ッ!! ングルトンガを登り切ったんだーッ!!」
「「「おめでとう、アークィン!!」」」

 そんな俺を、仲間達が再び喝采で祝福してくれた。
 昨日よりもずっと大きくて盛大な拍手でな。
 ついでにガイドの秘湯受付係も一緒にね。

 だから余りにも喜び過ぎて、そのまま卒倒してしまいそうだったよ。
 空気が薄いって事を忘れてたからさ。
 そこで皆に手を取られて支えられ、落下は辛うじて免れたけども。

 だけど笑いは止まらなかったよ。
 とても感無量だったから、うっかり涙まで出ちゃって。
 まぁすぐゴーグルの中でデリカシーと共に凍りついたけどな。

 それで再び立ち上がり、仲間達と共に景色を眺める。

 空と雲だけが織り成す、単純な様で壮大な風景を。
 白雲が陽光を受け、キラキラと煌めく幻想的な光景を。



 俺はきっとこの景色を絶対に忘れないだろう。
 仲間達と共に得られたこの情景は今までの何よりも尊かったのだから。



 そんな景色を飽きるほど目に焼き付けた。
 仲間達の嬉しそうな姿と共に。
 ならもうこんな厳しい場所に居続ける理由は無いよな。

 という訳で帰ろうと思ったんだけれども。
 またふと思い立ち、そっと空を見上げる。

 燦々と輝く陽珠を眺める様に。

「にしても不思議だな。あんなに痛かった陽射しが今は暖かいなんてさ」
「それだけじゃなーい。もう魔法も使えーる」
「えっ……?」

 だけどそんな時、またフィーがよくわからない事を言い始めて。
 それに釣られて周囲の気配を探ってみたのだが。

「――あれ、魔力が……ある!?」

 彼女の言った通り、周囲には魔力が満ち溢れていたんだ。
 ついさっきまでは一切感じなかったのに。

 一体いつの間に……?
 いや、そもそも今までどこに消えていたんだ……?

 ホントわからない事だらけだ。
 これはもう「霊峰だから」なんて理由じゃ片付けられないだろう。
 フィーだけにしか感じ取れない事象でもあるのだろうか。
 例えばこの地方に住まないとわからないコツみたいなのがあるとか。

 で、そんな彼女だからこそ普通に降りるつもりも無かった様だ。

「だかーら、山降りるなーらこれがオススメー。【泡沫膜バッボーン】!」

 すると途端、フィーが杖から「プクゥ」と大きな泡を吹き出して。
 たちまち目前に人が入れるくらいの泡沫が出来上がる。
 それも二重構造でとても丈夫そうな感じの。

 君、ホントそういう意味のわからない魔法ばかり憶えているよな。

「この中入ってー山をコロコロ転がって降りーるー」
「おっもしろそーっ!!」
「いいっ!? オ、オイラはエレベーター乗って帰ろうかなぁ~……」
「クアリオも一緒にのろーよーッ!!」
「い、いやいいってぇ!? ひぃぃぃ!!」

 まぁ見た感じとても面白そうだ。
 だからか早速テッシャがクアリオを捕まえて一緒に泡の中へ。
 しかも有無を言わさず降りて行った。到達地点も聞いてないのに。
 ……クアリオ、御愁傷様。

 ならば俺達も、と思ったんだが。
 するとフィーが今度は何やら細長い平板をいつの間にか持ち上げていて。

「上級者はーこの板履いて滑り降りーる。体力自慢の人はこれがいーいー」
「準備万端過ぎやしないか?」
「ふんす!」

 よく見れば足裏へ取り付けられる様になっている。
 それで実際に受け取って眺めてみると――ほぉ、これは凄いな。

 この板は恐らく魔導具なのだろう。
 魔導術式が彫ってあって、木製だけど凄く丈夫となるよう出来ている。
 人並みに長いがちょっとやそっとじゃ折れそうに無いぞ。
 なるほど、これを備えて【ラビリッカー】みたいに滑走していく訳だな。

 面白い。
 これはやってみる価値がありそうだ。

 だからと早速、俺とノオンが受け取って両足に備え付ける。
 上級者向けなんて言われたらどちらも黙っていられないクチだからな。

「あちしはアークィンの背に乗って降りーるー」
「おっ? わかった。しっかり掴まってろよ」
「じゃあ私はノオンの背に乗るとしようかねぇ」
「ハッハー! 任せたまえ! 最高の景色を見せてさしあげようっ!」
「雲あるけどへーきー。飛び降りちゃーえ!」

 その最中にフィーとマオもそれぞれの背に乗り掛かって準備は万端。
 指示されるがままに思い切り、二組並んで頂上から一気に飛び降りた。

 目下を覆い尽くす雲の中へと。



 けどその直後、突如として不思議な事が巻き起こる。



 なんと雲が一挙に退いて行ったんだ。
 まるで俺達に道を作るかの様にしてな。

 それで気付けば全周囲が蒼天模様となっていて。
 お陰でふもと村までハッキリと見下ろす事が出来たよ。

 確かにこれなら絶対に迷わない。
 だったら望み通り一気に滑り降りてやるさ。

 霊峰さんがもたらしてくれた粋な計らいに応えてな……!





 こうして俺達は揃って無事【霊峰ングルトンガ】を後にした。
 途中で参戦した【ラビリッカー】達と共にふもとまで滑走しながら。

 まさか帰りがこんな楽しい事になるなんてね。
 登るのは凄い辛かったけれど、これなら差し引きで御釣りが出るくらいさ。

 また登りに来るのも吝かじゃないって思えるくらいに。
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