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第8話 人形開発には真意があるのです

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「わぁ! お顔がマルルに、そっくりー! ミルカちゃん、ありがとー!」

 幻の第一号の素体を修正してからおよそ二日後。
 私はなんとかMGシリーズ第二号『大人マルルちゃん』を完成させ、本人に渡す事ができた。
 約束を果たせて本当に良かったと心の底から思う。
 一週間ぶりにやっと眠れそうなので。

 なお素体自体は一号の物を流用しているので無駄にグラマラスである。
 それとママ上の注文通り洋服を着せているからTPO的にも問題無いだろう。

「いーなー!」
「あたしもほしー!」
「わかった、コッテちゃんとユーニャちゃんの分もあとで造ってあげるよ」
「「やったー!」」

 あとは余計なしがらみを生まないために、友達の分も造ると確約する。
 すぐとはいかないが、素体が完成した以上は時間もかからないはずだ。

「さすがですご主人様! このイーリスめの卑しいメス犬ドールまで造ってくれるなどと約束してくれるなンてえッ!!」
「いや、それはさすがに造らないから」
「カハッ!? 冷たいご主人様もス・テ・キ……」

 それに量産計画はすでに立っているからな。
 素体さえどうにかすればオーダーメイド自体は容易だと思う。

 量産するのも実に簡単だ。
 『大人マルルちゃん』の素体で既に鋳型を取っているので、あとはそれに成型材を流し込むだけでいい。
 成型技術に関しては、実際に叔母上で型にとって試したので支障無いだろう。
 胸部の成型だけはこれから経験を積んでいく事にする。

「たのしみだねー!」
「ねーっ!」

 この人形量産計画はきっと、これからの私の人生にとても大事な一歩となる。
 だからこそ早急に精錬させる必要があるのだ。

 少なくとも、この村の未来のためにもな。



☆☆☆ それから一週間後 ☆☆☆



 完全可動人形の量産計画は順調だ。
 専用の材料もイーリスを走らせて回収し、充分に取り揃えてある。
 さすが第一級国家錬成術士、材料の採取もお手の物だな。

 おかげで量産型第一ロットは見事に成功。
 成型状態の悪さはすこし気になるが、後処理すれば問題無いだろう。
 この手間の問題も後で少しづつ改善していく事にしよう。

 あとは空き時間で造った頭部を備え付ければオーダーメイド分も完成である。

 そして今、また皆と集まったので友達二人へプレゼントとして贈る。
 どちらも魂を籠めて造り上げた力作だ。

「はい、コッテちゃんとユーニャちゃん! 二人の人形だよ!」
「わーっ!」
「ありがとー! ミルカちゃん!」

 ボディはマルルちゃん人形と同型だが、頭部は二人の顔に寄せている。
 なので二人とも大はしゃぎで喜んでくれた。

 これできっとおままごともはかどるに違いない。
 造った私としてもとても嬉しい限りだ。
 個人的にはドロッドロのドラマ展開だけは願い下げだが。

「にしてもご主人様、どうしてこのような量産計画を? リアルな人形を売るにしても、今の世情ではロクに売れないのでは?」

 ただ現実はおままごとよりも厳しいのが実情。
 今こうしている中でも外界は魔物との戦いで混沌としているだろう。
 そんな中に玩具を売り歩いた所で、買いたたかれるのが関の山だ。

 しかし私はそんな浅はかな販売計画など考えてはいない。
 この人形量産にはれっきとした真の目的があるのだ。

「今だから売るのよ。この村をを守る為に、国さえもこれで守るの」
「この国を、守る……?」
「そ。今実践するから見ていなさい」

 そこでまず証を立てるためにと、一緒に持って来ていたバスケットを手に取る。
 それでそっと籠の蓋を開けてみた。

「あ、これって!」
「すごーい、お人形さんいっぱいー!」

 覗き見えた物に子ども達も夢中だ。
 そう、中に入っているのもまた完全可動人形だったのだから。

 その数――十体。
 いずれもマルルちゃん人形を母体とした量産型だ。
 顔の成型を行っていない準素体アーキテクトだが、タダのお披露目なら充分だろう。
 この一週間でがんばって造った成果である。誰か褒めて欲しい。

「実はこの人形達のボディにはあらかじめ魔導式が仕込んであるの。で、それに魔力を走らせ、こうするっ!」
「「「ッ!?」」」

 そんな成果達の頭上で、微かな魔力の纏った指をくるっとひと回し。

 すると人形達がひとりでに動き始める。
 更には一斉にバスケットから跳ね飛び、マルルちゃん達を飛び越えて地面へと着地していった。

 まだ動きに不自然な所もあるが、性能は上々だ。
 
「こ、これってまさか自動人形!?」
「そう。しかもこれはタダの人形じゃない」
「えッ!?」
「私が独自に精錬して生み出した超合金『ディルス・アルマーダ』の粒状膜でコーティングしてあるの。そのおかげで表面硬度は硬化付与ミスリルのおよそ三倍よ」
「さ、さんばぁいっ!!?」
「そして七層構造の魔導式によって反応速度は人間並み、運動性も常人ベースで考えれば遥か上よ。今みたいにね」
「ななな七層魔導式!? (何それ二連層しか知らないっ!!!)」

 硬度も一般武器では傷一つ付けられない程に強固。
 運動性も巨大な人間相手にひけを取らない。
 さらにその速度・強度によって生み出されるパワーは人のそれを越える。

 つまり何が言いたいのか、きっともうわかっているだろう。

「なにいってるか、マルルわかんなーい」

 ……すまない子ども達。
 今は叔母上にプレゼンしている所だからどうか許して欲しい。

「だ、大体理解しました。さすがご主人様、なんて恐ろしい物をお造りで」
「フフン、割と力を入れた自信作なのです!」

 そう、何を隠そうこれは戦闘用魔導人形だ。
 単体で人間の兵士をも凌駕し、かつ量産も可能、使い捨てもできる新時代の戦力形態なのである。

 つまりこれは叔母上用に用意したデモンストレーション用素体。
 いつか彼女ともかかわって来るだろうからな、今宣伝しておいても損は無い。

「それでぇ~もしよかったらサンプルとかぁ、いただけませんでしょうかぁ……?」
「ヤダ」
「デスヨネー」

 ただし一般的なお披露目はすべての準備が整ってからだ。
 中途半端なままでは大手企業や貴族に手柄を持っていかれてしまうからな。
 まずは信頼できる後見人バックと生産拠点を手に入れなければならない。

 だが、その問題に関しても既に手は考えてある。
 とっておきの秘策が私にはあるのだ。

「けど叔母上の活躍次第では情報を渡す事もやぶさかじゃないかな~」
「ほっ、ほんとですかッ!? で、では何をすればよいので!?」
「えっとねー、それじゃあ――」

 叔母上も立場上、こうして釣られる事はわかっていた。
 戦略的効果が認められるならなおの事な。
 ならば目的のため、存分に活躍してもらうとしようか。

 真の意味で、その身体を行使してな。

「叔母上、明日領主様の息子と結婚してください」
「よよよ喜んでえッ!! ――え?」

 決定的手段とは強引にでも勝ち取るものなのだよ。
 例えどんなものを犠牲にしようともな……!
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