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第10話 後見人にするならやっぱり貴族よね
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叔母上を貴族に嫁がせた理由は二つある。
一つは、彼女が連絡役として信頼できる存在だから。
誓約戒の首輪がある以上、裏切る事は絶対にありえないのでね。
そして二つ目は、領主の評判を落とさないためだ。
もし私が嫁いだ場合、領主は結果的に王国からの信頼を落とすだろう。
息子が農民の娘と結婚するなど、身分違いにもほどがあるからな。
しかも相手は三歳の娘だ。
となれば領主自身が許そうとも世論が許しはしない。
最悪は没落、あるいは政略結婚の末に家柄没収かもしれん。
それだけは絶対に避けなくてはならない。
後見人に仕立てるからには権威を維持し続けてもらわねば。
その点、叔母上は立場的にも問題無い。
第一級国家錬成術師という肩書はどの貴族でも喉から手が出るほどに欲しているだろうから。
実力からしても彼女が結婚相手なら申し分ないのだ。
多少性格と歳の差に問題はあるが、そこは目を瞑ってもらうとしよう。
「しかしまさか息子が真に愛していたのがあのイーリス殿だったとはな」
「えぇ、私を経由して叔母様に想いを打ち解けようとしていたみたいです」
そんな思惑を胸に今、私はラギュース辺境伯と一対一で向き合っている。
屋敷の客間にて、ほんの軽く茶を交わしつつ雑談に華を咲かせながら。
彼の息子と叔母上の結婚が決まった翌日の事である。
今頃、叔母上は結婚式の段どりで忙しくしている事だろう。
そんな新郎新婦の邪魔をする訳にはいかない。
という訳で父親を連れ出し、こうして話の場を作り上げたという訳だ。
「だが君も相応に美しい。私があと二十年若ければプロポーズしたのだが」
「見た目で判断するのはオススメできません。毒をお持ちかも」
「なぁに、世論という毒なら幾らでも喰らってきた。今さら何を盛られても動じんよ」
その領主の話を聞くに、当人は相当な叩き上げの人物らしい。
剣と忠義で生き抜き、遂には平民でありながら一代で貴族となったのだとか。
だから息子が農民の娘に惚れても許したのだろうな。
随分と器の大きい、できた男だと思う。
オールバックの髪に、切りそろえられた口髭。
貴族とは思えない引き締まった軍服様相と、すっきりとした立ち姿。
そんな様子は若いなどと決して言えないが、バイタリティに富んだ力強さをひしひしと伝えさせるかのようだ。
私でも惚れ惚れするような見事な男だな、コイツは。
「かく言う私は妻を四年前に失ったクチでね。未だ未練を断ち切れずにいる。だが君のような若く聡明な女性とならもしかしたら――」
「それは良いのですが、そんな事をすればご子息がたとの関係がよくわからない事になってしまいます」
「ハッハハ! そうであったな。失礼、冗談だと思って流してくれたまえ」
ただ、少しばかり好色気味か。
私が可愛く美しいからなのはわかるが、幾らなんでも手が早過ぎだろう。
誘った相手は三歳児でした、などとわかれば猛毒どころか即死級の劇毒だぞ?
事実が事実なだけに冗談が過ぎる。
だが真実を知るからこそ笑えて仕方がない。
おかげで茶を吹き出しそうになってしまった。
その事実を教えられていないくせに、よくまぁ巧みにしゃべるものだ。
「……しかし君のような若い娘が私の前で堂々としていられる、その類稀なる度胸は買いたいな。となればきっと何か相談したい事があるのではないか?」
「さすが領主様、話が早いですね」
「ならせっかくだ、聞こう。是非とも得意の話術でこの領主をその気にさせてみたまえ」
果たして私が話術に長けているのか、それとも彼が誘導しているのか。
まるで全て読み通りと言わんばかりだな。
さすが貴族一代目、知性も相応に秀でている。
となると下手をすればこちらの底を読まれかねん。
そうなった時は身体を使う事も考慮しなければならないな。
「実は叔母上に頼まれていた事がありまして。この書面をラギュース閣下にお渡しし、内容を事細かに説明さしあげて欲しいと」
「ほう? で、その内容とは?」
「……この領地一帯の保安計画および、今後の人的安全保障の確立について」
「ッ!? ――詳しく話を聞こうじゃないか」
ただし、出だしとしては好調だ。
この手の相手には人道に関する話題がよく効く。
ただでさえ魔物問題で安全確保がままならない時代だからこそ。
食い付くと確信していたぞラギュース……!
好反応を見せてくれたので、私も書状を封筒ごと領主へ差し出す。
あちらも乗り気だったのか、軽快に受け取っては書面を読み始めた。
すると早速、「ほう」「なに……!?」などと漏らしていて。
「いかがでしょう? いささか画期的・挑戦的とは思いますが」
「これが実現可能かどうかはさておき、理想としては悪くない。イーリス殿の提案なのならば絵空事という訳でもあるまい。なら試してみる価値はあるかもしれんな」
「ご安心ください、充分に実現可能です」
「たかが農民である君がそれを断言するか」
「だてに補佐を任されてはいませんから」
やはり叔母上の肩書はかなり有効的だな。
信用に至るまでの速さが段違いだ。
あとはその名を借りて、私自身をも信用させてみせよう。
その口で「たかが農民」などと二度と宣えないほどにな。
「でしたらその価値観さえ変える働きをお見せしましょう。今すぐにでも」
「すでに準備万端という事か。だが彼等が素直に言う事を聞くかな? 言っておくが、この私よりもずっと手なずけるのが難しいぞ?」
計画の為に必要な道具、魔導人形は既に用意してある。
あとは彼等――領主お抱えの騎士団『ヴァルグリンデ・ナイツ』をどう制するか。
まぁ、その算段も既に整っているがな。
「強き者はより強き者に従う。ならば、わからせるまでです。アイヴィー家の真価が叔母だけではないという事を証明してさしあげますわ」
では実践してみるとしようか。
なんなら領主の前で、自慢の騎士団を叩きのめしてみせよう。
この私が造り上げた魔導人形歩兵連隊。
最初のテスト相手は、この地最強の騎士団だ。
フフフ、相手にとって不足は無い……!
一つは、彼女が連絡役として信頼できる存在だから。
誓約戒の首輪がある以上、裏切る事は絶対にありえないのでね。
そして二つ目は、領主の評判を落とさないためだ。
もし私が嫁いだ場合、領主は結果的に王国からの信頼を落とすだろう。
息子が農民の娘と結婚するなど、身分違いにもほどがあるからな。
しかも相手は三歳の娘だ。
となれば領主自身が許そうとも世論が許しはしない。
最悪は没落、あるいは政略結婚の末に家柄没収かもしれん。
それだけは絶対に避けなくてはならない。
後見人に仕立てるからには権威を維持し続けてもらわねば。
その点、叔母上は立場的にも問題無い。
第一級国家錬成術師という肩書はどの貴族でも喉から手が出るほどに欲しているだろうから。
実力からしても彼女が結婚相手なら申し分ないのだ。
多少性格と歳の差に問題はあるが、そこは目を瞑ってもらうとしよう。
「しかしまさか息子が真に愛していたのがあのイーリス殿だったとはな」
「えぇ、私を経由して叔母様に想いを打ち解けようとしていたみたいです」
そんな思惑を胸に今、私はラギュース辺境伯と一対一で向き合っている。
屋敷の客間にて、ほんの軽く茶を交わしつつ雑談に華を咲かせながら。
彼の息子と叔母上の結婚が決まった翌日の事である。
今頃、叔母上は結婚式の段どりで忙しくしている事だろう。
そんな新郎新婦の邪魔をする訳にはいかない。
という訳で父親を連れ出し、こうして話の場を作り上げたという訳だ。
「だが君も相応に美しい。私があと二十年若ければプロポーズしたのだが」
「見た目で判断するのはオススメできません。毒をお持ちかも」
「なぁに、世論という毒なら幾らでも喰らってきた。今さら何を盛られても動じんよ」
その領主の話を聞くに、当人は相当な叩き上げの人物らしい。
剣と忠義で生き抜き、遂には平民でありながら一代で貴族となったのだとか。
だから息子が農民の娘に惚れても許したのだろうな。
随分と器の大きい、できた男だと思う。
オールバックの髪に、切りそろえられた口髭。
貴族とは思えない引き締まった軍服様相と、すっきりとした立ち姿。
そんな様子は若いなどと決して言えないが、バイタリティに富んだ力強さをひしひしと伝えさせるかのようだ。
私でも惚れ惚れするような見事な男だな、コイツは。
「かく言う私は妻を四年前に失ったクチでね。未だ未練を断ち切れずにいる。だが君のような若く聡明な女性とならもしかしたら――」
「それは良いのですが、そんな事をすればご子息がたとの関係がよくわからない事になってしまいます」
「ハッハハ! そうであったな。失礼、冗談だと思って流してくれたまえ」
ただ、少しばかり好色気味か。
私が可愛く美しいからなのはわかるが、幾らなんでも手が早過ぎだろう。
誘った相手は三歳児でした、などとわかれば猛毒どころか即死級の劇毒だぞ?
事実が事実なだけに冗談が過ぎる。
だが真実を知るからこそ笑えて仕方がない。
おかげで茶を吹き出しそうになってしまった。
その事実を教えられていないくせに、よくまぁ巧みにしゃべるものだ。
「……しかし君のような若い娘が私の前で堂々としていられる、その類稀なる度胸は買いたいな。となればきっと何か相談したい事があるのではないか?」
「さすが領主様、話が早いですね」
「ならせっかくだ、聞こう。是非とも得意の話術でこの領主をその気にさせてみたまえ」
果たして私が話術に長けているのか、それとも彼が誘導しているのか。
まるで全て読み通りと言わんばかりだな。
さすが貴族一代目、知性も相応に秀でている。
となると下手をすればこちらの底を読まれかねん。
そうなった時は身体を使う事も考慮しなければならないな。
「実は叔母上に頼まれていた事がありまして。この書面をラギュース閣下にお渡しし、内容を事細かに説明さしあげて欲しいと」
「ほう? で、その内容とは?」
「……この領地一帯の保安計画および、今後の人的安全保障の確立について」
「ッ!? ――詳しく話を聞こうじゃないか」
ただし、出だしとしては好調だ。
この手の相手には人道に関する話題がよく効く。
ただでさえ魔物問題で安全確保がままならない時代だからこそ。
食い付くと確信していたぞラギュース……!
好反応を見せてくれたので、私も書状を封筒ごと領主へ差し出す。
あちらも乗り気だったのか、軽快に受け取っては書面を読み始めた。
すると早速、「ほう」「なに……!?」などと漏らしていて。
「いかがでしょう? いささか画期的・挑戦的とは思いますが」
「これが実現可能かどうかはさておき、理想としては悪くない。イーリス殿の提案なのならば絵空事という訳でもあるまい。なら試してみる価値はあるかもしれんな」
「ご安心ください、充分に実現可能です」
「たかが農民である君がそれを断言するか」
「だてに補佐を任されてはいませんから」
やはり叔母上の肩書はかなり有効的だな。
信用に至るまでの速さが段違いだ。
あとはその名を借りて、私自身をも信用させてみせよう。
その口で「たかが農民」などと二度と宣えないほどにな。
「でしたらその価値観さえ変える働きをお見せしましょう。今すぐにでも」
「すでに準備万端という事か。だが彼等が素直に言う事を聞くかな? 言っておくが、この私よりもずっと手なずけるのが難しいぞ?」
計画の為に必要な道具、魔導人形は既に用意してある。
あとは彼等――領主お抱えの騎士団『ヴァルグリンデ・ナイツ』をどう制するか。
まぁ、その算段も既に整っているがな。
「強き者はより強き者に従う。ならば、わからせるまでです。アイヴィー家の真価が叔母だけではないという事を証明してさしあげますわ」
では実践してみるとしようか。
なんなら領主の前で、自慢の騎士団を叩きのめしてみせよう。
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フフフ、相手にとって不足は無い……!
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