断罪された悪役令嬢はそれでも自分勝手に生きていきたい

たかはし はしたか

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番外編  ジョシュアの場合 おまけ

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おまけです。
後編を読んでから読むことをおすすめします






彼女の育った環境は、あまり恵まれたものではなかった。
爵位はあっても、経済的恵まれず、両親の仲も悪かった。
跡継ぎの弟はまだしも、娘。
顧みられることはなかった。
お隣さんで同い年の幼馴染の自分は、彼女の耐える姿をいつも見ていることしかできなかった。
自分の両親は自分が彼女と遊ぶ時にいつもお菓子やリボンなどちょっとしたものを持たせてくれた。
男しかいない我が家には不要なものだからと言い訳して。
祖父母の援助もあって体面と厄介払いを兼ねて、彼女は学園に入った。
寮に入った時点で、実家に彼女の居場所は無くなって、一度も帰省することはなかった。
弟の婚約式にも彼女は呼ばれなかったが、気にしていなかった。
彼女は忙しかったのだ。
建前で平等を謳う学園では、社会的地位に関係なくランダムにクラスが分けられる。
そこで出会った未来の王太子妃に、彼女は全身全霊で惚れ込み、生涯を捧げることを決めた。
入学半年で将来の目標を定め、全てをそのために使った。
学園で身につけられるものをすべて身につけ、念願の侍女となった。
女官にも誘われていたのに、よりそばにいられる侍女になったのは彼女らしいと思った。
自分も学園を卒業して、王宮の文官として採用された。
下っ端ではあるが、食べていくには十分だった。
自分が採用されたのは王宮の経理を担当する部署だった。
国庫の担当ほど扱う金額は大きくないが、それでも国の要であることには違いなかった。
末端の末端ではあるが。
そこの採用を自分に進めてきたのは彼女だった。
人が動けばお金が動く。
自分の部署は王宮の動きを把握するのに最適な場所だった。
今にして思えば、それが彼女の狙いだったのかもしれない。
休日にときどき会って話をする程度の関係が、2年ほど続いた。
思えばあの頃は楽しかった。
若くて、仕事とすこしのお金があって、なんとなく未来は明るいと感じていた。

王妃となったひとの地位を盤石にする。
それが彼女の望み。
伝統的に公爵家から王妃が出るこの国は貴族が強い。
たまたま、現国王の世代の公爵家に男ばかりが生まれ、王太子であった国王と釣り合う年頃の公爵令嬢がいなかった。
そこで何年も揉めた結果、侯爵家の令嬢であった現王妃が選ばれた。
選ばれた理由は、聡明さに王太子が見そめた等々と言われたが、実際のところは貴族の派閥の事情だった。
現王妃の父は病弱で、領地経営すら妻に任せているくらいで、どこの派閥にも属していないため、『無難』な相手として選ばれたのだ。
逆に、後ろ盾のまるでない王妃であった。
夫婦仲は極めてよかった。
それでも政治的バランスから側妃を取ることも認められないから、政務でも外交でもなく子をなすことだけを求められて苦しむ王妃。
懐妊する前から、貴族の談合で第一子の結婚相手が決められた。
王の意志も王妃の意志もそこには無かった。
貴族にも議会にも逆らう力が王室には無かった。
聡明な王妃の悩む姿に、彼女は決断したのだ。
王妃のために、王妃の子を守り貴族の力を削ぐ。
侍女であった彼女は、誰より早く王妃の懐妊に気がついた。
そして、あれは冬。
彼女が自分の部屋に忍んできた。

彼女は一途だった。
でも自分のことも信じてくれていた。
だから自分を子供の親に選んでくれた。
彼女と同じブルネットと茶色の目ということもあったではあろうが。
それでもよかった。
彼女の力になりたかった。
彼女が好きだった。

彼女は王妃のために生きた。
妊娠も彼女の意思だった。
王妃にすら事後承諾であった。
王宮の裏方である自分が、ただ一度だけ王妃の私室に足を踏み入れた時、王に抱えられて王妃は泣いていた。
王妃にすら事後承諾にした彼女の意思を、自分が変えることなどできはしない。
彼女と会話したのはそれが最後となった。

彼女は自分の子を王の第一子とすべく階段から飛び、王の侍医に子を取り出させた。
彼女は子を王にする気はないので、生かさず殺さず我が子を育てた。
彼女が好きだったから何もしなかった自分は、王妃が大切で我が子はその手段であった彼女と同罪だろう。
王宮に不信感を持たせ、王家には恨みを残さないように育てた。
それらしく食事を制限したのも、亡くなったのも。
公爵令嬢の婚約者となった息子。
それこそが彼女の望み。

城を立ち去る息子の姿。
大きくなった背中。
おそらくこれが今生の別れとなるだろう。
もっとも、親だと名乗ったことも、口を聞いたこともないのだが。
同僚に呼ばれて、休憩を切り上げる。
明日は、学園の卒業式か。
自分も、はるか昔に彼女と一緒に臨んだ式。

彼女は思うままに生きた。
歪であったけれども。
そしてやり遂げた。
自分はそれを見届けた。
それだけで十分だ。
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