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合歓猶

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毒の杯、堕ちた一等星

三話

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AM01:02
秘密組織『ギフト』アジト
通称【牢獄】

 いち早く武装を解いたのは、男たちの方だった。各々が脇の下にあるホルダーに拳銃を仕舞いこむ。その様子を見て、小さな女の方が早々に拳銃を下げ、ほんの少しの間の後、黒髪の女も拳銃を下げた。
 それらを認めると、金髪の男が、ご自慢の口角をあげながら口を開いた。
楪龍城ゆずりはたつき
「!」
「と、灰崎七星はいざきななせだな?」
「よく調べてるねー! さすがは、ぎふと?」
 シャツの上に黒いパーカー。膝上のスカートに二―ハイソックスという、まるで女子高校生のような出で立ちの女が口元にほんのりと笑みを浮かべた。アッシュの髪はひょんと跳ねている。アーモンドの形をした瞳と振る舞いは、まるで猫のよう、そんな印象を受ける少女だった。
「でもどうしようたつきちゃん! アタシたちこの人たちのこと知らないよ! 大丈夫!?」
「……コードネーム、ゴールドブレッドとラピッド……ですね。どちらがどちらなのか……まあ十中八九、金髪の貴方がゴールドブレッド、ハットを被った貴方がラピッド、でしょうね」
 下から上まで真っ黒、それが彼女に対しての第一印象だろう。靴にスラックス、シャツに身につけられたハーネス、グローブ、髪の毛瞳の色に至るまで黒。楪という姓とはまるで結びつかない漆黒。
 すごいすごいと拍手と賛辞を贈るコードネーム”ラピッド”。被っていたハットを取り、胸元へと運び一礼して見せた。
「うん、ご明察。僕がコードネーム”ラピッド”。名前は道端久遠みちばたくおん。よろしくね。で、こっちが……」
 久遠の視線の先。金色が揺れ動く。
 どかり。ぎしり。
 パイプ椅子に腰を掛け、長い足を組む。
間会燿まかいようだ。コードネームはゴールドブレッド。ま、仲間内じゃ、ゴルドって呼ばれてる」
 にやり、不敵な笑みを浮かべる燿に、隠しもせずに顔を顰めた七星は一歩引き、龍城の後ろに隠れた。龍城はちらりと背後の七星をみやり、また視線を燿へと向けた。
「改めまして、楪龍城と申します。念のため今一度お伺いしますが、私たちは合格した、と思ってよろしいので?」
「あァ」
「やった! えへへ、アタシはね灰崎七星!」
 落ち着きのない七星は龍城の周りを跳ねながら言った。そんな七星と龍城の様子をそれとなく観察していた久遠は、あぁやっぱりと零した。
「なんとなく察してはいたけれど……」
 ぼそり、口を開いた久遠に皆の視線が集まる。
「二人は、協力してここまできた。そうだね?」
 疑問符はついていても、それは確信だった。
「そうだよー! たつきちゃんと組んで、文字通り二人でここまできたんだよー」
「ルールは単純明快。与えられたミッションをこなすこと。協力者を作ってはいけない、というルールはなかったですからね。何人かいた候補者の中で一番能力の高そう且つ相性がよさそうだった七星に声をかけた。それだけです」
 龍城がちらりと燿を見やる。口元も目元も弧を描き、終始非道く愉しげである。真顔を貫いている龍城とは対照的だ。
「あァ、テメーの言うとおりだ。ルールに誰かと組んではいけない、協力者を作ってはいけない、なんてもんはねェ」
「基本的に試験を受ける面々はね、自分に力があると思ってる人が大半でね。確かに力はあるんだけど、過信や慢心は、この仕事においてご法度でね」
「しかも、だ。ミッションの大半は2人組ないし4人組での体制だ」
 ぴんと立てられた長い燿の指を半ば睨みつけながら、龍城は思い出すようにして手を顎に添えた。
「ええ、課されたミッションの内容を見て察しました。これは”そういう”意図もあるのだと」
「ギリギリ一人でこなせるかどうかのミッションが大半だよね。でもそういう”ギリギリ”じゃ駄目なんだ」
「俺たちは100%ミッションを遂行する。そういう組織だ」
 わかったな、と言わんばかりの目線。その目線を龍城は冷たく受け流し、方や七星はそんな目線も空気も何のその、久遠へと走り寄った。
「くおんさん、ですよね」
「そう、久遠だよ」
「アタシ! 貴方に会うためにココに来たんです! アタシ貴方のことが好きなんです!」
「え?」
「は?」
「……くっ、ふふっ、はははっ!」
 突然の愛の告白に固まる空気を吹き飛ばしたのは燿の高らかな笑い声だった。我慢できないと言わんばかりに目尻に涙を浮かばせ、壁をバンバン叩きながら笑い転げる。
「これ以上俺の腹筋を割ってどうするつもりだ、あァン!? くくっ、あー、糞おもしれェ!」
「燿……」
 笑ってないで何とかして、そんな視線を燿は弾き飛ばした。
 未だ爆笑を続ける燿以上に空気が読めていないのはもちろん七星の方で。先ほどから変わらず、キラキラした瞳を久遠に向けていた。
「……とりあえず、ここじゃなんだから、場所移動しようか」
「逃げんなよ、久遠?」
「君はひとまず、その笑いを何とかしてくれ」
 草木も眠る丑三つ時とは到底思えない騒がしさだった。
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