外れスキル?だが最強だ ~不人気な土属性でも地球の知識で無双する~

海道一人

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領主テツヤ

13.初めての仕事?

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 温泉を掘った日の午後、町長のヨーデンが屋敷にやってきた。

「な、なんでもグラン殿と殴り合いをしたのだとか。ご無事だったのですか?」

 俺とグランがやりあったことは既に町中の噂になっているらしい。

 この世界でも田舎の情報網は侮れないな。

「大したことじゃないよ。それよりも何か用でも?」

「いえ、領主様の様子を伺いに来ただけですが……こ、これはひょっとして温泉ですか?どうやってこれを?」

 屋敷の外で話をしているとヨーデンが外に作った温泉用の冷却槽に気付いた。

 アマーリアが言うには温泉の水質自体はこの辺を流れている川の水質と大して変わらないからそのまま流しても問題ないらしい。

 でも流石にお湯のままでは都合が悪いだろうと外に冷却槽を作って排水はそこに一時的に貯めておくようにしておいたのだ。

「ああ、なんか地下に温泉脈があったから掘ってみたんだ」

 ちなみに浴場に出てくる源泉と井戸水は逆止弁の要領で水圧で閉まる弁を付けることで噴出を防ぐことに成功した。

 混合栓にしたいところだけど流石にそれは構造が複雑すぎて無理だった。

「こちらに来てすぐに温泉を掘り当てるとは…なんと凄い。昔はこの辺も温泉郷として人気だったのですが、今ではすっかり干上がってしまって」

「そうなんだ?今でも地下に流れてるけど?」

 俺の言葉にヨーデンが首を横に振った。

「深いところには流れてるかもしれませんが、自噴していた源泉は何年も前に枯れてしまったのです。私の宿にも浴場は付いているのですが、もう何年も前から閉じています」

 ヨーデンは遠い眼をして続けた。

「昔は中央通りに何軒も温泉宿があったのですけどね。今では私の宿だけになってしまいました」

「だったら俺が掘りましょうか?」

「ほ、本当ですか!?」

 俺の言葉にヨーデンがびっくりしたように叫んだ。

「ええ、地域活性も領主の仕事だろうし。とりあえず現場を見せてもらえますか?」

「も、もちろんですとも!早速行きましょう!」




    ◆




 結論から言うとヨーデン亭の温泉はあっさり復活した。

 まあ屋敷でやったのと同じように地下の温泉脈をヨーデンの宿の浴場まで引っ張ってきただけだからそれも当然なんだけど。

 俺のスキャンした感じだと枯れた温泉脈も根っこは同じで地殻変動か何かで閉じてしまったみたいだ。

 幸いヨーデン亭には当時使っていた配管関係が一式残っていたので栓などで苦戦することはなかった。

「ありがとうございます!なんとお礼を言ったらいいのか…これで私の宿も活気が戻ることでしょう!」

 ヨーデンが俺の手を握り、腕もちぎれんばかりに振ってきた。

「お礼はいいよ、それよりも一つ頼みがあるんだ」

「何なりとおっしゃってください!」

「これは地域活性のためだと言っただろ?だからトロブ地方の人たちには安く温泉に入れさせてやってくれないかな?」

「…それは…まあ」

「頼むよ。温泉を広めるにもまずは口コミが大事だろ?地域住民からの評価が高まればいずれ外の人間にも評判が伝わると思うし、何よりヨーデンさんの評価だって上がる。安くしても悪いことばかりじゃないと思うんだ」



 しばらく考えた後にヨーデンは決心したように面を上げた。

「わかりました。本来入浴料は銅貨五枚なのですがトロブ地方の人たちは入浴料銅貨一枚、子供たちは無料にしましょう!」

「ありがとう!わかってくれて嬉しいよ」

 ヨーデンは申し訳なさそうに顎をさすった。

「いえ、何もかも領主様にやっていただいたのに私だけ利益を貪ったんじゃ申し訳が立ちませんから。それにこの地方を盛り上げたいのは私も同じです」

「これからもよろしく頼むよ。それから俺のことは領主じゃなくてテツヤと呼んでくれないかな。今もその呼び名には違和感があるんだ」

「わかりました、テツヤ殿。これからもよろしくお願いします」

 俺たちは再び固い握手を交わした。




    ◆



 ヨーデン亭温泉復活の報は瞬く間にトロブ中に広まり、その日は押すな押すなの大混雑だったらしい。

 俺の目論見通りトロブ地方の住人は入浴料一枚という戦略も大当たりで町での評判もすこぶる良かった。

 何よりヨーデンが全て俺のお陰だと触れ回ってくれたおかげで町の住人の俺に対する見方も少し良くなってきたのが良かった。

 数日経ったある晩、俺は再び有翼鳥頭族ハルピーのお店、【バー鳥の巣】へとやってきた。

 カウンターに座ると頼んでもいないのにエールが置かれた。

 不思議に思ってマスターを見ると、あちらのお客様からですと後ろのテーブルを示した。

 そこにいたのはグランの部下のバグベアとこの前の一行が座っていた。

 俺はエールを持ってそのテーブルに行き、開いている椅子に座った。

「ご馳走になるよ」

「良いってことさ。この前のお詫びだと思ってくれ」

「じゃ、遠慮なく」

 俺はそのエールを飲み干した。

「あんた大した奴だな。お頭とまともにやりあおうなんて奴、ここ数年間見たことがねえぞ」

 バグベア ―イノシロウという名前らしい― が感心したように唸った。

「ったく、お前らの頭領はとんでもない馬鹿力だな。今でも顎が痛いぞ」

「それで済んで幸運だねえ。普通の人間だったら顎から先がなくなっているねえ」

 カエルが蜂の子を摘まみながらもごもごと言った。

「そう言えばグランもこの町に住んでいるのか?あの家だと全員は入らないと思うけど」

「俺たちは山の中に集落を作ってんのさ」

 イノシロウがげっぷを吐きだしながら首を振った。

「町の北に山があるだろう?あの中腹位に俺たちの村があってみんなして住んでるのさ。この町にあるのは幾つかの拠点だけよ。で、俺たちはそこの当番って訳」

「なんで町で暮らさないんだ?」

「領主殿も見ただろ?この辺は色んな所から搾取されている場所なのさ。お頭の一族は昔からそういう連中を追い払ってきたんだ。だから敵が多い。だから山の中に潜んでるって訳さ」

「テツヤでいいよ。なるほど、そんな訳があったのか」

 そういう理由ならグランが町の人間に信頼されているのもわかる。

 トロブ地方はグランにとって自分の土地も同然なのだろう。

「ま、そのうち村にも遊びに来てくれよな。お頭は歓迎しないかもしれねえけどな!」

 イノシロウが愉快そうに笑った。
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