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死者の国
36.死者の町
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「カドモイン辺境伯が死んでいる?」
「そ、それは本当なのですか?」
リンネ姫の言葉にみんなが騒然となっているけど俺には不思議と驚きがなかった。
むしろ広間に来た時からあった違和感が急に説得力を帯びてきた。
この屋敷は生命の気配が一切ないのだ。
いや、町に着いた時からそうだった。
まるで生命を感じない。
俺の土属性の力は意識していなくてもある程度気配を感じることができるけど、特にこの屋敷に入ってからそれを全く感じなくなっている。
だからかつてないくらい緊張していた。
おそらくそれは光の属性を持っているリンネ姫も同じなのだろう。
ここで唯一生きていると感じられたのはカドモインの御付きだというワンドと名乗る男くらい……
待て、何故この男だけ生きているんだ?
がばっと振り返るとそのワンドという男は俺たちから数メートル離れた場所に立っていた。
その腕にいるのは…リンネ姫?
ワンドは笑みを浮かべながら後ろからリンネ姫の首を抱えていた。
「てめえっ!何してやがる!」
叫びながら俺の背中には冷たいものが流れていた。
いつリンネ姫を?
リンネ姫は俺の目の前にいたはずなのに。
「リンネ姫!」
「姫様!」
俺の叫び声にみんなも異常な事態が起きていることを悟ったようだ。
「おっと、気付かれるのはもっと先だと思っていたんですがね。あなた、なかなか鋭いのですね。流石は帰還者だ」
ワンドが笑みを消すことなく飄々と話しかけてきた。
「てめえ…それは何の真似だ?何故俺のことを知っている」
俺はじりじりとワンドに近づいていった。
この男は何者なんだ?
今までは全くそんな気配がしなかったのに今は俺の全身がこの男は危険だと告げていた。
「き、貴様なのか…カドモイン辺境伯を生きながら屍へと変えたのは…そうして辺境伯を操っていたのだな…」
首を押さえられ、苦しげな顔をしながらリンネ姫が尋ねた。
「いかにもその通りでございますよ、リンネ姫様。この男は大層役に立ってくれました。おかげでこの屋敷のみならずこの町も私のものとなりました」
笑顔を崩さずにワンドが答える。
「実を言うとですね、あなたをこの屋敷にどう招待しようかと思案していたところなのですよ。まさかそちらから来ていただけるとは重畳というしかありませんね」
ワンドはそう言って嬉しそうに笑った。
「こうなるとあの男はもう用済みですね。こうしてあなたが手に入ったのですから」
ワンドの言葉を合図に俺の後ろで何かが倒れる音がした。
振り返るまでもなくそれはカドモイン辺境伯だと分かった。
いや、かつてカドモイン辺境伯だったもの、だ。
「今すぐリンネ姫を放せ。でないとお前を殺す」
俺たちはゆっくりとワンドとリンネ姫を囲んでいった。
少しでも怪しい動きをしたら即座に攻撃する用意をしていた。
いや、実を言うとさっきからワンドの足元の床を沈めてその動きを止めようとしているのだけど、不思議なことに全く力が使えなくなっていた。
どんなにイメージをしても床はピクリとも動く様子がなかった。
この男が何かをしているのか?
俺の中で嫌な予感が急速に膨れ上がっていた。
「おお恐ろしい。あなた方のような恐ろしい人たちを相手にするのはご辞退いたしましょう。それではこれで失礼します」
ワンドが指を鳴らした。
その瞬間二人が消えた。
完全に、何の予兆も見せずに。
「リ、リンネ姫!」
「どこだ?どこに行ったのだ?」
俺たちは二人がいた場所へ殺到した。
しかし何の痕跡すら残っていなかった。
まるで最初からいなかったかのように二人は消えてしまった。
「テツヤ、二人の場所はわかるか?」
全員で背中合わせになって周囲を警戒しながらアマーリアが聞いてきた。
「駄目だ!リンネ姫の気配が完全に消えた!」
俺の土属性の力で屋敷全体をスキャンしてもリンネ姫の場所はわからなかった。
リンネ姫が身に着けているかんざしの位置すらわからない。
これもワンドという男の力なのか?だとしたら奴はとんでもない力を持っていることになる。
身体の奥が急に重たくなったような気がした。
喉が腫れ上がり、息をするのも苦しくなってくる。
早く何とかリンネ姫の位置を突き止めないと……
でもどうやって?
「皆様にはほんの些細ですが私の方から遊び相手をご用意いたしました。どうぞ存分にお楽しみくださいませ」
突然空中からワンドの声が響いてきた。
同時に屋敷から地鳴りのような音が響きだす。
「こ、これは……!」
護衛隊の黒髪おかっぱで糸目の騎士―確か名前はノーセスといって千里眼の能力持ちだったはず―がこめかみに指をあてて慌てたように叫んだ。
「大変です!屋敷中に屍人が溢れてこちらに向かってきています!…いえ、屋敷だけじゃありません!町中の人間が屍人となってこちらに向かってきています!」
「そ、それは本当なのですか?」
リンネ姫の言葉にみんなが騒然となっているけど俺には不思議と驚きがなかった。
むしろ広間に来た時からあった違和感が急に説得力を帯びてきた。
この屋敷は生命の気配が一切ないのだ。
いや、町に着いた時からそうだった。
まるで生命を感じない。
俺の土属性の力は意識していなくてもある程度気配を感じることができるけど、特にこの屋敷に入ってからそれを全く感じなくなっている。
だからかつてないくらい緊張していた。
おそらくそれは光の属性を持っているリンネ姫も同じなのだろう。
ここで唯一生きていると感じられたのはカドモインの御付きだというワンドと名乗る男くらい……
待て、何故この男だけ生きているんだ?
がばっと振り返るとそのワンドという男は俺たちから数メートル離れた場所に立っていた。
その腕にいるのは…リンネ姫?
ワンドは笑みを浮かべながら後ろからリンネ姫の首を抱えていた。
「てめえっ!何してやがる!」
叫びながら俺の背中には冷たいものが流れていた。
いつリンネ姫を?
リンネ姫は俺の目の前にいたはずなのに。
「リンネ姫!」
「姫様!」
俺の叫び声にみんなも異常な事態が起きていることを悟ったようだ。
「おっと、気付かれるのはもっと先だと思っていたんですがね。あなた、なかなか鋭いのですね。流石は帰還者だ」
ワンドが笑みを消すことなく飄々と話しかけてきた。
「てめえ…それは何の真似だ?何故俺のことを知っている」
俺はじりじりとワンドに近づいていった。
この男は何者なんだ?
今までは全くそんな気配がしなかったのに今は俺の全身がこの男は危険だと告げていた。
「き、貴様なのか…カドモイン辺境伯を生きながら屍へと変えたのは…そうして辺境伯を操っていたのだな…」
首を押さえられ、苦しげな顔をしながらリンネ姫が尋ねた。
「いかにもその通りでございますよ、リンネ姫様。この男は大層役に立ってくれました。おかげでこの屋敷のみならずこの町も私のものとなりました」
笑顔を崩さずにワンドが答える。
「実を言うとですね、あなたをこの屋敷にどう招待しようかと思案していたところなのですよ。まさかそちらから来ていただけるとは重畳というしかありませんね」
ワンドはそう言って嬉しそうに笑った。
「こうなるとあの男はもう用済みですね。こうしてあなたが手に入ったのですから」
ワンドの言葉を合図に俺の後ろで何かが倒れる音がした。
振り返るまでもなくそれはカドモイン辺境伯だと分かった。
いや、かつてカドモイン辺境伯だったもの、だ。
「今すぐリンネ姫を放せ。でないとお前を殺す」
俺たちはゆっくりとワンドとリンネ姫を囲んでいった。
少しでも怪しい動きをしたら即座に攻撃する用意をしていた。
いや、実を言うとさっきからワンドの足元の床を沈めてその動きを止めようとしているのだけど、不思議なことに全く力が使えなくなっていた。
どんなにイメージをしても床はピクリとも動く様子がなかった。
この男が何かをしているのか?
俺の中で嫌な予感が急速に膨れ上がっていた。
「おお恐ろしい。あなた方のような恐ろしい人たちを相手にするのはご辞退いたしましょう。それではこれで失礼します」
ワンドが指を鳴らした。
その瞬間二人が消えた。
完全に、何の予兆も見せずに。
「リ、リンネ姫!」
「どこだ?どこに行ったのだ?」
俺たちは二人がいた場所へ殺到した。
しかし何の痕跡すら残っていなかった。
まるで最初からいなかったかのように二人は消えてしまった。
「テツヤ、二人の場所はわかるか?」
全員で背中合わせになって周囲を警戒しながらアマーリアが聞いてきた。
「駄目だ!リンネ姫の気配が完全に消えた!」
俺の土属性の力で屋敷全体をスキャンしてもリンネ姫の場所はわからなかった。
リンネ姫が身に着けているかんざしの位置すらわからない。
これもワンドという男の力なのか?だとしたら奴はとんでもない力を持っていることになる。
身体の奥が急に重たくなったような気がした。
喉が腫れ上がり、息をするのも苦しくなってくる。
早く何とかリンネ姫の位置を突き止めないと……
でもどうやって?
「皆様にはほんの些細ですが私の方から遊び相手をご用意いたしました。どうぞ存分にお楽しみくださいませ」
突然空中からワンドの声が響いてきた。
同時に屋敷から地鳴りのような音が響きだす。
「こ、これは……!」
護衛隊の黒髪おかっぱで糸目の騎士―確か名前はノーセスといって千里眼の能力持ちだったはず―がこめかみに指をあてて慌てたように叫んだ。
「大変です!屋敷中に屍人が溢れてこちらに向かってきています!…いえ、屋敷だけじゃありません!町中の人間が屍人となってこちらに向かってきています!」
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