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1.決戦!魔王城
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トレメンデス大陸の西半分を覆う、人ならざる者の住まう土地、魔界。
その魔界の奥深く、深山幽谷の更に奥に巨大な城がそびえたっている。
そしてその城の深奥、王の間に戦いの音が響いていた。
魔界の王と人の勇者たちの最終決戦が佳境を迎えようとしていたのだ。
勇者は既に倒れ、意識を失っている。
僧侶も壁の下に倒れ込み、動く気配がない。
格闘家は倒れてきた柱の下だ。
勇者一行で動けるものは魔道士だけとなっている。
しかし魔王とて無事ではなかった。
全身からおびただしい量の紫の体液を垂れ流し、今にも倒れそうだ。
それでも尊大な態度は挫けていなかった。
「我をここまで追い詰めるとは……褒めてやるぞ、人の勇者たちよ」
体中を覆う疲労の色は消せないが、額に生えた巨大な山羊の角の下で紫の双眸は爛々と輝き、青銅色の山羊の脚はしっかりと床を踏みしめている。
「ここまで攻撃を受けてなおも立っていられるとは……まさしく魔王ですね」
よろよろと立ち上がったのは勇者一行の一人、魔道士テオフラスだ。
まだ年若く、年齢は二十代の最後に差し掛かろうとしているところだ。
濃い茶色の髪はお洒落にはこだわらず邪魔にならない程度に短く切っているだけで、その下に輝く瞳も濃い茶色だ。
一見すると大人し気な若者に見えるが、彼こそは頂点の異名を持つインビクト王国最高の魔道士だ。
しかしその魔道士テオフラスも魔王との戦いで疲弊しきっていた。
魔法を織り込んだローブは既にずたずたに裂け、耐魔防具はあらかた消し飛んでいる。
魔素の結晶であり強力な魔法を使うために欠かせない魔晶もあとわずかしか残っていない。
「魔道士よ……お主のその力、人の身であるのがもったいないほどよ」
「ありがとうございます、と言っておくべきですかね。魔王にそこまで認められるのであれば」
「全く、大したものよ。我の探知に触れるのように少人数にて城へ潜入し、この王の間から我を残して全員引き払った一瞬の隙をついて自らと共にこの部屋を封印するとはな。流石に虚を突かれたぞ」
「こちらこそ千人の魔道士が千日間かけて組み上げた千魔封殺法を単体で破り去るのは全く予想外でした。まさに人知を超えた魔族の王に相応しい強さだ」
ボロボロになるまで戦いあった二人は不敵に微笑みあった。
不思議とそこに敵意はなかった。
「どうだ、今からでも手を引いて我と組まぬか?我とお主の魔力があればこの世は思うがままだ。お主に世界の半分をくれてやるぞ」
「生憎と、世界とかに興味はないんですよ。興味があるとすれば、あなたを倒す魔法があるかどうかという事ですね」
「そうか、それならばやむを得んな」
「全くです」
「むんっ!」
先に動いたのは魔王だった。
青銅色の巨椀を振るい、手のひらから魔力弾を打ち出す。
魔素のみを摂取して生きる事が出来る純粋魔族のみが行える、詠唱を一切必要としない魔力攻撃だ。
しかしテオフラスの振るう杖は一発一発が城の城壁をも破壊するその魔力弾をことごとく弾き返す。
「光よ!」
テオフラスの振るう杖に埋め込まれた魔晶がまばゆい光を放ち、一瞬魔王の目をくらませた。
魔王の目がその光に慣れた時、テオフラスはおろか、床に倒れていたはずの勇者と僧侶の姿も消えていた。
「小賢しい真似を……」
魔王が称賛の笑みを浮かべる。
一方のテオフラスはと言うと、王の間から通路へと至る奥まった部分に身を潜めていた。
「さてどうしたものか……」
そう独り言ちていると、目の端に動くものを捉えた。
「!」
とっさに杖を向けたが、即座に緊張を解く。
そこにいたのは柱に潰されたと思われていた格闘家のフォン・レンだった。
長い黒髪を後ろで編み、切れ長の瞳をもつ美女だが魔獣を素手で打ち倒すというその実力は人界に広く響き渡っている。
今は激しい戦いで髪も乱れ、魔獣の毛を編み込んだ武闘着もところどころ破れて肌が露わになっているが一切気にする様子はない。
「無事だったようですね」
「そっちもね、テオ」
お互いに短い笑みを交わす。
(こいつは、あたしがこんなに肌を見せてても何の反応もなしかよ)
フォンは心の中で苦笑していた。
まあそれがこの男、テオフラス・ホーエンの良いところなのだが。
「二人は?」
「彼女たちなら大丈夫です。不可視不感知をかけておきました」
「流石だね。で、これからどうするんだい?」
フォンの問いにテオフラスことテオは困ったように頬をかいた。
「一つあることはあるのですが……」
その魔界の奥深く、深山幽谷の更に奥に巨大な城がそびえたっている。
そしてその城の深奥、王の間に戦いの音が響いていた。
魔界の王と人の勇者たちの最終決戦が佳境を迎えようとしていたのだ。
勇者は既に倒れ、意識を失っている。
僧侶も壁の下に倒れ込み、動く気配がない。
格闘家は倒れてきた柱の下だ。
勇者一行で動けるものは魔道士だけとなっている。
しかし魔王とて無事ではなかった。
全身からおびただしい量の紫の体液を垂れ流し、今にも倒れそうだ。
それでも尊大な態度は挫けていなかった。
「我をここまで追い詰めるとは……褒めてやるぞ、人の勇者たちよ」
体中を覆う疲労の色は消せないが、額に生えた巨大な山羊の角の下で紫の双眸は爛々と輝き、青銅色の山羊の脚はしっかりと床を踏みしめている。
「ここまで攻撃を受けてなおも立っていられるとは……まさしく魔王ですね」
よろよろと立ち上がったのは勇者一行の一人、魔道士テオフラスだ。
まだ年若く、年齢は二十代の最後に差し掛かろうとしているところだ。
濃い茶色の髪はお洒落にはこだわらず邪魔にならない程度に短く切っているだけで、その下に輝く瞳も濃い茶色だ。
一見すると大人し気な若者に見えるが、彼こそは頂点の異名を持つインビクト王国最高の魔道士だ。
しかしその魔道士テオフラスも魔王との戦いで疲弊しきっていた。
魔法を織り込んだローブは既にずたずたに裂け、耐魔防具はあらかた消し飛んでいる。
魔素の結晶であり強力な魔法を使うために欠かせない魔晶もあとわずかしか残っていない。
「魔道士よ……お主のその力、人の身であるのがもったいないほどよ」
「ありがとうございます、と言っておくべきですかね。魔王にそこまで認められるのであれば」
「全く、大したものよ。我の探知に触れるのように少人数にて城へ潜入し、この王の間から我を残して全員引き払った一瞬の隙をついて自らと共にこの部屋を封印するとはな。流石に虚を突かれたぞ」
「こちらこそ千人の魔道士が千日間かけて組み上げた千魔封殺法を単体で破り去るのは全く予想外でした。まさに人知を超えた魔族の王に相応しい強さだ」
ボロボロになるまで戦いあった二人は不敵に微笑みあった。
不思議とそこに敵意はなかった。
「どうだ、今からでも手を引いて我と組まぬか?我とお主の魔力があればこの世は思うがままだ。お主に世界の半分をくれてやるぞ」
「生憎と、世界とかに興味はないんですよ。興味があるとすれば、あなたを倒す魔法があるかどうかという事ですね」
「そうか、それならばやむを得んな」
「全くです」
「むんっ!」
先に動いたのは魔王だった。
青銅色の巨椀を振るい、手のひらから魔力弾を打ち出す。
魔素のみを摂取して生きる事が出来る純粋魔族のみが行える、詠唱を一切必要としない魔力攻撃だ。
しかしテオフラスの振るう杖は一発一発が城の城壁をも破壊するその魔力弾をことごとく弾き返す。
「光よ!」
テオフラスの振るう杖に埋め込まれた魔晶がまばゆい光を放ち、一瞬魔王の目をくらませた。
魔王の目がその光に慣れた時、テオフラスはおろか、床に倒れていたはずの勇者と僧侶の姿も消えていた。
「小賢しい真似を……」
魔王が称賛の笑みを浮かべる。
一方のテオフラスはと言うと、王の間から通路へと至る奥まった部分に身を潜めていた。
「さてどうしたものか……」
そう独り言ちていると、目の端に動くものを捉えた。
「!」
とっさに杖を向けたが、即座に緊張を解く。
そこにいたのは柱に潰されたと思われていた格闘家のフォン・レンだった。
長い黒髪を後ろで編み、切れ長の瞳をもつ美女だが魔獣を素手で打ち倒すというその実力は人界に広く響き渡っている。
今は激しい戦いで髪も乱れ、魔獣の毛を編み込んだ武闘着もところどころ破れて肌が露わになっているが一切気にする様子はない。
「無事だったようですね」
「そっちもね、テオ」
お互いに短い笑みを交わす。
(こいつは、あたしがこんなに肌を見せてても何の反応もなしかよ)
フォンは心の中で苦笑していた。
まあそれがこの男、テオフラス・ホーエンの良いところなのだが。
「二人は?」
「彼女たちなら大丈夫です。不可視不感知をかけておきました」
「流石だね。で、これからどうするんだい?」
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