追放チート魔道士、TS魔王と共に魔界で生活する

海道一人

文字の大きさ
1 / 37

1.決戦!魔王城

しおりを挟む
トレメンデス大陸の西半分を覆う、人ならざる者の住まう土地、魔界。
その魔界の奥深く、深山幽谷の更に奥に巨大な城がそびえたっている。
そしてその城の深奥、王の間に戦いの音が響いていた。

魔界の王と人の勇者たちの最終決戦が佳境を迎えようとしていたのだ。
勇者は既に倒れ、意識を失っている。
僧侶も壁の下に倒れ込み、動く気配がない。
格闘家は倒れてきた柱の下だ。
勇者一行で動けるものは魔道士だけとなっている。

しかし魔王とて無事ではなかった。
全身からおびただしい量の紫の体液を垂れ流し、今にも倒れそうだ。
それでも尊大な態度は挫けていなかった。

「我をここまで追い詰めるとは……褒めてやるぞ、人の勇者たちよ」

体中を覆う疲労の色は消せないが、額に生えた巨大な山羊の角の下で紫の双眸は爛々らんらんと輝き、青銅色の山羊の脚はしっかりと床を踏みしめている。

「ここまで攻撃を受けてなおも立っていられるとは……まさしく魔王ですね」

よろよろと立ち上がったのは勇者一行の一人、魔道士テオフラスだ。
まだ年若く、年齢は二十代の最後に差し掛かろうとしているところだ。
濃い茶色の髪はお洒落にはこだわらず邪魔にならない程度に短く切っているだけで、その下に輝く瞳も濃い茶色だ。
一見すると大人し気な若者に見えるが、彼こそは頂点バーテックスの異名を持つインビクト王国最高の魔道士だ。
しかしその魔道士テオフラスも魔王との戦いで疲弊しきっていた。
魔法を織り込んだローブは既にずたずたに裂け、耐魔防具はあらかた消し飛んでいる。
魔素の結晶であり強力な魔法を使うために欠かせない魔晶もあとわずかしか残っていない。

「魔道士よ……お主のその力、人の身であるのがもったいないほどよ」

「ありがとうございます、と言っておくべきですかね。魔王にそこまで認められるのであれば」

「全く、大したものよ。我の探知に触れるのように少人数にて城へ潜入し、この王の間から我を残して全員引き払った一瞬の隙をついて自らと共にこの部屋を封印するとはな。流石に虚を突かれたぞ」

「こちらこそ千人の魔道士が千日間かけて組み上げた千魔封殺法バイサウザントを単体で破り去るのは全く予想外でした。まさに人知を超えた魔族の王に相応しい強さだ」

ボロボロになるまで戦いあった二人は不敵に微笑みあった。
不思議とそこに敵意はなかった。

「どうだ、今からでも手を引いて我と組まぬか?我とお主の魔力があればこの世は思うがままだ。お主に世界の半分をくれてやるぞ」

「生憎と、世界とかに興味はないんですよ。興味があるとすれば、あなたを倒す魔法があるかどうかという事ですね」

「そうか、それならばやむを得んな」

「全くです」




「むんっ!」
先に動いたのは魔王だった。
青銅色の巨椀を振るい、手のひらから魔力弾を打ち出す。
魔素のみを摂取して生きる事が出来る純粋魔族のみが行える、詠唱を一切必要としない魔力攻撃だ。

しかしテオフラスの振るう杖は一発一発が城の城壁をも破壊するその魔力弾をことごとく弾き返す。

「光よ!」
テオフラスの振るう杖に埋め込まれた魔晶がまばゆい光を放ち、一瞬魔王の目をくらませた。

魔王の目がその光に慣れた時、テオフラスはおろか、床に倒れていたはずの勇者と僧侶の姿も消えていた。

「小賢しい真似を……」
魔王が称賛の笑みを浮かべる。

一方のテオフラスはと言うと、王の間から通路へと至る奥まった部分に身を潜めていた。
「さてどうしたものか……」
そう独り言ちていると、目の端に動くものを捉えた。

「!」
とっさに杖を向けたが、即座に緊張を解く。
そこにいたのは柱に潰されたと思われていた格闘家のフォン・レン風刃だった。
長い黒髪を後ろで編み、切れ長の瞳をもつ美女だが魔獣を素手で打ち倒すというその実力は人界に広く響き渡っている。
今は激しい戦いで髪も乱れ、魔獣の毛を編み込んだ武闘着もところどころ破れて肌が露わになっているが一切気にする様子はない。

「無事だったようですね」
「そっちもね、テオ」
お互いに短い笑みを交わす。
(こいつは、あたしがこんなに肌を見せてても何の反応もなしかよ)
フォンは心の中で苦笑していた。
まあそれがこの男、テオフラス・ホーエンの良いところなのだが。

「二人は?」

「彼女たちなら大丈夫です。不可視不感知アンパーセプションをかけておきました」

「流石だね。で、これからどうするんだい?」
フォンの問いにテオフラスことテオは困ったように頬をかいた。

「一つあることはあるのですが……」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

~最弱のスキルコレクター~ スキルを無限に獲得できるようになった元落ちこぼれは、レベル1のまま世界最強まで成り上がる

僧侶A
ファンタジー
沢山のスキルさえあれば、レベルが無くても最強になれる。 スキルは5つしか獲得できないのに、どのスキルも補正値は5%以下。 だからレベルを上げる以外に強くなる方法はない。 それなのにレベルが1から上がらない如月飛鳥は当然のように落ちこぼれた。 色々と試行錯誤をしたものの、強くなれる見込みがないため、探索者になるという目標を諦め一般人として生きる道を歩んでいた。 しかしある日、5つしか獲得できないはずのスキルをいくらでも獲得できることに気づく。 ここで如月飛鳥は考えた。いくらスキルの一つ一つが大したことが無くても、100個、200個と大量に集めたのならレベルを上げるのと同様に強くなれるのではないかと。 一つの光明を見出した主人公は、最強への道を一直線に突き進む。 土曜日以外は毎日投稿してます。

痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~

ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。 食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。 最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。 それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。 ※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。 カクヨムで先行投稿中!

処理中です...