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第1章:ルーク・サーベリーの帰還
第45話:暗躍と黄金
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「クソ!」
グリードは荒々しく机の脚を蹴りつけ、その痛みに顔をしかめた。
「ルークの奴が生きていただと!?あのガキ、一体どんな魔法を使ったんだ!」
「グリード卿、落ち着くのだ」
蒸留酒のグラスを傾けながらグリードをたしなめているのはアヴァリスだ。
「そうそう、まずは冷静になることですぞ」
向かいの席に座るでっぷりと太った男が焼き菓子をつまみながら頷く。
グルトン商会のトード・グルトンだ。
3人はパーティーの後でアヴァリスの私室に集まり、密会を行っていた。
「これが落ち着いてなどいられますか!奴が生きているということは私の爵位相続を不当なものとして訴えるに決まっている!そうなれば私はお終いだ!」
グリードは頭を抱えた。
「しかもよりにもよって後見人があのランパート辺境伯だと?裏冒険者共が辺境伯に捕まって厄介なことになっているというのに更にあのガキまでいるなんて!」
「それは儂も驚いたよ。まさかあの小僧がグリード卿、お主の甥だったとはな」
「アヴァリス卿、あなたもルークのことを知っていたのですか?」
「うむ、奴には散々煮え湯を飲まされている。儂にとっても奴は目の前にたかる虻となっておる」
「そ、そうですよ!しかも奴はパーティーの後でフローラ殿に謁見までしたというじゃありませんか!まさか我々のことに気付いているのでは!?」
「だから落ち着けと言っているのだ」
アヴァリスはグラスをテーブルに置くと話を続けた。
「確かに裏冒険者共が捕まったのは痛手である。とはいえ我らとの繋がりがばれたわけではあるまい。グルトン、首尾はどうなっておる」
「それはもう、連中と我々の繋がりを示す証拠はすべて処分してありますとも。何か問われても知らぬ存ぜぬで通せばよいだけのこと」
げっぷをしながらグルトンが笑う。
当然だがグルトンはそんなことはしていない。
何かあった時にトカゲのしっぽ切りにされるのは自分だとわかっているからだ。
「し、しかし……ルークのことはどうします?あいつとランパート辺境伯が一緒にいるというのは不測の事態を招きかねませんぞ!」
「わかっておる。しかし奴に直接手を下しては疑われるだけだろう」
そう言うとアヴァリスは不気味な笑みを浮かべた。
「物事には必ず要というものがある。結局この件はランパート辺境伯を黙らせてしまえばよいだけのことなのだ。例えば溺愛している一人娘を誘拐する、などな」
「ま、まさか……本気で仰っているのですか!それは流石にばれれば取り返しがつきませぬぞ!」
「ばれなければいいだけのことだ。まさか今更手を引くなどと言いだしはすまいな?そんなことをしたらどうなるか、知らぬ貴卿ではあるまい」
「……」
睨みつけるアヴァリスにグリードは青ざめた顔で沈黙するしかなかった。
アヴァリスは立ち上がると窓に向かった。
「お互いもう戻れぬところまで来ているのだ。ならば前に進むしかあるまいよ。ちょうどいい機会だ、あの一人娘を手籠めにしてしまえばランパート辺境伯も折れるだろう。ついでにあの領土も我がものとしてくれるわ」
眼下に広がるセントアロガスの街並みを見下ろすアヴァリスの顔に不気味な笑みが浮かんでいた。
◆
「こんな所に来てどうするつもりなのだ?」
ウィルフレッド卿が怪訝な顔でルークに尋ねる。
2人が今いるのは以前攻略を行った縞のダンジョンだ。
以前は攻略隊を引き連れて訪れたが今回はルークとウィルフレッド卿の2人だけだ。
「ダンジョンボスを倒してしまったからしばらく魔獣も現れないはずだが……」
「だから都合がいいんですよ。まずは入っていきましょう」
2人は奥へ奥へと入っていき、やがて最奥部の15層に辿り着いた。
「キマイラを倒したためにダンジョンの壁を壊した時にちょっと気になったことがあったんです。今からそれを確かめてみます。……崩壊」
ルークが唱えた土魔法がダンジョンの壁を崩し、巨大な岩の塊がばらばらと落ちてくる。
「やっぱり……これを見てください」
ルークは崩れ落ちた岩の欠片を拾い上げた。
真っ白い岩の間に金色の筋が走っている。
「……まさか……これは!?」
「ええ、間違いなく金です」
「馬鹿な……このダンジョンに金鉱脈が走っているなんて……聞いたこともないぞ!」
「それはおそらくあのキマイラがいたせいでしょうね。定期的に魔獣が発生するせいで誰も採掘できなかったんだと思います」
「しかもこの量……いったいこのダンジョン全体でどれほどの金が採れるのだ?」
ウィルフレッド卿は驚愕の表情でダンジョンを見渡した。
「それはまだわかりません、ですがおそらくこのダンジョンのある山全体に金鉱脈があると思います。この植物が証拠です」
ルークはそう言って懐から1本の草を取り出した。
「これはヤブムラサキと言って昔から金が採れるところに生えていると言われているんです。この山全体にヤブムラサキが生えているので可能性は高いと思いますよ」
「なんということだ……」
ウィルフレッド卿はショックのあまりフラフラとダンジョンに腰を下ろし、頭を抱えた。
「ルーク、このことは誰かに言ったのかね?」
「いえ、まだ誰にも。事情が事情だけに今まで秘密にしてきました。ウィルフレッド卿だけに来てもらったのもそのためです」
本当はアルマも誘おうとしたのだがウィルフレッド卿たっての望みでこうして2人で来たのだ。
「そうか……すまないがこのことはしばらく内密にしておいてくれないか。当然このダンジョンも封鎖する。これはかなり繊細な案件となりそうだ」
ウィルフレッド卿の心配も当然のことだった。
新たな金鉱脈が発見されたとなるとこれはもはや一領主の問題だけに留まらない。
下手したら国家の政略にも関わってくることになるのだ。
「もちろんです」
「ありがとう。しかしこれはまさしく降って湧いた幸運だな。この鉱山を稼働させることができれば我が領土は100年の安寧を得ることができるぞ」
「僕もそう思います。アヴァリスと因縁ができてしまった以上、自前で安定した収益を得るのは急務となるでしょうから」
「本当にその通りだ。借金はなくなったと言え、しばらく財政不安が続くことを危惧していたのだが、これで何とかなるだろう」
ウィルフレッド卿は立ち上がるとルークを強く抱きしめた。
「また君に助けられてしまったな」
グリードは荒々しく机の脚を蹴りつけ、その痛みに顔をしかめた。
「ルークの奴が生きていただと!?あのガキ、一体どんな魔法を使ったんだ!」
「グリード卿、落ち着くのだ」
蒸留酒のグラスを傾けながらグリードをたしなめているのはアヴァリスだ。
「そうそう、まずは冷静になることですぞ」
向かいの席に座るでっぷりと太った男が焼き菓子をつまみながら頷く。
グルトン商会のトード・グルトンだ。
3人はパーティーの後でアヴァリスの私室に集まり、密会を行っていた。
「これが落ち着いてなどいられますか!奴が生きているということは私の爵位相続を不当なものとして訴えるに決まっている!そうなれば私はお終いだ!」
グリードは頭を抱えた。
「しかもよりにもよって後見人があのランパート辺境伯だと?裏冒険者共が辺境伯に捕まって厄介なことになっているというのに更にあのガキまでいるなんて!」
「それは儂も驚いたよ。まさかあの小僧がグリード卿、お主の甥だったとはな」
「アヴァリス卿、あなたもルークのことを知っていたのですか?」
「うむ、奴には散々煮え湯を飲まされている。儂にとっても奴は目の前にたかる虻となっておる」
「そ、そうですよ!しかも奴はパーティーの後でフローラ殿に謁見までしたというじゃありませんか!まさか我々のことに気付いているのでは!?」
「だから落ち着けと言っているのだ」
アヴァリスはグラスをテーブルに置くと話を続けた。
「確かに裏冒険者共が捕まったのは痛手である。とはいえ我らとの繋がりがばれたわけではあるまい。グルトン、首尾はどうなっておる」
「それはもう、連中と我々の繋がりを示す証拠はすべて処分してありますとも。何か問われても知らぬ存ぜぬで通せばよいだけのこと」
げっぷをしながらグルトンが笑う。
当然だがグルトンはそんなことはしていない。
何かあった時にトカゲのしっぽ切りにされるのは自分だとわかっているからだ。
「し、しかし……ルークのことはどうします?あいつとランパート辺境伯が一緒にいるというのは不測の事態を招きかねませんぞ!」
「わかっておる。しかし奴に直接手を下しては疑われるだけだろう」
そう言うとアヴァリスは不気味な笑みを浮かべた。
「物事には必ず要というものがある。結局この件はランパート辺境伯を黙らせてしまえばよいだけのことなのだ。例えば溺愛している一人娘を誘拐する、などな」
「ま、まさか……本気で仰っているのですか!それは流石にばれれば取り返しがつきませぬぞ!」
「ばれなければいいだけのことだ。まさか今更手を引くなどと言いだしはすまいな?そんなことをしたらどうなるか、知らぬ貴卿ではあるまい」
「……」
睨みつけるアヴァリスにグリードは青ざめた顔で沈黙するしかなかった。
アヴァリスは立ち上がると窓に向かった。
「お互いもう戻れぬところまで来ているのだ。ならば前に進むしかあるまいよ。ちょうどいい機会だ、あの一人娘を手籠めにしてしまえばランパート辺境伯も折れるだろう。ついでにあの領土も我がものとしてくれるわ」
眼下に広がるセントアロガスの街並みを見下ろすアヴァリスの顔に不気味な笑みが浮かんでいた。
◆
「こんな所に来てどうするつもりなのだ?」
ウィルフレッド卿が怪訝な顔でルークに尋ねる。
2人が今いるのは以前攻略を行った縞のダンジョンだ。
以前は攻略隊を引き連れて訪れたが今回はルークとウィルフレッド卿の2人だけだ。
「ダンジョンボスを倒してしまったからしばらく魔獣も現れないはずだが……」
「だから都合がいいんですよ。まずは入っていきましょう」
2人は奥へ奥へと入っていき、やがて最奥部の15層に辿り着いた。
「キマイラを倒したためにダンジョンの壁を壊した時にちょっと気になったことがあったんです。今からそれを確かめてみます。……崩壊」
ルークが唱えた土魔法がダンジョンの壁を崩し、巨大な岩の塊がばらばらと落ちてくる。
「やっぱり……これを見てください」
ルークは崩れ落ちた岩の欠片を拾い上げた。
真っ白い岩の間に金色の筋が走っている。
「……まさか……これは!?」
「ええ、間違いなく金です」
「馬鹿な……このダンジョンに金鉱脈が走っているなんて……聞いたこともないぞ!」
「それはおそらくあのキマイラがいたせいでしょうね。定期的に魔獣が発生するせいで誰も採掘できなかったんだと思います」
「しかもこの量……いったいこのダンジョン全体でどれほどの金が採れるのだ?」
ウィルフレッド卿は驚愕の表情でダンジョンを見渡した。
「それはまだわかりません、ですがおそらくこのダンジョンのある山全体に金鉱脈があると思います。この植物が証拠です」
ルークはそう言って懐から1本の草を取り出した。
「これはヤブムラサキと言って昔から金が採れるところに生えていると言われているんです。この山全体にヤブムラサキが生えているので可能性は高いと思いますよ」
「なんということだ……」
ウィルフレッド卿はショックのあまりフラフラとダンジョンに腰を下ろし、頭を抱えた。
「ルーク、このことは誰かに言ったのかね?」
「いえ、まだ誰にも。事情が事情だけに今まで秘密にしてきました。ウィルフレッド卿だけに来てもらったのもそのためです」
本当はアルマも誘おうとしたのだがウィルフレッド卿たっての望みでこうして2人で来たのだ。
「そうか……すまないがこのことはしばらく内密にしておいてくれないか。当然このダンジョンも封鎖する。これはかなり繊細な案件となりそうだ」
ウィルフレッド卿の心配も当然のことだった。
新たな金鉱脈が発見されたとなるとこれはもはや一領主の問題だけに留まらない。
下手したら国家の政略にも関わってくることになるのだ。
「もちろんです」
「ありがとう。しかしこれはまさしく降って湧いた幸運だな。この鉱山を稼働させることができれば我が領土は100年の安寧を得ることができるぞ」
「僕もそう思います。アヴァリスと因縁ができてしまった以上、自前で安定した収益を得るのは急務となるでしょうから」
「本当にその通りだ。借金はなくなったと言え、しばらく財政不安が続くことを危惧していたのだが、これで何とかなるだろう」
ウィルフレッド卿は立ち上がるとルークを強く抱きしめた。
「また君に助けられてしまったな」
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