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第1章:ルーク・サーベリーの帰還
第62話:ルーク・サーベリー
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ルークの義眼には精霊が宿っている。
精霊といってもルークの魂から作り出した人工精霊だ。
魂を分離して精霊とすることでルークの解析は主観を交えることなく事実だけを見ることができる。
とはいえその力はあまりに強すぎるために普段は出力を押さえている。
ルークは今それを完全開放した。
目に映る世界が急速に減色していく。
感情が希薄になり、全ての能力がベヒーモスを倒すという一点にのみ集中していく。
今やルークの眼にはあらゆるものが数字として見えていた。
自分の身体も世界も、そしてベヒーモスも。
「左ヘ15°旋回」
体をかわしたところにベヒーモスの足が降ってくる。
「5メートル頭上、深サ2メートルデ刺突」
アダマンスライムで出来た剣がベヒーモスの前肢の脇に深々と突き刺さる。
その剣先はベヒーモスの内臓に深刻なダメージを与えた。
もちろんこれで死ぬようなベヒーモスではない。
ルークの与えた傷も見る間に回復している。
しかしルークの攻撃は止まない
ベヒーモスの動きの隙を縫って確実にダメージを与えていく。
無尽蔵の体力を持つと言われるベヒーモスだが不死身というわけではない。
傷を負えば着実に体力は奪われていくのだ。
― コノママ攻メ続ケレバ2週間後ニハベヒーモスハ行動不能ニナル ―
おそらくその時、この場に立っているのはルークだけだろう。
それに対してルークの心にほんのわずかな痛痒もなかった。
いまこここでベヒーモスを倒すこと、それがもっとも効率的に被害を押さえる方法なのだから。
絶叫と共にベヒーモスの角が光りを放つ。
1本になったとはいえまだ魔力弾を放つことはできるようだ。
― アソコニ魔力ノ壁ガアル。アレヲ盾ニシタラ更ニ隙ヲ突クコトガデキル ―
ルークはためらわず魔力が集中している場所へと飛び込んでいった。
「こ、こっちへ来るぞ!」
兵士たちの中にどよめきが起きる。
みなルークとベヒーモスの戦いを呆然と見ていた。
ルークの戦いはあまりに人間離れしていた。
まるで最初から動きが分かっているかのようにベヒーモスの攻撃をかわし、もっとも弱いと思われる部分に攻撃を与えている。
その動きはあまりに完成されていてとても手を出すことなどできなかった。
そして今、そのさなかに突然ルークが兵士たちの中に突っ込んできたのだ。
それを追ってベヒーモスが魔力弾を放とうとしている。
「ふ、防げ、全員防御魔法を展開せよ!」
ギュンター・ワイズが絶叫する。
しかしそれが無駄なことは誰の眼にも明らかだった。
圧倒的な破壊力を持った魔力弾が放たれる。
「くおおおおおっ!!!!」
新・展鎧装輪を纏ったアルマが魔力弾を受け止める。
全身がバラバラになりそうな衝撃に耐えながらなんとか弾き返した。
(ルーク、まさか今がそうなの!?)
衝撃で遠のきそうな意識の中、アルマの脳裏にイリスの言葉が蘇ってきた。
「ルークはさ、ああ見えて危ういんだよ」
イリスがそんなことを言ってきたのはアルマと2人きりになった時だった。
「いずれ必ず自分を見失う時が来る。そうなった時は自分だけじゃなく周りも傷つけることになっちまうだろう。あたしは別に気にしないんだけど、それでルークが傷つくのが嫌なんだ」
イリスの紅玉のような瞳がアルマを見つめる。
「そうなった時にルークを止めるのはアルマ、あんただよ」
「わ、私が?」
「本当はあたしがやりたいんだけどこの通り動けない身だからね。しょうがないからあんたに託すよ」
「で、でもどうやって?」
「それは……こうすんだよ」
イリスがアルマの顎をつまんだと思うと唇に唇を重ねた。
「んなっ!な、何すんのよ!」
「なにって、あたしの氣をあんたに預けたのさ。このくらいでおたおたすんじゃないよ」
「べ、別におたおたなんて……でもなんで?」
「さっきも言った通り、ルークが正気じゃなくなった時にあたしの氣をルークにぶつけてやるんだ。そうすりゃ元に戻るよ」
「ぶつけるって……どうしたらいいのよ」
「そうさね……口移しが一番効果的かな」
「く、口移しぃ!?」
「嫌なら別に体に触れるだけでも良いよ」
「い、嫌なわけないでしょ!むしろどんと来いよ!」
そう叫んで両手を広げるアルマ。
「なにしてんだい?」
「な、なんだったらあと2、3回分くれてもいいわよ」
「調子のんじゃないよ」
イリスがアルマの顔を押しのける。
「とにかく、ルークが自分の力に飲まれるようになった時は頼んだからね」
(これが、その時ってことなのね、イリス!)
アルマは鎧を解いて最小限の装甲のみにした。
既に数度にわたるベヒーモスの攻撃で新・展鎧装輪は限界に来ている。
ごてごてと覆っていても邪魔になるだけだ。
「ルーク、待っていて、私が元に戻すから!」
アルマは駆けだした。
爆風と共に飛び散る岩石をよけながらベヒーモスと激闘を繰り広げているルークに向かって走っていく。
走りながらイリスの言葉が脳裏をよぎる。
― でも気をつけるんだよ。そうなった時のルークにとってあんたはただの障害物にしか映らないはずだ。下手をしたら命の危険だってある。それを承知であんたに頼むんだけど、覚悟がないならやらないことだね ―
「そんな覚悟、とうにできてるってぇの!」
アルマが跳躍した。
上空にいたルークが振り返る。
その眼には何の感情も浮かんでいない。
まるで人の形をした機械だ。
ルークがアダマンスライムの剣をアルマに向ける。
「ルゥゥゥゥゥゥク!」
剣を突き立てようとしたルークの動きが一瞬止まる。
空に鈍い音が響き渡った。
精霊といってもルークの魂から作り出した人工精霊だ。
魂を分離して精霊とすることでルークの解析は主観を交えることなく事実だけを見ることができる。
とはいえその力はあまりに強すぎるために普段は出力を押さえている。
ルークは今それを完全開放した。
目に映る世界が急速に減色していく。
感情が希薄になり、全ての能力がベヒーモスを倒すという一点にのみ集中していく。
今やルークの眼にはあらゆるものが数字として見えていた。
自分の身体も世界も、そしてベヒーモスも。
「左ヘ15°旋回」
体をかわしたところにベヒーモスの足が降ってくる。
「5メートル頭上、深サ2メートルデ刺突」
アダマンスライムで出来た剣がベヒーモスの前肢の脇に深々と突き刺さる。
その剣先はベヒーモスの内臓に深刻なダメージを与えた。
もちろんこれで死ぬようなベヒーモスではない。
ルークの与えた傷も見る間に回復している。
しかしルークの攻撃は止まない
ベヒーモスの動きの隙を縫って確実にダメージを与えていく。
無尽蔵の体力を持つと言われるベヒーモスだが不死身というわけではない。
傷を負えば着実に体力は奪われていくのだ。
― コノママ攻メ続ケレバ2週間後ニハベヒーモスハ行動不能ニナル ―
おそらくその時、この場に立っているのはルークだけだろう。
それに対してルークの心にほんのわずかな痛痒もなかった。
いまこここでベヒーモスを倒すこと、それがもっとも効率的に被害を押さえる方法なのだから。
絶叫と共にベヒーモスの角が光りを放つ。
1本になったとはいえまだ魔力弾を放つことはできるようだ。
― アソコニ魔力ノ壁ガアル。アレヲ盾ニシタラ更ニ隙ヲ突クコトガデキル ―
ルークはためらわず魔力が集中している場所へと飛び込んでいった。
「こ、こっちへ来るぞ!」
兵士たちの中にどよめきが起きる。
みなルークとベヒーモスの戦いを呆然と見ていた。
ルークの戦いはあまりに人間離れしていた。
まるで最初から動きが分かっているかのようにベヒーモスの攻撃をかわし、もっとも弱いと思われる部分に攻撃を与えている。
その動きはあまりに完成されていてとても手を出すことなどできなかった。
そして今、そのさなかに突然ルークが兵士たちの中に突っ込んできたのだ。
それを追ってベヒーモスが魔力弾を放とうとしている。
「ふ、防げ、全員防御魔法を展開せよ!」
ギュンター・ワイズが絶叫する。
しかしそれが無駄なことは誰の眼にも明らかだった。
圧倒的な破壊力を持った魔力弾が放たれる。
「くおおおおおっ!!!!」
新・展鎧装輪を纏ったアルマが魔力弾を受け止める。
全身がバラバラになりそうな衝撃に耐えながらなんとか弾き返した。
(ルーク、まさか今がそうなの!?)
衝撃で遠のきそうな意識の中、アルマの脳裏にイリスの言葉が蘇ってきた。
「ルークはさ、ああ見えて危ういんだよ」
イリスがそんなことを言ってきたのはアルマと2人きりになった時だった。
「いずれ必ず自分を見失う時が来る。そうなった時は自分だけじゃなく周りも傷つけることになっちまうだろう。あたしは別に気にしないんだけど、それでルークが傷つくのが嫌なんだ」
イリスの紅玉のような瞳がアルマを見つめる。
「そうなった時にルークを止めるのはアルマ、あんただよ」
「わ、私が?」
「本当はあたしがやりたいんだけどこの通り動けない身だからね。しょうがないからあんたに託すよ」
「で、でもどうやって?」
「それは……こうすんだよ」
イリスがアルマの顎をつまんだと思うと唇に唇を重ねた。
「んなっ!な、何すんのよ!」
「なにって、あたしの氣をあんたに預けたのさ。このくらいでおたおたすんじゃないよ」
「べ、別におたおたなんて……でもなんで?」
「さっきも言った通り、ルークが正気じゃなくなった時にあたしの氣をルークにぶつけてやるんだ。そうすりゃ元に戻るよ」
「ぶつけるって……どうしたらいいのよ」
「そうさね……口移しが一番効果的かな」
「く、口移しぃ!?」
「嫌なら別に体に触れるだけでも良いよ」
「い、嫌なわけないでしょ!むしろどんと来いよ!」
そう叫んで両手を広げるアルマ。
「なにしてんだい?」
「な、なんだったらあと2、3回分くれてもいいわよ」
「調子のんじゃないよ」
イリスがアルマの顔を押しのける。
「とにかく、ルークが自分の力に飲まれるようになった時は頼んだからね」
(これが、その時ってことなのね、イリス!)
アルマは鎧を解いて最小限の装甲のみにした。
既に数度にわたるベヒーモスの攻撃で新・展鎧装輪は限界に来ている。
ごてごてと覆っていても邪魔になるだけだ。
「ルーク、待っていて、私が元に戻すから!」
アルマは駆けだした。
爆風と共に飛び散る岩石をよけながらベヒーモスと激闘を繰り広げているルークに向かって走っていく。
走りながらイリスの言葉が脳裏をよぎる。
― でも気をつけるんだよ。そうなった時のルークにとってあんたはただの障害物にしか映らないはずだ。下手をしたら命の危険だってある。それを承知であんたに頼むんだけど、覚悟がないならやらないことだね ―
「そんな覚悟、とうにできてるってぇの!」
アルマが跳躍した。
上空にいたルークが振り返る。
その眼には何の感情も浮かんでいない。
まるで人の形をした機械だ。
ルークがアダマンスライムの剣をアルマに向ける。
「ルゥゥゥゥゥゥク!」
剣を突き立てようとしたルークの動きが一瞬止まる。
空に鈍い音が響き渡った。
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