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第2章:勇者と商人
第81話:花崗岩のダンジョン最下層
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「どうすんだよ、ランカー。結局あいつらが来ちまったじゃねえか」
「……少し黙っていろ。考え中だ」
ランカーは苛々と答えながら前を進んでいるルークたち一行を睨みつけた。
先ほどのキックの言葉は図星だった。
ルークたちが集めた素材をそっくりいただき、ダンジョンボスはこちらで倒して最終討伐権もいただくのがランカーの計画だった。
しかしそれも覆されてしまった。
しかしダンジョンボスの遺留物はなんとしても必要だ。
これがあるのとないのとでは冒険者としての実績が全く違ってくる。
当然だが《蒼穹の鷹》の全員が最終討伐権を狙っていた。
「しかし考えようによっては状況は変わってないのでは」
レスリーが小声で呟いた。
「結局連中は獣人を守らなくてはいけない。ならばダンジョンボスに関わっている暇はないでしょう。ダンジョンボスの注意を連中に引き付けることができれば本来の作戦と何ら変わらないはず」
「そ、そうだ、その通りだ!」
ランカーが相づちを打つ。
元々獣人は魔獣の注意を引き付ける役として雇っているのだ。
そこに護衛としてルークたちが加わっても囮としての本質は変わらない。
むしろ連中が守ってくれれば更に長持ちする可能性もあり得る。
「よし、我々の作戦は決まったぞ。レスリー、ボス戦の直前に奴らに敵意付与の魔法をかけろ。戦いの間もひたすらかけ続けるんだ。その間に我々がボスを叩く」
「……臨時ボーナスは弾んでもらいますからね。最終討伐権を放棄するわけですから」
「当然だ。ついでに事前に我々に付与魔法もかけておいてくれ。ありったけだ」
「了解」
「エセル、レスリーが使えなくなった以上、援護魔法は任せたぞ」
「え~、それつまんないんだけど~私の本職は攻撃魔法なんだし~ちんたら援護魔法なんてかけてらんないんだけど~」
「いいから黙って従え。今回は我々の中で最終討伐権を争ってる場合じゃないんだ。なんとしても連中に取らせないようにするのが最優先事項だ」
「へいへい」
肩をすくめながらエセルが頷く。
「見てろよ、ルークと貧乏獣人どもめ。私に逆らったらどうなるのか目にもの見せてやる」
ランカーの眼に憎しみの炎が燃えていた。
◆
「前と変わっていないならこの奥がダンジョンボスの間っす」
緊張した面持ちでキックが前方を指差した。
通路は目の前に大きく曲がって闇の中に消えている。
「前はキラービートルってボスだったんすけど、今はどんな奴がいるのやら」
「とにかく注意しながら行ってみよう」
通路の奥は巨大なドームになっていた。
点在する魔石の明かりがぼんやりとドームを照らしている。
その奥に巨大な影が蠢いていた。
まだルークたちが来たことには気づいていないらしく、背を向けて一心不乱に何かを食べている。
ボリ……クチャ……という不気味な咀嚼音がルークたちの耳にも届いていた。
影が肩越しに何かを放り投げてきた。
地響きと共に地に落ちたそれは巨大な甲虫の頭だった。
「こ……これは……キラービートルっすよ。あいつ……ここの元ダンジョンボスを飯代わりにしてやがる……!」
キックが青ざめた顔で呟いた。
「よかった。今度は虫じゃなかった」
アルマがホッと胸をなでおろす。
「いや、それどころじゃないんすけど……」
「あれはおそらくサイクロプスだろうね」
ルークが呟く。
「知能が高くて凶暴なことで知られている魔獣だよ。でもまだこっちには気付いていない。いまのうちに準備を整えておこう」
その瞬間、ルークは背後で魔法の気配が膨れ上がったのを感じた。
「敵意付与!」
直後にルークとその一行が光に包まれ、サイクロプスが何かに気付いたように頭をこちらに向ける。
巨大な頭蓋の中央に鎮座する大皿のような眼がこちらを見ている。
「まさか!?」
振り向くとそこには杖を振り上げたレスリーの姿があった。
「ゴアアアアアッ」
サイクロプスが吠え、周囲が領域封鎖で封鎖される。
手元に転がった丸太のような棍棒を拾い上げたサイクロプスがこちらに迫ってきた。
「フフフ……フハハハハハ!」
背後でランカーの高笑いが響いた。
「貴様らはそこでその魔獣の相手をしてもらうぞ!その間に我々が仕留めてやる」
「あいつら……どこまで汚えんだ!」
キックが歯ぎしりをする。
「まずは身を守るのが先です!」
ルークが防御魔法を展開する。
そこへサイクロプスの棍棒が降ってきた。
まともに当たれば十人は吹き飛ばされそうな強打だ。
「はあっ!」
その背中をランカーが斬りつける。
「グオオオオッ!」
サイクロプスの咆哮が響き渡るがその眼はルークたちに注がれたままだ。
むしろ攻撃されたことでその敵意がますます強くなっている。
「ガアアアアッ」
サイクロプスが嵐のように棍棒を振り下ろしてきた。
反撃する隙もないほどの強烈な乱打にルークは防御魔法を張ることしかできない。
「ハハァッ!ざまあみろや!そこでサイクロプスの相手をしていろ!耐えてくれた方が俺たちもやりやすいってもんだ!」
グスタフが嘲笑しながら巨大な戦槌をサイクロプスの頭に叩きつける。
それでもサイクロプスは微動だにしない。
「チッ!うすらでかいだけに耐久力だけはありやがる!」
「ま、攻撃してりゃいつかは倒れるでしょ」
攻撃魔法を放ちながらエセルがあくび混じりに答える。
「一方的に攻撃できるのは楽だけど味気ないのよね~」
それでもサイクロプスの攻撃はひたすらルークたちに向けられ、魔法の効果が切れそうになると間髪を入れずにレスリーが追加の敵意付与をかけてくる。
その間にランカーたちは一方的に攻撃を続けていた。
「畜生!これじゃ手の打ちようがねえ!こうなったら一か八か俺が……」
「大丈夫だよ。もう準備は出来たから」
決心したように剣を握りしめるキックをルークが手で制する。
「アルマ、いつでもいいよ」
その瞬間、斬りかかっていたランカーとグスタフもろともサイクロプスが吹き飛んだ。
「……少し黙っていろ。考え中だ」
ランカーは苛々と答えながら前を進んでいるルークたち一行を睨みつけた。
先ほどのキックの言葉は図星だった。
ルークたちが集めた素材をそっくりいただき、ダンジョンボスはこちらで倒して最終討伐権もいただくのがランカーの計画だった。
しかしそれも覆されてしまった。
しかしダンジョンボスの遺留物はなんとしても必要だ。
これがあるのとないのとでは冒険者としての実績が全く違ってくる。
当然だが《蒼穹の鷹》の全員が最終討伐権を狙っていた。
「しかし考えようによっては状況は変わってないのでは」
レスリーが小声で呟いた。
「結局連中は獣人を守らなくてはいけない。ならばダンジョンボスに関わっている暇はないでしょう。ダンジョンボスの注意を連中に引き付けることができれば本来の作戦と何ら変わらないはず」
「そ、そうだ、その通りだ!」
ランカーが相づちを打つ。
元々獣人は魔獣の注意を引き付ける役として雇っているのだ。
そこに護衛としてルークたちが加わっても囮としての本質は変わらない。
むしろ連中が守ってくれれば更に長持ちする可能性もあり得る。
「よし、我々の作戦は決まったぞ。レスリー、ボス戦の直前に奴らに敵意付与の魔法をかけろ。戦いの間もひたすらかけ続けるんだ。その間に我々がボスを叩く」
「……臨時ボーナスは弾んでもらいますからね。最終討伐権を放棄するわけですから」
「当然だ。ついでに事前に我々に付与魔法もかけておいてくれ。ありったけだ」
「了解」
「エセル、レスリーが使えなくなった以上、援護魔法は任せたぞ」
「え~、それつまんないんだけど~私の本職は攻撃魔法なんだし~ちんたら援護魔法なんてかけてらんないんだけど~」
「いいから黙って従え。今回は我々の中で最終討伐権を争ってる場合じゃないんだ。なんとしても連中に取らせないようにするのが最優先事項だ」
「へいへい」
肩をすくめながらエセルが頷く。
「見てろよ、ルークと貧乏獣人どもめ。私に逆らったらどうなるのか目にもの見せてやる」
ランカーの眼に憎しみの炎が燃えていた。
◆
「前と変わっていないならこの奥がダンジョンボスの間っす」
緊張した面持ちでキックが前方を指差した。
通路は目の前に大きく曲がって闇の中に消えている。
「前はキラービートルってボスだったんすけど、今はどんな奴がいるのやら」
「とにかく注意しながら行ってみよう」
通路の奥は巨大なドームになっていた。
点在する魔石の明かりがぼんやりとドームを照らしている。
その奥に巨大な影が蠢いていた。
まだルークたちが来たことには気づいていないらしく、背を向けて一心不乱に何かを食べている。
ボリ……クチャ……という不気味な咀嚼音がルークたちの耳にも届いていた。
影が肩越しに何かを放り投げてきた。
地響きと共に地に落ちたそれは巨大な甲虫の頭だった。
「こ……これは……キラービートルっすよ。あいつ……ここの元ダンジョンボスを飯代わりにしてやがる……!」
キックが青ざめた顔で呟いた。
「よかった。今度は虫じゃなかった」
アルマがホッと胸をなでおろす。
「いや、それどころじゃないんすけど……」
「あれはおそらくサイクロプスだろうね」
ルークが呟く。
「知能が高くて凶暴なことで知られている魔獣だよ。でもまだこっちには気付いていない。いまのうちに準備を整えておこう」
その瞬間、ルークは背後で魔法の気配が膨れ上がったのを感じた。
「敵意付与!」
直後にルークとその一行が光に包まれ、サイクロプスが何かに気付いたように頭をこちらに向ける。
巨大な頭蓋の中央に鎮座する大皿のような眼がこちらを見ている。
「まさか!?」
振り向くとそこには杖を振り上げたレスリーの姿があった。
「ゴアアアアアッ」
サイクロプスが吠え、周囲が領域封鎖で封鎖される。
手元に転がった丸太のような棍棒を拾い上げたサイクロプスがこちらに迫ってきた。
「フフフ……フハハハハハ!」
背後でランカーの高笑いが響いた。
「貴様らはそこでその魔獣の相手をしてもらうぞ!その間に我々が仕留めてやる」
「あいつら……どこまで汚えんだ!」
キックが歯ぎしりをする。
「まずは身を守るのが先です!」
ルークが防御魔法を展開する。
そこへサイクロプスの棍棒が降ってきた。
まともに当たれば十人は吹き飛ばされそうな強打だ。
「はあっ!」
その背中をランカーが斬りつける。
「グオオオオッ!」
サイクロプスの咆哮が響き渡るがその眼はルークたちに注がれたままだ。
むしろ攻撃されたことでその敵意がますます強くなっている。
「ガアアアアッ」
サイクロプスが嵐のように棍棒を振り下ろしてきた。
反撃する隙もないほどの強烈な乱打にルークは防御魔法を張ることしかできない。
「ハハァッ!ざまあみろや!そこでサイクロプスの相手をしていろ!耐えてくれた方が俺たちもやりやすいってもんだ!」
グスタフが嘲笑しながら巨大な戦槌をサイクロプスの頭に叩きつける。
それでもサイクロプスは微動だにしない。
「チッ!うすらでかいだけに耐久力だけはありやがる!」
「ま、攻撃してりゃいつかは倒れるでしょ」
攻撃魔法を放ちながらエセルがあくび混じりに答える。
「一方的に攻撃できるのは楽だけど味気ないのよね~」
それでもサイクロプスの攻撃はひたすらルークたちに向けられ、魔法の効果が切れそうになると間髪を入れずにレスリーが追加の敵意付与をかけてくる。
その間にランカーたちは一方的に攻撃を続けていた。
「畜生!これじゃ手の打ちようがねえ!こうなったら一か八か俺が……」
「大丈夫だよ。もう準備は出来たから」
決心したように剣を握りしめるキックをルークが手で制する。
「アルマ、いつでもいいよ」
その瞬間、斬りかかっていたランカーとグスタフもろともサイクロプスが吹き飛んだ。
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