追放王子と出奔魔法使いの一冬の話

ブリリアント・ちむすぶ

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ネズミの悲鳴

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 カゴに入れたネズミたちの悲鳴のような鳴き声が何も無い雪原に響いた。
 
「ふ、ふふふふ……。完璧だ。115匹。それを、1時間で!!!」

 上機嫌のシャオは近くの村から屋敷までの距離を猛スピードで戻りながら呟いた。辺りの雪がシャオの進んだ道を指し示すかのように抉れて地面の土がむき出しになってゆく。
 人間、やはり気合いだ。気合いがあれば浮遊魔法を使っても3時間かかる村に30分で行けるのだから、なんだかんだ結局気合いがモノを言うのだろう。
 アランからネズミを100匹もってこいと言われたネズミについては結局、100匹という数を屋敷の中で揃えることは不可能なため、近場の村に行き、ネズミ用の毒餌と引き換えに貰ってくることにした。
 村人は喜んでその毒餌を受け取った。厳しい寒冷地。保存食を食い荒らすネズミは村の人間にとっては悩みの種だったらしい。
 想像以上に喜ばれ、ネズミ以外にもいくつか肉など貰ったシャオはそれを大切に懐に入れながら帰路についた。

ーー主はお眠りになっているのだろうか……?

 いつもは1時間に1回は鈴の音が鳴り、アランからの呼び出しがあるのだが、今日はまだ来ない。
 何度も屋敷と村を往復しないことについては助かったが、全く呼び出しがないというのも不安である。
 ただ、あくまでアランからの呼び出しがないという話なので屋敷の周囲に張り巡らした探知魔法やアランの服や屋敷に仕込んだ防御魔法にはなんの反応もない。
 おそらく朝起きるのが早い分、今眠りに着いているかなにかに没頭しているのかのどちらだろう。
 ルカの方もシャオが行く前に屋敷周囲の草むしりを頼んでおいた。この地域の草は根が強く、雪でも吹雪でも関係なく生い茂る。
 見栄えが悪いため定期的に抜くようにしているが、これがなかなかの重労働でシャオですらも骨が折れる作業だ。
 勝手に屋敷にも入られないよう、施錠魔法もかけてある。
 今頃寒さに震えながら草むしりをしているに違い無い。
 そう考えながら、シャオは主の喜ぶ顔を見るべくさらに浮遊魔法の速度を上げた。 
 屋敷に着くと、屋敷の正面にはルカの姿はなかった。きっと裏手の方の草むしりをしているのだろう。もう1時間ほどしたら魔法を解いてやろうかと考え、シャオは屋敷の中に入る。
 カゴに入れたネズミたちはすっかり大人しくなっていた。主を不快にさせないのならば問題は無い。
 シャオはアランの行方を探した。
 すると、2階の執務室の方で誰かの話し声がした。一人ではないその声にシャオは耳を傾ける。
 話し声の人数は2人。アランと――、ルカだ。

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