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星
タルドとラナ
しおりを挟む「旦那様!」
驚いたように声を上げるラナは弾かれたように椅子から立ち上がり、姿勢を正した。
タルドはラナのその慌てた様子に少し笑みを浮かべながらマナの方を見遣る。
「……熱は下がったのか?」
タルドの思いやる様な言葉に応えるようにマナもベッドの上で簡単な挨拶をしてから答えた。
「ご心配ありがとうございます。熱は下がり、足の方はまだ時間がかかるとの事です」
「……そうか」
「ええ。念の為明日もお医者様が様子を見にこられるとのことです」
「……あぁ」
歯切れが悪い返答のタルドによほど自分は心配をかけてしまったのだと言う気持ちが膨らむ。
「あ、わ、私、お茶いれてきますね!」
「え、ええ」
「待て」
部屋から出ようとしたラナをタルドはとめた。
そしてタルドは視線を交差させ、ブツブツと何かを呟いている。
「……えっと、その、どうされましたか?」
「……その、だな」
「ええ」
「………………」
突然黙り込んだタルドにマナとラナは2人で顔を見合せる。
せっかく空いた椅子にも座らず立ったままモゴモゴと口を動かすタルドをマナは不思議そうに見た。
「どう、されましたか?」
「………………」
「………………」
「……あの! お茶、持ってきますね!」
「いい、その、ここにいてくれ」
再度気をつかって茶を持ってこようとしたラナをタルドは再度とめた。
さらに幾ばくの沈黙の後、タルドは重々しい口をようやく開いた。
「……マナ」
「はい」
「……その、すまなかった。色々」
「いえ! 私こそ」
「いや、俺がお前についてもっと考えればよかったんだ」
食い入るように話を割ったタルドは先ほどの沈黙が嘘のように言葉を続ける。
「俺は、ミアナが亡くなってからお前と結婚することになった時、正直お前のことは愛していなかった」
「…………ええ」
知っていた。
タルドの心にはミアナがいた。
だからこそマナとベッドを共にすることも、食事をすることもできなかったのだ。
それに安心したというのも事実だ。
マナだってミアナの事は忘れられず、タルドをいつまでもミアナの婚約者と思ってみていたのだから。
「それは、ミアナを忘れるのが嫌だったんだ。俺はミアナをあいしている。お前と夫婦になることで、ミアナを忘れてしまわないか不安だったんだ」
あの夜の日、泣きながらタルドが言った「ミアナは死んだ」という言葉を思い出す。
マナは促すように頷いた。
「だが、マナがミアナのことを忘れるなと言ってくれた。それで俺はどれだけ救われたか」
「……ええ」
マナは頷いた。
今でもそれは思っている 。
マナとタルドの共通点であるミアナの愛情は膨大なものだとマナは知っている。
タルドは言葉を続けた。
「俺はミアナしかもう愛せないと思っていた。例え、妹であるマナのことも。けど、ミアナとの愛は別に、また育めばいいと、お前は教えてくれた」
「……タルド様」
タルドはそう言って、懐から小さな箱を出した。
その箱には見覚えがあった。
結婚式の時に1回だけ見たこの家から代々受け継ぐ指輪の入った箱。
タルドは箱を開き、指輪を出す。
美しいダイヤの煌めきが目に眩しいくらいだった。
「マナ、俺と、夫婦になってくれないか」
タルドの濃いブルーの瞳に見つめられたマナはタルドの言葉に固まる。
まさかの言葉だった。
マナは息を吸った。
「…………はい」
タルドの顔が綻んだのをマナは初めてみた。
タルドは見惚れているラナの方を向いた。
「ラナ、お前一人だが見届け人になってくれないか? 」
ラナはタルドの言葉に首をゆっくり横に降った。
そして、満面の笑みで答えた。
「いいえ。私だけではおりません。ミアナ様も今、ここにいらっしゃいます」
幸せそうに頭上を見るラナにタルドとマナは互いに笑い合いあった。
タルドは指輪を取り出し、マナの左手の薬指に指輪を通した。
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