28 / 69
ユウヤ
しおりを挟む
誰かの気配がした。
寝ぼけた視界の中、トオルはゆっくりと目を開ける。
まさかもう朝になったのかと疑ったが、窓から見える外はまだ暗い。
だが、部屋の明かりが着いている。自分は確か部屋の明かりを付けずに家に入りそのまま寝たはずだ。ついているはずがない。
じゃあ、まさかあの3人がーー? そう思い、トオルは急いで目を開けた。
「ごめん、起こした」
「……」
目の前にいたのは、自分だった。
いや、違う。もう自分ではない。ユウヤだ。
そのユウヤが、目の前にいる。
一瞬、夢なのかと思いかけたが、そうではない。
確かにユウヤだ。
手にはホウキ。これは玄関の横にあったものだ。ホウキがあった場所には松葉杖が置かれている。どうやら松葉杖は家では使っていないようで、ユウヤは器用に片足で歩きながら箒で畳を掃いていた。
「起きたなら、体、洗ってきて」
「……」
ユウヤの視線がトオルの体に向けられる。
そこでようやく自分が汗だくだったことに気づく。
ここ最近、悪夢にうなされることが多く、起きた時には決まって汗まみれになっていた。
今もそうだ。全身から噴き出した汗のせいで気持ちが悪い。
確かに、汗を流したいが、それよりもトオルは気になることがあった。
「どうして、ここに」
「……ちょっと、気になって」
ユウヤの少し申し訳なさそうな顔をした後に、勝手に家に入ったことへの謝罪をした。
「鍵、かけてなかったからさ、勝手に入った」
「……そういえば鍵、掛け忘れたかも」
「ま、こんなボロアパートに泥棒も入らないと思うけど」
ユウヤは苦笑しながら答える。
トオルの顔で話すユウヤと話していると鏡に向かって話しているような気分になる。寝起きも相まって頭が上手く働かない。
「そっちも掃除したいから。体、洗ってきて」
「……う、うん」
ユウヤに急かされ、トオルは風呂場に向かう。
下着を脱ぎ、汗でびしょ濡れの体をシャワーで流した。
「……」
今まで、体を洗うにしても朝の数分で終わらせていた。 髪も体も丁寧に洗うことはせず、最低限水に濡らすだけのシャワーだけでは汚れが落ち切れるわけない。
さすがにユウヤも素の自分がこんなに落ちぶれているとは思わなかったのだろう。
体を洗い、タオルで体を拭きながら鏡を見る。
痩せ細り、目元には濃い隈。こんな姿、誰だって心配する。
念の為、もう一度シャワーを浴び直し、トオルはシャワーから出た。出ると、真新しい下着が置いてある。それを有難く着用し、使っていなかったパジャマを着てユウヤのところに戻ると、ユウヤは部屋の片付けを完璧にしていた。
ゴミはまとめられ、明日のゴミ出しがしやすいように玄関にまとめられてある。
それ以外にも部屋の隅々を掃除してくれたようで、部屋の雰囲気が格段に良くなっていた。
「……すごい」
「慣れてるから、ね」
当たり前のようにいうユウヤだが、よく足を怪我した状態でここまで出来たものだと感心する。
トオルには出来ない。
ユウヤは買ってきたペットボトルをコップに入れ、トオルの前に差し出す。
「……その、桐島、君」
「ユウヤでいいよ。俺も、トオルって呼ぶから」
ユウヤの言葉にトオルが頷いたのを見たユウヤは、小さく笑ったあと、持ってきたカバンからいくつかのタッパーを出した。
「とりあえず、何か腹に入れよう」
タッパーの中身には調理済みの料理がたんまりと入っている。透明な容器に透けているうちの1つを、トオルは見たことがあった。
トオルのそのタッパーを指さす。
「……これって」
「君のお母さんが作ってくれた、シーフード炒め。冷蔵庫にあったから持ってきた。食べる?」
トオルは無言で何度も首を縦に振った。
ユウヤはそれを見て、台所へ行きタッパーの中身を電子レンジに入れる。
その間に別のタッパー中身からいくつかのおにぎりをトオルの前に置く。
「先にこれ」
ユウヤの言葉を聞きながら、トオルは目の前に置かれたおにぎりを手に取り、頬張る。口の中に塩味が広がる。中身は鮭だ。
この味は知っている。
トオルの家でよく使っている鮭フレークの味だ。
母は鮭フレークが好きだった。鮭フレークの味にはうるさく、よくどこかで取り寄せた瓶詰の鮭フレークが冷蔵庫に入っているのを、小腹がすいたときに米にかけて食べていたのだ。
それなりの大きさのあるそれをほぼ丸のみに近い形で食べ、もう1つのおにぎりの方に手を伸ばす。
一口食べると、こちらは鮭フレークではない具がたんまりと入っていた。中身は味噌漬けした魚で、これはおそらく父親が買ったきり手を付けていない缶詰めをおにぎりの具材として使ったものだろう。
出張で地方に行くとき、父親はその土地名産の缶詰めを良く買っていた。それをすぐではなく半年後であるとか期間を開けて家酒の肴にしているのをユウヤは知っているのだろうか。
もし知らずにユウヤが使っているのだとしたら、後でユウヤは父親から長い説教をされるだろう。それを、トオルは言ってやるべきだ。
「……」
トオルの両親は、共働きだった。
子育てよりも仕事が好きな人達で、休みだって一緒になることはない。
親と3人で食卓を囲んだことなどここ数年は3ヶ月に1度ああるかないか。トオル自身、高校生になった今では親とそこまで積極的に話そうとは思わない。
トオルが猛勉強をし入った高校の入学式の時でさえ、仕事を理由に来なかった親だ。
仕事ではよくても、親としては失格だ。
「……うっ、……うっ……」
それでも、トオルは自分の親のことは嫌いではなかった。
両親の思い出を思い出しながら、おにぎりを食べ進める度に、泪がこぼれる。
ちゃぶ台の上に小さな水たまりが出来たのを、ユウヤは静かに眺めていた。
寝ぼけた視界の中、トオルはゆっくりと目を開ける。
まさかもう朝になったのかと疑ったが、窓から見える外はまだ暗い。
だが、部屋の明かりが着いている。自分は確か部屋の明かりを付けずに家に入りそのまま寝たはずだ。ついているはずがない。
じゃあ、まさかあの3人がーー? そう思い、トオルは急いで目を開けた。
「ごめん、起こした」
「……」
目の前にいたのは、自分だった。
いや、違う。もう自分ではない。ユウヤだ。
そのユウヤが、目の前にいる。
一瞬、夢なのかと思いかけたが、そうではない。
確かにユウヤだ。
手にはホウキ。これは玄関の横にあったものだ。ホウキがあった場所には松葉杖が置かれている。どうやら松葉杖は家では使っていないようで、ユウヤは器用に片足で歩きながら箒で畳を掃いていた。
「起きたなら、体、洗ってきて」
「……」
ユウヤの視線がトオルの体に向けられる。
そこでようやく自分が汗だくだったことに気づく。
ここ最近、悪夢にうなされることが多く、起きた時には決まって汗まみれになっていた。
今もそうだ。全身から噴き出した汗のせいで気持ちが悪い。
確かに、汗を流したいが、それよりもトオルは気になることがあった。
「どうして、ここに」
「……ちょっと、気になって」
ユウヤの少し申し訳なさそうな顔をした後に、勝手に家に入ったことへの謝罪をした。
「鍵、かけてなかったからさ、勝手に入った」
「……そういえば鍵、掛け忘れたかも」
「ま、こんなボロアパートに泥棒も入らないと思うけど」
ユウヤは苦笑しながら答える。
トオルの顔で話すユウヤと話していると鏡に向かって話しているような気分になる。寝起きも相まって頭が上手く働かない。
「そっちも掃除したいから。体、洗ってきて」
「……う、うん」
ユウヤに急かされ、トオルは風呂場に向かう。
下着を脱ぎ、汗でびしょ濡れの体をシャワーで流した。
「……」
今まで、体を洗うにしても朝の数分で終わらせていた。 髪も体も丁寧に洗うことはせず、最低限水に濡らすだけのシャワーだけでは汚れが落ち切れるわけない。
さすがにユウヤも素の自分がこんなに落ちぶれているとは思わなかったのだろう。
体を洗い、タオルで体を拭きながら鏡を見る。
痩せ細り、目元には濃い隈。こんな姿、誰だって心配する。
念の為、もう一度シャワーを浴び直し、トオルはシャワーから出た。出ると、真新しい下着が置いてある。それを有難く着用し、使っていなかったパジャマを着てユウヤのところに戻ると、ユウヤは部屋の片付けを完璧にしていた。
ゴミはまとめられ、明日のゴミ出しがしやすいように玄関にまとめられてある。
それ以外にも部屋の隅々を掃除してくれたようで、部屋の雰囲気が格段に良くなっていた。
「……すごい」
「慣れてるから、ね」
当たり前のようにいうユウヤだが、よく足を怪我した状態でここまで出来たものだと感心する。
トオルには出来ない。
ユウヤは買ってきたペットボトルをコップに入れ、トオルの前に差し出す。
「……その、桐島、君」
「ユウヤでいいよ。俺も、トオルって呼ぶから」
ユウヤの言葉にトオルが頷いたのを見たユウヤは、小さく笑ったあと、持ってきたカバンからいくつかのタッパーを出した。
「とりあえず、何か腹に入れよう」
タッパーの中身には調理済みの料理がたんまりと入っている。透明な容器に透けているうちの1つを、トオルは見たことがあった。
トオルのそのタッパーを指さす。
「……これって」
「君のお母さんが作ってくれた、シーフード炒め。冷蔵庫にあったから持ってきた。食べる?」
トオルは無言で何度も首を縦に振った。
ユウヤはそれを見て、台所へ行きタッパーの中身を電子レンジに入れる。
その間に別のタッパー中身からいくつかのおにぎりをトオルの前に置く。
「先にこれ」
ユウヤの言葉を聞きながら、トオルは目の前に置かれたおにぎりを手に取り、頬張る。口の中に塩味が広がる。中身は鮭だ。
この味は知っている。
トオルの家でよく使っている鮭フレークの味だ。
母は鮭フレークが好きだった。鮭フレークの味にはうるさく、よくどこかで取り寄せた瓶詰の鮭フレークが冷蔵庫に入っているのを、小腹がすいたときに米にかけて食べていたのだ。
それなりの大きさのあるそれをほぼ丸のみに近い形で食べ、もう1つのおにぎりの方に手を伸ばす。
一口食べると、こちらは鮭フレークではない具がたんまりと入っていた。中身は味噌漬けした魚で、これはおそらく父親が買ったきり手を付けていない缶詰めをおにぎりの具材として使ったものだろう。
出張で地方に行くとき、父親はその土地名産の缶詰めを良く買っていた。それをすぐではなく半年後であるとか期間を開けて家酒の肴にしているのをユウヤは知っているのだろうか。
もし知らずにユウヤが使っているのだとしたら、後でユウヤは父親から長い説教をされるだろう。それを、トオルは言ってやるべきだ。
「……」
トオルの両親は、共働きだった。
子育てよりも仕事が好きな人達で、休みだって一緒になることはない。
親と3人で食卓を囲んだことなどここ数年は3ヶ月に1度ああるかないか。トオル自身、高校生になった今では親とそこまで積極的に話そうとは思わない。
トオルが猛勉強をし入った高校の入学式の時でさえ、仕事を理由に来なかった親だ。
仕事ではよくても、親としては失格だ。
「……うっ、……うっ……」
それでも、トオルは自分の親のことは嫌いではなかった。
両親の思い出を思い出しながら、おにぎりを食べ進める度に、泪がこぼれる。
ちゃぶ台の上に小さな水たまりが出来たのを、ユウヤは静かに眺めていた。
2
あなたにおすすめの小説
寮生活のイジメ【社会人版】
ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説
【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】
全四話
毎週日曜日の正午に一話ずつ公開
告白ごっこ
みなみ ゆうき
BL
ある事情から極力目立たず地味にひっそりと学園生活を送っていた瑠衣(るい)。
ある日偶然に自分をターゲットに告白という名の罰ゲームが行われることを知ってしまう。それを実行することになったのは学園の人気者で同級生の昴流(すばる)。
更に1ヶ月以内に昴流が瑠衣を口説き落とし好きだと言わせることが出来るかということを新しい賭けにしようとしている事に憤りを覚えた瑠衣は一計を案じ、自分の方から先に告白をし、その直後に全てを知っていると種明かしをすることで、早々に馬鹿げたゲームに決着をつけてやろうと考える。しかし、この告白が原因で事態は瑠衣の想定とは違った方向に動きだし……。
テンプレの罰ゲーム告白ものです。
表紙イラストは、かさしま様より描いていただきました!
ムーンライトノベルズでも同時公開。
[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった
ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン
モデル事務所で
メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才
中学時代の初恋相手
高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が
突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。
昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき…
夏にピッタリな青春ラブストーリー💕
オメガ修道院〜破戒の繁殖城〜
トマトふぁ之助
BL
某国の最北端に位置する陸の孤島、エゼキエラ修道院。
そこは迫害を受けやすいオメガ性を持つ修道士を保護するための施設であった。修道士たちは互いに助け合いながら厳しい冬越えを行っていたが、ある夜の訪問者によってその平穏な生活は終焉を迎える。
聖なる家で嬲られる哀れな修道士たち。アルファ性の兵士のみで構成された王家の私設部隊が逃げ場のない極寒の城を蹂躙し尽くしていく。その裏に棲まうものの正体とは。
男子寮のベットの軋む音
なる
BL
ある大学に男子寮が存在した。
そこでは、思春期の男達が住んでおり先輩と後輩からなる相部屋制度。
ある一室からは夜な夜なベットの軋む音が聞こえる。
女子禁制の禁断の場所。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる