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「おはよう、ジェニー」
部屋を出て会議室に向かっているとジェニエルの背中に声が掛かった。
その声にジェニエルはわかりやすく身体を強張らせると足を止めて振り返った。
相手の顔を見なくても誰なのか直ぐにわかった。
今や皇后として過ごすジェニエルの事を愛称で呼ぶ人など、ゼツィオード以外いなかった。
「ゼツィオード様…」
「薔薇園に行くのか?」
「……ええ」
ゼツィオードはジェニエルと違いいつも通りだった。
昨日の熱のこもった告白をした男性とは思えないほど、平静を保っている様子のゼツィオードにジェニエルはどこか拍子抜けし、同時に安堵した。
――昨日のことは、ただの冗談だった。そういう事よね?
そう自分に言い聞かせるように思うとなぜか胸が痛んだような気がしたが気のせいにする事にした。
昨日からゼツィオードの事ばかり考えてしまう自分でも理解できない感情に翻弄されてしまう事が恐ろしかった。
セオドールの妻として、皇后として振舞わなければならないジェニエルにとって何もなかったかのように振る舞うゼツィオードに感謝することはあっても他の感情を抱いてはいけない。
そう思う反面、ジェニエルの心の奥底にはゼツィオードに対して失望のような落胆のような勝手きまわりない感情が渦巻いていた。
「顔色が優れないようだが……」
「いいえ、少し眠りが浅かっただけです」
誰も人がいないとはいえ、いつだれが来るかもわからない廊下。
そんな状況だというのにゼツィオードはジェニエルの頬に手を置いて、親指で隈をなぞるようにそっと撫でた。
言葉とは裏腹に視線を合わせられずにいると、ゼツィオードはジェニエルの耳元に唇を寄せ、低い声で内緒話をするように囁いた。
「意識してくれているのか……?」
「……っ!」
まるで確信をつくようなゼツィオードのからかいを含んだ言葉にジェニエルの心臓が激しく音を立てた。
咄嗟に睨むようにして目線をゼツィオードに向けると、声とは裏腹に真剣な眼差しでジェニエルを見つめるゼツィオードの黄金と目が合う。
「私は……」
「皇后は一体なにをしているんだ?」
言葉が途切れた瞬間、二人の間に割って入るように声が響いた。
息をのんだジェニエルとは違い、ゼツィオードは残念そうな溜息をついてからジェニエルから一歩離れて振り返る。
ゼツィオードの肩越しに視線をやると、通常ならば従者を引き連れているセオドールが珍しく一人で現れたことに、ジェニエルは違和感を覚えた。
セオドールの表情は険しく、明らかに怒りを滲ませていた。
部屋を出て会議室に向かっているとジェニエルの背中に声が掛かった。
その声にジェニエルはわかりやすく身体を強張らせると足を止めて振り返った。
相手の顔を見なくても誰なのか直ぐにわかった。
今や皇后として過ごすジェニエルの事を愛称で呼ぶ人など、ゼツィオード以外いなかった。
「ゼツィオード様…」
「薔薇園に行くのか?」
「……ええ」
ゼツィオードはジェニエルと違いいつも通りだった。
昨日の熱のこもった告白をした男性とは思えないほど、平静を保っている様子のゼツィオードにジェニエルはどこか拍子抜けし、同時に安堵した。
――昨日のことは、ただの冗談だった。そういう事よね?
そう自分に言い聞かせるように思うとなぜか胸が痛んだような気がしたが気のせいにする事にした。
昨日からゼツィオードの事ばかり考えてしまう自分でも理解できない感情に翻弄されてしまう事が恐ろしかった。
セオドールの妻として、皇后として振舞わなければならないジェニエルにとって何もなかったかのように振る舞うゼツィオードに感謝することはあっても他の感情を抱いてはいけない。
そう思う反面、ジェニエルの心の奥底にはゼツィオードに対して失望のような落胆のような勝手きまわりない感情が渦巻いていた。
「顔色が優れないようだが……」
「いいえ、少し眠りが浅かっただけです」
誰も人がいないとはいえ、いつだれが来るかもわからない廊下。
そんな状況だというのにゼツィオードはジェニエルの頬に手を置いて、親指で隈をなぞるようにそっと撫でた。
言葉とは裏腹に視線を合わせられずにいると、ゼツィオードはジェニエルの耳元に唇を寄せ、低い声で内緒話をするように囁いた。
「意識してくれているのか……?」
「……っ!」
まるで確信をつくようなゼツィオードのからかいを含んだ言葉にジェニエルの心臓が激しく音を立てた。
咄嗟に睨むようにして目線をゼツィオードに向けると、声とは裏腹に真剣な眼差しでジェニエルを見つめるゼツィオードの黄金と目が合う。
「私は……」
「皇后は一体なにをしているんだ?」
言葉が途切れた瞬間、二人の間に割って入るように声が響いた。
息をのんだジェニエルとは違い、ゼツィオードは残念そうな溜息をついてからジェニエルから一歩離れて振り返る。
ゼツィオードの肩越しに視線をやると、通常ならば従者を引き連れているセオドールが珍しく一人で現れたことに、ジェニエルは違和感を覚えた。
セオドールの表情は険しく、明らかに怒りを滲ませていた。
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