陛下を捨てた理由

甘糖むい

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「皇后ともあろう者が、男と二人きりでこんなところで何をしているんだ?」

まるで何もかも知っていると言いたげな表情でセオドールは口端を釣り上げて笑った。
出会ってからこれまで、向けられた事のない悪意が滲んだ笑み。
ジェニエルは、そんな顔をして笑うセオドールを信じられない物を見る目で見つめるしかなかった。

♢♢♢


「私は父上が側室を設けなかったから、王になったにすぎない」

そう言って乾いた笑みを浮かべたセオドールに、ジェニエルは何も言葉を返すことができなかった。
沈黙のまま、ただ寄り添う。
それだけが、ジェニエルにできる精一杯のことだった。

王妃としてではなく、一人の友人として呼ばれたこの部屋で、ジェニエルはセオドールの苦悩の一端を垣間見ていた。
柔らかな日差しが窓から差し込む中、セオドールは深く椅子に腰を沈め、視線を空に投げたまま動かない。
その横顔には疲労と倦怠感、そして見えない重責の影が濃く差していた。

「そんなこと……」
「父上は……ずっと私以外の子をと周囲から求められていた。側室を迎えるよう、何度も何度も進言された。それでも結局、私ひとりだけを王位継承者にした……いや、違うな。私ひとりしかいなかっただけ、か」

苦笑まじりのその言葉に、ジェニエルは何も返せなかった。
ただ、セオドールの孤独に寄り添うしかなかった。

王位を巡って争いが絶えなかった前王の時代。
王弟との権力争いに疲弊した先王は、やがてどんな願いにも耳を貸さなくなった。
どれほど家臣たちが求めようと、側室を持たず、第二の後継者を望むこともなかった。
それが結果として、セオドールを唯一の継承者として盤石な基盤となった。
そのお陰か、セオドール以外王位を告げる者がいない事で家臣たちは表面上は派閥争いをする事もなかった。
水面下ではゼツィオード派が生き残っていたが、肝心のゼツィオードは、辺境伯爵を賜り彼自身も誰かと結婚することを頑なに避けて王宮からは遠ざかる生活を送っていた。

「そのおかげで私は王になった。でも、それは……実力じゃない。ただの、偶然と選択の結果に過ぎない」

言葉の続きをセオドールは飲み込んだ。
その姿は、いつも廷臣たちの前で毅然と振る舞う王のものではなく、一人の疲弊した男でしかなかった。
ジェニエルは思わず彼の手に自分の手を重ねた。
いま手を伸ばさなければ、セオドールがどこか遠くへ行ってしまいそうだとそんな焦りから生まれた衝動だった。

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