【完結】私が奏でる不協和音

かずきりり

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「イラストレーターもそうだけど、歌い手も数多くいるでしょ」

 羽柴さんは多分だけど……という念おきをした上で口火を開いた。
 確かに歌ってみたというのは数多くある。
 今やスマホ一台で簡単な録音と調整まで出来るのだ。

「そして、コアなファンが居て収益を得られるけれど、万人受けしているわけでもなく、有名でもない明音さん」
「私もだよ?」

 むしろ登録者やフォロワーといったファンの数や再生数なんて断然明里さんの方が上だ。
 私なんて配信しても対して人が来るわけでもなし。

「……嫉妬……じゃないかな」
「何で……あっ!」

 そこまで言われて気が付いた。
 私が明里さんに羨ましいとは思う事があっても、明里さんが私に対しては抱かないと思っていた感情。
 だけれど……私は曲提供というチャンスを得たようなものだ。

「そう、曲を提供されるというのは、それだけ凄い事だし、広告宣伝的にもこれ以上ない。だってその人のファンまでもが聞きにくるからね」
「誰しもがそのチャンス欲しいよね」
「振って湧いて出た新人に、いきなりチャンスが来たらイラつくよね~」
「美紀!」

 東さんや紺野さんの意見に心が抉られた。
 きっと明里さんが欲していたチャンス。それを私が得た事も。イラつくという言葉も。

「……こう言っては何だけど、発掘して協力してたような……自分より下に見ていた相手がそんなチャンスを手に入れたら……どう思う?」

 ズキンッと、心が痛んだ。
 見下していた相手……確かにそうだと思う。けれど、これはどちらが悪いというわけでもない話だ。
 ……私が謝るのも違うと思うけれど、明里さんが怒るのも、また違うのではないか。

「そんなのムカつくに決まってるよね~」
「美紀! 言葉をそのまま出しすぎ!」
「だってーポッと出た奴に取られたら、自分が今まで頑張って来たのは何なんだって腹立つじゃん。あ、勿論ともっちが悪いわけじゃないのは分かってる! てか当たり前!」
「正直に物を言い過ぎ!」

 ……周りから見た、私達はこんな風に映るのか。
 あまりの嬉しい出来事に、私は明里さんの事も考えずに報告しただけで……でも、黙っていた所でそのうちバレる話だ。それが早いか遅いかの違いだけではないのか。

「嫉妬に呑まれて人を傷つける方が悪いんだよ」

 私の葛藤に気が付いたのか、紺野さんは鋭くそう言ってくれるけれど、心は晴れる事がない。
 私は明里さんに恩があるのだから。
 明里さんと出会った事で、私はこれだけ変わる事が出来たのだから。
 かと言って、私は明里さんに遠慮して歌わないという道を選ぶ気もなかった。
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