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第一章
32.調理場にて
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「こうしておけば発酵はする筈だけど……あと、これはこうしてっと……」
「おぉ~すげ~!」
「…………」
琴子の説明に、調理場に居る料理人達も歓声の声をあげる。
上には上が居るというのを目の前で見て、私は更に肩を落とす。
真と時間を合わせて調理場へ行く時、琴子に見つかり、一緒に行く事となった。
調理場では真が塩辛いハム等を使って、それなりに食べられる野菜炒めを作っていた傍ら、私はクッキーでも作ろうと料理人達に材料を聞いてまわっていた。そして、それは琴子もで、出来上がったのは発酵物だったのだ。
「これは天然酵母で、パン作りに使用するの。一週間くらいで完成すると思うけど、一応毎日確認したいのだけれど……」
「どうぞ! そして教えて下さい!」
ふわふわのパンが出来ると聞いて、料理人達も必死にメモを取った上で、琴子の話に聞き入っている。もはや調理場に来るのは大歓迎といったところだろう。
「米に似た穀物だから、米麹が出来ると良いのだけれど……」
もうひとつは麹だった。これが出来れば、大豆と合わせて味噌も出来るという。味噌万歳! やっほー味噌! これが出来れば食料改革だー!
なんて喜ばしい気持ちと、あくまで平々凡々な自分に対する落ち込みが半々だ。
「あ、瑞希。クッキー出来たみたいだよ」
もはや甘すぎる砂糖のようなお菓子に飽きた上、真が野菜炒めを作るならと作ったクッキーだったけれど、恥ずかしさしかない。
これは特技になるのか、仕事にできるのか。否、無理だろう!
焼きあがったクッキーは美味しそうだけれど、料理人達が首をかしげているのを見て、溜息をつく。
「良い匂い……?」
「あ! キィ、ちょうど良かった! 瑞希が作ったクッキー焼けたよ」
キィが現れたのを見て、琴子の表情は消えたけれど、真は優しく声をかける。
うん、真って中身も本当にイケメンだよな。誰にでも分け隔てない。
「クッキー!?」
お?
キィが年相応の嬉しそうな表情で、こちらに駆けよってくる。
食べても良いの? と私へ視線を向けて呟くので、笑顔で頷く。こんなもので喜んでもらえるなら安いものだ。砕けていく心も癒されるというもの。
「美味しい! 甘すぎないお菓子久しぶり! この香ばしさが、また良いよぉ~! 懐かしいー!」
サクッと一口食べて、嬉しそうに感想を言ったキィにつられて料理人達も一斉にクッキーへと飛び掛かって来た。
香ばしさや、控えめな甘さを斬新なものとして料理人達は驚愕する。お菓子とは甘さを追求するだけではないという認識が植えつけられた瞬間だった。
「おぉ~すげ~!」
「…………」
琴子の説明に、調理場に居る料理人達も歓声の声をあげる。
上には上が居るというのを目の前で見て、私は更に肩を落とす。
真と時間を合わせて調理場へ行く時、琴子に見つかり、一緒に行く事となった。
調理場では真が塩辛いハム等を使って、それなりに食べられる野菜炒めを作っていた傍ら、私はクッキーでも作ろうと料理人達に材料を聞いてまわっていた。そして、それは琴子もで、出来上がったのは発酵物だったのだ。
「これは天然酵母で、パン作りに使用するの。一週間くらいで完成すると思うけど、一応毎日確認したいのだけれど……」
「どうぞ! そして教えて下さい!」
ふわふわのパンが出来ると聞いて、料理人達も必死にメモを取った上で、琴子の話に聞き入っている。もはや調理場に来るのは大歓迎といったところだろう。
「米に似た穀物だから、米麹が出来ると良いのだけれど……」
もうひとつは麹だった。これが出来れば、大豆と合わせて味噌も出来るという。味噌万歳! やっほー味噌! これが出来れば食料改革だー!
なんて喜ばしい気持ちと、あくまで平々凡々な自分に対する落ち込みが半々だ。
「あ、瑞希。クッキー出来たみたいだよ」
もはや甘すぎる砂糖のようなお菓子に飽きた上、真が野菜炒めを作るならと作ったクッキーだったけれど、恥ずかしさしかない。
これは特技になるのか、仕事にできるのか。否、無理だろう!
焼きあがったクッキーは美味しそうだけれど、料理人達が首をかしげているのを見て、溜息をつく。
「良い匂い……?」
「あ! キィ、ちょうど良かった! 瑞希が作ったクッキー焼けたよ」
キィが現れたのを見て、琴子の表情は消えたけれど、真は優しく声をかける。
うん、真って中身も本当にイケメンだよな。誰にでも分け隔てない。
「クッキー!?」
お?
キィが年相応の嬉しそうな表情で、こちらに駆けよってくる。
食べても良いの? と私へ視線を向けて呟くので、笑顔で頷く。こんなもので喜んでもらえるなら安いものだ。砕けていく心も癒されるというもの。
「美味しい! 甘すぎないお菓子久しぶり! この香ばしさが、また良いよぉ~! 懐かしいー!」
サクッと一口食べて、嬉しそうに感想を言ったキィにつられて料理人達も一斉にクッキーへと飛び掛かって来た。
香ばしさや、控えめな甘さを斬新なものとして料理人達は驚愕する。お菓子とは甘さを追求するだけではないという認識が植えつけられた瞬間だった。
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