【完結】異世界へ五人の落ち人～聖女候補とされてしまいます～

第一章

40.解読された魔法陣

「人体！？」
「誰かの人体としても……そのパーセンテージまできちんと理解出来るのかしら……」

　驚き声を上げる私とは反対に、まだ冷静な琴子は考察を始めた。
　確かにそうだよね。体系だけでなく、骨の太さや髪の長さも人によっては違うのだ。完全に一致する計算なんて、どうやってやれと……。

「それ、人体を錬金術で作ろうとしたって事？」
「そんな！　命を冒涜するような……！」

　私達の会話から予測を立てたのか、キィが発した言葉に枢機卿は悲鳴をあげたが、宗教観なんて今はどうでも良い。ここで何が起きたか、だと思う。
　まぁ倫理観的には賛否両論があると思うけど……クローンもそうだしな。
　私達が憶測を立てている間、真はブツブツと呟きながら魔法陣と書物を見比べている。
　何だか、嫌な予感しかしない。

「そうか……そういう事……」
「分かったのですか！？」
「なら王太子殿下にも報告を！」

　真の僅かな呟きを聞き逃さなかった枢機卿は縋り、アンドリューはすぐに王太子へ報告しろと兵に向かって呼びかけた。

「多分だけど……」

　真の顔色は悪い。その答えをすぐに聞く勇気もなければ、声をかける事も出来ず、ただ私は王太子が来るまで俯いていた。
　恵は……無事なのだろうかと。辺境の人達も無事でいてくれるのだろうかと。




「解読が出来たと！？」
「憶測にすぎませんけど」

　数分程だろうか、急いできただろう王太子が叫びながら部屋へと駆けこんできた。
　顔には汗が流れており、どれだけ急いだかが分かる。

「憶測でも良い！　頼む……！」
「では……まず人体を構成している元素、そして帰還という言葉……」

　真は一つ一つ丁寧に説明していく。
　図形にも意味があるなんて知らなかった。渦巻は多分、死と再生の意味だと言う。そして……錬金術の方式も組み合わせて、広範囲かつ生命力という言葉。

「そして……サクリファイス」

　真の口から放たれて、意味が分かった。英語のスペルだけじゃ分からなかったのだ。
　それは琴子も同じだったのか、口に手をあてた。キィは、そこまで分からないのだろう。首を傾げるに留まっているけれど。

「それは、どういう意味だ？」
「……犠牲にする、生贄にする。です」

　何故、日本語じゃなかったのか。
　生贄と犠牲、両方の意味を持たせたかったのか。本人が目の前に居れば問いただしたい。……真が居なければ絶対に読み解けていないだろう。ここには英和辞典なんてないのだから。

「つまり……辺境の生命全てと引き換えに、元の世界へ戻る為の魔法陣かと」

　衝撃的な言葉が放たれて、空気が張り詰める中、皆の息を飲む音だけが響いた。