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――これ以上、時間を稼ぐのは難しい。
王太子殿下に回復魔法をかけている人達からの伝言だった。
あの人達はずっと王太子殿下に回復魔法をかけ続け、せめて呪いに抗う体力を回復させ時間を稼いでいてくれたのだ。
そんな人達からの宣告。もはや、一刻の猶予もない。
「……賭け、か」
呟いて出た師匠の後を追う。
二人により呪いにかかったという仮説。これが正しくないのであれば、王太子殿下は、もうもたないのだ。
魔物が蔓延る森の中を駆ける。魔物が襲ってきては魔法を繰り出して屠りながら、突き進む。
「大丈夫か」
「余裕」
師匠の言葉に対し、簡潔に答える。普段から魔物と対峙していた上、魔法を磨き続けていた私達にしてみれば、ある意味で造作もない事なのだけれど、どこから魔物が現れるか分からない為、油断など出来ない。
「あれだね」
森の奥深くに建てられた、小さいながらも頑丈そうな建物。あそこに二人は捕らわれているという。
こんな森の奥なのは、二人が逃げ出さない為なのか、それとも誰も近寄らせない為なのか。まぁ、どちらとも取れるだろうけれど。
バンッ!
問答無用で扉を開け放ち、ズカズカと中へ入る。意外に掃除がされており、整頓もされている。
二人はどこに居るのだろうかと周囲を見渡せば、奥から一人の人影が現れた。
「何だ、ケイトか。僕に一刻も早く従う為に来たのか?」
嘲笑うかのように声をかけてきたのは、リムド・ハーバー公爵令息だ。
「まさか。……二人はどこに居る?兄上が二人を使って王太子殿下へ呪いをかけていたんだろう?」
「だから何だ。次期国王に相応しいのは僕だろう。仕方ない事さ」
ハーバー公爵令息は否定しなかったどころか、肯定とも取れる言葉を返してきて、私は歯を食いしばった。
何が仕方ないと言うのだろう。人の命を何だと思っているんだ。
本当に自分が国王に相応しいと思っているのだ、そういう教育も受けていないのに……。ただの、旗印であり、傀儡の王となり果てるのは目に見えているのに。
……地位や権力の前では、目が曇るのだろう。
「……兄上が王太子殿下を呪って、殺そうとした。間違いないと?」
「殺そうとしたんじゃない。もうアイツは死ぬ」
――汚い。
――醜い。
――気持ち悪い。
こいつの思考回路が、醜悪な考えが。人を人とも思わないような言葉が。
けれど、こいつはしっかりと肯定した。認めた。
私はそれを聞いた後、二人を探すために走り出した。
「もう遅い! 今更魔法具を壊した所で止められん!」
戯言。私はそう思い、足を止める事はしなかった。
「兄上は終わりですけれどね」
師匠の冷たい声が背後から響くのを聞きながら、私は見つけた地下室へ下りて行った。
王太子殿下に回復魔法をかけている人達からの伝言だった。
あの人達はずっと王太子殿下に回復魔法をかけ続け、せめて呪いに抗う体力を回復させ時間を稼いでいてくれたのだ。
そんな人達からの宣告。もはや、一刻の猶予もない。
「……賭け、か」
呟いて出た師匠の後を追う。
二人により呪いにかかったという仮説。これが正しくないのであれば、王太子殿下は、もうもたないのだ。
魔物が蔓延る森の中を駆ける。魔物が襲ってきては魔法を繰り出して屠りながら、突き進む。
「大丈夫か」
「余裕」
師匠の言葉に対し、簡潔に答える。普段から魔物と対峙していた上、魔法を磨き続けていた私達にしてみれば、ある意味で造作もない事なのだけれど、どこから魔物が現れるか分からない為、油断など出来ない。
「あれだね」
森の奥深くに建てられた、小さいながらも頑丈そうな建物。あそこに二人は捕らわれているという。
こんな森の奥なのは、二人が逃げ出さない為なのか、それとも誰も近寄らせない為なのか。まぁ、どちらとも取れるだろうけれど。
バンッ!
問答無用で扉を開け放ち、ズカズカと中へ入る。意外に掃除がされており、整頓もされている。
二人はどこに居るのだろうかと周囲を見渡せば、奥から一人の人影が現れた。
「何だ、ケイトか。僕に一刻も早く従う為に来たのか?」
嘲笑うかのように声をかけてきたのは、リムド・ハーバー公爵令息だ。
「まさか。……二人はどこに居る?兄上が二人を使って王太子殿下へ呪いをかけていたんだろう?」
「だから何だ。次期国王に相応しいのは僕だろう。仕方ない事さ」
ハーバー公爵令息は否定しなかったどころか、肯定とも取れる言葉を返してきて、私は歯を食いしばった。
何が仕方ないと言うのだろう。人の命を何だと思っているんだ。
本当に自分が国王に相応しいと思っているのだ、そういう教育も受けていないのに……。ただの、旗印であり、傀儡の王となり果てるのは目に見えているのに。
……地位や権力の前では、目が曇るのだろう。
「……兄上が王太子殿下を呪って、殺そうとした。間違いないと?」
「殺そうとしたんじゃない。もうアイツは死ぬ」
――汚い。
――醜い。
――気持ち悪い。
こいつの思考回路が、醜悪な考えが。人を人とも思わないような言葉が。
けれど、こいつはしっかりと肯定した。認めた。
私はそれを聞いた後、二人を探すために走り出した。
「もう遅い! 今更魔法具を壊した所で止められん!」
戯言。私はそう思い、足を止める事はしなかった。
「兄上は終わりですけれどね」
師匠の冷たい声が背後から響くのを聞きながら、私は見つけた地下室へ下りて行った。
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