【完結】婚約破棄された地味令嬢は猫として溺愛される

かずきりり

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53.

「項垂れるイルも可愛いなぁ~!」

 デレデレとした王太子殿下の声に、私はハッと顔を上げて、一目散に走り出した。このままだと抱きしめられて優しく撫で回されるのは必須!
 流石に人間だと知られた後では、私の羞恥心が違う~!
 一度、人の姿に戻って執務室の扉を開けた私は、猫の姿に戻って廊下を駆けだした。やはり四足歩行は慣れれば早いのだ。

「イル~~!!」

 悲しそうな王太子殿下の声が響いたけれど、昼間の執務室はそれなりに王城の護衛も含めて多いのだ。いつもこの時間は私も一緒に居なかったし。と、自分の中で言い訳をした。





「私のどこが良いのか……」
「それ、殿下の前で言ったら、延々と愛を囁かれた上に離してもらえなくなるよ」
「…………」

 逃げた師匠の部屋で、魔法具を作りながら呟けば、師匠からゾッとするような内容が返ってきて、思わず口を閉じた。
 だけど言わずにはいられない。日々の不満ではないけれど、混乱やどうして良いのか分からないと言った感情が溢れているのだろう。愚痴を言う、という人は、こんな感情を口に出して整理する為なのだろうか。

「でも! やりすぎなんです……人でも猫だろうとも関係なく、膝に乗せようとしたり、触れたり……」
「触れ合いが多くて仲睦まじくて良いじゃないか。人と猫で態度に差があれば嫌だろう?」
「そう……ですけど……でも!」

 思わず俯いた。色々と吐き出して聞いてもらいたい事はある。それでいて意見を伺いたい所もあるのだけれど……。
 首を傾げて分からないと言った様子の師匠に、私は覚悟を決めて顔をあげた。

「猫の時と同じように髪をとかそうとしたり……抱きしめて一緒に寝ようとしたり……一緒にお風呂入ろうとしたり……!」
「うん!?」

 ガシャッ! パリーンッ!!

 師匠は、よくわからない声を出して、持っていた瓶を落とし割った。動揺を思いっきり外に出したのだろう師匠は、私の方へギギギッと音がしそうな動きで首を向けて、縋るような瞳で、ゆっくりと口を開いた。

「え?でも猫の時にだってお風呂は一緒に入っていないよね?」

 同衾に対しては師匠も知っているのか、スルーしたけれど、まさか一緒にお風呂!?と言った感じだ。
 ……そこまでの反応をされれば、やはり自分がありえない事をしたというのは理解できるのだけれど……いや、あれは逃げられなかった。猫だったし!猫だったんだし!!

「……丁寧にしっかり洗われていました……」

 師匠の方へ視線を向ける事が出来ず、顔を背けながら言った私に、師匠は完全に固まってしまった。

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