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うわあああん! うわあああん! ポトポトポトポト
しおりを挟むカナコちゃんとばってんのおばあちゃんは、ぐったりした様子で居間に戻っていきます。
先に中に入ったカナコちゃんが、ぴょんと飛び上がりました。
「冷たぁーーーーーーーいっ!!」
そう叫んで、あわてて廊下へとんぼ返りするカナコちゃん。
「どげんしたとね?」
おばあちゃんは目を丸くして聞きました。
「床がビショビショに濡れてるの。おばあちゃん、何かこぼした?」
カナコちゃんが責めるように言います。
「何もこぼしゃせんばい」
否定しながら、おばあちゃんは部屋の中へ足を踏み入れました。
確かにカーペットがぐっしょりと濡れています。
ついさっきまでこんな事はなかったのに、いったいどうしたんでしょう。
おばあちゃんは構わず、ずんずんと部屋の真ん中まで進んで行きました。
カナコちゃんも靴下を脱いで後についていきます。
おばあちゃんは部屋の中をぐるりと見回しました。
「家具の上も均等に濡れとうばい。こりゃ水を撒いたとかじゃなか。上から降ってきたっちゃね」
「すごい! おばあちゃん、名探偵みたい!」
カナコちゃんがおばあちゃんの推理に感心して声を上げます。
「じゃあ雨漏り?」
二人は天井を見上げました。
でも天井にはシミも水滴もついていません。いつも通りの天井です。
「だいたい雨も降っとらんし、二階には水漏れするごた水道もなか。こんなに水が落ちてくるのはおかしかばい」
顔を見合わせ、同じように首をかしげる二人。
その時、とつぜん。
うえええええんっ! と、人の泣くような声が部屋の中に響きわたりました。
「わあっ! なになに? あっ、冷たいっ!」
カナコちゃんはまたぴょーんと飛び上がりました。
声にびっくりしたのと、冷たいものがいきなり頭に降ってきたのとで驚きは二倍。
だから、さっきの二倍も高く飛び上がりました。
「ポタポタ水が降ってきたばいね」
おばあちゃんは顔をしかめ、二人はもう一度天井を見上げました。
「びゃーーっ!! 気持ち悪いいーーーっ!!」
カナコちゃんの絶叫。
カナコちゃんが見たもの。それは目。
天井には、さっきまでなかった人の目がいっぱい浮き出ていたのです。
隅から隅まで、数えるのも無理なほどたくさんたくさん、びっしりとです。
目がみっしり詰まってひしめき合う天井を眺めているうちに、カナコちゃんの全身に鳥肌が立ちました。
「あの目、みんな泣きよんしゃる」
おばあちゃんの言う通り、天井の無数の目は一つ残らず泣いていました。
目に涙が浮かび、それがポトポトポトポト落ちてきます。
そう、そのたくさんの目の涙が部屋を濡らしていたのです。
「またオバケだったんだ! おばあちゃん、何とかしてえ」
カナコちゃんが手の平でカサを作りながらおばあちゃんに助けを求めます。
「大丈夫たい。オバケの名前ば言えば消えるけん」
おばあちゃんは胸を張って答えます。
「知ってる。でもすぐには名前思い出せないんだよね?」
カナコちゃんが言うと、おばあちゃんはちょっと身をくねらせてモジモジしました。
「・・・その通りたい」
「モジモジしてる場合じゃないよう! 部屋が水びたしになっちゃう」
カナコちゃんが焦るのももっともです。
天井の目はおいおい泣き続け、涙は雨のように降りそそいでくるのです。
早くオバケを追い払わないと大変なことになります。
「ばってん、そう言われても・・・。このオバケの名前はなんやったかいねぇ」
おばあちゃんは頭をひねるばかり。
そうしているうちにオバケの泣き方は激しくなり、それはもはや号泣です。
うわあああん! うわあああん! あああああーーーーーーんっ!
「目だけのくせにうるさいようっ!」
カナコちゃんがつっこんでも無駄です。
落ちてくる涙はザアザアザアザアどしゃ降りのようになってきました。
「こりゃいけんばい。ばあちゃんがオバケの名前ば思い出すまで、カナに戦って涙を食い止めといてもらわんと」
そうおばあちゃんに言われてカナコちゃんは戸惑いました。
「えええっ? どうすればいいの?」
当然カナコちゃんは聞きます。
「笑わせるったい。あんまり泣かんように、あの目ば笑わせりんしゃい」
おばあちゃんの答えにカナコちゃんは呆然としました。
オバケを笑わせるなんてどうやって?
オバケの名前を思い出そうと頭をひねるおばあちゃん。
オバケを笑わせようと渾身のギャグを考えるカナコちゃん。
ついにカナコちゃんは思いついたギャグを放って天井の目に攻撃を仕掛けました。
「ネコが寝込んだー!!」
けれど目はビクともせずに泣き続けます。
むしろ泣き方がよけい激しくなりました。
「トイレにいっといれー!!」
間髪入れずに第二弾。
だけどダメです。目はクスリともしません。
「うう、じゃあ、布団が」
「ダメばい。そういうんじゃ」
カナコちゃんが第三攻撃を放ちかけた時、それをおばあちゃんが止めました。
「今度のは自信あるもん!」
カナコちゃんが不満そうに言います。
「その自信は若さゆえのあやまちたい」
「違うもん。パパもこういうの言ってたもん!」
カナコちゃんは反論します。
「それはオヤジゆえのあやまちたい」
「意味分かんない!」
カナコちゃんが納得できずに口をとがらせると、おばあちゃんは優しく諭すように言いました。
「ばってん、そもそもあの目に声が聞こえてるかどうかも分からんけんね」
「あっ、そうか。目は耳じゃないもんね」
「そうたい。目は耳じゃなかとよ」
「じゃあ、紙にネコが寝込んだって書いて見せればいいんだね!」
「いや、そういうことやなかばい・・・」
おばあちゃんは、分かってくれないカナコちゃんを悲しそうに見つめます。
「じゃあ、どういうことなのー?」
「そうやね・・・アクションで笑わせるとがよかね。変顔とかおかしな仕草ばするったい」
「・・・うん、分かった」
仲間割れしていても仕方がないので、カナコちゃんはおばあちゃんの言葉に素直に従いました。
揉めている間も目はずっと泣いて部屋を濡らし続けていたのですから、ボヤボヤしてはいられません。
カナコちゃんは深呼吸しました。
頭の中ではズンタタズンタとノリの良い音楽が鳴り渡っています。
カナコちゃんの両腕が上がり、くねくねとしなりました。
合わせて腰も左右にくねくね。
謎のダンスが始まったのです。
片足上げてぶうらぶら。
寄り目になった顔。口はひょっとこみたいにウニュッと突き出しています。
おばあちゃんはプッと吹き出しました。
カナコちゃんは右に回って左に回って、脱力したように体をぐにゃぐにゃふにゃふにゃさせます。
タコみたいやね、とばってんばあちゃんは思いました。
「イカダーンス!!」
カナコちゃんが叫びました。
ああ、イカやったとね。と、おばあちゃんは心の中でつぶやきます。
そんなカナコちゃんのおもしろダンスを見ても、天井の目に特に反応はありません。
やっぱりクスリともしないのです。
カナコちゃんは悲しくなってきました。
何で自分はこんなことやってるんだろう。
内省的になってダンスへの集中力を欠いたその時、踊りながらカナコちゃんは濡れた床に足を滑らせてしまいました。
すってーん! としりもちついたカナコちゃん。
スカートの裾がめくれ上がってパンツ丸見え。
ぶっ、ぶわぁーーーーーっはっはっはぁーーーーーーーっ!!
部屋を揺るがして爆笑の声が轟きました。
見上げたカナコちゃんの瞳に映る天井の目は、みんな三日月型に細くなっています。
笑ってる。涙は止まってる。
やったあ、とカナコちゃんは心の中でガッツポーズをしました。
「思い出したばい!」
ばってんばあちゃんが叫びました。
気が散る涙雨がおさまったおかげでようやく頭が冴え、オバケの名前を思い出したのです。
おばあちゃんは天井の目に向けてぴしりと指を突きつけ言いました。
「おまえの名前は天井まなこ!」
オバケの目がみんな一斉にきゅううっと歪みました。
そうしてそのたくさんの目は、天井で渦みたいにぐるぐるぐるぐる猛スピードで回り始めます。
そしてついに、渦の中心にひゅるうーんっと吸い込まれるように小さくなってゆき、ぱっと消えてしまったのでした。
オバケが去り、部屋に戻った晴れわたる平和。
「カナが頑張ったけん勝てたばい」
おばあちゃんはねぎらうように言って手を伸ばし、お尻を濡らすカナコちゃんの腕を取って引っ張りました。
『オバケにこっちの声はちゃんと聞こえてたんだ・・・』
カナコちゃんは立ち上がりながら、そんなことを考えています。
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