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数えろ
しおりを挟む不意に目が覚める。
部屋の中に気配。
『508まで数えろ』
闇の向こうから男の声で命じられた。
くぐもった聞き取り難い声。
僕は一人暮らしだ。
ポッと目の前に小さな丸い薄明かりが燈る。
白みがかった綺麗なオレンジ色。
『それだ。数えろ』
有無を言わせぬ、質問すら許さない雰囲気。
恐怖に心は縛られ、逆らうことはできない。
横になったまま僕は震える声を絞り出した。
1・・・
薄明かりが消えた。すぐにまた同じ明かりが燈る。
2・・・
明かりが消え、また燈る。
3・・・
そして更に。
4・・・5・・・6・・・
同じように数え上げていった。
延々と。延々と。
297まで数えた次、ぼうっとしてまた同じ297を繰り返してしまった。
『しくじったな』
男の声が咎めるように言った。
僕は身を固くした。
ペナルティがあるのだろうか?
来たるべき罰に慄く。
しかし、それきり男の声はしなくなり、明かりも二度と燈らなかった。
翌朝、大きなニュースが流れていた。
大型旅客船が沈没し、乗客・乗員合わせて508人の乗船者のうち211人が亡くなったという。
痛ましい事故だった。
報道の画面に目は釘付けになった。
目眩を覚え、膝が笑う。
しかし、僕の親族や知人が乗っていたわけではない。
僕は何も関係ない。
TVの中でマイクを突き付けられた生存者は、悪魔の声がカウントして命を選別していたと叫んだ。錯乱している。
誤解だと思った。
もちろん僕は関係ないのだけど。
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