何の能力も与えられずに異世界転移してしまった小娘ですけど、残忍な伯爵夫人だけは絶対に許せないので成敗させて頂きます

牧神堂

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第一章

14話 メイド服に憧れてなかったと言えば嘘になるけど

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「ではミチルさん」
 二人きりになると、ランマルさんはあたしに向かって言った。
「ミチルさんのお部屋へ案内する前に、伯爵様へご挨拶に行きますよ」
「はいっ!」
「なのでとりあえずここで制服に着替えて下さい」
 タイミングを計ったかのようにメイドさんが入ってきて、服をテーブルの上に置いた。
「サイズは伯爵のお見立てですので全て完璧に合っていると思います。有り物の手直しですが」
 ランマルさんはごく当然のことのように言ったけど、どういうこっちゃ。
「着替え終わったら声を掛けて下さい」
 そう言い残し、ランマルさんは部屋の外へ出て行った。

「ラ、ラムと申します。よろしくお願いいたします」
 青いひっつめ髪で、ふっくらと素朴な顔立ちのメイドさんの挨拶。スカートの裾を体の前で軽く摘み上げて左足を後ろに引き、右膝を少し折る。そうやって上半身を上下させた。あたしよりちょっと歳下かな。色白でほっぺが赤い。あたしの顔見て戸惑ってる風なのは仕方ないね。いいさ、すぐに慣れるよ。
 んで、あたしも自己紹介。ラムちゃんはあたしが東方人でこの国での生活には不慣れってことで、しばらく世話をしてくれるんだって。やった! 
 そだ、後でトイレとお風呂のこと聞こ。お城なら少しはそれらしい設備を期待できるかも。

「服の着方は分かりますか?」
 ラムちゃんに聞かれる。
「まぁ、分かるかなぁ」
 言いながらテーブルの上の服を広げた。
 やっぱりメイド服。でも。

 うわあ、これ・・・・・・。
 チドルのお姉さんや横にいるラムちゃんの制服と違う。
 彼女達のスカート丈の長いクラシックなヴィクトリアンメイド服ではなく、もっとアレな感じ。装飾てんこ盛りなフレンチメイド。
 ひらひらフリルがいっぱい付いた、スカートの短い、胸部を強調した編み上げコルセット付きの、何かこう、そういうアレなものだ。
 うう、これが侍女の制服かぁ。

 あたしはノーパンだ。
 このスカートの長さじゃホント心許ない。泣ける。
 だいたい地球の中世ヨーロッパだったら脚が見える服なんて有り得ない。そんなの言語道断、大胆不敵。だって脚は性的なもの。良家の女が脚なんか出して歩いてたらもう大変よ。変態よ。狂人よ。足首出す服すらNGよ?
 でもこの世界ではその辺の価値観は全然違うみたいなんだよね。
 だから既にこんなミニスカが登場してるわけだ。
 だけど、だけどさ・・・・・・なのにパンツはまだないとかおかしーだろ! なめてんのか!
 
 受け入れろ。受け入れろ。
 コスプレするつもりで着るんだ。ビキニアーマーよりマシだ。
 いや・・・・・・パンツない分こっちの方がダメかも。
 ラムちゃんは靴や靴下も持ってきてくれていた。一式装備。

 黒いパフ・スリーブのワンピース。
 ふわっと広がるスカートの裾には白いレースのフリル。
 胸は白。胸元にはギャザーが寄せられ黒リボン付き。白い部分は胸からエプロン状の前飾りに繋がっている。
 その上に重ねて腹部を覆う黒い編み上げコルセット。頭にはホワイトブリム。
 脚にはレースリボン付きの白いオーバーニーソックス。靴は爪先の丸い黒の厚底おでこパンプス。


「用意できました」
 それ系のお店のメイドさんみたいになったあたしは、ドアの向こうのランマルさんに声を掛けた。

 入って来たランマルさんは、ニューバージョンなあたしを見ても眉一つ動かさない。
 でも、こっちは純真乙女のように真っ赤だよ。
 だって男の人の目の前にミニスカノーパン姿で突っ立ってるんだから。
 震えるな、あたしの体!
「では行きましょうか」
 ランマルさんは事務的な口調でそう言った。
「お荷物と服は先にミチルさんのお部屋へ届けておきます。伯爵様の厳命がありますので、お荷物に関してはご安心下さい」
 
 あたしは、ランマルさんに従い伯爵のいる部屋へと向かう。
 ラムちゃんもあたしの後ろについてくる。

 延々と石の螺旋階段を上った。大理石ってわけでもなく、普通のデコボコした大きな石を組んだ階段。
 歩きにくいけど転ぶわけにはいかない。ノーパンだから。
 壁掛け燭台に乗せられた小さな太陽石が窓のない空間をほのかに照らす。
 五階まで来てやっと階段は終わり。
 次いで広い廊下を進む。ここは板張りになっている。
 高い天井、贅沢な絨毯、壁を彩る華やかな装飾品。並ぶ肖像画に描かれたおっさん達は、どこか似た顔付きで皆カイゼル髭。歴代城主なのかな? 中世ヨーロッパの絵画とは違い、けっこう写実的。
 それはともかく、城の主のもとへ近付いていっているのを肌で感じる。

 左右を二人の屈強な兵が守る大きく豪華な扉の前でランマルさんは立ち止まった。
 振り返って言う。
「ここで伯爵様はお待ちになっておられます」
 あたしは静かに頷いた。
 ラムちゃんが唾を飲み込む。緊張してるんだね。
 ランマルさんが両手で、重そうな観音開きの扉を引き開けた。


「おお、ミチル、来たかね!」
 中に足を踏み入れる前にもう、伯爵の声が飛んできた。
「ほほう、似合ってるね。侍女姿」
 相変わらずのフランクな物言いに何となくホッとする。

「失礼いたします」
 両手を前に重ねて45度の角度で深くお辞儀をして中に入り、先に入ったランマルさんの横に並ぶ。
「ほうほう、それが東方のマナーか」
 あたしの目線の先に立つ伯爵が感心したように言った。
 あれ? やっぱ変だった? 思わずやっちゃったけど、さすがにこの辺のことよく分からない。
 ラムちゃんがやったような感じがよかったかな・・・・・・。
「それで良いのだ、ミチル。私は東方の習慣を知りたい。思うままにやってくれ」
 あたしの動揺に感づいたのか、伯爵はフォローするように微笑んだ。
「仕事の内容は、まあ、私の相談役ってところだ。気楽に構えてなさい」
 うわあ、あたし特別扱いされてるなあ。

 部屋の中をキョロキョロ見回すわけにはいかないから詳細不明だけど、そこは大広間とか謁見の間とか、そういうんではなさそう。
 印象としてはそこそこ広い執務室みたいな部屋。大きな机と幾つかの重厚な家具、低いテーブルとソファがある。
 装飾窓の向こうに見える街並みは絶景。おおっ、窓にはちゃんとガラスが入ってる。

 で、今日の伯爵はいかにも偉そうな格好をして部屋の中央に立っていた。
 上衣は詰め物をしてキルティングされた、袖付きのプールポワンってやつ。赤茶色いビロードのような素材に金の刺繍が施されて、立襟は高く、肩飾りもあって装飾性に富んだ服。広い肩に対して腰は細く締め、シルエットが完全に逆三角形。袖も上半分を膨らませてある。いやー、伯爵は胸板厚いからデフォルメぶりが半端ない。
 腰から下は膝上丈のスカートみたいな衣装なんだけど、真ん中は割れている。でもって、そこからもっこり突き出たコッドピース。下半身にはタイツみたいな白いホーズ。
 暗色の靴は前見たのより更に尖んがりっぷりが凄い。先端長くて先っぽはピンと上向いててさ。森ではまだ動きやすいの履いてたんだなぁ。これ中世ヨーロッパではプーレーヌっていうんだけど、偉い人ほど先が尖ってたっていうよ。
 あと頭にはターバンのように巻付けた黄土色のシャプロン。
 以上の格好が素敵かどうかは個人と時代の価値観によります。
 そして、中にいたのは伯爵だけじゃない。他に三人。

 伯爵より一歩引いて左手に並ぶのは年齢不詳な感じの女性。あの人が夫人なのかな。伯爵よりも随分若く見える。
 八頭身で中背の細身。透き通るように真っ白な肌をした凄く綺麗な人。
 眉は薄く、淡い青色の瞳。妙に静かな目をしていて、北方ルネサンス美術のクラナハが描く美女でも見てるみたいな錯覚を覚えた。
 襟ぐりが開いて胸元が見える黒いコタルディは体にぴったりフィットした衣。
 その上に裾を引きずる紫色の長いローブを纏ってる。ローブといってもドレス系のやつね。腰は細くスカートは裾広がり。
 胸下の高い位置に締めた装飾ベルトには大きな宝石が散りばめられ豪華絢爛。ローブの袖や襟は毛皮で縁取られてる。いかにも貴婦人っぽいきらびやかな首飾りなんか、涎が出そうなほど素敵! 自分が付けたいとは思わないけど。
 頭にはあの高く尖んがった帽子、エナン。後ろに傾けたその先からは長いヴェールが垂れていて、髪は帽子と下布に隠れて見えない。で、靴はやっぱりプーレーヌ。踵はないよ。
 伯爵夫人、もう美しすぎて、あたしのような凡愚を寄せ付けない冷気を纏っているようにすら感じてしまう。
 クールビューティーを超えるアイスビューティーか? ランマルさんはああ言ってたから厳しい人なんだろうし。
 ただ、ずっと微笑んでいるその表情は柔らかで優しい。魅力的な人だ。

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