15 / 28
第一章
14話 メイド服に憧れてなかったと言えば嘘になるけど
しおりを挟む「ではミチルさん」
二人きりになると、ランマルさんはあたしに向かって言った。
「ミチルさんのお部屋へ案内する前に、伯爵様へご挨拶に行きますよ」
「はいっ!」
「なのでとりあえずここで制服に着替えて下さい」
タイミングを計ったかのようにメイドさんが入ってきて、服をテーブルの上に置いた。
「サイズは伯爵のお見立てですので全て完璧に合っていると思います。有り物の手直しですが」
ランマルさんはごく当然のことのように言ったけど、どういうこっちゃ。
「着替え終わったら声を掛けて下さい」
そう言い残し、ランマルさんは部屋の外へ出て行った。
「ラ、ラムと申します。よろしくお願いいたします」
青いひっつめ髪で、ふっくらと素朴な顔立ちのメイドさんの挨拶。スカートの裾を体の前で軽く摘み上げて左足を後ろに引き、右膝を少し折る。そうやって上半身を上下させた。あたしよりちょっと歳下かな。色白でほっぺが赤い。あたしの顔見て戸惑ってる風なのは仕方ないね。いいさ、すぐに慣れるよ。
んで、あたしも自己紹介。ラムちゃんはあたしが東方人でこの国での生活には不慣れってことで、しばらく世話をしてくれるんだって。やった!
そだ、後でトイレとお風呂のこと聞こ。お城なら少しはそれらしい設備を期待できるかも。
「服の着方は分かりますか?」
ラムちゃんに聞かれる。
「まぁ、分かるかなぁ」
言いながらテーブルの上の服を広げた。
やっぱりメイド服。でも。
うわあ、これ・・・・・・。
チドルのお姉さんや横にいるラムちゃんの制服と違う。
彼女達のスカート丈の長いクラシックなヴィクトリアンメイド服ではなく、もっとアレな感じ。装飾てんこ盛りなフレンチメイド。
ひらひらフリルがいっぱい付いた、スカートの短い、胸部を強調した編み上げコルセット付きの、何かこう、そういうアレなものだ。
うう、これが侍女の制服かぁ。
あたしはノーパンだ。
このスカートの長さじゃホント心許ない。泣ける。
だいたい地球の中世ヨーロッパだったら脚が見える服なんて有り得ない。そんなの言語道断、大胆不敵。だって脚は性的なもの。良家の女が脚なんか出して歩いてたらもう大変よ。変態よ。狂人よ。足首出す服すらNGよ?
でもこの世界ではその辺の価値観は全然違うみたいなんだよね。
だから既にこんなミニスカが登場してるわけだ。
だけど、だけどさ・・・・・・なのにパンツはまだないとかおかしーだろ! なめてんのか!
受け入れろ。受け入れろ。
コスプレするつもりで着るんだ。ビキニアーマーよりマシだ。
いや・・・・・・パンツない分こっちの方がダメかも。
ラムちゃんは靴や靴下も持ってきてくれていた。一式装備。
黒いパフ・スリーブのワンピース。
ふわっと広がるスカートの裾には白いレースのフリル。
胸は白。胸元にはギャザーが寄せられ黒リボン付き。白い部分は胸からエプロン状の前飾りに繋がっている。
その上に重ねて腹部を覆う黒い編み上げコルセット。頭にはホワイトブリム。
脚にはレースリボン付きの白いオーバーニーソックス。靴は爪先の丸い黒の厚底おでこパンプス。
「用意できました」
それ系のお店のメイドさんみたいになったあたしは、ドアの向こうのランマルさんに声を掛けた。
入って来たランマルさんは、ニューバージョンなあたしを見ても眉一つ動かさない。
でも、こっちは純真乙女のように真っ赤だよ。
だって男の人の目の前にミニスカノーパン姿で突っ立ってるんだから。
震えるな、あたしの体!
「では行きましょうか」
ランマルさんは事務的な口調でそう言った。
「お荷物と服は先にミチルさんのお部屋へ届けておきます。伯爵様の厳命がありますので、お荷物に関してはご安心下さい」
あたしは、ランマルさんに従い伯爵のいる部屋へと向かう。
ラムちゃんもあたしの後ろについてくる。
延々と石の螺旋階段を上った。大理石ってわけでもなく、普通のデコボコした大きな石を組んだ階段。
歩きにくいけど転ぶわけにはいかない。ノーパンだから。
壁掛け燭台に乗せられた小さな太陽石が窓のない空間をほのかに照らす。
五階まで来てやっと階段は終わり。
次いで広い廊下を進む。ここは板張りになっている。
高い天井、贅沢な絨毯、壁を彩る華やかな装飾品。並ぶ肖像画に描かれたおっさん達は、どこか似た顔付きで皆カイゼル髭。歴代城主なのかな? 中世ヨーロッパの絵画とは違い、けっこう写実的。
それはともかく、城の主のもとへ近付いていっているのを肌で感じる。
左右を二人の屈強な兵が守る大きく豪華な扉の前でランマルさんは立ち止まった。
振り返って言う。
「ここで伯爵様はお待ちになっておられます」
あたしは静かに頷いた。
ラムちゃんが唾を飲み込む。緊張してるんだね。
ランマルさんが両手で、重そうな観音開きの扉を引き開けた。
「おお、ミチル、来たかね!」
中に足を踏み入れる前にもう、伯爵の声が飛んできた。
「ほほう、似合ってるね。侍女姿」
相変わらずのフランクな物言いに何となくホッとする。
「失礼いたします」
両手を前に重ねて45度の角度で深くお辞儀をして中に入り、先に入ったランマルさんの横に並ぶ。
「ほうほう、それが東方のマナーか」
あたしの目線の先に立つ伯爵が感心したように言った。
あれ? やっぱ変だった? 思わずやっちゃったけど、さすがにこの辺のことよく分からない。
ラムちゃんがやったような感じがよかったかな・・・・・・。
「それで良いのだ、ミチル。私は東方の習慣を知りたい。思うままにやってくれ」
あたしの動揺に感づいたのか、伯爵はフォローするように微笑んだ。
「仕事の内容は、まあ、私の相談役ってところだ。気楽に構えてなさい」
うわあ、あたし特別扱いされてるなあ。
部屋の中をキョロキョロ見回すわけにはいかないから詳細不明だけど、そこは大広間とか謁見の間とか、そういうんではなさそう。
印象としてはそこそこ広い執務室みたいな部屋。大きな机と幾つかの重厚な家具、低いテーブルとソファがある。
装飾窓の向こうに見える街並みは絶景。おおっ、窓にはちゃんとガラスが入ってる。
で、今日の伯爵はいかにも偉そうな格好をして部屋の中央に立っていた。
上衣は詰め物をしてキルティングされた、袖付きのプールポワンってやつ。赤茶色いビロードのような素材に金の刺繍が施されて、立襟は高く、肩飾りもあって装飾性に富んだ服。広い肩に対して腰は細く締め、シルエットが完全に逆三角形。袖も上半分を膨らませてある。いやー、伯爵は胸板厚いからデフォルメぶりが半端ない。
腰から下は膝上丈のスカートみたいな衣装なんだけど、真ん中は割れている。でもって、そこからもっこり突き出たコッドピース。下半身にはタイツみたいな白いホーズ。
暗色の靴は前見たのより更に尖んがりっぷりが凄い。先端長くて先っぽはピンと上向いててさ。森ではまだ動きやすいの履いてたんだなぁ。これ中世ヨーロッパではプーレーヌっていうんだけど、偉い人ほど先が尖ってたっていうよ。
あと頭にはターバンのように巻付けた黄土色のシャプロン。
以上の格好が素敵かどうかは個人と時代の価値観によります。
そして、中にいたのは伯爵だけじゃない。他に三人。
伯爵より一歩引いて左手に並ぶのは年齢不詳な感じの女性。あの人が夫人なのかな。伯爵よりも随分若く見える。
八頭身で中背の細身。透き通るように真っ白な肌をした凄く綺麗な人。
眉は薄く、淡い青色の瞳。妙に静かな目をしていて、北方ルネサンス美術のクラナハが描く美女でも見てるみたいな錯覚を覚えた。
襟ぐりが開いて胸元が見える黒いコタルディは体にぴったりフィットした衣。
その上に裾を引きずる紫色の長いローブを纏ってる。ローブといってもドレス系のやつね。腰は細くスカートは裾広がり。
胸下の高い位置に締めた装飾ベルトには大きな宝石が散りばめられ豪華絢爛。ローブの袖や襟は毛皮で縁取られてる。いかにも貴婦人っぽいきらびやかな首飾りなんか、涎が出そうなほど素敵! 自分が付けたいとは思わないけど。
頭にはあの高く尖んがった帽子、エナン。後ろに傾けたその先からは長いヴェールが垂れていて、髪は帽子と下布に隠れて見えない。で、靴はやっぱりプーレーヌ。踵はないよ。
伯爵夫人、もう美しすぎて、あたしのような凡愚を寄せ付けない冷気を纏っているようにすら感じてしまう。
クールビューティーを超えるアイスビューティーか? ランマルさんはああ言ってたから厳しい人なんだろうし。
ただ、ずっと微笑んでいるその表情は柔らかで優しい。魅力的な人だ。
0
あなたにおすすめの小説
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?
来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。
そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった!
亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。
「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」
「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」
おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。
現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。
お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、
美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!
ダンジョンを拾ったので、スキル〈ホームセンター〉で好き勝手リフォームします
ランド犬
ファンタジー
異世界に転移した佐々木悠人は、召喚でも勇者でもなかった。ただ迷い込んだ先で見つけたのは、王都を望む郊外にひっそりと口を開けるダンジョン。足を踏み入れた瞬間、発動したスキルは
――〈ホームセンター〉
壁を張り替え、部屋を増やし、畑や牧場、カフェまで作れる不可思議な力だった。
気ままに始めたリフォームは、もふもふなネコミミ獣人の少女との出会いをきっかけに、思わぬ変化を呼び始める。
拡張され続けるダンジョンの先で、悠人が作り上げる“住める迷宮”とは――?
異世界と地球がダンジョンで繋がった ー異世界転移者の私ー
白木夏
ファンタジー
2040年の初春、突如として地球上の主要都市に謎のダンジョンが出現した。
その特異性は明らかで、人口密集地を中心に出現し、未開の地には一切現れないという法則性を帯びていた。
人々は恐怖に震えつつも、未知なる存在に対する好奇心を抑えきれなかった。
異世界転移した最強の主人公のほのぼのライフ
主人公はあまり戦ったりはしません。
クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる
アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。
でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。
でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。
その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。
そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
アリエッタ幼女、スラムからの華麗なる転身
にゃんすき
ファンタジー
冒頭からいきなり主人公のアリエッタが大きな男に攫われて、前世の記憶を思い出し、逃げる所から物語が始まります。
姉妹で力を合わせて幸せを掴み取るストーリーになる、予定です。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる