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守りたいもの

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高速飛行して、私たちは、数分足らずで、白いドラゴンの巨体を捉えた。
その近くに人影が1つ見えた。


「トワ、あそこに人が倒れています。一度降りませんか?」
「ああ、そうしよう」

一旦、魔法を解除して、下降すると、銀髪の少年が一人、雪の上に倒れていた。
私は、少年の口の近くに手をかざし、少年に息があるか確認する。呼吸がまだ確かにあったので、少年の肩を揺すった。
少年はゆっくりと目をあける。

「ここは……」
「良かった。ごめんなさい。正確にはよく分からないわ。状況が良くつかめていないの。目をあけたばかりだけど、……うしてここで倒れているか、わかる範囲でいいので説明して欲しいわ…」

「……ドラゴンが、馬車を襲って……僕たちは2人で逃げてたら……」
(…………ぁはぁ…)

彼は、倒れる以前に経験した記憶を思い返しながら、一つ一つに苦し気な表情を浮かべる。
少年は息が荒く、全身冷えている。具合が悪く、危険な状況下にあることは容易に想像できた。

「大丈夫。ゆっくりでいいから」

私は体温が保てるように、屈んで両手と膝でリトの上半身を支えて雪が直接触れないようにした。彼自身が薄着なので少しは効果はあるだろう。

「2人で逃げてたら、ドラゴンが僕たちに気づいた……リナは僕をドラゴンから遠ざけるために遠くへ飛ばしたんだ…」

……ということは

「そう……、……貴方がリト?」

……「頼む」はそういう意味だったのね。「自分の死」
嫌、まだ分からないわね……生きていることを信じたいわ。
一体、彼女はどこまで予測していたのかしら、最後まで分からない。

「うん。そうだけど、どうして…」


『ヴォオオオオオオオオオーーーーーヴォオオオーーーーーーーーーーーー』

「サルビア、今はドラゴンが先だ!」
「分かっているわ」

私は、リトを一瞥する。少年をこのままここへ放置すれば、間違いなく寒さで凍え死ぬだろう。

「彼もつれていく。私が背負うわ」

トワもリトの具合や状況を察し、頷き、「わかった」とだけ呟いた。
ドラゴンの鳴き声も近い。


「こいつが、ドラゴンか。それに、この状況はひどいな」

およそ数十メートルの真っ白なドラゴンが私たちの目の前に立っていた。白い巨体だが、きらきらと光を反射し銀に近い美しさがあった。うろこは硬くどんな力も簡単に跳ね返すだろう。高潔な雰囲気を漂わせる。

これはスノードラゴンね。
この魔物はアクエリアに生息していると言われている。その話は数百年前の話で、絶滅したとも言われている。それくらい、人の前には姿を表さないドラゴンなのだ。
それが、なぜこうして人の前に現れて人を襲うのか、全く見当がつかなかった。
スノードラゴンの口元や胴体のあちこちに大量の血がこびりついて、その姿に若干の恐怖を覚える。

ドラゴンの口についた真っ赤な血が雪原に「ぽたりぽたり……」と落ちる。
ドラゴンもこちらを見ていた。何人喰ったのだろうか。ドラゴンの目は生きるための行為に過ぎないのだろう。しかし、ただ目が合っただけで「多くの人を喰った」という事実にふつふつと怒りが沸いた。血が沸騰しているくらい熱く感じた。

「一体、どれだけの人を喰った!!!!」

私はドラゴンに向かって叫ぶ。自分でも信じられないくらい喉が開いた。
ドラゴンは私の言葉を理解しているのか、それとも興味ないのか「ヴォオ」と一声鳴き、私たちに向かって突進してきた。

私は、リトを背負ったまま突進を地面を斜めにけり上げて避けた。跳んだとき、少し離れたところに数台の馬車と商人らしき人が数人いた。その周りには多くの倒れた人がいた。きっと商人は奴隷商だろう。

「奴らは俺たち奴隷の「主」を名乗るやつだ。彼奴らが僕たち奴隷をおとりにして逃げた。」

リトは私の頭の動きから見えた彼らの情報を補足してくれたようだ。奴隷商、……ラゴンとの戦闘中だが、奴隷商も捕まえておきたい。今、逃すと今後も汚い手を用いて奴隷を集めるだろう。非常に厄介だ。リトの体調も回復してきたようで何よりだ。

トワは避けてすかさず、スノードラゴンに反撃した。蹴りを入れる。ドラゴンが蹴りの威力で地面に叩きつけられ、頭が雪にめり込んだ。

「くそ、たいしてダメージがあたえられねえ。どんだけ頑丈なんだ彼奴は」

「トワ。ドラゴンを討伐したいですが、それと並行で奴隷商人達も捕まえたいです。どちらも成功させたい……出来ると思いますか?」

私は希望を口にする。難しいことは理解しているが、どうしてもやりたい。
……やらなければならない。

「無理だ」
「……でしょうね……」
「普通ならな」

ドラゴンが赤魔法で「ブレス」を放つ。

「……っ」

間一髪で左右に避ける。
戦闘しながらトワは続ける。

「普通なら、ドラゴンを討伐しようなんて考えない。数撃で殺されることを知っているからな。そして、奴隷商を捕まえようなんて考えもしない。政治や、今後の裏社会にかかわると厄介だからだ。だから、誰もやらない」

「ですが、私は止めたいのです。この不条理な現実を……ただ救いたいのです。目の前にある問題をこのまま見捨てるときっと後悔すると思います。美味しい食べ物を食べてもきっとこの後悔を忘れることはできない」

「……最後まで聞いてくれ。サルビアがパーティーを組むときに言っただろ「普通じゃない」って、どういう意味かはまだ完全には分からないが、最初に出会った時やスケルトンの戦いを見てたら少しだけわかる。サルビアが「やる」と言ったらどんなことでも本当に出来そうな気がするんだ」

そういって不敵な笑みを浮かべた。トワは言った。……くれた。彼とパーティーを組めて本当に良かった。

「只、どうしてサルビアはそうするんだ?」

「私はただ、胸に後悔を秘めたままご飯を食べたくないだけです」

たった数滴の可能性があるなら、私は戦うことを選択したい。

「トワさんは、奴隷商人の取り締まりをお願いしてもいいですか?」
「分かった。……ということは、サルビアが一人でドラゴンを?」
「はい。……できます!やったことはありませんがやってやりますよ。負けません!!」

私は、体調が回復してきたリトを遠くの茂みに隠れるように誘導した。
黄魔法で電気を練り上げ自分の身長半分くらいの長さの鋭利な「ソード」を作り出す。
トワは少し不安そうに私の様子を見守った。

「分かった。ただし、死ぬなよ。俺もなるべく早く奴隷商人を拘束して、まとめてくる。それまででいい、あいつを引き留めて置いてくれ」

そういってトワは私から目をそらし、ドラゴンを見る。
私の実力をもう少し信用してくれてもいいのにとも考えたが、彼なりの心配の仕方なのだろう。ありがたい。

「わかりました。私も無論簡単には死ぬ気はありません。あと、生きている奴隷たちの安全確保もよろしくお願いします」

「……ああ。ほんとに大丈夫か」

私はトワに向かって「大丈夫」と念をおして、微笑んだ。

「そうか」

トワもこれ以上追及することはなく、奴隷商人の確保の事について考えをめぐらしていた。


「奴隷商人はここから東にまっすぐです。それでは、お互い最善を尽くしましょう!!!」









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