カンテノ

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第5章 ファイナイト

5-30 爆撃

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「そぉらよっと!」

  僕とドドの前に、トロイがドッペルを引き連れて降り立ち、右腕のマニピュレーターを固めてファイナイトのレーザーを防御した。

「トロイ! 助かったよ」

  僕がそう言うと、彼はこちらを振り向いてニッと笑う。
  更に、ファイナイトの後方からはトロイのサイドワインダーが襲撃していた。その上にはドルティエさんが乗っている。
  ドルティエさんはそこから跳び上がり、サイドワインダーはファイナイトに向かうが、ファイナイトは振り返りながら光を纏った蹴りを放ってサイドワインダーを爆発させた。

「お覚悟!」

  ドルティエさんは爆発の中にいるファイナイトに向け、頭から落下していく。そして、逆手に持つ包丁を横薙ぎに切り付ける。

「甘い」

  だが、ファイナイトはまた右手から光のブレードを伸ばして、ドルティエさんの包丁を受け止めた。
  そこでドルティエさんは反動をつけて逆立ち状態から足を振り下ろし、ファイナイトの背を蹴りつける。

「くっ! はーっ!」

  ドルティエさんの蹴りを食らったファイナイトだったが、自身の身体を大きく広げると衝撃波を発生させて、彼女を近くの公園に生える樹木へと激突させた。

「ドルティエさん! くっ、ファイナイトー!」

  ドルティエさんの元にミルとレグネッタさんが近寄るのを確認すると、僕はファイナイトに向かって瓦礫の群れを飛ばしていく。
  だが、ファイナイトは光を纏った蹴りでそれを弾き飛ばしていく。

「おい、ガキ! いつまでも調子に乗るなよ!」

  公園の方からレグネッタさんが黄光の鞭を伸ばして振るった。だが、ファイナイトはそこでミルのテリファイアのように、一瞬でレグネッタさんの背後に転移した。

「調子に乗っているのはぬしらよ。小煩い蝿共が」

「なに!?」

  ファイナイトはレグネッタさんの背後から光の球体を放ち、レグネッタさんは叫び声も上げる事無く吹き飛ばされる。

「てめぇ、よくも!」

  そこに駆け寄っていたドドが一気に距離を詰める。ファイナイトに向けて拳を放つが、ファイナイトはその拳を蹴りで払い除け、ドドの腹に光り輝く拳を叩き込む。

「ぐうっ!」

  ドドは呻き声を上げてその場に固まる。そこへ先程吹き飛ばされたドルティエさんが来る。ファイナイトの腕に向け、飛び掛りながらスティックを斜め上から振り下ろす。

「次から次へと……!」

  ファイナイトは自身の腕を襲ったドルティエさんに目を向けると、もう片方の腕を振り上げて光の拳を放った。
  ドルティエさんがそれを見て顔を歪ませた瞬間、彼女とドドはファイナイトの前から消えていた。ミルが自身の近くに2人を転移させてくれたのだ。

「2人とも、大丈夫でございますか?」

  2人を気にしながらも、ミルはファイナイトに向けて拳銃を撃ち放った。
  ファイナイトはその銃弾を、光を纏った両の拳で弾いていくが、そこへサイドワインダーに乗ったトロイと、交通案内板に乗った僕が突撃する。

「トロイ、今だ!」

「おう! くらいやがれー!」

  僕は交通案内板から飛び降り、それを高速回転させながらファイナイトに飛ばし、トロイはサイドワインダーから飛び降りてそれをファイナイトに飛ばす。
  ファイナイトは僕が飛ばした案内板をいとも容易く片手で掴み、そしてトロイのサイドワインダーは垂直に振り上げた蹴りによって遥か上空に跳ね飛ばした。

「ぬしらの努力は認める。だが、努力を無駄にする事は愚者の行動よ」

  そう言ってファイナイトは片手で掴んだ交通案内板を僕に向けて投げ飛ばす。トロイが僕の前に立ち、その案内板を大きなマニピュレーターで殴り飛ばしてくれた。

「ぬしらを殺さぬと誓ったが、そうも言っていられぬな。殺してしまっても、悪く思うなよ」

  ファイナイトはそう言い放つと、再び上空に飛翔し、両の拳に纏った光を膨れ上がらせる。そして、右手の拳に纏った光の球を眼下の僕達に向けて解き放つ。

「皆様! これはヤバそうですわよ! 退避いたします!」

  ミルの言葉と轟音が鳴り響いたのはほぼ同時だった。ミルのテリファイアによって、僕達は道路へと退避していたが、先程いた位置では光の爆発がドーム状に発生していた。

「おいおい。こいつは、本当にやべぇぞ?」

  あまりの爆発規模にトロイが顔を引き攣らせて言った。ファイナイトは既に第2の光の球を放とうとしていた。

「皆、この車に乗ろう」

  僕は近くに乗り捨てられていたスポーツカータイプの乗用車にグラインドを働きかけ、エンジンをいれる。それにドドとドルティエさん、ミルが乗り込む。

「全員は乗れないだろ。トロイ、ミサイル出せ」

「へいへい。ったく、人使い荒いんだからよー。あー、なんでもないです」

  レグネッタさんが銃を向けて急かしたので、トロイは慌ててサイドワインダーを出現させて2人でそれに乗る。それを確認し、僕はすぐに車を走らせる。

「あれほどの爆発を引き起こすとは、やはりあの少年は人智を遥かに越えていますね」

  後方では既に次々に爆発が巻き起こり、地響きが車体を通して伝わってくる。後部座席にはドルティエさんとミルが座っており、ドルティエさんは冷静な感想を述べながらも、ウインドウからファイナイトに向けて拳銃を放つ。
  並走するように飛ぶサイドワインダーに乗っているレグネッタさんも、後方に向けて緑光の弾丸を放っていた。

「この先はトンネルだな。大丈夫か?」

  助手席に座るドドが言った通り、進行方向には海底トンネルの入り口が待ち構えていた。

「しょうがない。このまま進もう」

  背後で巻き起こる爆発は激しく、とても引き返す事はできない。僕は更に車を加速させる。

「でも、逃げるわけじゃない」

  そう言って、僕は頭上にあった信号機をファイナイトに向けて飛ばす。それに続けて交通案内板、街灯と手当り次第に飛ばしながらトンネル内に突入した。
  幸い、民間人は既に避難していたため、トンネル内は広々としていた。

「想様! ファイナイトが追って来ていますわ! 攻撃来ます!」

  後方を確認していたミルがそう告げた。

「なんとか躱しながら進む」

  そう言って僕は前方と後方に神経を注ぎ、ファイナイトのレーザーを回避する。

「想! 援護するからうまく運転しろよ?」

  車外からトロイが声をかけ、何人ものドッペルが後方のファイナイトに向かってサイドワインダーを放っていく。
  それをファイナイトはレーザーを撃って爆発させる。トンネル内に爆発が巻き起こり、再び地響きが伝わる。

「このままではこのトンネルが崩れますね」

  ドルティエさんが落ち着いた口調で言う。

「そうなったら全速力で逃げ切るしかないですね。幸い、ファイナイトは後方にいるので逃げ切れます」

  そう僕は安心していたのだが、甘かった。ファイナイトが瞬時に前方へとやってきていた。

「あ、まずい」

  ファイナイトは左手からレーザーを放ち、右手から光のブレードを伸ばして、斬りかかろうとしていた。

「今度は前か! 任せろ!」

  トロイがファイナイトの前にドッペルを出現させて彼等のマニピュレーターによってレーザーを防御してくれた。だが、そのドッペルを払い除けてファイナイトは僕達が乗る車に接近していた。

  そこに、1人の人影が現れる。ファイナイトの右腕を蹴りで払い、更にそのままもう1発蹴りをファイナイトの胴体に浴びせ、ファイナイトはトンネルの壁に激突した。

「シクス! 助かったよ、ありがとう」

  シクスは僕達が乗る車のボンネットの上に降り立った。車内の他の3人は驚いていたが、長い前髪の男を見て一安心する。

「いえ。想、出口はもうすぐですが、まだ気を緩めずに」

  シクスの言葉に僕は頷き、トンネル内に設置された照明を後方に飛ばしていく。ファイナイトが再び僕達に向かって飛び始めているのだ。

「しっくんか! 乗るかい?」

  トロイのドッペルがサイドワインダーに乗り、シクスに手を差し伸べる。シクスは無言で頷き、そのサイドワインダーに乗ると、すぐに後方に向けてサブマシンガンを連射した。

「シクスか。助かる」

  トロイ本体と共に飛ぶレグネッタさんがシクスを横目で確認しながら銃を撃つ。ファイナイトはトンネル内を飛び交い、銃弾の嵐を避け続けていく。

「出口が見えたぞ!」

  助手席のドドが声を上げる。僕達の前方にはトンネルの出口が迫っていた。

「ミルティーユさん、トロイさん。トンネルを爆破させましょう。タイミングを合わせてください」

  シクスの意図を察し、ミルとトロイは笑みを浮かべながら頷く。
  シクスがD3によって手に手榴弾を出すのを見て、ミルは大量のダイナマイトを後方に出現させる。
  トロイは何人ものドッペルと共に、後方に向かってサイドワインダーミサイルを一斉射撃した。
  シクスはいくつもの手榴弾を投げると同時にロケットランチャーを撃ち放つ。
  それに合わせて僕は、「ジェットファン」と呼ばれるトンネルの天井に設置された巨大な換気扇をファイナイトに向けて飛ばす。

  ――――ブォッゴォーン!

  大気を揺るがす爆音と共に、トンネルに大爆発が起き、僕達は間一髪でトンネルから脱出した。

「だいぶギリギリだったな!? 死ぬかと思ったぞ?」

  ドドが半ば興奮気味に言う。先程まで冷静だったドルティエさんも口を開け放したまま、前方と後方を交互に見ている。
  僕は車を停め、道路に降り立ったシクスに近寄る。

「派手にやったね。でも、これでもあいつは、死なない」

  崩落したトンネルをシクスと共に見据えながらそう言う。そもそも、オリジンに「死」という概念が存在するのだろうか?

  崩落したトンネルから再び爆発が起きた。先程シクス達が起こした爆発とは違う、ファイナイトが引き起こしたものだ。その爆発によって、瓦礫を吹き飛ばしながら光り輝くファイナイトが空に飛び上がる。

「あれでもダメなんですのー!? なんなんですのー!?」

  車から降りたミルが宙に浮かぶファイナイトを見上げながら嘆いた。

「ハハハッ! あの爆発でもキラッキラじゃないか! 元気な坊主だ!」
 
  そう笑ったトロイをレグネッタさんがど突く。

「呑気に笑っている場合か。お前のミサイルが足りなかったんだよ。反省しろ」

「あ、すんません」

  レグネッタさんに怒られ、トロイは素直に謝る。いや、ミサイルの量の問題ではないだろう。

「本当に、ここまで強い存在は初めてでございます。倒せるかどうかもわかりませんが、持てる力の全てを出します」

  そう言ってドルティエさんは右手に拳銃、左手に包丁を持つ。

「なかなか面白い爆発だった。だが、それでも我には届かぬよ」

  ファイナイトはそう言って拳を光らせる。

「どうかな。僕は、僕達の力がお前に届くと信じている。いこう、シクス!」

  僕が言うと、シクスはウィンチェスターライフルを撃ち、僕はそれと同時に街灯を手当り次第飛ばしていく。諦めなければ、必ず勝機を見い出せると信じて。
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