カンテノ

よんそん

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第5章 ファイナイト

5-32 絶戦

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 眩い光が次第に収まっていき、徐々に視界が晴れていく。倒れた身体を起こすと目の前では、長いウェーブヘアの男が膝を付いていた。

「トロイ!? 大丈夫か!?」

  僕が声を掛けると、彼は弱々しくもこちらを振り返る。マニピュレーターでドッペルと共に防御してくれたようだが、そのマニピュレーターもボロボロになっている。

「ハハッ……ちっと、きつかったな。大丈夫だ、ただ、少しだけ……休ませてくれ」

  そう言ってトロイは、ばたりと倒れた。こんなにボロボロになるまで守ってくれたのか。
  辺りを見回すと、先程のモノレールが横向きに倒れ、中から一般人が這い出て来ている。更に周囲の至る所からは黒い煙が上がっている。

「ここは、空港か?」

  背後からレグネッタさんの声がした。僕達は爆発によって空港の前にまで飛ばされていたのだ。近くにいるバスやタクシーの運転手、その乗客も混乱状態になりながら悲鳴を上げている。

「運良く生き延びたようだな」

  ファイナイトは僕達の前の空中に浮いていた。

「ファイナイト! 周りの被害を考えないのか!」

  僕が問い掛けると、彼は不思議そうに首を傾げる。

「なぜだ? 我はこの地球を破壊するのだから、人間どもがどうなろうと知った事ではない」

  ファイナイトの言い分ではそうなるのだろう。だが、無益な争いを好まず、無駄な被害を出したくない僕達にとっては享受し難い考えであった。

「ファイナイト、これ以上あなたの思い通りに破壊させませんわよ!」

  そう言ってミルは拳銃を撃ちながらナイフを飛ばしていく。

「ドド、トロイの身体を持ち上げてくれるか?」

  トロイをここに置き去りにするわけにはいかない。僕は近くにあった大きな案内板を動かし、それを横にして気絶したトロイに近付ける。

「これに乗せればいいんだな。うしっ!」

  ドドはトロイの身体も軽々と持ち上げ、その案内板に乗せてくれた。僕達を守ってくれた彼を、今度は僕が守りながらでも戦っていくんだ。

「ファイナイト、私はあなたのような存在を許せない。悪事を働く者は、例えそれが超越者であろうと、叩きのめす!」

  ドルティエさんが動いた。一瞬でバスの上に飛び乗ると、空中に浮かぶファイナイトに包丁で切り掛かる。

「その程度の得物で我と戦えると思うな」

  ドルティエさんの包丁をひらりと躱したファイナイトは彼女に向けてレーザーを放とうとする。だが、そこにバスの車体が縦になって立ちはだかる。

「弖寅衣様! ありがとうございます!」

  ドルティエさんはそう言うとそのバスの窓に手を掛けて縦になったバスの先端まで駆け登っていく。

「ライトニング・ボルトだけに任すわけにはいかないな」

  そう言ってレグネッタさんは遠距離からファイナイトを射撃した後、空港の一段上の階へと黄光の鞭を伸ばし、上昇しながらもファイナイトに向けて銃を撃つ。

「無駄だ」

  そう言ってファイナイトは頭上から光のレーザーを雨のように降らせてきた。

「まずい。ミル、ドドを頼む!」

  僕の呼びかけにミルは頷き、ドドと共に転移していく。僕は案内板に乗り、トロイの身体を支えながら空中を飛ぶ。
  バスを登りきったドルティエさんは、頭上から降り注ぐレーザーの雨を巧みに回避しながらも宙に浮かぶファイナイトへスティックの連打を放っていく。

「ライトニング・ボルトめ!」

  ファイナイトはそのスティックを防御していたが、押されている。それほどまでにドルティエさんの猛打は凄まじかった。

「この街から、この星から出ていけ」

  そう言って、空中で更に回転を加えて加速し、蹴りとスティックの強襲を放つ。

「そうだ。私達の星に、貴様はいらん!」

  空港2階の道に上がったレグネッタさんがファイナイトに向けて緑光のスピン弾を放った。
  それと同時にドルティエさんはファイナイトの身体を蹴ってレグネッタさんが立つ2階部分に降り立つ。ドドとミルも既にそこにいた。

「その弾丸は、もう見切った」

  ファイナイトはあの緑のスピン弾を光のブレードで斬り裂く。そして更にもう片方の左手で光の球体を握り潰して、その場で爆発させてしまった。
  一連の動作が速すぎて、誰も対処できず、2階部分にいたレグネッタさん達はそのまま屋内へと吹き飛ばされる。

「くそっ! まずい!」

  突然の爆発に僕は吹き飛ばされながらも、トロイを守るためにバスを何台も固めて防御するのが精一杯だった。
  爆炎の中、吹き飛ばされたレグネッタさん達を追うファイナイトの後ろ姿が見えた。僕は慌ててそれを追う。

  空港内には何人もの一般人がおり、突然の爆発に悲鳴を上げながら逃げ出していた。
  レグネッタさんは、胸の前で銃を掲げて見えない壁を展開して守ってくれたようだが、それでも衝撃を緩和できず、倒れたドド達は起き上がろうとしている所だった。

「あの状況で仲間を守ったか。大した反射神経だ」

  片膝を付いていたレグネッタさんは身体中に傷を負いながら息を切らしていた。そのレグネッタさんに向かって、ファイナイトは一直線に飛び、光のブレードを伸ばす。


「やらせはしないさ。あたしの大親友をこれ以上、傷つけさせはしない」

  レグネッタさんの前に現れた白銀髪の女性が、ファイナイトの光のブレードを拳一突きで破壊した。

「アンチセシス! 弖寅衣 煉美か!」

「レンビー……助かったよ」

  ファイナイトは顔を歪ませながら吹き飛んだ。姉が来てくれたのだ。レグネッタさんは力が抜けるようにその場に座り込んだ。
  姉はいつかと同じように、髪をポニーテールに縛り、白いオーバーサイズTシャツの上に黒い5分袖シャツを着て、ハーフレギンス、そしてスニーカーを履いている。

「大親友のピンチに駆け付けるのは当然さ」

  そう言って背後のレグネッタさんに笑いかける。

「ファイナイトー!」

  姉によって吹き飛ばされたファイナイトに向けて僕は叫ぶ。トロイを乗せていた案内板から飛び降り、そのファイナイトの背に向けて蹴りを放つ。

「弖寅衣 想!? いつの間に!」

  ファイナイトは僕の接近に気付いていなかったのか、僕の蹴りを受けてから振り返り、光の拳を掲げる。

「もちろん。弟のそーくんも傷つけさせない!」

  そこに姉が急接近する。宙返りしてファイナイトの背に対して、自身の背中から突撃すると、逆さまの姿勢でファイナイトの首を両足で挟み込み、更に奴の足首を両手で掴むと、そこから更に前回転してフロアにファイナイトを叩き付けた。

「ファイナイト、お前がどれほど自分の使命を全うしたくても、あたしは絶対にそれを許さない」

  そう言い、姉はファイナイトを床に重力で押さえ付けてから蹴りを放ち、更に重い拳を2発繋いだ。姉の重力を込めた打撃によって、床は破壊され、ファイナイトは下の階へと落とされる。

「姉さん、ありがとう。でも、穴開けちゃったね」

「ん? いいのいいの! これくらいならすぐ修理できるっしょ!」

  そう言って呑気に笑っていた。

「煉美さん、あいつはこの程度でくたばるような奴じゃあねぇ」

  ドドがそう言いながらレグネッタさんと共に近付いてくる。その後方ではミルとドルティエさんも気を緩めずに立ち上がって警戒している。

「ああ。ドドくん、レグ。いっちょ、みんなで畳みかけてやろうか!」

  姉の生前と変わらない調子に、ドドとレグネッタさんは思わず笑い、頷く。そこでレグネッタさんが何かを感じ取る。

「レンビー! あのクソガキ、下から撃ってくるぞ!」

「おっ!? みんな散らばれ! あたしが食い止める!」

  レグネッタさんが言った通り、下の階から床を突き破ってレーザーが幾つも伸びてきたが、それを姉は重力で押さえ付けてしまう。

「我のレーザーを止めただと? やはり弖寅衣 煉美、初めて会った時に本気を出していなかったな?」

  先程開いた穴からファイナイトが飛翔してきた。空港のロビーの天井は高く、その広々とした空間を支配するようにファイナイトは光を放つ。

「本気出してないのはお互い様だろ? 以前のレーザーとは比べ物にならない威力だね」
 
  そう言って姉は宙に浮かぶファイナイトへと飛び、奴に向かって蹴りを放つが、ファイナイトは光り輝く拳でそれを受け止める。

「姉さん! 離れて!」

  僕の声を敏感に察知した姉は瞬時にファイナイトから距離を取る。ファイナイトに向かって空港のソファが襲いかかり、奴はそれを光のブレードで斬り付ける。
  だが、それと同時に空港内のガラスが全方向からファイナイトを襲う

「ぐふっ! 弖寅衣 想……」

  表情を歪めてファイナイトは僕を睨みつける。だが、その奴の足に黄光の鞭が絡みつく。

「百々丸、ぶちかませ!」

  レグネッタさんは鞭でファイナイトを思い切りドドの方へと投げ飛ばす。

「任せろ! どぉらー!」

  ドドは高々と掲げた脚をファイナイトに向けて振り切る。それは見事にファイナイトの顔面を捉えていた。

「この程度で、ぶちかますとは……笑わせるなよ」

  ドドの蹴りを顔面で受けたファイナイトは、ドドの太い脚を両手で掴むと、彼の巨体を持ち上げてフロアに叩き付ける。
  だが、その瞬間、ドドは身を捩って身体の向きを変え、両手をバンッとフロアに叩き付けた。

「くそったれがー!」

  そしてドドは自身の脚を掴んでいたファイナイトを逆にフロアに叩き付け、ファイナイトの小さな身体はバウンドする。

「くっ! なんて馬鹿力だ!」

「今度はこっちだ!」

  バウンドしたファイナイトの真下に姉が飛び込んでいた。頭上のファイナイトに向け、弧を描くように拳を放ち、空港の天井に向けてファイナイトを打ち飛ばした。

「この空港もろとも吹き飛べ」

  打ち上げられたファイナイトは天井間近で止まり、光の球を放った。

「そんな事、させるわけないだろ?」

  ファイナイトに向けて姉が飛び上がり、そして光の球を拳で受け止める。

「我の光に、勝てるわけがなかろう」

  そう言ったファイナイトだったが、その表情が曇る。姉の拳に当たった光の球は重力に包まれ、爆発する所か、次第に小さくなっていく。そして、重力に押し潰されるように消滅した。

「ば、バカな」

「どうだい? あたしの本気は」

  姉は狼狽えていたファイナイトの真横に現れる。そして、重力を凝縮した拳を奴の背に叩き込む。

「ドルティエさん!」

  ファイナイトが飛ばされたその先にはドルティエさんが跳躍していた。

「煉美さんのバトン、決して無駄にはしません」

  ドルティエさんは空中にいながらも、ファイナイトに向けて包丁で猛烈に切り付けた後、奴の腹目掛けて渾身の蹴りを放った。

「ぐおっ! おのれ!」

  空港の電光掲示板に打ち付けられたファイナイトは無数のレーザーを放っていく。

「このままじゃ危険だ」

  僕は背後の案内板に乗せたトロイを守りつつ、ソファや看板でレーザーを防御し、姉も重力によってレーザーを防いでくれたが、撒き散らされたレーザーは空港の内部を破壊していく。一般人は既に退避しつつあったが、逃げ遅れた一部の人々はそれに巻き込まれていく。

「ファイナイトー! 打ち落としてくれますわー!」

  ファイナイトの背後にはミルが現れ、そして釘バットを掲げていた。いや、その釘バットが燃え出していたのだ。恐らく聖火を使用しているのだろう。

「なっ!?」

  背後を振り返ったファイナイトの表情は今までにない程に歪んでいた。ミルちゃんは燃える釘バットを容赦なく振り、ファイナイトは燃えながら空港のガラスを突き破って外に投げ出されていた。

「まだだー!」

  投げ出されたファイナイトを追うように、僕は電光掲示板に乗って、それで自分の身体を振り飛ばし、ファイナイトに向かって飛んでいく。その僕に並ぶ人影がいた。

「うしっ! そーくん! いっくよー!」

  姉だった。姉が右隣にいる。それだけで、本当に心強かった。

「くっ!」

  僕達に気付いたファイナイトが光に包まれた両腕でガードの構えをしていた。

「うおーっ!」

「はぁーっ!」

  左の僕は右足で、右の姉は左足で、ファイナイトの光る腕を蹴り、そのまま蹴り抜いて奴の顔面に当てる。

「ヒトの分際でっ……!」

  ファイナイトは開いた両の掌から光の球を出す。だが。

「俺もだ! うおー!」

  ミルのテリファイアによって、ファイナイトの目の前にドドが現れ、その拳をファイナイトの顔面に打ち込んだ。白髪の少年は吹き飛ばされ、滑走路へと墜落した。
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