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合流

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 馬上の人となりながら、烈たちはルルを褒め称えた。

「流石、ルル。まさかあの暗闇でも正確に狙えるとは。助かったよ」

「今回ばかりは同感だな。あの狙撃がなかったら俺たち今頃八つ裂きだったかもしれん」

「うんうん。僕も死ぬかと思ったよ~」

 烈、ラング、ラフィの順番に褒められて、ルルがえへへと照れる。戦いの最中、ゼスを含む『暁の鷲』を狙撃したのは案の定ルルであった。砦の中に入っても怪しまれると判断した烈は、ルルをわざと砦の外に配置し、必殺の切り札として残したのであった。

「でも、レツさんは大丈夫ですか? かなり傷だらけですが」

「ああルル。心配いらないよ。この程度ならミアの所までは無事に届くさ」

 烈はそう言いながら、片手で手綱を持ち、もう片方の手で自分の体をぐっと抱きしめた。

「でも......ぼろぼろじゃないですか......レツさんにここまでダメージを与えるなんて

「ああ、確かに相当強かったな。シバ将軍と同じらいかもしくはそれ以上かもしれない」

「とんでもねえな。流石『暁の鷲』の部隊長クラスだ」

 ラングが横から会話に入った。

「確か八人いるんだったか?」

「ああ、あんなのが八人だ。しかもその上に団長もいやがる。大陸最強の傭兵団の名は伊達じゃねえってことだな」

「一度に相手するのは勘弁したいな」

「わかんねえぜ? あいつらどこの戦場にも湧きやがるからな」

「それはぞっとしないな」

 烈はゼスが八人目の前にいる姿を想像して乾いた笑いを浮かべた。

「私の矢も防がれてしまいました。完全に不意をうったはずなのに......」

「俺との戦いの中でも常に神経を張り巡らせていたみたいだからな。まだまだ余裕がありそうだ」

「やだねえ。そんなのとも戦わなきゃいけないのかよ」

「必要ならな。だけど......」

 烈がちらりとラングの顔を見た。ラングはとぼけた顔で「ん?」と返した。それを見て烈は諦めたように首を振った。

「あ! あれ、ミアさんの軍じゃないですか!」

 まだ遠いが、ルルが指し示す方向には丘がそびえ立っていた。その頂上付近に多くの人だかりが見えた。烈たちは警戒しながらその軍勢と思しき人だかりに近づいていく。

 物見が烈たちに気付いたのか、丘の上があわただしくなる。そして烈たちが軍勢に近づく前に、あちらの方から二騎近づいてきた。片方はミアである。紅い髪を風にたなびかせて、こちらへと疾駆してくる。その見事な手綱さばきに遅れずについてきたのは、なんとシリウス公爵であった。貴族らしからぬ機敏な動きで烈たちに近寄り、ラフィが背中に背負っているものを見た瞬間、悲鳴をあげた。

「レイア! レイア! 無事か!」

「落ち着け、シリウス。眠っているだけだ」

「おお、おお!......」

 ラフィからレイアを受け取った公爵は、彼女を抱きしめながら感涙にむせび泣いた。一度は諦めた娘が戻ってきたのだ。その感動はいかほどだろうか。

「無事......とはいかなかったようだな」

 ミアが烈たちのぼろぼろの姿を見て、ミアは心配そうにしていた。

「ああ、少し苦戦した」

「『鉄甲鬼』か?」

「あんなのがこの世界にはいるんだな」

「楽しかったか?」

 ミアに問われて烈はふっと笑った。

「まさか? 痛いだけだよ」

「本当か?」

「ああ、もちろん」

 両手を挙げて降参の意を示す烈に、ミアはかっかっかっと笑った。そして、そのまま両手を広げて、烈をぎゅっと抱きしめた。

「王女がこんなことをするのはまずいんじゃないか?」

「構うもんか。今は王女ではなく戦士として、戦友に最大限の感謝の意を示しているのだ」

 無茶苦茶な言い分に烈は苦笑して、ぽんぽんとミアの背中を叩き返した。

「レツ」

「なんだ?」

「私は勝つぞ?」

「ああ、当然だ」

「疑わないのか?」

「もちろん」

「相手は私らよりもはるかに強大だぞ?」

「だから? ミアが負けるわけない」

「どうしてそんなに私のことを信じられるんだ?」

 ミアがきょとんと烈を見つめる。烈はその顔を見つめて笑って返した。

「戦士の仕事は勝つことだろう? 俺はミア以上の戦士を知らない。だから誰が来ても勝つさ」

「そうか......私以上はいないか......」

 ミアはそれを聞いてふっふっふっと肩を震わせた。その震えが段々と大きくなり、いつの間にか大きな笑い声となっていた。笑い声は既に高くなった晴天へと昇って吸い込まれていった。
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