異世界転移したら、死んだはずの妹が敵国の将軍に転生していた件

有沢天水

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勝利の水差し

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 初陣で見事に勝利をもたらした烈たちを迎えたのは、将兵たちによる万雷の歓声だった。みな、口々に大仕事をやってのけた烈たちを褒め称え、その背中を叩いた。ルルなどは思い切り叩かれてむせかえってしまうほどであった。

 烈たちはそれに笑顔で答えながら、ミアたちが待つ、本陣の天幕へと入っていった。しかし、そこに待っていたのは初陣の勝利に浮かれるではなく、重苦しい空気を漂わせ、眉間にしわを寄せた将軍たちの姿であった。

 その中でただ一人ミアだけが、烈たちを待っていたと言わんばかりに迎えた。

「おお!? 帰ったか!」

 ミアの歓迎に烈も笑って答えたが、本陣の空気の重さを敏感に察知していた。

「ミア、何かあったのか?」

「気付いたか......」

 ミアは苦笑した。どうにも困ったと言わんばかりの表情だ。

「まあ、全員座ってくれ」

 ミアに促されて、烈と、ともに来ていたラングとルル、それにモーガンが与えられた席に座った。ミアは皆が座ると、改めて状況説明を参謀に促した。

「それでは僭越ながら現在の状況について説明させていただきます」

 参謀の言葉にその場にいるすべてのものが黙って耳を貸した。

「我が国の西の国境近く、フライブルク砦に駐屯する鉄百合団の伝令から先ほど急報がありました。彼によると、5日前、突如バリ王国兵三千が我が国に侵入し、フライブルク砦を急襲、残っていた鉄百合団三千を敗走させた後、なおもこちらへの進軍を続けているとのことです」

「敵総大将は?」

「はっ! 報告によると、『三剣』の一人---『魔剣』スーヤ・オブライエンとのことです」

 名前を聞いた瞬間、黙って聞いていた諸侯たちが俄かに騒ぎ始めた。

「なんと、あの将軍がついにドイエベルンに......」

「噂では王国一の剣才とも......鉄百合団が敗走するの頷けるというものか......」

「だが、鉄百合団と同数の兵でフライブルク砦を落とせるものなのか? 城砦を落とすには三倍の兵が必要という中で」

「それについては『魔剣』の策に嵌められたとのことです」

 参謀の言葉にまた全員が一斉に「どういうことか?」と視線を注いだ。

「『魔剣』は当初フライブルク砦を攻める気配を見せず、そのまま西進して我らの方に向かうそぶりを見せたとのことです。責任者はそのまま進めば我らがペルセウス侯爵の手勢と挟み撃ちになることを危惧し、仕方なく討って出るしかなかったとのこと」

 参謀の報告に諸侯も押し黙った。シリウス公爵とクリスも意見を交換させた。

「むぅ......軽率なと言いたいが......」

「仕方なきことかと? 我々でも同じ判断は下しましょう。ですが厄介ですね。策も使える分、『剣帝』や『剣姫』よりも今の我々にとっては邪魔になるやもしれませぬ」

「うむ......早急にどうにかせねばなるまい。問題は全軍で向かうか、兵を分けるかだが......」

「兵五千で私が向かう」

 突如として割って入ったミアの言葉に皆が驚愕した。諸侯の声を代弁してシリウス公爵が具申する。

「何をおっしゃられます。妃殿下はこの軍の総大将。その方が軽々に、しかも敵と同数で向かうなどと......」

 シリウス公爵に他の諸侯たちも同意した。相手は国の最強騎士団を将不在とはいえ蹴散らす猛者である。軽率な判断と思われた。しかし、ミアは目をゆっくりと開き、自身の考えを説明した。

「問題ない。五千で少し当たれば敵も引き下がるだろうからな」

「なぜそうお考えに?」

 シリウス公爵の問いに、ミアは肩をすくめて答えた。

「三千という数が少なすぎるからだ。この内戦の機会に敵地を占領するというのであれば、万の兵を連れてきても足りないぐらいだ。にもかかわらず、三千で侵入したということであれば敵の目的は我らと全面戦争することではない」

「では敵の目的はなんだとお考えで?」

「嫌がらせだろうな」

「い......嫌がらせですと?」

「ああ、もしくは時間稼ぎだ。我らの進軍が早いと思ったのだろう。バリ王国は今、兵の大部分を南国との戦争に使っている。我らの戦いが早期に集結して、攻め入られては困るのだろう」

「なるほど......確かに一理ありますな」

「恐らく、進軍についても『魔剣』の独断であろう。戦略眼を国家レベル、いや大陸レベルで見ている時点で只者ではないが、今回に関しては私が兵を率いて少し当たれば帰っていくであろうな」

「ですが、それならば私やクリス団長が代わりに兵を率いても......」

「いや、私の器を見ておくというのも目的にあるのだろう。でなければ折角奪い取ったフライブルク砦からさらに西進する意味がない」

「う......ううむ」

 シリウス公爵は二の句が継げなくなった。聞けば聞くほど、ミアの言葉は正しいものに聞こえたからだ。代わりに口を挟んだのはクリスであった。

「では、私を含めた鉄百合団千人をお連れください。みな同胞の仇を討とうと血気逸っておりますゆえ」

「それは仕方ないだろうな。許す。残りは今回迎え入れた近衛兵団四千を連れて行き、そのままフライブルク砦に入ってもらう。申し訳ないが、お前たちにも手伝ってもらうぞ?」

 そう言うミアの視線の先には烈やラングやルルがいた。彼らはみな、ミアの言葉に「仕方ないなぁ」という感じで無言で返事をした。ミアも少し笑みを浮かべて。これまた無言で感謝の意を目線で送った。
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