異世界転移したら、死んだはずの妹が敵国の将軍に転生していた件

有沢天水

文字の大きさ
89 / 144

私腹を肥やすものたち

しおりを挟む
 ドイエベルンの首都ベルン、そのもっとも奥まったところにアーガム城があった。決して煌びやかではないが、建てた人の気質を反映してか質実剛健といった風で、城内・城外の至る所に外敵を防ぐ仕掛けが施されており、『傭兵国家』にふさわしい城と言えた。

 その城の一室に『野兎の間』という広間があった。主に国の重臣たちが会議をする間であった。そこで数人の男たちが集まって何やら話をしていた。

「だから俺は近衛兵団全軍で攻めるべきだと言ったんだ!」

 一人の男が声を大にして、中央の大机を叩きながら叫んだ。明らかに武人であり、粗野な人物であることが見て取れた。対面にいる、まるでネズミのように狡猾そうな男はその怒鳴り声を煩わしそうにしながら言い返した。

「おや? 確かバウワー近衛総司令も第二軍・第三軍で攻めるのは賛成だったはずですが?」

 近衛総司令と呼ばれた男は顔を真っ赤にしてさらに怒鳴りつけた。

「俺は順次参戦といったのだ! 数で互角なら将の差で敗北するに決まっているだろう!」

「はて? たしか数でもこちらの方が勝っていたはずですがね?」

「ふん、あの程度の兵数差、鉄百合団とシリウス公なら簡単に覆してしまうわい。まあ奴隷商あがりのガウマン伯爵には戦のことなぞついぞわからんだろうがな」

 侮辱されたガウマン伯爵はふっと笑った後、顎に手を当て何かを思い出したかのように言った。
 
「おお! 確かに鉄百合団のクリス団長は我が国でも屈指の剣士でしたな。確か数年前の武術大会でも3位の好成績。そう言えばその武術大会の一回戦でクリス団長にコテンパンに負かされた方がいたような?」

 言い終えてちらっとガウマン伯爵がバウワー近衛司令を見ると、彼は大きな体をプルプルと振るわせて、顔を真っ赤にしていた。クリスに負かされた男というのはバウワー近衛司令に他ならなかった。

「まあまあ、お二人とも。そこまでにしましょう。我々は同士じゃありませんか」

 割り込んだのは禿頭の男だった。儀礼用の服装とでも言うのか、豪奢な宗教ちっくな服に身を包み、指には宝石のついた指輪をはめている。ミアが見たら着飾った豚と表現しそうであった。

「もちろんですともセティエン神殿長。この奴隷商上がりの偽伯爵が無礼な物言いをしなければ、俺はいつでも協力し合えるとも」

 バウワー近衛司令がはんっと鼻を鳴らすと、ガウマン伯爵も

「私もですよ? そこの考えなしの猪武者が大人しく建設的な意見を言ってくれれば争いなど何も起きません」

 と、ふんっとそっぽを向く。真ん中の大机がなければ今にも殴り合いをはじめそうな仲の悪さだった。その様子にセティエン神殿長---大陸でもっとも信者の多い宗教であるエリン教の、ドイエベルン国の担当者である男はやれやれと首を横に振った。

 さて、もうひと争いあるかと思いきや

「終わりましたか?」

 部屋全体に冷たい、氷のような声が響き渡った。バウワー近衛司令もガウマン伯爵も押し黙り、ばっと部屋の奥に目をやった。そこには二人の男がいた。一人は豪華な椅子に気だるげに座り、ひじ掛けに肘をついて、頬杖を突きながら彼らのやり取りを見ていた。一目でわかる、恵まれた体格とそこから放たれる覇気が、彼を支配する側であることを表していた。

 そしてもう一人、先ほどの声を発した男はその隣に立って、声と同じくらい冷たい目で全員を見渡していた。その目は、これ以上くだらないやり取りを続けるならば、いつでもその地位に据わる首を挿げ替えるぞと言っているようであった。

 冷たい目をした男が口を開いた。

「バウワー近衛司令? ガウマン伯爵も」

「「ははっ!」」

 二人とも先ほどの威勢が嘘のようにおとなしく返事をした。その額には緊張で脂汗すら浮かんでいた。

「陛下の御前で諍いはやめていただきたいですな。我々はこのドイエベルンという国を背負って立つものなのですから」

「も......もちろんですとも! ペルセウス侯爵!」

 バウワー近衛司令もこくこくっと首を縦に振って頷いていた。椅子に腰かけているものこそ、ドイエベルン王国国王---ドネル・オーランド・グレイス・ロンバルトであり、その隣に立つものがペルセウス・ローマン伯爵であった。ルルのような褐色の肌に短い黒髪を綺麗になでつけていた。ミアの目下最大の敵二人が、いやミアの敵のほとんどがこの場に集まっていたのだ。

 ペルセウス侯爵はふうっと一つため息をついた。

「バウワー近衛司令、あなたの指摘通り敗戦したわけですが、この後我々はどうすればよいですかな?」

「う、うむ......」

 名前を呼ばれて、バウワーは焦った。

「そ、そうですな。どうやら殿下の軍はバリ王国の軍団にかなり消耗させられたとの情報が入っておる」

「私の情報ですな」

 横やりを挟んだガウマン伯爵をじろりと睨んでから、バウワーは話を続けた。

「ならば次は味方を作る必要があるだろう」

「というと?」

 ペルセウスが先を促した。

「北か南に助力を求めに行くということですな。確かカイエン公爵は殿下の剣の師匠。ならば殿下も北に向かうと見るべきであろう」

「なるほど。それでは近衛司令としてどうします?」

「無論、このまま指を咥えて見ているわけにいきますまい。軍勢を送り込み体勢が整わない内に攻勢を仕掛けるべきであろう」

「おお! 見事な戦略眼ですな。流石はバウワー殿」

「う......うむ!」

 ペルセウスに褒められて、バウワーはむず痒い気持ちになっていた。

「では、早速反乱軍の討伐に向かっていただきたい」

「応とも! このバウワー! 近衛兵団全軍をもって反乱を鎮めてみましょうぞ!」

「ああ、いやそれはいけない」

 意気揚々と出陣の準備をしようとするバウワーをペルセウスは制止した。

「ぬ? どうされました?」

「バウワー殿。今近衛兵団は先の敗戦で5分の3に減ってしまわれたのですぞ? 近衛兵団は元々陛下を守る軍。これ以上の損失は避けなければ」

「あ、いやそうですがペルセウス侯爵。しかしそれならば某は兵もなく反乱軍と戦えということですかな?」

「いやいや、まさか」

 ペルセウス侯爵は笑って答えた。

「もちろん陛下の御名の元に召集令を出しますとも。王都一帯と北部のカイエン公爵以外の有力者たちの軍勢が合わされば2万はくだらない軍勢ができあがるでしょう」

「た......たしかにそうですが、殿下は無類の戦上手。寄せ集めの軍では......」

「何をおっしゃる、バウワー殿」

 ペルセウスはバウワーに近寄り、肩をポンっと叩いた。

「あなたは近衛司令。いうなれば我が国の軍のトップですぞ? そのあなたが陛下の名のもとに出陣されるのです。自ずと軍は一つにまとまりましょうぞ」

 ペルセウスの眼は笑いながらも有無を言わせない迫力があった。その目を見てバウワーはごくりと喉を鳴らした。

「そ、そうですな。ペルセウス侯爵の言う通りです。直ちに準備をして参りましょうぞ」

 そう言って、バウワー近衛司令はそそくさと部屋を後にした。ペルセウスは元居た場所に戻って、国王---ドネルに一礼をした。

「陛下、勝手に決めてしまいましたが、それでよろしいでしょうか?」

 ドネルはくあっとあくびをしながら、ペルセウスに一瞥をくれた。

「委細任す」

 それを聞き、ペルセウスは「承知いたしました」と答えた。その後、いくつかの雑事の取り決めをしてその日の会議は終わった。会議が終わり、その場にいたものが出て行くと、ドネルとペルセウスのみが残った。

 ドネルは玉座に座ったまま、ペルセウスを横目で見た。

「それで? あの男を人身御供にした意味はなんだ?」

「と言いますと?」

「あまり舐めるなよ? あれがミアに敵うわけなかろう。真の狙いは何だと聞いているんだ」

 ドネルの大柄な体躯から殺気が漏れ出す。普通のものが見たら、それだけで立てなくなるような迫力であった。

「いえいえ、別に敵わないと思って送り出してはいませんよ? 兵力に圧倒的な差がつくことは間違いないですからね。7:3でバウワー近衛司令が勝つと踏んでいます」

 その答えにふんっとドネルは鼻を鳴らした。そしてゆっくりと席を立ち、自室へと戻る素振りを見せた。だが、ぴたりと立ち止まると、背中越しにペルセウスに語りかけた。

「お前の企みは、先ほど神殿長やあの胡散臭い伯爵に話しかけていた件か?」

「.......」

 ドネルの問いにペルセウスは沈黙をもって答えた。

 ドネルはそれでも気分を害することなく、自室に帰ることにした。

「ペルセウス。早く俺に血沸き肉躍る戦場を用意しろよ? さもないとどこで暴れるか分からんぞ?」

 ドネルは獰猛に笑った。ミアと似ているが、決定的に違う、すべてをむやみやたらに食らいつくそうとする笑みだった。

 その気配を察しつつ、ペルセウスはドネルの背中に一礼をした。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

最初から最強ぼっちの俺は英雄になります

総長ヒューガ
ファンタジー
いつも通りに一人ぼっちでゲームをしていた、そして疲れて寝ていたら、人々の驚きの声が聞こえた、目を開けてみるとそこにはゲームの世界だった、これから待ち受ける敵にも勝たないといけない、予想外の敵にも勝たないといけないぼっちはゲーム内の英雄になれるのか!

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

唯一無二のマスタースキルで攻略する異世界譚~17歳に若返った俺が辿るもう一つの人生~

専攻有理
ファンタジー
31歳の事務員、椿井翼はある日信号無視の車に轢かれ、目が覚めると17歳の頃の肉体に戻った状態で異世界にいた。 ただ、導いてくれる女神などは現れず、なぜ自分が異世界にいるのかその理由もわからぬまま椿井はツヴァイという名前で異世界で出会った少女達と共にモンスター退治を始めることになった。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

処理中です...