異世界転移したら、死んだはずの妹が敵国の将軍に転生していた件

有沢天水

文字の大きさ
116 / 144

脅しの材料

しおりを挟む
 ハイデッカー公爵の婚約者、ロザリー・ベルハイム・ミッテラン公爵の住まう居城、ボンド城はかつてドイエベルン王国の南西部の防衛の要として重要視されていた土地であった。領土が広がり、ボンド城が戦場になることはかつてほどなくなったが、歴代のミッテラン公爵は常に外敵に備えて、この城の整備を怠ることはなかった。

 御三家の軍をくぐり抜け、馬を飛ばしたミアの前に堅固なボンド城がそびえ立っていた。

 ......万の敵に包囲されていたが......

「なんだあれは!!?」

 ミアは鬼のような形相で森の茂みに隠れながら、目の前の光景を睨みつけていた。ロザリーが人質になっていることも予想していたのだ。ある程度の敵兵がいることは予想していた。だが、囲んでいる敵が問題であった。

「あの旗......クレイム教の神聖騎士団の旗だぜ。クレイム教の本拠地があるインペリアル帝国は今バリ王国と戦争中だってのになんでこんなところに......」

 ラングが緊張した顔で言えば、アイネも青ざめた顔で別の方向を指差した。

「あれはポーレン公国の軍旗です。ドイエベルンとは同盟中のはずなのになぜ領内への進軍を......」

 そして最後にルルが敵軍の端を眺めて気付いた。

「あ! あそこにあるの! 私たちがザネの砦で戦った『暁の鷲』の団旗です! あの後見ないと思ったらこんなところに!?」

 大体の状況が洗い出せたところで、烈がミアに顔を向けた。

「しかも俺らが戦った時より数も多そうだ。多分援軍が来ているだろう。ミア、これは......」

「ああ、ようやくハイデッカー公---フランツのやつが裏切った理由がわかった。おのれペルセウス! 血迷ったかドネル! 国と私を天秤にかけさせおったな!」

 ミアは血を出すほどに唇を噛んでいた。ペルセウスたちがやったことはそれほど許せなかったのだ。

「ミア、すまんが何が起きているか説明してくれるか?」

「......ペルセウスはフランツの協力を得るために、ロザリーを人質にした。ここまでは予想できていたのだが、よりによって脅しの道具に他国の軍や傭兵を使いおったのだ。恐らく、こちら側に協力しなければ、あの見える軍勢にボンド城とドイエベルン南西部を譲り渡すという条件でな。王国への忠誠心が高いフランツはそこにつけこまれたのだ」

「だが、そんなことをすれば自分たちの首を絞めるだけじゃないのか? ミアとの戦いが終われば今度はそいつらが相手になるだろう?」

「私よりのやつらと戦う方が容易いと目算があるのだろう。光栄なことだ」

「なんとまあ。嫌われたものだな」

「自国の国民すら売り払うとは。己の肉を削る行為だということもわからんか。あの阿呆どもめ」

 憤懣冷めやらぬミアにアイネは恐る恐る声をかけた。

「殿下。こうなると今いる軍勢だけではロザリー様を助けることはかないません。我々もどうにかして兵を調達しなければ」

「わかっている。戻って御三家の軍を破り、その足でこの軍勢を打ち破るしかあるまい。果たしてそれまでにロザリーの城が陥ちやしまいかという懸念はあるが仕方あるまい......」

 ミアは珍しく焦燥を露にしていた。そしてすぐに百名の軍---モーガンの私兵に帰還の指示を出そうとした......が、すぐにばっと振り返って、森の奥を睨みつけた。

「誰だ? そこで盗み見ているのは。出なければ敵国の間者とみなして殺す」

 ミアの底冷えするような声にあてられて、慌てて森の奥から一人の男ができてきた。前髪を片方の目までだらっと垂らした、どうにも軽薄そうな男であった。へへっと腰低くしながらミアの前で止まった。

「ちょっとちょっと! 待ってくださいよ! 怪しいもんじゃありませんって!」

 ミアが冷たい目で問い返した。

「この状況で隠れている男が怪しくないと?」

「いやまあ確かに? ものすごく怪しいですが、自分は敵じゃありませんって!」

「信用できると思うか?」

 ミアが大剣を抜いて、男の首筋に突き付けた。

「わぁ~~! 待った待った! 自分フィズってもんです! ミネビア殿下ですよね!? 俺大将に言われて殿下のために働いてたんですよ」

「ほう? どう働いたんだ?」

「へへっ。自分に付いてきてくださいよ。そこに味方の軍勢がいるんで」

 ミアたちは顔を見合わせた。このいかにも軽薄そうな男を完全に信用できず、つい皆で眉をひそめ合ってしまった。それでもフィズと名乗る男は嫌な顔をせず、揉み手をしそうな勢いでミアに跪いていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

最初から最強ぼっちの俺は英雄になります

総長ヒューガ
ファンタジー
いつも通りに一人ぼっちでゲームをしていた、そして疲れて寝ていたら、人々の驚きの声が聞こえた、目を開けてみるとそこにはゲームの世界だった、これから待ち受ける敵にも勝たないといけない、予想外の敵にも勝たないといけないぼっちはゲーム内の英雄になれるのか!

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

唯一無二のマスタースキルで攻略する異世界譚~17歳に若返った俺が辿るもう一つの人生~

専攻有理
ファンタジー
31歳の事務員、椿井翼はある日信号無視の車に轢かれ、目が覚めると17歳の頃の肉体に戻った状態で異世界にいた。 ただ、導いてくれる女神などは現れず、なぜ自分が異世界にいるのかその理由もわからぬまま椿井はツヴァイという名前で異世界で出会った少女達と共にモンスター退治を始めることになった。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

処理中です...